だって不意に口からこぼれてしまったからドラ公とその、お、お付き合いを始めてからそれなりに経つが、なかなか口に出せない言葉がある。
「君って、私に可愛いって言ってくれないよね」
本人からも言われたことがある。
そう。可愛いが、言えないのだ。
決して可愛くないと思っているわけではなく。むしろちゃんと思っている。可愛いって。
そもそも、恋人のことを可愛いと思わないやつなんて、いるのか?いないだろ。それなのに、変なプライドと恥ずかしさが邪魔をして、なかなか口にすることができずにいる。
本当は、ちゃんと言ってやりたいのに。
その一言が、なかなか絞り出せずにいる。
***
ある日の夕食後。その日のデザートは果物たっぷりのパンケーキだと、俺とジョンが食べ終わるのを見計らってドラ公は再びキッチンに立った。
少し前に、手で混ぜると疲れて死んでしまうだなんだと言われて買わされた電動の泡立て器で卵白を混ぜているのをぼんやりと見ていたら、俺が見ていることに気を取られたドラ公がこちらを向く。
「なんだね、見ての通り準備中なんだから……あぁっ!」
よそ見をしたせいで手元が狂ったのだろう。やわらかめにツノが立ったメレンゲが辺りに飛び散る。
「あーあ、何やってるんだよ……」
「君がじっと見てくるから気が散ったんだろうが。メレンゲまみれになってしまったじゃないか……ああ、ジョンにもついちゃったね。……ふ、ははっ」
ドラ公につられてジョンを見れば、確かにちょうど頭のてっぺんにこんもりとメレンゲが鎮座していて、ベレー帽のように見えた。
「ふふ、可愛いけどちょっとベタベタするだろう。文句はロナルド君に言っていいからね」
「ヌンヌ!」
未だに少し笑いを堪えながら、ジョンの頭上のふわふわな帽子を拭ってやっている。たったそれだけのことなのに。
「……綺麗だ」
俺の目にはやたらキラキラ輝いて見えて、あまつさえそのままこぼれ落ちていた。
「えっ?」
「あ……」
ドラ公に聞き返されて、ようやく己の失態を自覚する。
「いや、その、違くて」
これは完全にからかわれるやつだから、煽られる前に弁明しないとと慌てて口を開きかけるも、ドラ公の様子は少し違っていて。
「……ロナルド君から見て、私、綺麗なんだ?」
「えっ!?……あぁ、まあ。……そうだよ」
いつもと違う雰囲気に呑まれて、馬鹿正直に答えてしまう。でも、どうやらそれが正解だったようだ。
「ふぅん?そうなんだ……」
それだけ呟くと、読経にしか聞こえない鼻歌を口ずさみながら、ドラ公はパンケーキ作りに戻っていった。
その耳が少し桃色に染まっていたのと、出てきたパンケーキの果物がいつものそれより多かったのを見て、変な意地なんて張らないで、もっとちゃんと言ってやろうと自分自身に誓った。
お前は可愛いし、綺麗だよ、と。