きっと助けてくれるから映し出される、よくある心理テストの一節。
『あなたの目の前で、あなたの大事な人が二人、崖から落ちそうになっています。どちらか一人しか助けられないとして、あなたはどちらを助けますか?』
「この手の心理テスト、よく聞くけど現実に考えるとなかなか酷い情景だよねぇ」
ソファに並んだ二人と一匹。誰からともなくつけたテレビで流れていたのは、懐かしの心理テスト特集だった。
次々と出される心理テストに、集められた芸能人たちが一喜一憂しながらそれぞれの回答を口にしている。
「まぁ、だからこそ心理テストになるんだろ」
「ヌー」
少し呆れたようなドラルクの声に、これまた気の抜けた声で返すロナルドとジョン。
確かに現実に起こっているとするととんでもない状況ではあるけれど、これはあくまで心理テストだ。だからこそ時には凄惨な状況を語るものが出てくるのだろう。
「ふむ……。まあ、それもそうか」
あまり深く考えずに軽く返した答えに、ドラルクも納得する。そして、次の瞬間には何か閃いたと言わんばかりの楽しげな笑みを浮かべて隣に座る一人と一匹に向き直る。
「そうだ!」
「あん?」
「ヌーヌ?」
「私とロナルド君が、今にも崖から落ちてしまいそうだとしよう。どちらか片方を助けたらもう一人は助けられない。その状況で、君ならどちらを助けるかね? ジョン?」
「ヌアッ!?」
突然主人からもたらされた酷な質問に悲鳴を上げる。もちろん主人であるドラルクは助けたいが、彼は彼なりにロナルドのこともかけがえのない大事な家族だと思っているからだ。
「ヌー……」
「おいやめろよ、ジョン困っちゃってるだろ!?」
頭を抱えて悩むジョンに、ロナルドがドラルクを嗜める。
しかし、自分が選ばれると信じて止まないドラルクはニコニコと答えを待つばかりだった。
「ヌーン……」
しばらくして、ようやく口を開いたジョンにドラルクは輝かんばかりの笑顔を向けるが。
「ヌヌヌヌヌン」
聞こえた名前に、その場が一瞬にして凍る。
「さっすがジョン、わかってる〜!」
「えぇっ!? 私じゃなくてロナルド君!? どうして!?」
選ばれると思っていなかったが故に手放しで喜ぶロナルドと対照的に、選ばれない未来を予想しておらず慌てるドラルクがそこにはいた。
「ヌッヌ……」
二人の様子にそれぞれを交互に見上げながら慌てていたジョンが口を開く。とりあえず理由を聞いてみようと、言葉にせずとも騒ぐのをやめる二人に、少し照れながらジョンは理由の続きを紡ぐのだった。
「ヌヌヌヌヌンヌヌ、ヌヌヌッヌヌヌヌ、ヌッヌ、ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌンヌ?(ロナルド君なら、助かった後に、きっと、ドラルク様を助けてくれるでしょ?)」
「それは……」
「ジョン……」
ジョンが口にした理由に驚き、しばらく静寂が訪れる。
少しして、その静寂を先に破ったのはロナルドだった。
「…あぁ。絶対に助けてやる。当たり前じゃないか」
「ヌンヌ!」
「や、めてくれたまえ! 恥ずかしいな君は!!」
ロナルドの真摯な言葉に、ジョンはとびきりの笑顔を向ける。当のドラルクは恥ずかしさに塵になって散らばってしまったが、上擦った声でただ照れているだけなのが一人と一匹には伝わってしまう。
結局件の心理テストの結果は見そびれてしまったが、その場の全員が、少しむずかゆいような、幸せな気持ちに包まれていた。