琥珀糖 あれは私が生きていた頃、まだ子どもだった頃の話。
私が生きていた時代というのはね、今の地上の様に食料が豊富ではなかった時代だったの。一日に食べられるご飯の回数が今より少なかったのよ。ええ、お菓子なんて贅沢品、身分が上の方でも食べられたかどうかわからないわ。──ああ、今は「身分」なんて言ったら時代錯誤だって怒られちゃうかしら?
そんな時代のある日にね、近所の小さい神社の息子が──私の幼馴染なんだけど──黄金の飴をくれたのよ。今で言うべっこうあめ。砂糖を焼いて作るあめ。そのとき初めてべっこうあめを見たのよね。最初は何かと思ったわ。少し加熱しすぎたのでしょうね、黄金色じゃなくて少し茶色かったの。茶色いものから想像する味って、しょっぱいものしかないじゃない? その神社の子が醤油薄めて固めて渡してきたのかと思ってびっくりしたわ。そのまま言ったら怒られて、騙されたと思って食べてみろって押し付けられたのよね。
そう、口に含んでまた驚いたの。想像していた味と違いすぎたのよね。途端、甘みとほろ苦さがさーっと広がって。薄いその飴を前歯で齧ると、パリッと軽快な音が立ったわ。
これは美味しいものだと思ってね、どうやって手に入れたのか聞いたのよ。そしたら自分で作ったというの。私も作ってみたいと言ったら、もっとやるからうちに来いって、おうちに呼んでくれたのよ。
付いていってお部屋で待っていたら、瓶に入った色とりどりのお菓子を持ってきて見せてくれたの。これはうちの料理人が作った作品だって言ってね。均一なすりガラスのかけらが入っているのかと思ったくらいよ。
神社に専属の料理人の方がいるの?と今思えば不思議に思うことばかりなのだけど、その美しい見た目に心を奪われてしまったのよね。しばらくそのきれいな飴に見えたものは、氷砂糖のような、でも柔らかくて……なんて言ったらいいのかしら。周りはしゃりっとしていて、中は柔らかかったの。初めて食べたあのお味に感動して、帰るまでずっとそのお菓子の話をしていたわ。コハクトウというものらしいのよね。
帰り際に台所前を通ったときに、とても背の高いお方が立っていてね。髪の毛が白に近い生成り色──ぶろんど?ぷらちな?と言うのだったかしら──だったの。一瞬でちゃんとは見えなかったけれど、目は青のような灰色のような、色素が薄い色の方だったの。きっとこの国の生まれではないと思ったわ。
次に幼なじみに会った時、あの方のこと尋ねたら、もう居ないんだと言われてしまって、それきりなのだけど。あの一瞬の記憶は今でも記憶にはっきりとあって、もう一度お会いしたいと思っているの。
そうね、忘れられない。あのきれいなのは、何年経っても。お菓子も、あの異国の御仁のことも。