「がう」詳しいことはさっぱり分からないが、倒したはずのサブゼロと冥界に戻ったと聞かされていたコールのご先祖でもあるスコーピオンが、おそらくは生前の姿で俺たちの目の前にいた。
本人たちも落ち着いて見えるがそれなりに動揺しているに違いない。コールの説明をサブゼロがスコーピオンに訳しながら大人しく聞いている。すげえな。
「コール、提案だ」
二人ともコールの家に、という流れに待ったをかける。ご先祖だけなら分かるが、寄ると触るとケンカ(我ながらなんて穏便な表現だ!)しそうなサブゼロもでは負担が大きい。
「俺が一人引き受けるぜ」
一人暮らしだし、家賃が安い分、治安とかそう言うもんの価値も低いアパートだが、構いやしないだろう。
あれからまあその色々あって、サブゼロは俺の家で大人しくしている。未だに名前も呼ばせてもらえてねえけどな!
生前の名前はコールのご先祖限定らしく、一回呼ぼうとした時の氷のナイフに囲まれた記憶も新しい。サブゼロ、てのもあまり好まないらしく、地道な、主に俺の歩み寄りの結果、Z、に着地した。ひと文字かよ!
「珍しいのか?」
帰宅後外しそびれた認識票をZがためつすがめつしている。うるせえ、外してる余裕がなかったんだよ久しぶりに帰ってきたから! 視線だけでこれはなんだ、と問いかけるペイルブルーに顔を近づけ、唇を重ね、られなかった。
「答えろ」
へぇへぇすんませんでした!
「認識票だよ、通称ドッグタグ。今は、あーっと、IDタグか」
戦で死んじまった時の本人識別用の名札さ。
ふうんと整った眉毛が一回上がると、おもむろにタグを噛んだ。チェーンごと首を引っ張られ、また唇が触れそうになる。
「がう」
挑戦的な目つきでこちらを睨んでいるが、口元は笑っている。犬の鳴き真似をしてみせたZはさっきまでの行為で何も身につけていない。もちろん俺も。
これはつまり、再戦の許可ってことか。