cat,night,sweet dream夕方から恋人は外出中だ。元部下の一人が結婚したお祝いの、けれど気軽な食事会とのことだ。
『二人で行っていいか聞いたら、いちゃつかれるのは主役だけで十分です、だってさー』
上着に袖を通しながら頬を膨らませる。いえいえ、私は所属的には部外者ですしと笑っていなすと、帰ってきたら俺も雄牛ちゃんといちゃいちゃするもんね!と子供のような返答をして出て行った。
そんなやりとりを思い出しながらシャワーを浴びる。出る頃には夜十一時を回るだろう。彼の帰りが思ったより遅いが、行き先は分かっているし、送り届けますからとの連絡も事前にもらっている。久しぶりに会う面々だ、きっと盛り上がっているのだろう。私が遅くまで起きて待っているのを好まない彼に感謝して、先に自分のベッドに横になろう。
鍵は持たせた、携帯の充電は十分、自分のも現在充電中、コールがあればきちんと音が出る設定、とひとつひとつ確認してしまうのは過保護だろうか。
起きる直前のふわふわとした意識の中、あたたかいと感じる。どこまでもあたたかさが行き渡って幸せだ。腕の中には深く眠るかわいいひと。彼もまた温かい。
ああ、帰ってきたんですね。おかえりなさい。
酒の匂いも外の匂いも微塵も残さず眠っている。いつのまに私の腕の中に潜り込んでいたことには、あまり驚かない。季節が移り気温が下がるこの頃、寒がりの彼がひとりで眠るのは考えにくいのだ。ただ、シャワーや他の物音で気づいてあげられなかったのが悔しい。つま先までぴったりとくっつけて規則正しく寝息を立てる彼の頭はよほど適当に乾かしたのか、くしゃくしゃだ。枕にされている腕で撫でられる場所は限られるけど、かれの肌に触れたくて往復させれば、もぞもぞとさらに身を寄せ、満足そうな深い息をつく。あなた、本当に猫ですね。
腕の付け根がくすぐったい。彼の長く濃いまつ毛が動いているようだ。
「…しんぱい、した?」
「あなたを送ってくれた彼から何度か連絡をもらっていましたから、平気でしたよ」
「あいつやたらスマホ触ってると思ったら…」
うにゃうにゃと口の中で何か言っているが聞き取れない。