そんなきみが
「俺……っ! ど、ドラ公のこと、が……、っす、き……だから……!」
作った夜食を食べ終えて、しばらく鬱陶しいくらいダイニングテーブルの周りをうろうろしていたロナルド君に落ち着きがないぞと注意したら、茹でダコみたいな顏で言われたのがそれだ。
切羽詰まって絞り出されるように放たれた言葉が、空気を伝ってちょっとしたことですぐ死ぬ身体に染み渡った。
そっか、ロナルド君、私のこと好きなのか。おっぱいが大きい、年上のお姉さんが大好きだったはずなのにね。
じわじわと口角が上がるのが自分でもよくわかる。そっか、そっかぁ。
「顔はいいのに中身が5歳児ゴリラだからモテなくて、とうとう血迷っちゃったんだね! ファーーーー! 可哀想にゴリルド君……!」
「うるせえ殺す……!」
言うか言わないかのタイミングでパンチがクリーンヒットして身体の輪郭が曖昧になる。だからそのすぐ手が出るクセ、早くなおせってば。
「いや、だって君さ」
塵から復活しつつ、至極真っ当な意見を述べる。
「よぉく見てみなよ。私は確かにパーフェクト可愛い存在ではあるけどね? でも君の大好きな大きいおっぱいも無いし、君の言う通りガリガリな砂おじさんだ。どこをどう取っても君の理想とは真逆だろう? これを血迷ったと言わずになんと言うんだ」
「うぐっ……」
純粋に思ったことを述べただけのつもりだったのだが、若造は唇を噛み締めて黙りこくってしまった。え、そんなに重たい話?
「それに君、いつも言ってるじゃないか。『クソ雑魚の砂おじさんのどこをどうとって可愛いと思えって言うんだ』って。いやその意見自体には大いに反論があるがね?私は可愛いから。でも、そんな風に言ってたのにどうしたの? またおポンチな吸血鬼の能力にやられた?」
「ちがう……」
「それとももしかしてどこか具合が悪いのかな?」
「ちがう……」
消え入りそうな声でようやく短い否定の言葉だけ絞り出したロナルド君は、着ているジャージの裾をこれでもかという力で握りしめている。ああ、そんなに握りしめたらシワになっちゃうし、爪も痛いだろうに。
そんな取り止めもないことをぼんやりと考えていたら、頭上からしおしおな声が降ってきた。
「なんだよ……。そりゃ今までお前のこと散々バカにしてたけどよ、色々考えて、考え抜いて、それでやっと俺なりに答えを見つけて、すげー覚悟したのによ」
「ロナルドく……」
「いや、そうだよな。今までバカスカお前のこと殺してたし、さっきもだし。そんなやつの言うことなんか信用できないよな。……悪かった、忘れてくれ」
それだけ言うと、すごすごと、本当に音がしそうなくらいしょんぼりした雰囲気でソファの方に行ってしまった。
「少し、からかいすぎてしまったかな」
人が持っていないものをいくらでも持っているくせに、自己肯定感の低さは相変わらずだ。
「だって、ここは君の事務所で、君の家で」
突然転がり込んできた吸血鬼の居候すら許してしまうくらい善人のロナルド君。
「……付き合わないなら追い出すくらい、言えてしまう立場なのにね」
ソファの方を見やると、大きい図体が両膝を抱えて縮こまっている。どうせさらに良くない思考に陥ってしまっているのだろう。さっきまで、私が作ったデザートまでペロリと幸せそうな顏で食べていたくせに。
まあ、落ち込んで縮こまっている姿も、可愛いんだけれどね。そう思ってしばらく楽しんでいたけれど、これ以上は可哀想か。
じゃあ、勇気を出した若造に、年長者からのご褒美だ。
「ロナルドくん、いいことを教えてあげるよ」
ひくりと震えた巨体に、よく聞こえるように。
「私もね、ロナルド君のこと、実は好きなんだ」