星の果実
標高が高いこの国は、外敵に脅かされにくいのだろう。野山に潜む荒くれ者も、今はおとなしい。どこを見回しても、基本的にのどかな景色、のどかな民衆。傍らには、誰よりのどかな目をした伴侶。
「風が気持ちいいねえ」
「ああ」
昼間の日差しはそれなりに強かったが、その代わりと言うように夜風があまりにも気持ちよくて、眠るはずだった二人はそのまま散策に出た。草木の青い匂い、花の濃い香り、少し甘い夜風。細い月と満天に広がる星々に白く飾られた紺色の空は、誰もいない草はらに並んで座る二人に覆いかぶさってくるような錯覚を起こさせる。
「バラー。桃だよ」
この国の特産である繊細でみずみずしい果実はかの国では干果でしか食せなかったし、それでさえ珍重されたものだと、ふとバラーは思い出した。
「どうぞ」
手入れされている樹ではないだろうが、ちゃっかりと大きな手のひらにひとつ載せられてそれが差し出される。
「私のもあるから」
いや、そういう意味で見つめたのではない、が、まあ大した理由でもないのでバラーは素直に受け取った。それを見たクマラがにっこりと笑うと、笑い皺が深まる。
「この果汁が衣につくと洗っても落ちないと聞いたが」
「すぐに水で洗えば…」
シミにはならないよ、と言いたかったのだろう唇を塞いでやる。
「衣は、横によけておかないか…?」
「……いい案だね」
甘くたっぷりと果汁を蓄えた実をかじり、吸い付きながら肌を合わせた。衣は、果実のシミでダメにしないように、ちゃんと横によけた。二人してべたべたになりながら、果実も相手も貪り合った。