おみくじをひきに 三が日の神社というのは多忙なものである。それは先日まで鬼によって廃墟と化していた紫春神社も例外ではない。あれほど荒廃していたにもかかわらず、頑張って浄化作業をしたおかげか疫病退散を祈ってか、例年の二倍以上の参拝客が訪れた。そんなありがたい参拝者の皆様に、十二支たちは寝る間もなく、お守りやら御札やらを売りさば──授与していたそうだ。
そんな忙しい三が日を過ごしたが、流石に四日目には落ち着いて、いつもの日常が戻ってきた。
このタイミングならいいかなと思い、夜、夕ご飯のお雑煮を食べ終わった皆に声をかけた。
「ねぇ皆、今年はもうおみくじ引いた?」
口々に「今おみくじとか聞きたくない……」「紫春神社の授与所は営業終了しただろ」などと口々に微妙な反応が返ってきた。確かにちょっと無神経だったかもしれない。ここ数日疲れた原因だしね。私でいうところの、勉強が終わった後に一息ついてるときに図書館行こうと友達に誘われるようなものか。
これは明日にするべきかな、と思ったところで、後ろから声がした。
「おみくじを引きたいのか?」と、この中で1番長身の干支が、私の背後から現れて言う。晩ごはんに使った食器の後片付けが終わったばかりなのだろう、手に拭き残したらしい水滴がついている。
「うん、ちょっと運試ししたいなって……」
皆で、と言いたかったけれど、十二支のほとんどは皆はこたつに深く入ってしまったり、そもそも寝ようと部屋に行ってしまった干支もいる。この雰囲気では言えない。
尊は「じゃあ、行くか」と言ってくれた。彼も皆と同じように疲れてるだろうに、付き合いがいいな。尊が平等に振りまいている慈しみを受け取って、まるでそれを独り占めしたかのようにゴキゲンになる。我ながら安い人間だ。優しい彼は、そんな私に外は寒いから上着を来てこいと促した。
* * *
当然紫春神社の授与所を開けておみくじを引くものだと思っていた私は、鳥居に向かう尊に驚いた。どこに行くの、と思わず声をかける。
「おみくじを引きに」
子狐が防寒具を買いに行く絵本のタイトルを読み上げるような雰囲気で言うなとツッコミたい。が、本好きとはいえ尊が絵本を嗜んでいるかはわからない。スベるのが怖くて単刀直入に、ウチじゃない神社で?と聞いた。
「紫春神社のおみくじは全部大吉だ」
「そうだね、凶出して暴れる参拝客の相手するの面倒だからっておじいちゃんが」
「じいさんのそれも一理あるが、それじゃアンタがしたい【運試し】にはならんだろう」
「あ……そうか……」
たしか近くに夜でも無人でおみくじを引かせてくれるところがあったはずだと言って、尊は歩き始めた。
尊がちゃんと私の話を聞いていてくれたことが嬉しくて、顔がにやける。今年の恋愛運は最高だと、おみくじを引く前からわかってしまった。
いつもは感染症予防対策として着けるマスクを、このときばかりはニヤケ顔を隠すために引き上げた。