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    客死2019年10月の前までで、戦闘機乗りとしてのブラッドリーが学んできたのは次のようなことであった。

    〈空の上でもつことの許される目標はただひとつに限られ、選択肢はすなわち任務か、生かである。〉

    生を選んだ場合、かれらは生きることを目標として飛ぶなかで運よく任務を達成するか、あるいはたんに生きてもういちど土を踏む。任務を選んだ場合、かれらはなんとしてでも任務を達成するのである。
    飛行のたびごとに、ブラッドリーを含む戦闘機乗りたちはこの選択を迫られることになる。後者の選択肢については、だれも表立っては口にしないからそれが存在することも明示されてはいなかった。しかしそれこそが選ぶべき道であることもまただれもがわかっていた──表立っては、かれらは生きることを目標として飛ぶなかで運よく任務を達成することになっていた。あるいは、任務を達成することが、生きて帰ることを論理的に含意するかのように扱われていた。当然、任務を達成することは、生きて帰ることを論理的に含意しない。そんなことだってみんなわかっていた。

    マーヴェリックのベッドメイキングはいつだって完璧だった。
    母艦、独身者用兵舎、ブラッドショー家、基地内の独身者用兵舎、格納庫の居住スペース、どこでもかれは軍人らしい素早さと正確さをもってシーツをベッドの角ぴったりにあわせてしまいこみ、枕の角度をけっして間違えなかったし、予備の毛布を畳み直すことも怠らなかった。夏の日も、冬の日も、かれの去った後のベッドは大理石のようにうすく湿り、白く、静寂だった。
    それは、かれが空へ出る前に鍛錬をし、エンジンを始動させる手順を踏むのと同じだった。空に出たとき、かれは共に飛ぶ仲間、敵や空そのものを蹂躙し、あるいはそれらと踊り、ときには機体という自分自身への負荷もおそれずに、たったひとひらで巨人を負かすリボンのように飛んだ。それでも、空に出る前にかれは鍛錬を秩序立てておこなったし、手引きを再現することだけを念頭に置いてエンジンを始動させた。
    陸にいるかれは、昔に習ったたったひとつのやりかたを反復するだけの、不器用で、融通の利かない男だった。目の前の上官の指令より、それ以前に咀嚼して自分の肌に馴染んだ慣例を優先した。

    戦闘機乗りのだれもがわかっていながら口にしなかった問いについて、57歳の教官として立ち現れたマーヴェリックは、どちらの選択肢をも口にして、どちらをも選んだ。──たんに生きてもういちど土を踏み、なんとしてでも任務を達成するのである。
    それを行うのは "かれら" であり、"わたし" ではなかった。
    たんに生きてもういちど土を踏み、なんとしてでも任務を達成するのは、ブラッドリーやそのほかの若い戦闘機乗りたちであり、マーヴェリック自身はそこに含まれていなかった。
    あのとき、いったい、かれは自身をどこにやってしまったのだろう?

    ブラッドリーは11歳のとき、夏休みにマーヴェリックとふたり旅行に出かけたことがある。
    ニックが死んでから何年もたった夏だった。轟音を立ててサイクロン式掃除機をかけているキャロルに、なにか(きのうぼくが食べ残したグラタンの残りがどこに置いてあるのか、とか、たしかそんなこと)を訊いて、返答がないので何度も大声で尋ねたあと、それでもまだ返答がないので上腕を掴んだ。キャロルはその腕をすごい力で振り払い、飛ばされたブラッドリーは尻餅をついた。
    キャロルはこめかみの汗を拭いて、引き続き掃除機をかけ続けた。ブラッドリーは呆然と母親の背中を見ていた。居間をくまなく掃除したあとでキャロルはそれのスイッチを切り、冷蔵庫からグラタンの残りを出して、温め、その間中うろうろと彼女のまわりをついてきていたブラッドリーの前に出した。
    その翌日、マーヴェリックが久しぶりに訪ねてきて、数日の休暇がとれたからブラッドを旅行に連れて行ってもいいかとキャロルに言った。キャロルはしばらく黙ったあと「ありがとう」と言った。マーヴェリックも「ありがとう」と返した。それで、ブラッドリーも「ありがとう!」とふたりに言った。そのあと三人で、マーヴェリックの買ってきた大きなアプリコットケーキを食べた。ブラッドリーはふた切れ食べた。マーヴェリックとキャロルは30代だった。

    ブラッドリーがハイスクールに通い出して、キャロルが入院していたころ、彼女はよくブラッドリーが赤ん坊だったときの話をした。正確には、生まれたばかりのブラッドリーをはじめて見たとき、みんながなんて言ったかの話をした。ニックは大笑いして、大泣きして、踊った。キャロルはニックの真似も、マーヴェリックの真似もうまかった。
    「それで、かれの腕のなかで眠るあなたを見て、マーヴは深刻な顔になって、こう言ったんだよ。『グース、たいへんだ、かれはあまりにも小さすぎる……』って」
    キャロルは笑いながら言った。ブラッドリーはこの話が大好きだった。ベッドの上のキャロルの手を握り、こう返す。
    「それで、母さんがトイレから戻ってきたら、おれを抱っこしてたマーヴは母さんになんて言ったんだっけ?」
    「かれはわたしのほうを見もしないままこう言ったの。『キャロル、驚いた、初めて見たよ、こんな小さい赤ん坊は……』」
    かれ、いままでそんなに赤ん坊を見たことがなかっただけなんだよ。キャロルは笑いながらいつもそうやって話を締めた。マーヴェリックが見舞いに来ているとき、かれは看護師からこの話を振られ、本人らしく恥ずかしさで地面に埋まりそうな顔をしていた。

    "マーヴとの旅行" は、11歳の少年が事前に釣り上るところまで釣り上げた期待をさらに上回って楽しかった。ブラッドリーは毎日何度もマーヴに「楽しいね」と言った。地元のコーラス隊の合唱を聴きながらディナーを食べているとき。プールで泳ぎ疲れて浮かんでいるとき。マーヴがホテルの部屋の鍵を穴にさしこんでいるとき。「マーヴ」と呼びつけ、マーヴが首を横に傾けると、ブラッドリーは言う。「楽しいね」
    「そうだね」マーヴは笑う。「すごく楽しい」
    実際、何をしていても楽しかった。旅先の退屈ですら、ブラッドリーには新鮮で楽しかった。目につく看板、新聞の見出し、Tシャツの文字、読めるものはぜんぶ読みあげた。空はどこまでも青く、世界にはこの小さな観光ホテルしかないかのような気だるい明るさだった。いくつか観光名所にも行った気がするが、30になったいま、ブラッドリーはそれらをほとんど覚えていない。あのすこし甘い埃の匂いがするホテル、いつも背筋を伸ばしているマーヴ、開け放った窓、それからいくつかのことだけ。

    マーヴェリックとプールで泳ぐのは、実は大変なことだった。11歳の少年は海軍の戦闘機乗りの泳ぎ方についていくことはできない。マーヴェリックだってそれをわかっていたから、スピードを出したり無茶はしなかった。売店で購入したしわくちゃのビーチボールを膨らませてからは、ふたりはよくプールに飛び込んでキャッチボールをした。
    キャッチボールをしているあいだも、ふたりはたいてい大声をあげてずっとなにか会話していた。ブラッドリーの口数が少なくなったことに気づいたマーヴェリックは、ブラッドリーの手の甲から弾かれた透明なビニールボールを脇に抱え、水をじゃぶじゃぶかきわけてかれのほうまで近づいた。前髪をべったり張りつかせて震えているブラッドリーの唇は、真っ青だった。

    ブラッドリーはホテルのベッドに横たわり、さっきからどこかへ電話をかけているマーヴェリックの背中を見やった。白いTシャツは、濡れた体を拭かないまま被ったのか、まだらに乾いていた。
    さっきはキャロルに電話をかけ、アレルギーのメモを見ながら、薬のアレルギーがほかにないかなどを確認していた。次にフロントに電話をかけ、近所の病院の電話番号を教えてもらい、その病院に電話をしているのだろう。すごく遠慮がちな、でも頑固な口調で、「ええ、大したことないのはわかってるんですけど、一応、念の為……体を温める……はい。たくさん食べる。はい。そうですよね!……念の為診てもらうっていうのは……ええ、はい。もちろんです。ありがとうございます」と電話口に吹き込んでいた。
    マーヴェリックが受話器を置いたので、「マーヴ」と声をかける。かれが振り返る。瞳の色はどこまでも透き通っていて、世界にはこのホテルの小さな一室しかないかのような気だるい明るさだった。
    「……楽しくなくしちゃった。ごめんね」
    マーヴェリックは手のひらに額をすりつけ、笑いながらその手を振った。
    「そんなことない」かれは言った。「すごく楽しいよ、ブラッド」
    ぼくが風邪を引いてベッドで寝ているのが楽しいなんて、マーヴは変な大人だとブラッドリーは思った。撃墜されて真冬の海に落ちて救助まで30分かかっても風邪ひとつ引かなかったくらい丈夫なのに、11歳のぼくがちょっと身体を冷やしただけでこんなにも取り乱すなんて、変な大人だとも思った。
    ブラッドリーが寝たまま手を伸ばすと、マーヴェリックがベッドサイドに近づいてきて、その手を握った。ブラッドリーの手はひんやりと湿っていて、マーヴェリックの手は熱く乾いていた。手の甲に日焼けがあった。ブラッドリーは手を握り返して、「はやく元気になるね」と言った。マーヴェリックは目を伏せ、「ごめんな」と言った。
    それから間があって、マーヴェリックはもういちど「ごめん」と言った。祈るように、ブラッドリーの手を握り、マーヴェリックはそう言った。なにに謝っているのか、当時のブラッドリーにはわからなかった。二つ目の謝罪については、現在のブラッドリーにもわからない。

    40歳になる誕生日の昼、基地内の飲食店でウォーロックとばったり出くわした。昼なのにやたら暗い店で、コーヒーみたいな色に見える紅茶を啜りながらウォーロックは「マーヴェリックには会っているのか」と尋ねた。
    「たまに、予定があえば行きますよ」
    ウォーロックはちょっと笑って、「わたしの知る限り、」と言う。「きみたちのような生活をしている戦闘機乗り二人の予定が偶然合うことはないはずだ」
    ブラッドリーは肩をすくめた。
    「それが、あるんです。かれは、ふつう一度にやることのできないふたつのことを一度にやってのけるとんでもない男なので」
    「そうかな。きみは忘れているだろうが、四年前、わたしはきみたちに向かって、かれをこう紹介した。『かれの教えることは、きみたちの生と死を分けるだろう』」
    ──だが、かれは結局前者しか教えなかった。
    ウォーロックは「ああ、でも、やっぱりきみの言う通りだな」と続けた。
    「引き続き昔話をしても?」
    「どうぞ、sir」
    「当時の中将が、マーヴェリックに対して、どのように任務を達成するかを教えるよう言った。かれはすかさずこう付け加えた。『それから、どのように生きて帰るかも』だとさ」
    ブラッドリーは前にもこういう話を聞いたな、と思った。かれが趣味みたいにどの執政室でも会議室でも繰り広げていることなのだ。どこからでも耳に挟む。
    「中将は、しばらくなにも言えない様子だったが、かれをさとした」
    ──どんな任務にも『それ』は付きものだ。かれらは『それ』をわかっている。
    中将の表現は的確で、理性的で、優しかった。任務と生とのあいだにひそむ底なしの矛盾を、明るみに出さないやり方だった。
    「"I don't, sir."」
    ウォーロックの声に、ブラッドリーはグラスを握りしめてらしくもなく泣きそうになる。
    「『わたしはわかっていません』と、マーヴェリックは、そう言った。そう言ったんだよ、ブラッドショー」
    2019年10月の前までで、戦闘機乗りとしてのブラッドリーが学んできたのは次のようなことであった。空の上でもつことの許される目標はただひとつに限られ、選択肢はすなわち任務か、生かである。だれも直接言及こそしなかったが、選ばれるべきは任務で、選ばれないべきは生であった。戦闘機乗りのだれもがわかっていながら口にしなかった問いについて、57歳の教官として立ち現れたマーヴェリックは、どちらの選択肢をも口にして、どちらもを選んだ。
    ──かれらは、任務をやって、生きて帰る。そのやりかたを、おれが教える。
    単純だ。呆れるほど単純で、融通が利かず、頑固だ。
    「最後に、ふたつ質問をしても?」ブラッドリーは時計を一瞥して、そう言った。
    「どうぞ」
    「あなたは、ベッドメイキングに自信はありますか?」
    「ない軍人はいないだろう。あの小さな秩序を維持できない人に、ここでできることはない」
    「なるほど。では、マーヴェリックは、ベッドメイキングがうまいと思いますか?」
    「見たことはないが、もちろんだ」ウォーロックは笑った。「かれこそ、あの小さな秩序に最も誇りをもっている軍人のうちのひとりだろうね」

    目が覚めて、暗いホテルの一室にはカーテンがはためく音だけがしていた。11歳のブラッドリーは起き上がり、ベッドサイドに置いてあった水を飲む。グラスがすこし生臭かった。寝たおかげで、体調はすっかり良くなっていた。
    隣のベッドを見ると、そこには静寂があった。棺のように張り詰めた白い四角。集団生活のブロックのひとつのように、あるいはエンジンの部品のように、そこにある秩序。
    ブラッドリーは途端に勢いよく床に降りて、窓まで走り寄った。ベランダに出て、下を覗きこむ。夕焼けを眺めながら寝そべっている観光客が数人いた。ブラッドリーは耳から飛び出そうな心音を感じながら、サンダルを突っかけて、キャップを被ると部屋の外に出た。
    ホテルのそこかしこから声がする。夏は終わりかけていて、滞在中しょっちゅう見かけていたカップルや家族のうち、帰ってしまったのか消えた人びともいた。
    ブラッドリーはキャップを何度も被り直しながら、エレベーターに乗りこむ。中には若い女性が乗っていた。彼女はブラッドリーを見て、微笑む。彼女はブラッドリーたちと同じ日にこのホテルに来たカップルのうちのひとりだった。彼氏は赤毛で、ばかげた青いサンダルを履いている。見知った顔に安心して、ブラッドリーは壁に寄りかかる。1階のボタンが押され、扉が閉まる。
    彼女は一日中観光をしたのか、くたびれていた。腕を組んで、ブラッドリーと反対の方の壁に寄りかかっていた。
    しばらくして、ガタン、と大きな音がし、エレベーターが止まった。ブラッドリーは1階についたのかと思い、出ようとしたが、扉が開かない。表示を見ると、この箱はまだ途中にいるようだった。
    彼女はブラッドリーの肩を落ち着かせるように軽く叩き、すべての階のボタンを押した。
    「大丈夫。停電とかだよ」
    ブラッドリーは無言で何度も頷いた。彼女はぼうっと立っていたが、やがて「カメラもってきた?」と訊いた。ブラッドリーは首を振った。マーヴェリックがもってきたカメラは、壊れていて使えなかったのだ。かれは最初の数日ずっと、それをひどく残念がっていた。
    彼女は「かれも忘れちゃったんだよ」と言った。「写真やビデオなんて、旅先で撮るものなのにね」
    マーヴェリックは、なんてことない夕食のときにもカメラをよく回していたが、ブラッドリーは結局頷いた。
    しばらくして、エレベーターは動き出し、扉が開いた。1階だった。ホテルの係員が寄ってくるよりはやく、マーヴェリックが飛んできて、ブラッドリーの腕を掴んだ。ものすごい形相だった。
    「マーヴ、いたい」
    かれをフロントの前まで引っ張ってきたマーヴェリックは、お構いなしにブラッドリーの腕に指を食い込ませ、顔を覗きこみ、怒った声で「心配したんだ」と言った。
    「なんでひとりで部屋を出たんだ、体調は大丈夫なのか、どうして寝ていなかったんだ、なぜ部屋にいなかった」マーヴェリックは言った。ぼくが帰ったら、きみはいなかった。
    「ぼくがフロントに行って、ディナーを優しいメニューにしてもらえるか相談して、帰ってきたら、きみはいなかった。ドアが開いてた。窓が開いてた。ブラッド。きみはいなかった!」
    「窓はマーヴが開けたんだ」
    そこでようやく我に帰ったのか、マーヴェリックは目を伏せて、「──きみをひとりにしてわるかった」と囁いた。ブラッドリーはマーヴェリックの背中に手を回した。エレベーターの緊急停止の原因は、火災報知器の誤作動とのことだった。その晩、ふたりはアイスクリームをサービスしてもらった。

    出発の朝、ホテルの外に地元の警察がきていた。
    マーヴェリックはチェックアウトの手続きをしていて、ブラッドリーはそのあいだに人混みのできている部屋まで行った。ふたりが泊まっていた階のひとつ下で、警察とホテルの係員が野次馬を散らしていた。
    閉ざされた部屋のなかから警察官がひとり出てきたタイミングで、ブラッドリーはしゃがみ、大人の足の間からそれを見た。
    男がベッドの上で血を流して死んでいた。その男は赤毛で、ばかげた青いサンダルを履いていた。横に立っていた女性が、ブラッドリーにビデオカメラをくれた。顔をあげると、もうその人はいなくて、ブラッドリーはホテルの係員に追い払われた。

    マーヴェリックは、このビデオカメラをどうしたのかとブラッドリーに訊いた。ホテルに泊まってる人にもらったんだとブラッドリーは言った。マーヴェリックは中身を点検して、型は古いが映像がなにも撮られていないことを確認すると、ブラッドリーに向かってそれを回した。
    サングラスをつけたマーヴェリックは白い歯を見せて嘘みたいに笑う。
    「かわいいブラッド、ほら、なにか言ってくれ!」
    ブラッドリーは「ビール無料!」と駅内の看板や広告を読み上げる。「よりよい明日に!喜び・健康・仕事のための旅!愛してるテキサス!」

    モハーヴェ砂漠で目覚めた朝、ブラッドリーは悪夢でかいた嫌な汗にじっとり濡れながら、起き抜けに横を見る。そこには決まってきちんと畳まれたブランケット、シワのない簡易ベッド、なにも訴えない静寂。
    キッチンでは、朝食のコーヒーとソーセージのための湯を沸かすあいだ、マーヴェリックは『I LOVE YOU』だけを切り抜いた11歳のブラッドリーの動画を見る。その映像はとっくにかれのスマートフォンに移行され、9:16の画面のなかで、11歳のブラッドリーは気だるげに、照れ隠しに大声で、叫んでいる。
    『I LOVE YOU!』
    40歳のブラッドリーにからかわれても、マーヴェリックはそれを見るのをやめない。
    陸にいるかれは、昔に覚えたたったひとつのやりかたを反復するだけの、不器用で、融通の利かない男だった。目の前の上官の指令より、それ以前に咀嚼して自分の肌に馴染んだ慣例を優先した。かれはそういう男で、ブラッドリーは時折、11歳のあの日、マーヴェリックがかれの腕を掴んだ力の強さを思いだす。じぶんはこうも歳をとったのに、かれはまるであのときのままみたいだった。
    11歳のブラッドリーがしゃがみ、ホテルの部屋の扉がうすく開き、大人の足の間から見た死体は、赤毛だった。そうではない可能性を頭から振り払い、ルースターはキッチンへと足を踏み込む。マーヴェリックは振り返る。その瞳の色はどこまでも透き通っていて、世界にはこの砂漠の小さな格納庫しかないかのような気だるい明るさだった。

    death of the stranger
    半順序星人 Link Message Mute
    2023/06/17 20:54:57

    客死

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    #TGM #ルスマヴェ
    夏休みにふたり旅行に行ったときの思い出が灼けついているルマ 某映画に触発されましたが跡形もないです タイトルの通りになるモブが出ます

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