西洋歌留多ラビリンス【Attention】
本作は2020年4月24日 23:18pixiv掲載作品となります。
かつてDMC夢小説専門のHPを運営していた時の残骸となります。
賭け事から芽生える新たな関係。ちょっぴり切甘テイスト。
当時4ダンテに狂っていたので一応4ダンテ相手想定で書いてますが、
どのシリーズのダンテでも読める作品になっているかと思います。
夢小説が苦手な方は読むのをご遠慮ください。
それでも大丈夫な方はどうぞ。
曇天の空の下、一人の男がバーの前に佇んでいた。
彼は地下へと続く階段を降り、立ちはだかるバーの扉を開ける。
店内は、地下だからだろう、どこか薄暗く、点々と置かれたアンティークのランプたちがその場を照らしている。
客はこの時間帯からか、あまりいない。
男―ダンテは角の席に目をやった。
そこには女がいた。
目を閉じて凛として座る女がいた。
女は見るからに東洋人で、黒髪に黒い目をしており、和風な服を着ている。
彼はジンを頼むと彼女の向かいに座った。
彼女は彼に気づき閉じていた目をゆっくり開き話始める。
「また来たの、ダンテ」
「こんな昼間からリンゴジュースとは可愛いもん飲んでるんだな」
「だってお酒弱いし、それに昼間だからこそよ」
彼女は微笑をこぼしておも室からトランプを取り出す。
「で、今日は何のご用で?」
「ああ、あの悪魔についての情報が欲しいんだが」
「いいわよ。じゃあいつも通り西洋歌留多で」
「OK baby、今日は何して遊ぶんだ?」
「ポーカーよ」
そう言って彼女はトランプを切り始めた。
日本人の彼女―名前は凄腕の情報屋だ。
どうやって情報収集しているのかは誰にも分からない。
しかし、彼女の手にかかればお偉いさんの浮気相手だって分かってしまう。
なので彼女の元には多くの人々が訪れる。デビルハンターも例外ではない。
ダンテとは3年来の付き合いで頻繁に情報を提供している。
彼女の取引は少し特殊だ。
情報を提供する代わりに『西洋歌留多』いわゆるトランプをする。
ゲームはその日その日で異なり、ポーカーの日もあればバカラの日もある。
依頼者が勝った時は彼女に払う情報料を決めることが出来る。つまり払わなくても良いのだ。
それに対し敗者となった時は彼女が決める情報料を支払わなければならない。
大抵彼女が勝ってしまうため、多くのカスタマーは渋る顔をしてその場を後にする。
ダンテもその中の1人だった。
ダンテは手持ちのカードを見てにやついている。
「悪いが、今日こそ勝たしてもらうぜ」
「あらあら、それはどうかしらね」
ダンテは手持ちのカードを表にして机に置いた。
「ストレートフラッシュだ」
「ふうん。やるじゃない」
「だろ?」
「でも、まだまだね」
してやったりな顔をしながら、名前もカードを机に置いた。
「ロイヤルストレートフラッシュ…残念だったわね。さぁ、情報料を払って」
そう言うと名前はグラスに入ったリンゴジュースを一口飲んだ。
「やっぱり名前は強いな」
完敗だ、とダンテは苦笑した。
名前はダンテに情報提供してからずっとトランプを手繰っている。
いつもならダンテは手にした情報を引っさげ早々にバーを出るはずだ。
しかし今日は違った。
ダンテはグラスに入ったジンを一口飲んで喉を潤し、口を開いた。
「なぁ、実はもう1つ情報が」
名前は俯いたまま構わずトランプを手繰る。
そんな彼女を頬杖をついてじっと見るダンテ。
「高くつくわよ?」
「別にいいさ」
「で、どの情報が欲しいの?」
「ある女についてだ」
その言葉を聞いた名前の手がほんの一瞬だけ止まる。
だが、すぐ何事も無かったかのようにまたトランプを手繰る。
「女?」
「ああ、日本人で綺麗な黒髪に黒曜石のような黒目、和服を着てる凄腕の情報屋」
その刹那、トランプを手繰っていた名前の手が今度こそ止まった。
「名前は…」
「どういうつもり?」
名前がダンテに視線をやるとニヤニヤと笑みを向けられる。
名前は一瞥して、溜め息を溢した。
「とんだ嫌がらせね…分かったわ。今回の情報料はタダにしてあげる」
「はぐらかすなよ。俺は本気だぜ」
先ほどの笑みはどこへやら、いつの間にか鋭利な刃物のような真剣な面持ちで名前を見ている。
名前はそんなダンテにドキッとし、困惑しつつ平然を装った。
「…いいわ。ただし条件があるわ」
「『西洋歌留多』だろ?」
「ええ。今回はブラックジャックで勝負よ」
「俺が勝てばアンタの『情報』が手に入る」
「私が勝てば今回の話はナシ」
名前は止めていた手を再びトランプを手繰り始めた。
火蓋は切って落とされた。
名前はカードを2枚ずつ配った。
表にされたカードを見てそれぞれ違う表情を見せた。
「ほう…」
「嘘…」
ダンテと名前が囲む机の上に4枚のカード、その内3枚がアップカードになっていたのだが、それは信じられない状況だった。
2人の前にそれぞれ置かれたカードはどちらも1枚はダンテ側にはスペードの、名前側にはハートのキングだった。
ここまでは普通だ。ここからが問題だ。
ダンテのもう1枚のアップカードが…なんとスペードのエースだったのだ。
つまり「ナチュラルブラックジャック」が出来ていたのだ。
この場合、名前もエースを出さなければ名前の負けが決まってしまう。
「ヒット?スタンド?って聞くまでもないわね」
「ああ」
名前はホールカードに手を伸ばした。
いつもなら余裕を見せている彼女だが、この時ばかりは焦っていた。汗が止まらない。
じっと念を送るようにカードを見つめ、ゆっくり開こうとする、その時だった。
不意にダンテが呼ぶ。
「名前」
「なに」
名前はピタッと手を止める。
彼女の視線はカードから離れずにいる。
「この勝負、俺の勝ちだ」
「まだ表にもしてないのに何言って…」
その瞬間目線をダンテに向けた彼女はぎょっとした。
ダンテはそれはもう春の陽気のようなとても暖かい微笑みを名前に向けていた。
その目はもうこのゲームの行く末が分かっているようだった。
勝敗だけではない。まるで名前の心の中まで見透かしているような、そんな目だった。
「こういう時だけ俺はついてたりする」
ほくそ笑む赤い悪魔。
名前は完全に彼に飲まれた。
「俺の勝ちだ」
名前のもう1枚のカードはハートのクイーンだった。
ダンテの予言が当たってしまったのだ。
背中に嫌な汗がにじむ。
「さて、教えてもらおうか」
「…私の何が知りたいの。スリーサイズかしら?」
「それも知りたいが、時期に分かる。俺が知りたいのはもっとimportantなやつだ」
「…?」
するとダンテは名前の右胸を指差す。
「アンタの此処だ」
「え?」
「アンタの本当の気持ちが知りたい」
恐れていた言葉に時が止まる。
名前は逃げたかった。
だが、彼のこの彼女の心を見透かしたアイスブルーの瞳は放してくれない。
まるで魔眼だ。
しばらくして名前はゆっくり、少しずつ、震える声で言葉を紡ぎだす。
「私ってね、実は臆病者なの」
「情報収集している内にその人に惹かれてしまって、でも思いを告げる勇気が無かった」
「彼はこの世界の英雄で私には存在が大きすぎたんだもの。私とは釣り合わない」
「それに今まで培ってきた関係が壊れてしまうのが怖くて…不安だった」
「だからこの思いに蓋をしてしまおうと思って…彼の欲しい情報を提供するだけにしたの。それだけで幸せだった」
「でもそれももう無理になってしまった」
名前は1つため息をつき顔を上げダンテを見た。
「私…あなたのことが好きみたい」
彼女は俯いた。
それはまるで今にも大粒の涙が落ちようとする目を隠すかように。
身体が震える。
「笑っちゃうよね」
「ああ、本当にな」
「…」
「名前とハートで繋がっていたとはな」
「!?」
名前はさっと見上げた。
正面にはいるはずの人物の姿がない。
と思うと体中を包む温もりを感じ、目を見開いた。
「本当に可愛いなお前は。キュン死にしそうだ」
「え、ちょ…」
「確かにこの関係は今日で壊れる。『恋人』という関係が生まれる代償としてな」
これは夢か幻聴か。
「嘘…ッ!?」
「Hey,Honey!嘘吐きしてどうするんだ!一体誰に益があるんだよ」
「そんな…」
すると今まで隠していた大粒の涙が溢れる。
と、同時に強張っていた名前の体が緩んで、ダンテにもたれ掛かった。
ダンテはそんな彼女を更に抱き締め、愛でるように彼女の頭を撫でた。
「薄々アンタの気持ちには気付いてた。だが確信が持てなかった。だからこのゲームに賭けた」
「…完敗だわ」
ダンテはフッと笑うと名前の耳元で囁いた。
「Jackpot?」
客が2人しかいない昼下がりのバーは甘い雰囲気に包まれた。