寂しさグッバイもふの夢
うちにはザングースが一匹いる。友達と交換してやってきた子で、名前はモモン。特性がめんえきだけどモモンの実が好きなので、モモン。性格は何というかまあ、感情を表に出すことが少ないので分かりにくいんだけど、素直な子だと思う。
モモンは抱っこされたり、撫でられてもあまり喜ばない。一度あのふわふわのお腹に顔を埋めてもふもふしていたら、爪は引っ込めたまま、抗議するようにぺちりと軽く叩かれた。それ以来、あたしはあんまりモモンに触ったりはしていない。一緒にご飯を食べたり、ボール遊びをしたりはするんだけどね。
そんなこんなで、その友達といつも通りに遊んで、いつも通りに帰るはずだったある日。あたしが部屋のドアを開けた時、モモンはお気に入りのクッションの上に丸くなっていた。きっと本当は、いつもみたいにのっそりとだけど立ち上がって、ぎゃうと短く鳴いて出迎えてくれるつもりだったんだと思う。
でもその時ばかりはぎょっとしたみたいに、立ち上がろうとしたまま固まっちゃってた。そりゃそうだよね、部屋に入った瞬間に、あたし、べちょべちょに泣いちゃったから。
「う、うう……うううう……」
硬直しているモモンを前にしたら、余計に表情を保てなくなっちゃって。あたしは勢いよくベッドにダイブした。そのまま力任せに枕を抱きしめながら、ぐるぐるごろごろベッドの上を転がり倒す。
「あーっほんといや、寂しい、辛い、ぜーんぶやだ!」
ころがる、じたばた、無茶苦茶な気持ちがかえんぐるまで、何て言うかこうかはばつぐん。モモンがそろりそろりとこちらに近付いてきてくれたのは分かってたけど、ぼろぼろ出る涙と言葉が止められなかった。モモンのいない方に向かって放り投げた枕が、べしりと壁に跳ね返る。
「なんでよりによってカロスなんかにいっちゃうのよぉ、遠いじゃない!全然会えなくなっちゃうじゃん!イスカのバカ!バカバカバカ!だいっきらい!」
ごめんね、と申し訳なさそうに笑うあの子の顔がちらつく。わかってる、わかってるよ。あの時肩がちょっと震えてたし、イスカも本当は悲しいんだって。カロスに行っちゃうまでまだ日はあるし、それまでまだ何回かは一緒に遊べるし、そのために今日ああして話してくれたんだと思うし。
そう考えると、ちょっとだけ頭が冷える。でもその分悲しい気持ちが込み上げてきて、あたしは抱えた膝に突っ伏した。
「うそ、ごめん、だいっきらいなんかじゃないよ。今だけ……今だけちょっときらいで、でもやっぱ、すっごく大好きなだけ」
啜り泣きに、膝頭が濡れる。そうだ、泣いてばっかじゃだめだ。とりあえず、まず、枕、枕拾わないと、そうもふっと。って、いやあれ、何で今もふっとしたんだろう。そう思って、顔をあげたら。
「モモン?」
いつのまにか隣に飛び乗っていたモモンは、あたしと顔を見合わせるなりぎゃうと鳴いた。思わずぽかんとして見つめ返すと、モモンはいつも通りの、キュッと口を三角にしたしかめっ面で、あたしのほっぺたにお腹を押し付けてくる。
「モモン、どうし」
「まぅ」
いいからと言わんばかりに、頭に手を回される。ぽにぽにの肉球は思いの外優しくて、真っ白なお腹はやっぱりふわふわで、あったかくて。スペースニャースみたいに呆然としていたら、また強くぎゅっとされたものだから。ちらりと見えた顔はさっきと何も変わっていなかったけれど、どうやら慰めようとしてくれているらしいのがわかった瞬間、また涙が出てきちゃって。
「う、ううう、ううう……」
あたしはモモンに抱きしめられたまま、お腹の赤い雷マークに頬擦りした。一瞬びっくりさせちゃったのか、長い尻尾と赤い耳がぴょっと跳ねたけれど。それでも。
「ごめんね、ごめんねモモン、ありがとう」
でろでろな声しか出せないのが情けなかったけど、あたしは鼻をすすりながら言葉を続けた。
「今度、今度さあ、イスカがカロスに行っちゃう前に、モモンも一緒にイスカに会いにいこ。そんでさ、笑ってバイバイして、また会えた日にさ。笑って、笑って一緒に、たくさん色んな話をして、色んなとこにいこ」
少しの間、モモンは何も言わなかった。だけど、ぐすぐすべそべそしているあたしの頭の上にぽんと手を置くと、ぎこちなく撫でるようにしながら、元気よく一声鳴いてくれた。
「ぎゃう」
うちにはザングースが一匹いる。友達と交換してやってきた子で、名前はモモン。特性がめんえきだけどモモンの実が好きなので、モモン。感情を表に出すことが少ないので分かりにくいんだけど、素直な性格で、すっごくすっごく優しい、あたしの大事なパートナー。
いつかあたしも、カロスも、カロスじゃないところも。モモンと一緒に旅してみたいなあって、そう思ってるんだ。