えんこうってなんですか注意事項・類×冬弥です
・モブが援交で停学になっている
・類が中学生のころ援交していたという設定
・類が冬弥のクラスメイトから嫌われている(結構悪口言っている)
・冬弥の性に関する知識がかなり少ない
以上がOKな方のみどうぞ。
四時間目が終わり、教室内はざわめき始めた。いつもの風景だ。
しかし、今日、俺の隣の生徒は来ていない。
毎日登校し、真面目に授業を受けていた彼女が欠席するのは珍しい。
風邪でもひいたのかと考えていると、後ろの席から会話が聞こえてきた。
「あの子が休みって。珍しいよね」
「ああ、あいつ援交で停学になったらしいぞ」
「え、援交!?真面目そうなのに、人は見た目によらないねー」
なるほど。彼女は停学になってしまったのか。
しかし、"えんこう"が何か分からない。
校内で爆発を起こしても注意で済むこの神山高校で、停学になるとは一体どういうことだ。
俺はスマホを手に取り、"えんこう 停学"と検索欄に入力した。
すると、"援交"の文字が出てきて、"援助交際"という語の略だとわかる。
スマホという文明の利器はとても便利なものだ。
「金銭の援助を伴う交際、か」
そうつぶやいたのが聞こえたのか、さっき会話をしていた二人組が話しかけてくる。
「青柳、どうした?」
「いや、2人が俺の隣の席の人のことを話していたのが聞こえて、"援交"という言葉の意味が分からなかったから調べていた。
盗み聞きしていてすまなかった」
「いや、聞いてたのは別にいいよ。結構噂になってることだし」
「つーかお前、援交の意味知らなかったのかよ」
「ああ。それで、今調べたところ『金銭の援助を伴う交際』と出てきたんだ。だが……」
「いや、青柳くんピュアすぎでしょ」
援交の意味は分かったが、疑問が残る。
「……援交って、そんなに良くないことなのか?」
神山高校には恋愛禁止、なんてブラック校則はないし、アルバイトも届け出をすれば許可が下りる。
なのに、お金を受け取って交際することが停学になるほどのことだとは思えない。
「「え」」
「いやいやいや、良くないに決まってるでしょ」
「神高は恋愛禁止ではないが……お金が絡むと問題になりやすいのか」
「まあ、それもそうだけど」
「あのなあ、援交っていうのは青柳が考えているような健全なお付き合いじゃねえから」
「違うのか?」
「そーだよ。恋愛感情なんかねぇ。ネットとかで都合のいい奴同士がくっついてヤるだけ」
「お金を受け取って恋人のふりをするのか?」
「そんな感じ」
「一種のバイトみたいなものなのか?」
「まあ、そうかもしれないな」
「だったら、ひとときの幸せを提供する、良いバイトじゃないか」
「は?」
俺は最近できた恋人である神代先輩のことを思い浮かべた。
「恋人と一緒に過ごすのは、とてもドキドキして、楽しくて、幸せなんだ」
「そうだろうね」
「だが、そんな相手を見つけることができても、結ばれるのは難しい。見つからないことだってある」
「青柳くん、恋人は……聞くまでもないね、これ」
「だから、恋人と過ごす疑似体験をさせるバイト……ではないのか?」
「「全然違う」」
「そうだ、神代先輩に聞いてみなよ。あの人も昔援交やってたらしいし。青柳くん、仲いいんでしょ?」
「いや、仲いいとかないだろ。青柳が一方的にあいつに絡まれてるだけだろ」
「いや、そういうわけでは……」
「そうだよね。あんな人と仲良し扱いされるの嫌だったよね。ごめんね、今のはナシで」
「ったく、あんな奴に絡まれるなんて、青柳も大変だな」
「そんなことは……」
「遠慮しなくていいよ。あんな人に話しかけられるとか、私だったら絶対ムリ」
「学校に変なもん持ち込んで、授業中も休み時間もなんか機械いじって……なんかキモイよな」
「うんうん。爆発起こすし、不気味で怖い」
「神代先輩は、そんな……」
大好きな人を侮辱され、悲しいし悔しい。そう思ったとき―
「青柳くん、一緒に昼食をとらないかい?」
―救世主は現れた。
「げ、噂をすれば」
「青柳、ここ隠れとくか?」
「いや、別にいい。神代先輩のところへ行ってくる。」
「ま、頑張れよ」
苦い顔をする2人を置いて、俺は神代先輩の方へ駆けた。
2人はやはり神代先輩のことが苦手らしく、
「青柳くん、よくやっていけるよね」
「てか優しすぎだろ。俺だったらガン無視する」
「だよねー。神代先輩と昼ごはんとか地獄でしょ。委員会でさえ嫌なのに」
「あ、お前緑化委員だったな。おつかれさま」
という会話が聞こえてきたが、向こうは俺には聞こえていないと思っているらしいので、俺も聞こえないフリをして、そっと神代先輩の手を握り、屋上へ向かう。
購買は混むので、昼食は神代先輩も俺も登校中にコンビニで買っていた。
各々の昼食を手に取り、食べ始めたとき、俺は先ほど話題になっていたことを神代先輩に聞いた。
「あの、神代先輩」
「何だい?」
「神代先輩が、以前"援交"していたって話、本当ですか?」
「……本当だと言ったら?」
そうつぶやく神代先輩の声はひどく冷たい。
「クラスの友人との会話で話題になっていたので、"援交"とは何か、聞こうとしたのですが……
ごめんなさい、神代先輩。嫌な思い出でも、あったんですか?」
「まあ援交自体が良くないことだし黒歴史なんだけどね。えっと、援交が何か、かあ」
神代先輩は少し悩む素振りをしてから答えた。
「お金と引き換えに、性行為をすることだよ」
「本当に好きな人と……ではなく?」
「うん。"あのときの僕"は誰でも良かったからね」
「あのときの……?」
「うん。中学生の時の僕は寂しさを埋めてくれるなら誰でも良かった。もちろん今は違うよ。青柳くんがいい。青柳くんじゃないと嫌だ」
急に自分の名前が出てきて、頬が熱くなる。
「でも、性行為って子供を作るためにするのでは……?」
「青柳くんって……本当にピュアなんだね」
「……?」
「何でもないよ。確かに、性行為は本来子供を作るための行為だ。だけど、人間って、性欲があるじゃないか」
「性欲、ですか」
「それを発散するために誰かを抱きたい人と、お金に困ってたり、かつての僕みたいに人肌に飢えていたりする人が繋がって傷を舐めあう。援交はそんな行為だよ」
「神代先輩は、人肌に飢えていたのですか?」
「うん。ずっとひとりぼっち……いや、孤独な仲間はいたけど、それも傷を舐めあうだけだったな」
「それで、神代先輩は援交を……?」
「そうだよ。……気持ち悪いよね。嫌いになったかい?」
神代先輩は寂しそうで、何か諦めたような表情をしている。
そんなことはない。俺は神代先輩が大好きだ。
そう伝える前に、俺の体は勝手に神代先輩を抱きしめていた。
「青柳くん……?」
「俺は……!」
「どうしたんだい?」
「俺は神代先輩のこと、気持ち悪いとか思いません。昔の神代先輩が寂しい思いをしていたとしても、これからは俺がいます」
悲しげな神代先輩の表情が脳裏に焼き付いている。
もうそんな顔の神代先輩は見たくない。
昔は孤独だったとしても、今も神代先輩を理解してくれない人がいても。
「俺は、神代先輩を愛しています。だから、そんな顔、しないでください!」
「……青柳くんは、随分と、大胆だね」
「え?思ったことを言っただけですよ?」
「そういうところ、だよ……」
神代先輩はさっきとは違って、笑顔を浮かべていた。
笑っているだけではない。涙を、おそらく嬉し涙を浮かべていた。
「僕も、青柳くんを愛しているよ」
「……!」
俺も、神代先輩の一言で胸がいっぱいになった。