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    甘い匂いの話「カイン、少し良いかな」
     ラスティカにそう呼びとめられたのは、西の国へと調査に向かう少し前の事だった。昨日、ニコラスが出入りしていたという将校クラブを調べるにあたり、西の国の魔法使いから西の社交界での礼儀や作法を散々に叩き込まれた。将校クラブが軍人の為のクラブとはいえ、貴族のものと似たようなものなのだという。オズなどはだいぶうんざりした顔をしていた。カインとてその面倒さやもって回った表現に呆れないではなかったが、これも任務だと割り切って覚える事にした。その中でメインの先生役だったのがラスティカだ。彼は普段のおおらかさはそのままに、さりげなく礼を尽くした振る舞いに見せる方法を心得ていて、アーサーは非常に参考になったと言っていた。彼も西の貴族の生まれなだけはあるのだと改めて思う。
    「なんだ?」
     もう朝にハイタッチを済ませたからラスティカがにっこりと微笑んだのが見えた。今日は女の姿で過ごしているラスティカは、クロエお手製であろう上品なドレスを着ていた。深い紺色の光沢のある布地は、おおらかな雰囲気よりは知的な面を際立たせていた。いつものふわふわしたイメージとは違っていて新鮮だった。
    「二人で話がしたいんだけど、良いかな?」
    「もちろん構わないさ。なんの用だ?」
    「ここだと少し。僕の部屋に来てもらっても構わない?」
    「もちろんいいぜ、行こう」
     カインはそう言って歩きだそうとして、はっと思い出す。ラスティカへと振り返り、手を上に向けて差し出して、軽くかがんで視線を合わせ、笑ってみせた。
    「お手をどうぞ」
    「ふふ、ではよろしく」
     そのまま、手をとってエスコートする。散々に叩き込まれたうちの一つで、忘れずに出来て良かったと胸を撫で下ろした。ラスティカから時折、品定めするような視線を感じるが、何かテストでもされているのだろうか。騎士団に所属していた頃も礼儀作法はうるさく言われ、団長になってからは指導する側に回ったものだが、実のところこういう堅苦しいのは苦手としているから内心苦笑した。しかしこれも練習だと気持ちを切り替えた。
     三階のラスティカの部屋に着いて、扉を開ける。少しだけ甘い匂いがして、しかしラスティカが香水着けたり香を炊きしめたりしていることはよくあることだからあまり気に留めなかった。ラスティカはカインにソファに座るよう促し、ラスティカ自身も隣に腰を下ろした。
    「それで、話ってなんだ?」
     二人だけで話がしたいということだから、日誌係としての役割の事か。それとも何か別の事だろうか? カインがそう思っていると、ラスティカは意味深に微笑んでゆっくりと瞬きした。瞼を彩るラメが光って、碧い瞳に吸い込まれそうになる。ラスティカが案外遊び慣れている事、西の国の魔法使いらしくいくらも誘惑の手段を持っていることを思い出した。つまりそういう事だろうか? 要は今、なかなかに際どい状況だ。実際、瞬きしただけで思わずくらりと来てしまいそうになった。柔らかな身体の感触も知っているだけに、尚更。しかしそれも失礼な話だと、カインは無理矢理頭を切り替えてラスティカに向き直った。
     しかし、ラスティカがそのつやつやとしたピンク色の唇で語りだしたのは、誘惑の言葉ではなかった。
    「君たちは、将校クラブに調査に向かう訳だけれど。西の国の社交界の、本領は夜だ。夜な夜な秘密は囁かれ、重要な情報が飛び交う。そういう場に出て行くのは君だろう? 見目良く、明朗で、年若く、健康的な肉体と、同時に刃物のような鋭さを持ち合わせている君は、きっと皆の注目を一身に集めるだろうね。ご婦人も、紳士も、君に目を奪われる」
     何の話だろう。警告だろうかとカインは思う。騎士団にいた頃から身の振る舞いには十分気を付けているというのに、今更何をとも。
    「それがどうかしたのか?」
     そういえばラスティカはカインの手に手を重ねてきた。それをさり気なくいなすのは上手くできていたと思いたい。ラスティカはくすりと笑った。
    「西の国の貴族は、使えるものは何でも使う。友人も、家族も、自分の身体すら。だからね、カイン」
     ラスティカの笑顔がやたらと色っぽくて、これはまずいと思う。確実にラスティカに試されている。忠告ではなく試験だったのか。さり気なく出口に目をやると、視線の先にラスティカは、割り込んできた。誰もが見惚れるような、色っぽくて無邪気で美しい笑顔で、ラスティカはカインに授業をする。
    「閨に持ち込まれては絶対にいけない。誰かと二人きりになってもいけない。君のような坊やは、親切心ごと骨の髄まで利用されてしまうよ」
     その言葉に少しむっとする。もう大人と言える年齢なのに、それをからかわれたことを思い出した。
    「俺は大人だ」
     しかし四百歳も年上の魔法使いに敵うわけがない。ラスティカがカインの頬に触れようとしたので制止する。ラスティカは更に笑みを深くした。
    「ふふ、可愛い。君より年下のあどけなくみえる少女ですら、生まれた時から西の国で磨かれているんだ。どういうことかわかるだろう?」
     その瞬間ふっと甘い香りがして少し意識が遠くなる。気付いたらソファに押し倒されていた。そして、ろくな抵抗も出来ず、ラスティカにまたがられていた。柔らかな太ももの温みを普段着のスラックス越しに感じた。
    「既成事実などいくらでも作れる。元とはいえ中央の国の騎士団長で、アーサー様の忠臣が、西の国の貴族と繋がったとあっては、どうなるかわかったものではないだろう? 噂は瞬く間に広がるよ。盛大に尾ひれをつけてね。それで立場を悪くするのは誰?」
     ラスティカは小首を傾げて笑う。小さく腰を揺すって、股の間で性器を擦られる。う、と小さく呻いて、カインは両手を上げた。
    「降参だ。ラスティカ、つまり俺に最大限警戒しろと言いたいんだな?」
    「うん、そういう事。アーサー様やオズ様、リケの分まで気を配るのは並大抵ではないだろうけど」
    「オズまで?」
    「オズ様の御髪が盗られるようなことがあったら大変だからね。リケやアーサー様も食べられてしまうかも」
    「それは困る」
     そんな会話をしながらも、ラスティカは指でカインの身体をなぞった。厚めのシャツ越しだとしても、否応なしに身体を重ねた時のことを思い出して困る。反応だってしてしまっている。だから押しのけようとしたのに、不自然に身体が起こせない。いつもならいくら身長が然程変わらないとはいえ、細身のラスティカを押しのけられない訳がないのだ。あまつさえ今は女の姿で、普段より幾分も軽いはずだ。流石に焦り始めた。
    「ラスティカ、どいてくれないか」
    「何故?」
    「まだ昼だ」
    「昼間でも警戒は怠らない方がいいよ」
    「わかった、わかったから」
    「何がわかったの?」
    「ラスティカ、何がしたいんだ。セックスしたいなら夜にしてくれ」
    「ふふ、君をからかうのが楽しくて」
    「勘弁してくれ……」
     そう言うとラスティカは満足げに笑って、テーブルの上の小瓶を魔法で引き寄せた。
    「これはよく使われる誘惑の効果のある香水だよ。匂いを覚えておけば避けられるから、アーサー様やリケにも教えてあげて」
    「この匂いを嗅いだら逃げろって?」
    「そう。こういう事は繊細な事だから、歳が近い君からのほうが良いかなと思って」
    「わかった。使わせてもらうよ」
     そう言えば、ラスティカはやっとカインの上から退いた。スカートを手で整えると、ぱちんと指を鳴らす。途端に自由に身体が動くようになった。
    「魔法まで使ってたのか」
    「うん。十分気を付けて」
     カインが身体を起こすと、ラスティカは香水瓶を握らせる。
    「豊かの街は欲望の街だ。君の思っているよりも、きっと厄介な物だよ。君たちの高潔さを持ってしても、打倒せないほどに」
     その言葉は先程よりも余程警告の色をしていた。
    「打倒せないなら、どうしたらいいんだ?」
    「乗りこなしてしまえばいい。僕たちは、それが得意」
     にこりと微笑み、ラスティカはそう言い切った。頼もしい限りだと笑い返した。

     その後、お茶をご馳走になってから部屋に戻った。淹れてくれた紅茶を少し警戒して飲む前に匂いを嗅いだら、ラスティカは怒るでもなく笑っていた。そして、混ぜものがされていないかを魔法で調べる方法を教えてくれた。練習しておけばアーサーを守れるかもしれない、と頭の中でその魔法を練習した。
     そして、はたと思い浮かんでラスティカからもらった香水の小瓶を取り出した。ちり紙に吹き付け、匂いを嗅いでみる。甘く、確かに頭がしびれるような、そちらの方向に思考を誘導されるような匂いがした。そして、それが今日ラスティカの部屋に入った時にした匂いと同じものだと気づき、苦笑する。あの部屋に入った時からラスティカの授業は始まっていたわけだ。でもいい備えにはなっただろう。カインはその小瓶を持って、中央の国の授業に向かうことにしたのだった。あの部屋での出来事をどう説明したものかと考えながら。
    夕景 Link Message Mute
    2022/09/24 0:10:00

    甘い匂いの話

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    2022/9/24 「witch's tea party!2」にて展示の話
    カインが後天性女体化のラスティカと、西の国に行くにあたって色々話す話です
    二部時間軸の話です
    R-15程度の性描写があります
    付き合ってはないですが、身体の関係を持っている描写があります

    #まほやくBL
    #カイン
    #ラスティカ
    #女体化
    #カイティカ

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