本当に、みんな、だったのかな。 どういうわけか言いたくなったというだけの理由で、私は十二支の父に向かって感謝を伝えた。十二支たちを生み出してくれてありがとうと。
言われた方は、突然何だよと言う顔をして、お湯の入ったインスタントラーメンをかかえている。そしてまだ日が高い今の時間からお猪口に口をつけている。
持ち上げたってお金なら無いよ? むしろ総資産はマイナスだよと、何の自慢にもならない言葉を笑顔で返してくる。
アル中の開き直りスマイルを無視して、他意は無く、素直に感謝を伝えたかっただけだと、それより今の時間からラーメン食べてたら尊に怒られるよと、前半も後半もありのままの気持ちを言ったのだけど、この男は理由がほしいらしく、今日は何かの記念日なの?と聞く。たしかに、いつもどおりの日に突然ありがとうと言われれば頭上にハテナが浮かぶのはわかるけど。ほー何か言ってるなと流して貰うつもりの、正直自己満足で感謝を口にした私はアテが外れて驚いた。
予想に反して話が続いてしまったので、強いて言うなら、
春乃に感謝を伝えようデーかなと言う。
「
春乃が命を吹き込まなかったら、私、みんなに会えなかったなぁって思ったの」
十二支たちが生まれなかったら十二支たちに会えなかったわけじゃない?と私が言う。
春乃はそれを聞いて、変な子だなと言いながら、持っていたおちょこをひっくり返した。中に残っていた透明な液体をインスタントラーメンに注いだ。あれ……おちょこに入ってるのって……普通お酒だよね?
「何やってるの?」
「こうすると味に深みが増すの。料理みたいに火にかけないからアルコールも飛ばないし」
「ええ……研究熱心なのか、アル中なのか……」
味の探求心といい、お酒への拘りが強いところといい、本当に尊に似ていると思う。実際は尊の方が似てしまったのだろうけど。
「ほら、本人としては理由があっても、急に普段と違うことすると心配になるでしょ」
春乃に常識を説かれ、心配してくれていたのだと私は驚いた。普段はあまり見せない真剣な表情で
春乃は続ける。
「普段そういうこと一言も言わないのに、何でもない日に感謝の言葉言われたらさ、これから死ぬつもりかなと思うよ」
本当に悪かったと思う。そこまで不吉なことを言わせるほどだったのか。行儀が悪いけど頭に手をやって反省の姿勢を見せる。
「悪かったわね……。でも私、まだやりたいことがいっぱいあるの。もし今あの世にいったら、紫春神社の地縛霊になって毎日神社パトロールしてやるわよ」
「神社の子が言うセリフじゃないねぇ縁起でもない」
「縁起でもないのはそっちでしょ」
それより早く食べて片付けないと尊に怒られるよ? ご飯いらないって言わずにご飯食べた時点でもう怒られるとは思うけど。
何気ない日常に対しての感謝は常に持っていなきゃいけないけど、表し方には気をつけなきゃなぁ。
心のなかで反省していると、
春乃が酒ラーメンをすすりながらなにか言った。
「ひんは、ひゃはふへ、ひほほ、へひょ」
一気にすすった麺を口に入れたまま口を動かされてほぼ聞き取れず、聞き返すと少し麺を噛み一言。
「……どうせ感謝されるなら言葉よりお金がいいなって言ったの」
「冗談にしろひどいな!?」
さっき反省したのは取り下げよう、とりあえず目の前の人に対しては。