君が見てきたものを知りたくてこのところ、確かに違和感はあった。
いや、そもそも吸血鬼退治人なんて仕事をしているのだから、普通の昼の子のそれよりも、どちらかといえば我々に近いものにはなるだろうというのはわかる。
わかるけども。
「君、最近日中あまり出掛けていないよね? というより、日中に寝てばかりいないかい?」
眠る前に気づいた違和感の正体に、思わず隣のソファでまさに眠りにつこうとするロナルド君に声をかけた。
「あ?」
案の定、それがどうしたとでもいうような、ちょっと不機嫌そうな声が返ってくる。
「俺らの仕事は基本的には夜が多いんだから、別にいいだろ」
そう言いながら、普段は真っ直ぐ交差する視線が逸される。それは、嘘というにはいじらしいような、可愛らしいことを考えているときの仕草で。
これはまた、何か愉快な思考に陥っているなと、思わず口元がゆるむ。
「いいことあるか。人間は我々と違って多少は日に当たらないとダメなんだから」
ふわふわと跳ねる横の毛に沿って指を滑らす。一瞬ぴくりと身構えたものの、ロナルド君はされるがままだった。
「せっかく私が作るバランスの良い食事を摂ってるんだから、しっかり日光も浴びて健康になってくれたまえよ」
「……」
ここまでしても黙ったままの顔を改めて見る。暗がりでも効く吸血鬼特有の眼に、少し鼻を赤くしたロナルド君の顔が写る。
ムッとしているように見えるけどこれは。
「君、もしかして……」
「……?」
声につられてこちらを見るロナルド君に、確信に近い問いかけを送る。
「一人で日中出かけるの、嫌なのかい?」
「……だって、明るい中出掛けててもよ。隣にお前やジョンがいないから……」
続いた言葉に、今度はこちらが目を丸くする番だった。
曰く、たとえば日中街中で綺麗なもの、心躍るもの、目を奪われるものを見つけたときに、私やジョンと共有できないと。それが思いの外空虚で、寂しいのだと。言葉以上に、伏せられた瞼から覗く空色の瞳が語っていて。
「バカだなぁ、ロナルド君は」
「は?」
だって今は、それをいくらでも共有する手段があるのに。
「たとえば君が日中見てきた心が震えたものをRINEで送ってくれればいい。目覚めの最初に見るそれは、きっと私を楽しませるじゃないか」
今度はロナルド君が目を瞬かせる番だった。きっと、そんなこと考えもしなかったんだろう。
「素敵な夜の挨拶の次はその話題でもいいじゃないか。……君が日中見てきた素敵なものをさ、素晴らしい夜に私とジョンに聞かせてくれよ」
ねぇジョン? と首元をくすぐってやると、そばで大人しく我々を見守っていた可愛い使い魔はヌシシと笑いながら肯定してくれる。
「ね? ジョンも聞きたいんだってさ。だから……、一人の昼間に怯えなくていいんだよ」
「……。まぁ、……考えとく」
しばらく沈黙が降りて、ようやく返ってきた返信。
それにはもう、一人の日の下に怯える幼な子の姿は見られなかった。