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    くるくるバースデー 十一月二十七日 新横浜市鶴見川河川岸──そこに下等吸血鬼が大量発生しているとの通報を受け、吸血鬼退治人及び吸血鬼対策課の面々が集まる。
     人海戦術により、下等吸血鬼は無事全て退治され、集まった者達はそれぞれの帰路についていた。

    (ヤバいヤバいヤバい!)

     その中の一人であったロナルドは今、焦燥感に満ち満ちた顔で、新横浜の街を駆け抜けていた。
     目指しているのは某宝石店。予約していた商品を今日中に受け取らんが為だ。
     本来であれば三日も前に手に入れていた筈のそれを、ギリギリの間際になってしまったのは、単純に不運が重なってしまったからだった。
    ◇◆◇

    デンワワワ、デンワワワ♪

     夕方近くになって鳴り響いた事務所の電話に、ロナルドは書類から顔を上げた。
     いつもの様な退治依頼であろうと気負うことなく名乗ったロナルドは、その相手の名に飛び上がって驚く。
     咄嗟に自宅ドアの方を見、次いで窓の外を確認して、同居人がまだ起きてこられないを確信したロナルドは、それでも出来るだけ声を潜めて応答した。

    「すみません、ちょっと驚いてしまって。それでえっと、ご用件は何でしょうか?」
    『いえいえ。こちら、先日御予約頂いた商品が入荷致しましたので、そのご連絡です。本日より二週間以内、お客様の御都合の宜しい日に受け取りに入らして下さい』
    「あっ、あれ届いたんですね!よかった~。あれ、でも俺、連絡先ケータイにしてたと思ったんですが…」
    『それがですね、最初は携帯電話の方に掛けたのですが繋がらず、もう一つ書かれておりましたこちらの方に掛けさせて頂きました』
    「えぇっ、マジですか!?す、すみません!確認してみます!お手数お掛けしました…」
    『いえ、どうぞお気になさらずに。それでは御来店お待ちしております。失礼致しました』
    「はい、ありがとうございます。こちらこそ失礼しました」

     恙無く電話を終えたロナルドは、一息つき、傍に置いてあった携帯を手に取った。
     暫く色々と弄ってみた結果、電話機能だけがおかしくなっている事を突き止める。

    「うっわマジかよ最悪。店行って修理出さねーと…」

     そのついでにプレゼントも受け取って来ようと椅子から立ち上がる。それを見計らったかの様に、事務所のドアが勢いよく開かれた。

    「助けて下さい!吸血鬼が!」

     その言葉にロナルドはメビヤツから帽子を受け取ると外へと飛び出していった。

     結局この日は、思いの外退治に時間が掛かり、携帯ショップに修理依頼をしている内に宝石店の閉店時間になってしまい、受け取れずに終わるロナルドだった。

     次の日、起床したロナルドは早速店に行こうと事務所へと続くドアを開けた。

    「ミ゜ッ!!」

     そこに佇む影に悲鳴を上げる。

    「こんにちは、ロナルドさん。先日お願いしていたコラムの原稿を受け取りに参りました」

     フクマの言葉にダラダラと冷や汗を流すロナルド。その様子にフクマの笑みが深くなる。

    「もしや出来ていないのですか?」
    「すすすすすすすみまさんいいいい今すぐかか書き上げます書き上げるので三時間程時間を下さいお願いします」

     ノンブレスで言い募るロナルドにフクマは鷹揚に頷いた。

    「成程、分かりました。ではこちらに」

     側に置いてあったメイデンの扉を開き、ロナルドを促す。
     当然ロナルドは逆らわずその中に入っていくのだった。

    「昨日は散々な目に合ったぜ…」

     三時間で書き上げられなかったロナルドはオータム送りになり、パン粉まみれになりながらも書き上げる事は出来た。が、その帰り道に道行く人にY談波を掛けているY談おじさんを見つけてしまった為、朝まで追いかけっこをする羽目になっていたのだ。
     なので今日、三度目の正直といった具合に漸く宝石店の前まで辿り着けたロナルドはしかし、膝から崩れ落ちていた。

    「て、い…きゅ…び…」

     シャッターの閉まった店に黄昏る事しか出来ないロナルド。
     日が沈み、世間一般的には夕飯になる時間になっても帰ってこないロナルドを心配したジョンが迎えに来るまで、店の前で落ち込んでいたのだった。

    ◇◆◇

     そうして迎えた本日、十一月二十七日。緊急招集が掛かった時にはどうなることかと思ったが、何とか無事に日付が変わる前には終わり店まで取りに行けそうで、ロナルドは心の底から安堵していた。

    (明日、いやあと一時間で誕生日だからな、あいつの)

     先日、同居人から恋人になった吸血鬼の顔を思い浮かべ、知らずロナルドは笑みを浮かべる。
     恋人に喜んで貰う為にも注文品を受け取らねばと、ロナルドは足を早めた。
     もう少しで店の前という所でロナルドの足が止まる。

    「…え…」

     小さく声が零れる。
     お目当ての店の前、そこにはドラルクとジョン、ドラウスが立っていた。しかもドラルクはその店のロゴが描かれた紙バッグを持っているのが見て取れる。

    (あれ、きっと親父さんからのプレゼントだよな…マジか…て事はきっとお高いモノだよな…あの親父さんだし、な…)

     そこまで考えてロナルドは踵を返した。
     家に帰り着いたロナルドは真っ暗な家の中、無言でソファを倒し毛布を被った。

    (無理だ渡せない。対して高くもない安物だし、それに俺なんかが選んだ物なんてどうせセンスが悪いって笑われるだろうさ。それにそれに付き合い始めたからって消耗品からいきなり装飾品とか重たい奴みたいじゃん)

     そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け回る。
     耐えきれず毛布を深く被りその中で丸まるロナルド。そこに賑やかな声が響いてきた。

    「たっだいまー」
    「ヌヌイヌー」
    「おや、若造はまだ帰ってきてないのか」
    「ヌェッ!」
    「どうしたの、ジョン?って、えっ!?どうした若造、どこか具合でも悪いの?」
    「ヌヌヌヌヌン、ヌイヌーヌ?」

     慌てて駆け寄るドラルクとジョンにロナルドは努めて無反応を敷いた。
     その様子にドラルクは困って何か理由を知らないかと、ドアの所にいるキンデメに目を向ける。

    「ぐぶ…其奴なら帰ってくるなりその有り様だぞ」
    「そうなの?」
    「何があったのかは知らんが、我輩の見た所、具合が悪いのではなく不貞腐れている様に見て取れたな」
    「なーんだ、そっかぁ。こら若造、五歳児くん?何があったんでちゅかぁ?ちゃぁんとお喋りできるかなー?」
    「………」
    「ヌー」

     いつもの様にドラルクが煽るがロナルドはノッてこない。主従は顔を見合わせて眉を潜めた。

    「一先ず今はそっとして置いてやれ」
    「そうですよ、師匠。ロナルドさんにだってプライバシーはあるですから。話したくなったら話してくれますよ」

     キンデメと死のゲームに諭され、主従は揃って溜め息をついてソファから離れた。

    「分かったよ。さて、ジョン。お腹が空いているだろう?何か作ろうね」
    「ヌン…」
    「若造の分は…お握りでいいか。さて、お味噌汁の具は何がいい?」
    「ヌー…ヌヌイヌ」
    「うん、ではとびきり美味しいお味噌汁を作ってしんぜよう!」

     殊更明るく振る舞う主従の声を聞きながらも、ロナルドはキツく瞼を閉じて自分の殻に閉じ籠るのだった。

    ◇◆◇

     落ちる様な感覚に襲われて、ロナルドは目を開いた。
     恐る恐る毛布の陰から周囲を伺うが、冷蔵庫の駆動音と酸素ポンプの音以外、人が動く気配もなかった。
     思いきって毛布を剥ぎ取り起き上がるが、ジョンもドラルクと棺桶の中で寝ている様でその姿は無かった。
     ロナルドはそれに安堵の息を吐き、誚然としたまま、水を飲みにキッチンに向かう。
    するとテーブルの上にお握りが乗った皿とメモが置かれている事に気が付いた。
     そこには温める際の注意事項やこちらを心配する言葉が書かれていて、申し訳なさにロナルドは益々落ち込む。

    (今日はあいつの誕生日だっていうのに俺は自分の事ばかり…俺は落ちないシミ…壊れた家電…)

     モソモソと温めもしないでお握りを頬張りながらロナルドは決意した。

    (あいつが起きたら謝っておめでとうって言ってプレゼントを…何か違うの買ってきて渡そう。あっちはキャンセルしよう。もしかしたら親父さんが似たようなやつでもっといいの買ってるかもだし。被ったらヤだろうし)

    「起きたんだね、ロナルドくん」
    「ふぎゃっ!?」

     考えに没頭していたロナルドは不意に声を掛けられ驚く。
     俯いていた顔を上げると、棺桶から顔を覗かせているドラルクと目が合った。
     まだ昼だというのに起きてきたドラルクにロナルドは狼狽える。

    「ふふっ、そんなに口をパクパクさせて。肺呼吸の仕方を忘れたの?」
    「うううるせーこれはあの、あれだ。キンデメのモノマネだ。っつーかお前まだ昼間だぞ、寝てなくていいのかよ」
    「気になってよく寝られなくてね。それで、五歳児くんは何があったのかな?誰かに何か酷い事でも言われたのかな?」

     顔は笑っているが、その中に心配の色が滲んでいる事に気が付き、ロナルドは胸が締め付けられる思いに駆られた。
     勝手にから回って落ち込んで、八つ当たりみたい不貞腐れて丸まっていた、そんなロナルドを、それでも思いやってくれるドラルクにロナルドの瞳から涙が溢れる。

    「ドラルク…俺…俺…ごめん。お前、誕生日なのに、ちゃんと祝えてない…。プレゼントも結局買えてないし…てか俺の選んだのなんてお前の趣味じゃないだろうし…俺なんかじゃ」
    「ロナルドくん」

     不意に冷たい声で名前を呼ばれてロナルドの呼吸は一瞬止まった。

    「なんか、って何。その後何て続けるの?いいかい、君は私が選んだ私の愛しい恋人だ。それを貶める事はたとえ君自身であっても許さない」
    「あ…え…」
    「それと、前々から言ってると思うけど、私は病気以外なら何でも頂くよ。ましてや君からのプレゼント?そんなの、どんなダサい物だろうがくだらない物だろうが、そりゃあもう大喜びで受け取らせて頂くさ。だって君が私を想って選んでくれた物なんだからね」

     心底から思っている事が伝わってくるドラルクの言葉に、ロナルドは涙が止まらなくなる。
     鼻水まで流すロナルドにドラルクは苦笑して棺桶から抜け出した。

    「所でロナルドくん」
    「どらごう゛…」
    「肝心の言葉をまだ貰ってないんだけどなぁ?」

     ロナルドの向かいに座り、悪戯じみた笑いを浮かべながら問い掛けてくるドラルクに、ロナルドは泣きながら笑った。

    「ハッピーバースデードラルク!好き!!」

     勢い余って告白まで叫ぶロナルドにドラルクは爆笑する。
     何だか可笑しくて二人で笑い合っていると、その声に起こされたジョンも合流する。

    「ねえ、もうしちゃおっか、ドラドラちゃん生誕祭」
    「昼間から?」
    「昼間から」
    「にっぴきで?」
    「にっぴきで!」
    「ヌンヌーイ!」

     ジョンの諸手を上げての賛成でドラルクの誕生日パーティーが始まる。

     昼間から始まったパーティーは事務所を臨時休業した事もあって、一晩中続いた。

     夕方になると、起きてきたデメキンに死のゲーム、呼ばれたメビヤツも加わり。
     更に床下から現れたヒナイチ、窓から半田が乱入して来たり。
     止めには騒ぎを聞き付けてきた吸血鬼達も入り交じっての乱痴気騒ぎだ。

     途中、プレゼントをまだ渡してない事を囃し立てられたロナルドが受け取りに爆走したと思ったら薔薇の花束まで抱えて帰ってきた事にドラルクが爆笑死したり、プレゼントがロナルドの瞳の色の宝石だと周囲にからかわれたロナルドが照れ隠しにドラルクを殺したりする場面があったりと。
     
     そうしていつもの様に楽しく陽気に終わるのだった。


       完



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    2023/01/05 20:28:49

    くるくるバースデー

    #ロナドラ

    ドラルク誕生日話

    初出:pixiv 2022/11/30

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