兄と弟母が去ってしばらくしてから、父が新しい母親と兄を連れてきた。
利発そうな少年だった。
俺の一つ上にあたり、名を一志と言った。
一志は優秀だった。正妻と別れてでも手に入れたかった息子なのだから
当たり前だろう。
一志は期待され期待に応えた。
…俺を守るように。
俺は怪異に既に憑かれていたし、一志は異能者だった。
俺らは秘密を共有し共同戦線をはることにした。
あんな親でも居なくなれば暮らして行くにはまだ俺らは子供過ぎた。
まず、親の注意を一志に向かせることから始めた。
俺の怪異は危ない。
言葉を容易く奪ってしまう。
一志は普通に生活する分には訳なかった。
俺は影のように生きた。
俺の母が居なくなった時と変わらずに…。
いや、変わったことが一つある。
一志だ。
一志は色々な事を教えてくれた。
要領よく生きられるように、必要以上に苦しまないように。
二人の誕生日は何と同じ日だった。
最初は驚いたが、いつしかお互いの好物を交換するようになった。
一志はプリン。
そんな庶民の食べ物なんか食べるな!
と止められていたが一度食べた味が忘れられず好物になってたと
笑ながら言っていた。
俺はチーズケーキ。
母親が最後に作ってくれた菓子だ。
女々しいかもしれないがコレだけは、かろうじて今でも好物なんだ。
そんな二人だけの誕生日。
大学だけは出とけと最後の要求をしてきた親に交換条件として、
一人暮らしを始めさせてもらった。
一志とはコレでお別れかと内心淋しく思っていた。
だが、一志は離れていかなかった。
「たった二人の兄弟だろ」と、言って笑った顔は今でも忘れられない。
「ばっかだなぁ…」俺も久しぶりに笑った気がする。
「知ってるよ」
さぁ、そんな日にはプリンとチーズケーキでも食べるとしようか。
Kinoko