?ある阿呆の話
例の不死者が生まれてざっと200年たったある町の話。1人の人間がいた。それは周囲には「女性」として扱われていたが、実際はその人間は男でも女でもなかった。そのことは生涯誰も知らなかった。
名前は××という。
××は町で1番の変人だった。女性(町の人間の認識)なのに男性より頭がよかったし、当時異端者扱いされていた解剖学を特に好んでおり、誰にも知られないようこっそりと小動物を解剖し、それをスケッチした。
××は知識に貪欲だった。
××は好奇心が旺盛だった。
この世界の全てを知りたがっていた。
町の人達は××に手を焼いており、両親でさえも××に近寄らなかった。
だが1人だけそんな××に普通に接する男がいた。それはその町の図書館の管理人の男性だった。常に帽子を被っており、年齢は20代前半と言ったところだ。
男性は××の唯一の話し相手だった。男性はどんな話にも乗ってくれ、××の疑問や質問に全て答えてくれた。男性は相当賢い人間だった。
××は、男性がまるでその話を実際見ていたかのような口調で話すのがたまに気になっていたが、とてもその男性に懐いていた。
そんなある日、その図書館の一番奥に真っ黒い本を見つけた。表紙・背表紙に題名は書いておらず、男性に聞いてみても「見たことない」と首をひねっていた。
なんでも知っていると思っていた男が知らなかった、××はその事実に妙に興奮した。男性は全て知っていて、××は無意識に劣等感を抱いていた。
だったら、私がこれを読んで書いてあった内容を全部彼に教えてあげよう!
××はその本を借り、家に帰って読み始めた。
それは悪魔の呼び方が記されていた
悪魔というのは知識の塊
なので、呼び出し叶えたいことを悪魔に言う
悪魔は叶える代わりに代償をもらう
その代償は人間の命
老若男女問わず、命を捧げればいい
この儀式は自分の命を捧げる。それが嫌なら他人の命。他人を使う場合はその死体を1日置かなければならない
それをしないと交渉はその捧げた人間の願いがかなってしまう。必ずではないがその例が一つだけあった
××は知識に貪欲だった。
××は好奇心が旺盛だった。
この世界の全てを知りたがっていた。
だから、それが叶うのなら何もいらない
友人も、家族も、体裁も
ましてや、自分さえ
夜、月が1番高い時、自分の小さな個室で例の儀式を行った。
代償は自分の両親。
本に書いてあった通りの模様を白いチョークで床にでかでかと描き、その中心に昨日殺した両親の死体を置く。
すると本の通り悪魔が来た。
白い髪に白い角を飾った、悪魔とは程遠い色をした悪魔が
「驚いた。今もこんな儀式をする人間がいるなんて」
話し方は随分幼いが、声は大人にも聞こえるし子供にも聞こえる。とにかく不安になる声色だった。
だが××は目を輝かせていた。
「あなたが悪魔?」
「はは。違うよ。ここの本に書かれている悪魔はとっくの昔に死んだ。それに、一応悪魔じゃなくて神だったよ」
「どうして?」
「本来悪魔は神とも天使とも言える。そこの境界は曖昧なんだ。だってそうだろう。その三者とも全員人間を惑わすからね。…話がズレたね。だからまぁ、その悪魔はある村の守り神だったんだ。その村は僕が本来守るはずの人間が壊しちゃったんだ。村の存在が無くなったからその神も死んだ」
「じゃああなたはその人間の守護神ってこと?」
「そう」
「なんで、村の神を呼び出すはずだったのに貴方がここに?」
「質問ばかりだね君は…。俺がその呼び出しで生まれたからだよ。どうやら勝手に引き継がれたようだね」
「なるほど…」
「で、君の願いは?本当は彼の願いしか聞きたくないけど、呼び出しを引き継いで供物も貰ったし、仕方ないから叶えてあげる」
その神は面倒臭そうに聞いた。××は目を輝かせたまま、興奮で上ずった声で願いを叫ぶ。
「私を君にしてくれ」
「……は?」
「君は膨大な知識があるんだろう。神はなんでも出来るのだろう。神は何千年も生きるのだろう。だったら、私は永遠に知識を覚えられる。私はこの世界の全てを知りたい。だから、」
「私に知識をよこせ」
「…ふーん。なるほど。とんでもないことを考えるね」
「この願いは叶えられる?」
「できるよ。それに、それは私にとっても好都合だ」
「?」
「いいよ。叶えてあげよう」
「我らは2人でひとつだ。お前は私になって、俺はお前になる。ひとつの体に2人の人格。なんとも楽しそうじゃないか!なんて馬鹿な人間だろう!両親の心臓じゃ飽き足らず自分自身の全てを捧げるとは!」
「そんなやつ嫌?」
「いや、お互い利益がある。最高だよ」
「きみに利益なんてあるのか?」
「あるとも」
「最愛の人間のそばにようやく入れれるんだ」
(どうだい私に『なった』気分は)
「すごい。なんと、いうか…脳がパンクしそうだ」
(もう時期慣れる。君は人ならざる力を手に入れた。だが、俺になったあとで申し訳ないが、何個か条件がある)
「なんだ?」
(僕の名前は使うな。彼以外に呼ばれたくない)
「わかった」
(それと、これはあまり君には意味ないと思うが…私の今まで見てきた記憶は君に見せない)
「別にいいけど…なんで?」
(彼との記憶は共有したくないな)
「彼、彼って…まぁ干渉しない。わかった」
(これが最後だ。お前が表なら、我は全て裏だ。我は一切表に出ない。だが…万が一出てきてしまう時があるかもしれない。それは許してくれ)
「うん?まぁいいけど…」
(よし。これでお前は私がいなくならない限り、死なないし歳も取らない。好きなように永遠を生きればいい。もしそれが嫌になったら、すぐに出ていこう)
「わかった」
(じゃあ手始めに、この町を潰すか?)
「…そうだね!どんな力が使えるのか楽しみだ」
こうしてある阿呆は死んだ。
そして人ならざるものがまた生まれた。
この話はたった一人しか知らない。そのものはただ森の奥で1つの町がボロボロになるのをただ見ていた。
「仕方ない。また違う町にいくか」
その男はとても怪奇な瞬間を見たというのに、表情一つ変えずにその場を立ち去った。
数冊の本を抱えて
黒い角をした男だった