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    二人はいつまでも幸せに暮らしました。 師匠に弟子入りして、もうすぐで三年になる。西の国の首都で仕立て屋を営んでいる師匠は、ぱっと見た感じでは俺と同じくらいの青年に見える。しかし、もう二百年は生きているのだと、弟子入りしたての頃に教えてくれた。道理で流行の歴史に詳しい訳だ。実際に見てきたのだから。
    「この柄、懐かしいな。百年くらい前にすごく流行ってね。今はこういうレトロなのが流行りなんだよね。懐古主義っていうのかな」
     そう言って、仕入れた布を作業台に広げる。セピア色がかった赤いその布をじっと見て、目を細めて笑う。
    「この色、シャイロックがよく着ていたんだ。懐かしい」
     その笑顔がどこか切ない物に見えて、俺はいつも、なんと言ったら良いのか悩んでしまう。そうやって黙っていると、師匠はぱっと笑って、ごめんね、じゃあ始めようかと言った。
     師匠の話にたまに出てくる名前は自然と覚えてしまった。シャイロック、はシャイロック・ベネット。西の国の賢者の魔法使い。昔、月は<大いなる厄災>と呼ばれていて、年に一度地上に降ってきたらしい。そしてそれを迎撃し、永遠に退けた英雄たちの名前だった。今でもその日にはお祭りをして、賢者の魔法使いの栄誉を讃えるのだ。学校の授業で暗記させられたその名前が、まさかこうまで身近に聞くとは思わなかったけれど。
    「ムルによくボタンを選んでもらったりしたんだよ。キラキラしたものが好きだからって、すっごい派手にしたりね。皆格好良かったから、モデルとして最高だったんだ」
     ムル、はムル・ハート。天才学者で賢者の魔法使い。歴史のテストで一度は名前が出てくる偉人。彼の発明した魔法科学は、時代の流れと共に『非人道的』という事で廃れてしまった。しかし、彼の発見や発明が今の科学の礎を築いたと言っても過言では無い程の人物。師匠の話を聞いている限りだと、ただちょっと変わっているけど可愛い人、だけれど。
     師匠は賢者の魔法使いだったらしい。暗記をした名前の一つであるクロエ・コリンズと、目の前にいる良く笑い良く喋る魔法使いの名が同じである事を知っていても、本当に同じ人物なのか信じられない思いだった。師匠が語る賢者の魔法使いとしての生活は、ただ楽しいものばかりで、まるで学生時代の思い出を聞いているかのようだった。そう言ったら、あの生活は俺の青春だからね、とちょっと眉を下げて笑った。
     その縁でか、師匠の腕が確かだからか、恐らく両方の理由で、小さな仕立て屋だけれど中央の国の王家や、東の国の貴族と取引がある。小さい店ながらに繁盛している。店主の気さくな笑顔と、確かなセンスと腕は昔からの物のようだ。昔は魔法使いに対する偏見もあったようだけれど、今はほとんど無くなっているから、この店が流行らない訳がないのだ。
     今日だって常連さんが、子供の結婚式に着るスーツを取りに来て、裾直しをしながらわいわいと話していった。その人が帰った後にやってきたのは、明かに住む世界が違うであろう気品を持った人だった。
    「アーサー! 久しぶり!」
    「クロエ、久しぶりだな。変わりはないか?」
    「うん、いつも通りだよ。あっ、頼まれてたスーツ出来てるから着てみてよ!」
     そして師匠は、俺にそのスーツを持って来させた。師匠が生地から指示をして自ら縫い上げたそのスーツは、その客にぴったりと合っていた。スーツではあるけれど、フォーマル過ぎないシルエットとデザインは流石だと思う。普段着用のスーツなんだって、と師匠は嬉しそうに言っていた。アーサー、と呼ばれて、今も親しげに師匠と話しているその客は、アーサー・グランヴェル。中央の国の、今は上皇の地位に居る人だ。要は、こんな所に居るなど、まして俺となんて話すなど、考えられない人だった。
     落ち着いた振る舞いはしているけれど、その頬は甘い丸みを残している。澄んだ青い瞳は理知的で、気品にあふれていて、住む世界の違いをまざまざと見せつけられた。何度対面しても慣れない、と思う。
     どう見たって二十歳そこそこの青年である彼も、賢者の魔法使いだったのだという。<大いなる厄災>を退けた後、中央の国の国王となり、長い間善政を持って国を治めた。しかし、権力争いで負けて国王の地位を退いて、今は彼の息子の娘の息子の息子の娘あたりが国を治めているのだという。
    「そういえばオズは元気?」
    「オズ様は今も達者でいらっしゃる。この前は二人でピクニックに行った」
    「ええっ、良いなぁ、俺も行きたかった」
    「クロエも今度誘うよ。ルチルも誘おう。カインも連れて、レノックスの山に行くのはどうだろう?」
    「良いね! ヒースとシノは来るの難しいかな?」
    「どうだろうか……今は東の国との外交が難しい時期だからな……」
     第一線から退いたとはいえ、さすがに身の振る舞いには気をつけているらしい。しかし、誘えないという事に気付いて肩を落とす姿は見た目の年齢そのままの姿で、どこか愛らしさすら感じさせた。こんな所が、中央の国の人たちに長く支持されてきた理由なのかもしれない。
     アーサーはそれから、師匠と何か日取りの相談をして帰っていった。スーツはお気に召したらしい。帰ったらすぐにカインに見せるのだと、嬉しそうに笑っていた。

     最後の戦いは苛烈を極めたらしい。師匠は賢者の魔法使いだった友人たちとの楽しい思い出は語りたがるけれど、戦いの記憶はあまり喋らない。何人もの魔法使いが石になったそうだ。よく話に出るシャイロックと、ムルも。師匠曰く、「綺麗で格好良かった二人に似合わない悲惨な最後だった」とのことで、俺は聞くのをやめた。何百年も前の事のはずなのに、師匠は真っ青な顔をしていたから。
     賢者の魔法使いだったひとはもう一人いるはずだった。そのひとの事をたずねると、師匠は泣いているような、笑っているような、不思議な顔をした。
    「ああ、ラスティカね。俺の魔法の師匠だよ。君もそのうち会える」
     そう言って眉を下げる。そして、本当に会えたのはその問いからそう遠く無い日の事だった。
     いつものように店番をしていると、ドアベルの音が来店を告げた。返事をして出ていくと、トランクを持った上品な紳士が立っていた。そして俺を見るなり首を傾げる。
    「おや、ここはクロエの店じゃなかったかな?」
    「いえ、師匠は今奥で作業してて……何かご用ですか?」
    「ああ、君はクロエの弟子か。では僕の孫弟子という事になるんだね。初めまして、僕はラスティカ。クロエの師匠です。ラスティカが戻ってきたと、クロエに伝えてくれるかな?」
     そう言って、優雅ににっこりと笑う。アーサー殿下とはまた違う種類の気品で、俺は圧倒されてしまった。逃げるように慌てて師匠を呼びに行くと、師匠は作業を放り出して飛び出した。そしてラスティカを見るなり飛びついた。
    「ラスティカっ! おかえり! どこも怪我してない? 元気だった? ああボタンが取れているじゃない! 直してあげるからそのジャケット脱いで!」
    「はは、クロエはせっかちだなぁ」
    「ラスティカがのんびりなんだよ」
    「そうかもしれないね。ああ、クロエ。順番が違ってしまったけど」
     そう言ってラスティカは師匠の頬を手で包み込んだ。そして、蕩けるように微笑む。
    「クロエ、ただいま」
     そして師匠の唇に軽くキスを落とす。師匠は見た事のないような幸せそうな笑顔を浮かべていて、一瞬で関係を察してしまった。固まる俺を師匠はラスティカに紹介して、ラスティカの荷物を持ってさっさと奥に向かってしまう。ラスティカは鷹揚に笑って、師匠の後をついて行った。俺も慌ててついていく。店の奥と二階は住居になっていて、俺もここに住み込みをさせてもらっている。作業に没頭すると寝食が疎かになる師匠の世話を焼きながら、裁縫の事を教えてもらう。衣装について語っている師匠の笑顔は輝いていて、俺はその笑顔が大好きだった。
     ラスティカはこの家にしばらく滞在するらしい。物置だと思っていた開かずの部屋はラスティカのために設けられた部屋で、その部屋を師匠は魔法を使って一瞬で綺麗にした。礼を言って、ラスティカは部屋でくつろぎ始める。師匠はラスティカと一時も離れたくないようで、俺に店を閉めるように言いつけた。こんな事は今まで一度も無かったのに、だ。あの部屋に絶対に入らないように言われた俺は、店の片付けと掃除をしながらあの二人について考えていた。
     師弟というより恋人のようだった。どういった事情でどこかに行っていたのかはわからないけれど、もしかしたら仕事か何かなのかもしれない。師匠は普段顔には出さなかったけれど、本当はラスティカに会いたくて仕方が無かったのだろう。広くはないこの家にわざわざ部屋を設けている時点で、ラスティカが師匠にとって大切なひとだという事は明白だった。
     彼はいつまでここに居るんだろう。ずっと居るんだろうか。そうしたら、この店は閉まったままになるんじゃないだろうか。それは困るし、俺も師匠に教えてもらえなくなるのはもっと困る。これが一日だけなら良いけれど、と俺は思った。
     結論から言って、師匠は次の日から店を開けた。ラスティカは昼ごろ起きてきて、朝食を摂った後はのんびりと過ごしているらしい。毎日の生活が戻ってきた事に俺はほっとして、日々の仕事に精を出す事にした。
     それからの暮らしは穏やかな物だった。師匠は毎晩ラスティカの部屋でいつまでも語らっているらしいけれど、変化があった事と言ったらそれだけだった。あとは、俺は三人分の食事を用意するようになったことと、食卓で共に飯を食うひとが一人増えた事だった。
     ラスティカの物を食べる所作は美しく、俺の作った食事も一流のシェフが作ったもののように優美な仕草で食べてくれた。そして食後には必ず、美味しかったと褒めてくれる。悪い気はしなかった。
     師匠はラスティカと話している時、子供のような顔をする。今が嬉しくてたまらないと全身で表しているようで、俺は少しだけ心のどこかで黒いものが渦巻いた。師匠とラスティカがただならぬ関係だという事はわかっていたし、そもそも魔法を教わった師匠であり、百年以上も一緒にいたのだと思えば仕方がないという気持ちもある。しかし、俺だって弟子入りしてから毎日師匠の身の回りの世話をしているのだ。裁縫も教わって、飲み込みが早い、センスが良いと褒められた。そもそも師匠の作る服に心酔して弟子入りを頼み込み、人柄に触れて更に好きになった。子供っぽいと言われればそうかもしれないが、師匠を取られてしまったようで気に食わなかった。

     そうこうしている間に季節がひとつ過ぎた。ラスティカは相変わらずこの店に居て、毎日本を読んだり歌ったり楽器を弾いたり師匠とおしゃべりをしたりしながら過ごしているらしい。彼のいる生活はもうすっかり慣れてしまったが、師匠を独占しているのが気にくわない気持ちは変わらなかった。とはいえ、きつく当たるにはラスティカは善良過ぎて、俺はもやもやしたものを抱えながらも毎日甲斐甲斐しく飯を作っていた。
     そんな生活が終わりを告げたのは、月が綺麗なある夜の事だった。
     昔は<大いなる厄災>と呼ばれたらしいあれも、今はもう美しく夜空を照らすものとして空に輝いていた。一日の仕事を終えて夕食を食べた後。ラスティカは何でもない事のように告げた。
    「また旅に出ようと思うんだ。今度は、南に行ってみようと思う。今度こそ見つかる気がするよ、僕の花嫁」
     そしてにっこりと笑う。至極幸せそうな顔だった。俺はラスティカが再び旅に出ると聞いてほっとした。これでまた、師匠を独占できる。しかし、師匠の顔を見て驚いた。師匠は一瞬だけ目を見開いて、それから明らかに作り笑いとわかる笑顔を作った。
    「そ、っか。次はいつ戻ってくるの?」
    「それはわからないな。花嫁が見つかったら戻って来れないかもしれないし」
    「そう……ねぇ、ラスティカ、戻ってくるって『約束』してよ」
    「それは出来ないな」
     ラスティカはにこにこと微笑んだまま言う。師匠はどんどんひどい顔になっていったが、ラスティカは気付かないのだろうか。腸が煮えくりかえる思いだった。師匠の愛情を独占しておいて、この仕打ちはなんだ。あんまりにも師匠が可哀想ではないか。とうとう師匠は片付けてくるね、と言って開いている皿を持って台所に立ってしまった。俺は慌てて後を追う。シンクに皿を置いて、師匠ははらはらと涙を溢していた。いつも笑っている師匠の泣き顔は見た事が無くて、俺はただ立ち尽くすしかなかった。置いていかれた子供のように、ただひっそりと、肩を震わせて泣いていた。
    「クロエさん、あの」
    「っ、だいじょうぶ、いつも、いつもそうだから、大丈夫、っ、慣れてる、っ、うっ、ぁ」
     それでも涙は溢れてしまうらしい。俺は猛烈に腹が立って、食卓に引き返した。そして呑気に食後の紅茶を飲んでいたラスティカに向かって怒鳴った。
    「なんで旅になんか出るんだ! アンタ、クロエさんの気持ち考えた事あるのかよ!」
     するとラスティカはこちらがおかしなことを言っているとでも言うように不思議そうな顔をした。
    「何故? 僕はクロエと出会う前から花嫁を探す旅をしていて、<大いなる厄災>が片付いたから、また旅を再開しただけだよ」
    「は? なんなんだよそれ、でもアンタら付き合ってるんだろ!?」
    「付き合ってる? ああ、そうだね、クロエは大切な友人で弟子だよ」
    「アンタ弟子と寝るのか!? そもそも花嫁って何だよ! そんな何百年も探して見つからないんならそんなもん居ないんじゃねぇのか!」
     売り言葉に買い言葉、とでもいうような暴言だった。頭に血が上って、口から滑り落ちた文句だった。しかし、その言葉を聞いてラスティカの穏やかな笑みを浮かべた顔が硬直した。手からティーカップが滑り落ちる。ガチャン、と大きな音を立てて割れた。先ほどまで滑らかに動いていた唇が開いて、震えて、息を忘れたように喉がひっと音を立てて、大きくて美しい手で小さな頭を抱えて、ああ、と喘いだ。ただならぬ様子に俺は動揺して一歩も動けなかった。そうしたら、師匠が泣いている頬をそのままにして走ってきて、ラスティカを抱き寄せた。
    「ラスティカ、大丈夫、大丈夫だから、花嫁さんを探しに行くんだろ? ねぇ、いつもみたいに笑って、そうじゃないと、花嫁さんだってラスティカの事を見つけられないよ、ね、ラスティカ」
     必死になって背中をさすって、意識を逸らすためか口付けて、いやいやと頭を振るラスティカに何かを食べさせる。ラスティカは師匠にしがみついて、うまく息が出来ないのかひっひっと短い呼吸を繰り返していた。過呼吸とでも言うのだろうか。自らの言葉が招いた結果に俺はただ見ているだけしか出来なかった。
    「クロエさん……」
     思わず名前を呼ぶと、師匠は俺を睨んだ。見た事のない程に怖い顔で、例えるならばそれは憎しみとでも言うべき顔だった。俺は怯んで一歩下がる。すると、師匠は怒気を孕んだ声で言い放った。
    「今すぐこの部屋から出て行って。良いね」
     その言葉に俺は肯く余裕もなく逃げ出した。自分の部屋のベッドに潜り込んで、毛布を被って震える。気さくで明るい、良い意味であまり魔法使いだと感じさせない師匠の怒りは、長く生きている魔法使いであるだけの重さと息が詰まるほどの悲しみを感じさせた。とんでもない事をしてしまったのかもしれない。そう思って、涙が滲んだ。師匠に嫌われてしまっただろうか。もうここから出て行けと言われるのだろうか。それにしてもラスティカはどうしたのだろうか。恐ろしくて俺はベッドの上で震えることしか出来なかった。


     次の朝、俺は恐る恐る部屋を出て台所に立った。二人はどこにも居なくて、ただ割れたティーカップと昨日の夕食の皿がそのままにされていた。陶器の破片を集め、一まとめにしておく。もしかしたら師匠が魔法で直すかもしれない、と思ったからだった。皿を片付け、朝食を作っていると師匠が顔を出した。その美しいすみれ色の瞳は充血して真っ赤で、首筋に赤い痕が散っていた。気怠げな表情が昨日の夜何をしていたのかを雄弁に物語っていて、俺はずきりと心が痛んだ。二人がそういう関係にある事を知ってはいても、今まで一切そういった痕跡は見せなかったからだ。
    「おはようございます」
    「……おはよう。昨日は、ごめんね。酷い事を言った」
    「い、いえ、俺だって、ラスティカさんに、酷い事を……」
    「うん……大丈夫だよ、ラスティカは昨日の夜の事は覚えてないから。記憶から消しておいた」
     そう言って師匠は、お気に入りのマグカップに水を注ぐ。ただの朝のルーティーンだけれど、いつもよりも怠惰で色っぽく見えて、俺は見てはいけないものを見てしまったような気持ちになった。
    「消したって……」
    「そのままの意味。ラスティカは、ずっと花嫁を探して旅をしていたんだ。俺を拾ってからも、ずっと。賢者の魔法使いになってからは一時休止、って感じだったんだけど」
     そう言って師匠は水を一口飲んだ。その目は俺ではなくて、どこか遠いところを見ていた。どこか、懐かしむような、悔やむような視線だった。
    「あの日、<大いなる厄災>を退けたあの日、ラスティカはおかしくなった。花嫁さんのことになると昔から他の人の言う事なんて聞かなかったけど、その比じゃなくなって……俺が何を言っても聞かなくて、もうずっと旅をするんだって言って。俺がこの店を持つ事になってもラスティカは旅を続けた。たまに帰ってきて、休んで、それからまた旅をするんだ。一人で、ずっと」
     そして師匠はまた泣きそうに顔を歪めた。
    「俺は、ラスティカに幸せになって欲しいよ。花嫁さんが見つかったら、それが一番だと思ってる。でも、花嫁さんはもう亡くなっているんだ、多分。だってそうでしょう、何百年前のひとだと思う? 魔法使いならまだしも、人間だったらもう生きている訳がない。でも、でもね」
     大きく息を吸って、吐き出す。気持ちを落ち着かせるように、師匠は深く息をした。
    「俺はラスティカが好きだから。こうやって、ずっと待ってるんだ。ラスティカが戻ってくるのを」
     自分に言い聞かせるようだった。俺はその愛の形を否定もできなかったけれど、肯定も出来なかった。魔法使いの倫理観はわからない。何百年も、どうしてそうやって生きていける?
    「俺には、わからないです」
     素直にそう言うと、師匠は泣きそうな顔のまま、眉を下げて笑った。
    「わからなくて良いよ。俺とラスティカの事は、俺たちだけがわかってれば良いんだ」
     そしてまた、一筋涙を流す。
    「君が独り立ちしても、この街の人が全員居なくなっても、俺はラスティカを待つんだ。ねぇ、間違ってる? 理解できないかな、でも、これが俺の愛の形だからさ」
     師匠の頰に伝う涙は朝日にきらきらと輝いた。今まで見たどんな美しい宝石よりも、その涙は輝いて、美しく見えた。俺はその魔法使いに何も返す事が出来ないまま、ただ黙って朝食を作り始めた。
     また一日が始まる。師匠と、その恋人の、愛に満ちた美しい一日が。



    夕景 Link Message Mute
    2022/07/17 21:33:03

    二人はいつまでも幸せに暮らしました。

    PIXIVからの再録

    <大いなる厄災>を永遠に退けて二百年後の未来捏造
    終始、クロエの弟子であるモブ(クロエの事を尊敬している)の視点で進みます。
    CPはラスクロでもクロラスでも。「セックスをする関係の二人」というつもりで書きました。している事を示す描写はありますが、性描写そのものはありません。
    倫理観は無いです。(三角関係とかではない)
    明るい話では無いです。

    #まほやくBL
    #クロティカ
    #ティカクロ

    キャラクターが死亡している話題が出ます。

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