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    ほしふるよる / ほしまつよる『ほしふるよる』



    『わかった、先に休ませてもらうね』

     モバイル越しに伝わるもの悲しい声に心が痛む。約束していた時間までに帰ることが叶わず「先に休んでいてくれ」と連絡を入れたのが数時間前。とっくの昔に夜を超えてしまった今、ブルースの帰宅を待ってくれていたであろう愛しい人は、夢の世界だろうか。そんなことを考えながらひとり歩く、広大なウェイン邸の敷地内。クラークが待つ自宅までの道のりに、ブルースのため息混じりの吐息が漏れる。

     なんであんなこと言ったのだろう。本当は待っていてほしいと思っているくせに、めんどくさい奴だと思われたくなくて、ついついブルースの口からは本心とは別の、ちょっとした強がり、という名のしょうもない見栄を張ってしまった。クラークを前にすると、自分はつくづく臆病な人間だとブルースは思う。まあ、あの慈愛に満ち溢れた彼を前にして清廉潔白だなんて、言い張れる人間はいないに違いないが、それでも彼の隣にいるときぐらいは、善人でありたいと心の底から強く願ってしまう。自分のことを「プレイボーイ」だとかなんとかくだらないことを言うやつらには、まさかブルース・ウェインが大切な人を前にすると、こんなことを考えてしまうだなんて思いもしないだろう。

     そんな自分のクラークに対する想いや振る舞いに苛まれながら、ただひたすら歩いていると、自宅の玄関の前に佇む人の影が目に入った。溢れ出る想いからか、はたまた疲労からか、ブルースの帰りを待つクラークの幻覚を見てしまっているのだろうか、なんてどうしようもない考えが頭を過る。ぼんやりとした人影を眺め、深いため息をつきながら歩みを進めていくと、朧気だった人影が徐々に実体を帯びてきた。

    「ブルース、お疲れさま。なんだかお疲れのようだね」

     気がつけばブルースの目の前には、慈愛の笑みを浮かべたクラークが、どこか心配そうな顔つきでこちらを窺っていた。

    「クラーク、先に休むように言っていたが…」
    「それが、なんだか眠れなくて君の帰りを待ってたんだ…」
    「そ、そうか。遅くまで待たせてしまって、すまない」
    「ううん、ブルースの方こそ気を遣って、連絡してくれたんだろう?なんだか、ごめんね」

     「先に休むように言ってくれたのに」と呟く姿に、もしクラークに動物のようなぴんと立つ耳がついていたならば、ぺしょりと下げているだろうと想像せずにはいられないほど、しょんぼりとした目の前様子にブルースの心をキュッと締め付けられる。

     ああ、自分はなんてバカな奴なのだろう。せっかく自分の帰りを寝ずに待っていてくれた愛しい人にお礼の言葉一つ言えず、さらには悲しい表情をさせてしまうなんて。ブルースは心の中で自分に悪態をつきながら、溢れ出そうな自分自身への盛大なため息をぐっと堪え、代わりにわずかばかりの本心を零す。

    「クラーク、もし君さえよければ、すこし散歩でもしないか?」
    「えっ…!でもブルースきみ、疲れてないのかい?」
    「いや、別に心配ない。それに、せっかく待ってくれたのに、それじゃあおやすみだなんて、言えるわけがないというか、その…」
    「ふふふ、今日のブルースなんだか変なの」

     先ほどの表情とは打って変わって、くすくすと肩を揺らすクラークに内心ほっとしながら、ブルースはなんとも無様な誘いを、心中で反芻し眉間にしわを寄せてしまう。駆け寄ってくれたクラークにつかず離れずの距離で無言で歩みを進める。自分から誘っておいて、大した話も振られずに、足元もじっと見つめながら歩く自分に嫌気がさしてしょうがない。

    「ブルースほら見て!星がきれいだよ」

     ブルースのひとり反省会などつゆ知らず、無邪気な破顔でクラークが夜空を指し示す。その声に導かれるように空を見上げれば、遠くが白んできた空にきらめく星々がブルースの瞳に映る。二人を纏うように広がる夜空は、闇のように深い色をした頭上から、すーっと水を引いたように淡いグラデーションが地平線に向けて広がっている。それはまるで、いつも様々な表情を見せてくれるクラークの瞳のように美しく、そして雄大な光景だった。

    「綺麗だな」
    「うん、綺麗だね」

     ブルースの心から零れた本心に続くようにクラークの感嘆の声が漏れる。大切な人と心を分かち合えることが、こんなにも幸せなことだとブルースが知れたのは、間違いなくクラークという存在のおかげだろう。ただそばにいて、夜空を見上げて、零れる星を数えながら、僅かな言葉を交わす。たったそれだけのことで、ブルースの心の中にはじんわりとしたものが駆け巡る。
     ブルースはふと隣で空を見上げるクラークに目をやる。自分の中で溢れ続ける気持ちと、同じものがクラークの心にも存在していてくれたら。ブルースはそんな独りよがりな想いを、夜空から落ちてくる星々に、そっと願わずにはいられなかった。 



    『ほしまつよる』



    『先に休んでいてくれ』

     伝えられていた帰宅の時間より、早く鳴ったモバイルの呼び出し音。もしかしたら予定より早く帰ってこれるようになったのかな、だなんて僅かばかりの期待を抱いていたが、現実はそう単純なものではないようだ。疲労の色を感じさせるブルースの声に僕はただ短く「わかった、先に休ませてもらうね」と告げるだけに留めた。

    「はぁ…」

     モバイル音に、ちょっとだけ抱いてしまった期待のせいで、余計に深く落ち込んでため息をついてしまう。ブルースが自分なんかよりも忙しいことは理解しているが、ずっと前に約束していたことが、目の前で立ち消えになってしまうと落ち込まないわけがない。
     ここのところ、自分も忙しかったせいでようやく顔を合わせてゆっくりできると思ったのに、期待は大きく膨らむだけ膨らんで、寂しさだけを残してしぼんでいく。

    「どうやら、まだ帰ってこないようですね」

     クラークのため息、そして表情は自分が思っているよりも、よほど盛大なものだったらしい。見かねたアルフレッドの声に僕は思わず苦笑いをしてしまう。

    「はは、さっき先に休むように電話があったんだ」
    「そうでしたか、相変わらずで申し訳ないですね」
    「まあ、そんなことも予想していなかったわけじゃないけどね」
    「それで、ため息を?」
    「もしかして、聞こえてた?今回は自分が思っていたより期待していたみたい」
    「そうでしたか。それで、忠告通り大人しく休まれますか?」

     ブルースとの逢瀬に気をつかい、いつもより早めにお暇してくれようとしていたアルフレッドが掛けてくれる、何気ない言葉が今はとてつもなくありがたく感じる。

    「忠告だなんて、ブルースの優しさはわかっている、つもり。だけど、たまには頼って欲しいというか、わがままいってほしいというか...」
    「どうやら、このままでは眠れなさそうですね」
    「あっ...!わかる?そうだね、なんかちょっと、眠れそうにないや」
    「ふふ、素直でよろしい。それではブルース様の愚痴大会でも開きましょうか?」
    「愚痴大会…!ふふっ!なにそれ、なんだか楽しそうな響きだね」
    「彼が幼い頃からのつもりに積もったエピソードを披露いたしましょう」
    「なんだか、楽しそうな響き!!でも、ちょっとブルースの幼い頃の話は気になるかも...」
    「もちろん、クラーク様が聞きたいことだけ、お話しすることも可能ですよ」
    「それは気になるかも!!!」

     非常に興味をそそられるフレーズとともに、さりげないウインクを決めるアルフレッドのスマートさに、先ほどまでの沈んだ気持ちがふっと軽くなる。主人でもない僕にまで、こんな気遣いを見せてくれる彼のプロフェッショナルな一面に、惹かれない人なんていないだろう。

    「なんで身近にアルフレッドという存在がいるのに、ブルースはたまに不器用さんなんだろうね?」
    「ははっ!クラーク様のそのお言葉、彼が聞いたらさぞ落ち込むでしょう」
    「あれ、僕ブルースにけっこうひどいこと言っちゃった?」
    「いえいえ、もしブルース様の前で先ほどのように私を褒めるようなことを言ったら、きっと彼は嫉妬してくるでしょう。私に対して」
    「ブルースが嫉妬...?まさか、そんなことないでしょ!」
    「ふふっ、ブルース様のクラーク様に対する欲深さを侮ってはいけませんよ」
    「本当…?だってブルース、そんな素振り見せたことないよ。一度も」
    「それは、嫌われたくないのですよ、あなたに。だからあんなにも不器用になってしまうんです。彼は」

     クラークの知るブルースからは想像できないような一面を教えられ、心の奥がなんだかむず痒くなる。あんなに普段はスマートでクールなCEO然としたブルースが、自分にそんなに深い感情を抱いているだなんて、いったい誰が信じられようか。

    「もしかして、僕が相手だから素っ気ない態度になってしまうとか?」
    「ええ、その通り。彼は大切な人の前ではそうなのです。あなたと、そしてたまに私に対して」
    「ふふ、そうだね。アルフレッドにはいつも素っ気ない気がするのは、大切な家族だからか!」
    「まあ、私に対して素っ気ないことは通常運転といったところですが、クラーク、あなたに対しての彼の不器用さは、大切に思うがあまりの反動だと思っていただければ幸いです。」
    「そっか。なんだかいいこと知っちゃったな」
    「ブルース様にはくれぐれも内密にしていただけると、私の首が飛ばずに済みます」
    「ふふっ、それは大問題だ...!!この話はアルフレッドと僕だけの秘密だね」
    「クラーク様のお心遣いに感謝いたします」

     そう一言、お礼の言葉を告げると「私は仕事に戻らさせていただきます」と流れるようにウインクを残して、アルフレッドはバットケイブへと向かった。
     クラークはアルフレッドを目線だけで見送り、部屋にひとりだけになったことを確認すると、すぐに口元を緩ませる。ブルースが自分に対してそんなことを思っていたなんて、にやけずにはいられない。てっきり、自分ばかりが相手のことを想ってばかりいると信じていたので、思わぬ秘密に嬉しさが止まらない。ああ、早くブルースに会いたい。抑えきれない思いのまま、クラークはエントランスへと部屋を後にした。

     
    yo_ru18(465) Link Message Mute
    2022/12/16 0:03:14

    ほしふるよる / ほしまつよる

    以前、鍵垢のほうであげていたおはなしにちょっとだけ加筆・修正をして、新たにクラーク視点の短いおはなしを書きました。
    カヴィルさんが演じるクラーク、そしてスーパーマンが好きという気持ち、その思いを絶やしたくない一心、勢いで書いたので、誤字脱字があるかもしれません。あらかじめ、ご了承くださいませ。

    #クラーク・ケント #ブルース・ウェイン #アルフレッド・ペニワース #MoS #BvS #JL

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