あかくてあまい「あ……」
私の可愛い使い魔と同居人の5歳児のために夜食を作っていると、ふいにリビングから声が聞こえた。
「どうしたのかね?」
声がした方に身を乗り出すと、自分の手を見ているらしいロナルド君からぼんやりとした返事が返ってくる。
「……血が出た」
「はぁ?」
食事ができるまでの間にテレビを見ていただけのはずなのに何故怪我をするんだ。
「空腹に耐えられなくてとうとう自分の指でも食べたのかい?」
「食わねえわ殺すわ」
「君のなんなら言葉より早く手が出るとこ本当にどうにかならないのかね!?」
わざわざキッチンから確認に来てやったのに間髪入れずに殴られる。言っても無駄なのはわかっているが一応反論して塵から戻りロナルド君の前に立つ。
「ああ、乾燥で唇が切れてしまったのか、確かに血が出てる」
「ヒリヒリいてぇ」
「待て待て、荒れてるのにそんな乱暴にしたら」
「……余計に痛くなった」
言わんこっちゃない。指でぐいぐいと拭われた唇からは先ほどよりも濃く血が滲んでしまった。
赤が良く似合う、ロナルド君の……。
「……っ!? テメ、何するっ!!」
「だから条件反射で殺すのやめろ!! ……若造の血でも血は血だからな。ふむ、意外に悪くない」
「何様だコラ」
驚いた。赤く滲む血を舐めてみたいと思って、気づいた時には口の中に味が広がっていた。
「ふん、私のような高等吸血鬼に血を褒められたんだ、光栄に思いたまえ。じゃあ私は戻るから、もう触るんじゃないぞ」
その場を誤魔化してキッチンに戻っても、先程舌に感じた血の味が忘れられない。
あかくてあまい、ロナルド君の血。
「どうして、こんな……?」
その味の理由に気づくまで、あともう少し。