キスがしたい退治人VSウェルカムな吸血鬼 もうそろそろ日付が変わろうかという時分、その日一日落ち着きのなかった退治人・ロナルドは、同居人の吸血鬼・ドラルクにテンション高く話しかけた。
「へい、そこのクソ砂さん」
「何かねゴリ造くん」
「ゲームしようぜ」
日課の周回に勤しんでいたドラルクは、ロナルドの言葉にスマホから顔を上げその顔をまじまじと見返した。
「ゲーム?君が私に?勝てもしないのに?」
ドラルクの言葉に口元を引きつらせながら、ロナルドは懐から赤い箱を出してきた。
「おうおう、言ってくれんじゃねぇか。だがなあ、これならぜってぇ負けねぇ自信があるぜ!何故ならお前は食べ進められないからな!俺の不戦勝だ!!」
それを見て、ドラルクはこれ見よがしに溜息を吐く。
スマホをソファに投げ出し、小首を傾げて下からロナルドを上目遣いで覗き込むと、自身の唇を指でなぞりながら微笑みかけた。
「ああ、そうきたかぁ。…ふ~ん…ふふっ、いや、キスしたいならしたいって普通に言いなよ。別に私はいつしてくれても構わないよ?」
「待ってやめてタイム。いきなりそんなエッチな事言うなや。殺すぞ」
「だから殺してから言うな!」
照れ隠しの拳に殺されたドラルクはナスナスと復活しながら憮然として文句をつける。
それを無視してロナルドは、いそいそとお菓子を箱から取り出し、ドラルクに突き付けた。
「いいから、ほら、やんぞ………ポポポポポポッキゲム」
「八尺様かな?というか、意識するあまりに名詞すら言えなくなるなんて流石に憐れに思えてきた」
「おら!いいから咥えやがれ下さい!」
「やだぁエッチぃ♡咥えろな・ん・て♡」
「ンッホァアバッテメ砂ンッハボアアァァ!!」
言葉尻を捉えて揶揄ってきたドラルクにロナルドの顔が真っ赤に染まる。そして両手を振り回しながら弁明してきた。
「ちち違う!違う!今のは違う!いや、そや、いつかは……うわあああああぁ!!今の無し!無し!無し!!」
うっかり墓穴を掘ったロナルドは、耐え切れず、窓から飛び出していった。
「オモロ!アーハッハッハッハッハッ!ヒョーッホッホッホッ!」
割れたガラスの隙間から吹き込んでくる秋風に、寒暖差で砂になりながらも、ドラルクはひたすら笑っていたのだった。
完