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    ?-3捨て犬の話



    ある阿呆の体に災厄が宿って、そのせいで魔女狩りにあって、それからざっと200年後たった明くる日。魔女狩りの件で人の役に経つことがあまり悪いものでは無いと気づいた阿呆は、人口は少ないがそこそこ栄えている街に腰を下ろし探偵業を開いた。
    300年ほど生きて名前が無いと不便だとようやく気づき、自身のことを『探偵』を名乗るようになった。だが探偵の仕事といえば、飼い猫を探して欲しいだとか、店番をして欲しいとか、探偵というよりは何でも屋に成り下がっていた。
    「あーあ、なんかでっかい事件とかおこらないかね」
    などと1人寂しく部屋で愚痴ったところ、ドアをノックする音。
    探偵は高級品のロココ調のソファから飛び起き、瞬時に玄関に行きドアノブをひねった。
    そこには、温厚そうな1人の青年がいた。

    これから長い付き合いになるとも梅雨知らず、探偵は彼を部屋に招いた。

    「ふむ。君の名前はロンくんか」
    「はい…にしても、すごい豪華なお屋敷ですね…なんというか、その」
    「ははは。外見だけじゃわからなかっただろう。最近はこの家具にハマってな」
    「は、はぁ」
    「で?相談というのは」
    「あ、はい!実は、その…」
    ロンと言う青年は少し緊張気味に、体を強ばらせながら話し始めた。
    「実は僕、隣町から来たんです」
    「道理で知らない顔だと思ったら」
    「はは…僕の町はここよりも栄えてはいませんが、みんな平和に何不自由無く暮らしていました…一ヶ月前までは」
    「と、いうと」

    「…無差別殺人、が多発しているんです」

    しめた。と探偵は声には出さなかったが心でそう呟いた。
    まちにまった大きな事件。しかも殺人ときたもんだ。面白くないはずがない。
    不死になったことは後悔もしていないし飽きてもいない。ただいかんせん刺激が足りなかった。そう思っていた矢先にそんな話が転がり込んでくるのであれば聞くしかない。
    探偵は静かにほくそ笑んでいた。
    「初めて街の人が亡くなったのは丁度一ヶ月前でした。その人は45歳男性で、奥様に子供が二人いました。『旦那がいなくなってる』と朝に電話をもらい、僕は急いで探しましたが町中どこを探してもいませんでした…あ、失礼しました。私、警察官を務めております」
    「おや。凄いじゃないか」
    「い、いえそんな…僕なんか……」
    「?」
    「そ、それで、どこにもおらず、途方に暮れていたのですが、その連絡があった日の夕方にふと墓地を見てみたのです。僕たちの町は作られて年が浅いので、墓の数も2個程度なのですが…明らかに、ひとつ増えていたのです。不審に思って、掘ってみたら…」
    「その男性の死体があったと」
    「……はい。それだけじゃないんです。もっと不思議なことは、体の傷でした」
    「体の、傷?」
    「死因は大量出血によるショック死と判断されたんですが、その傷が、大きな引っかき傷といいますか……4本の大きな爪で体を思い切り引き裂かれておりまして、骨さえも砕かれていたんです」
    「かなりの馬鹿力だな。何度も引っ掻いた、という訳では無い?」
    「えぇ、痕跡を調べましたが一回だけでしたね……とにかく不気味で。奥様に報告し、次の日に神父様にお祈りを捧げてもらい、埋め直しました。それから二日後、今度はその方の奥様が失踪されました。墓を見てみるとまたひとつ増えており、掘り起こすと…」
    「全く同じ方法だったのかね」
    「えぇ。胸に大きな引っかき傷がありました。2人の犠牲者から、傷の不自然さはともかく、この家族に恨みがあるものの犯行だと考えました。急いで2人の子供を保護し、違う町に引越しさせました。ですが、その一週間後…73歳の男性の遺体が埋まっておりました」
    ロンは死亡者リストを探偵に見せる。被害者は10人。これが一ヶ月で行われた犯行だと考えると、犯人は殺しに長けたものか、あるいは別か。
    10人の情報を確認すると、老若男女問わず、最初と2人目が夫婦だっただけで、他の被害者に血の繋がりもなく、特に関係性はない。
    「とりあえず一致しているのは犯行の手口、傷跡だけです」
    「なるほど。ひとつ疑問なのだが、この犯人は決まって墓場に埋めに来るのだろう?どうして警察は墓場を見張らない?」
    「幾分小さな町で、僕しか警察官がいないのです…墓場だけ見張ることもできないし、住民には力を借りれないし…」
    「なるほど。で、私に依頼をしたというわけだな」
    「はい!もちろん報酬は支払います!とりあえず数日ほど力を貸してはくれないでしょうか」
    「……うん。わかった。私が力を貸そう」

    「…一筋縄では行かなさそうな事件だな。ふふふ」


    小一時間ほど馬車に揺られ、探偵はロンの町に着いた。
    「僕の家でよければ泊まってください」
    「あぁ、ありがとう」
    案内され、彼の家にお邪魔する探偵はひとしきり部屋を見る。寝室が2つ。片方の寝室の部屋はダブルベッドがあったが、使われていなさそうだった。ロンの家は1人に住むにはかなり大きな家だった。
    「やけに大きいが、家族と住んでいるのかね」
    「あ、いえ。両親は僕が小さい時に亡くなってしまいました」
    「そうだったのか。すまない」
    「大丈夫ですよ。全然気にしていないので」
    「そういや、この家には古い鉄格子が全ての窓に着いてるが…」
    「あぁ…今回の事件の対策なんです。家に入らないようにって、今はどの家にもついてますよ」
    「ほぉなるほど。とりあえず町を回ってみようか」
    「そうですね。みんないい人なんです!紹介しますね!」

    確かに町と言う割には小さく、半日もあれば一周するのも容易く全員の顔を見ることが出来た。
    「町と言うよりは集落だな」
    「まぁそうかもしれません。昔はもっと大きかったようですが、人口減少に解体、色々ありまして、今は100人もいませんね。警官と言うのもありますが、僕は全員の顔や性格全て覚えています」
    「随分仕事熱心なんだな」
    「…と、言うよりは、僕は家族を早く亡くして、親代わりとなったのがこの町全員です。僕が1人で寂しくならないように、いろんな人がよく家に呼んでくれました。勉強も教えてくれて、だから僕は警察官になれたんです」
    なるほど。彼の家の主要な部屋以外にホコリが被っていたのはそういう事か。それに家具も少なかったし、生活の跡があまりなかった。ロンは仕事熱心であまり家におらず、常にパトロールをしているようだった。
    「なったからには、みんなに恩を返したいと思って…でも事件で僕の『家族』が失って…悔しいんです。だから、早く犯人を見つけたいんです!」
    「君の熱意は十分伝わった。よし、私も人肌脱ごうじゃないか。早速聞き込みを開始しよう」
    「はい!」
    「まずは一番最初に殺されたこの夫妻と仲の良い人たちをあたるか」
    「と、なると…夫の方は教師でしたので、教え子や同じ学校の教員の方に聞くのがいいかもしれません」
    「では早速調査開始だな」


    ・第1被害者と同じ学校の女性教員(40)
    「あの人はすごい生徒思いでした…数学を担当していました。数学は学生にあまり好かれない教科でしたから、先生は常にわかりやすく教える方法を考えてました。それに運動部の顧問でもあって、休み時間とかよく子供たちと遊んでいて…とても人気でした」
    「話を聞く限りだと、とても優しい先生だったようだね」
    「はい…なんであんないい人が死んだのか…」


    ・第1被害者が主任を務めていたクラスの学生(14)
    「優しい先生でした。数学が分からない子には付きっきりで教えてたし、頼めば放課後の自習に付き合ってくれるような人でした。ユーモアもあるし、男子にも女子にも人気がありました」



    ・第1被害者が担当していた運動部の部長(15)
    「熱血教師って感じでしたね。正直熱血すぎてうざい、と思うやつもいたとは思うけど、俺は好きでした。愛が伝わってくるし、俺達が勝ったら自分のように喜んでくれるし…何しろ、先生の奥さんが作るご飯美味かったんすよ。だから……なんで、死んじゃった、んだろうな、って…」



    ・第2被害者(第1被害者の妻)と中がよかった主婦(38)
    「料理がとっても上手な人で…料理が下手な私によく教えてくれたんです。優しい人でした。それに、美人でしょ?旦那様もハンサムだから、町では二人とも人気者でした。完璧に見えるから妬んでる人もいたけど…でも、みんな気づいてなかったけどちょっとドジな人なんです。前もハンバーグ作るのに牛肉を買ったはずがそれが鶏肉だった時があって、まぁそれもすごく美味しかったんですけど…ふふ」



    ・第2被害者の隣に住んでいた女性(68)
    「私はあの子嫌いだったね。いらないっていうのに私の世話ばかり焼くんだ。嫌われ者の私にわざわざそんな事するって事は、財産目当てだったんだろうね。一銭もあげないよ、って言ってんのにあの子何時もご飯作ってくんの…まぁ、うまいんだけどさ。散歩もしてくれて……どうして死んだんだろうね。あんな子が」



    全員の調査をして数時間たった。いつの間にか空は赤色に染っている。
    「うーん。全員の話を聞いたけど…やはり関係性はあまり無さそうですね」
    「1番の年寄りで78、1番若くて9歳。年齢もばらばらで確かに一件共通点はないな」
    「うーん…あ、すいません。パトロールの時間なので、一旦僕はいなくなりますが、もう道は大丈夫でしょうか」
    「あぁ、先に家に帰ってるよ」
    「お願いします」
    探偵は一旦ロンと別れ、1人でフラフラと歩き始めた。
    「まぁもうほとんど分かっているのだが…ひとつ気がかりなのが、犯人だな」
    探偵はブツブツ呟きながら町を散策する。すると先程話を聞いた老婆が目の前から杖をついてヨボヨボと歩いてきた。
    「やぁ、先程はどうもありがとう」
    そう探偵は挨拶すると、老婆はギロりとひと睨み。
    「…私とは喋らない方がいいさ。若いもん」
    「なにお。これだって僕は500はとうに…ってあれ」
    老婆は探偵の言葉を聞かずに去ってしまった。だけどその足はおぼつかなく、なるほど、確かに誰かが一緒にいないと不安だな、と探偵は思った。
    「ん?」
    少しみまもっていると、パトロール中のロンが老婆と少し話をして、手を取り、ゆっくり歩いていく。
    「確かに、優しい青年だな」
    「そうでしょう」
    「おわっ」
    急に声がし、振り向くとこの町の住民の2人がいた。買い物帰りの熟年夫婦だ。先程話を聞いた人達だった。
    「あんな老人にも優しいんだから。ロンくんって世話焼きよね」
    「そこが彼のいいところだ。早く嫁の1人でも見つけて欲しいな」
    2人がいない時に好き勝手にべらべら話し続ける住民達。
    「あなた達は昔からロンを知っているのですね」
    「そりゃそうよ。ロンくんのちーっちゃい頃からずっと見守ってたんだから」
    「俺達の教育の賜物ってやつだな。あいつがここまで立派な青年になったのは」
    「そういえば、ロンの両親はどうして亡くなったのでしょうか?病気かなにか?」
    ロンに聞くのもはばかられるので、ここぞとばかりに探偵は住民に聞いた。すると、住民の顔は打って変わって暗くなる。
    「…置いていったんだ」
    「え?」
    「ロンくんと初めてあったのはあの子が5歳のころかしらね…知らない男の子が泣きながら夜道を歩いてて、どうしたの?って聞いたら『お父さんとお母さんがいなくなった』って…」
    「急いで俺らは家に行ったんだ。そしたらよ…

    血があちこちに飛び散っててなぁ

    隣町の警察が大量にくるほどの大騒ぎになって、鑑定結果ロンの両親の血だった。」
    「そんな事が…」
    「ロンは家に居たらしいんだが、服には血がついていなかった。きっと別の部屋にいたんだろうな。それに、何があったか全く覚えてなくて、きっと精神的ショックってやつで記憶が無くなっちまったんだろうな」
    「でもおかしい事はそれだけじゃなかったの。本当にいなくなったのよ。死体もどこを探しても無くて、これこそ今回に墓地事件みたいに、埋まってたわけでもなく…だから失踪したって片付いたんだけど、それでもおかしいの」
    「荷物が全部家に置いてあったんだ。財布もカバンもな。俺達はロンのため、ロンの前では絶対このことを話さなかった。両親の仮の墓地を作って、死んだことにしたんだ」
    「…なるほど。そんな事があったんですね」
    探偵はロンがなぜ、ここまで住民のために必死になって事件を解決しようとしているのかを改めて理解した。
    「…ということは」
    探偵はチラっと見える森の中にある墓場の入口を横目でみた。
    「そのロンの両親の墓には何も埋まってないんですね」
    「そりゃそうよ。当たり前じゃない」
    「そうですか。話して下さりありがとうございます」
    探偵は深深と頭を下げ、その2人の住民と別れた。
    「ふむ……」
    探偵は顎に手を置き、少しばかり状況を整理する。
    「とりあえず、墓でも調べてみようか」
    探偵は指を鳴らし、墓地までワープする。墓地は木の影に隠れて薄暗く、恐ろしい雰囲気を醸し出している。それに草も伸びっぱなしで、誰も手入れをしていないのが見てわかる。
    墓地には12の墓があった。今回の被害者の10人と、ロンの親の仮の墓だ。
    「さてさて、神に背いて墓荒らしでもするか」
    2つの墓、話を聞く限り誰も埋まっていない地面に手をかざす。すると土がどんどん消えていき、地面には切り取ったような棺桶型の穴があく。
    穴を除くと木でつくられ、腐敗し切ったボロボロの棺桶があった。それを地上にだし、2つの棺桶を開ける。

    そこには白骨した死体があった

    「やっぱりな。と、なるとこれはもちろん…」
    探偵は魔法でその死体の時間を巻き戻す。白骨化した死体は腐乱死体にかわり、それもやがて新鮮な死体に変わっていき、本来の2人の姿に戻った。
    2人は左手の薬指にそれぞれ同じ指輪をしていたので夫婦だろう。墓にはロンの苗字が掘ってあるので、これがロンの両親であることは間違いない。
    だが、ロンはどちらにも顔が全く似ていなかった。

    そして、その2人の胸には大きな引っかき傷があった。

    だが探偵はある違和感に気づいた。
    「……」
    珍しく、彼にしては驚いた顔をした。
    探偵は全てを理解した。
    死体は全て元に戻し埋め直した。そしてまた指を鳴らし、ロンの家へと帰って行った。


    「犯人が、わかったんですか!?」
    その日の夜。ロンが作った料理を平らげたあと、探偵は話を切り出した。ロンは驚き前のめりになって探偵の話を聞こうとする。心做しか顔が喜んでいた。
    「それで、犯人はこの町の人たち、なんでしょうか。それとも隣町にいる人が…?」
    「一応言っておくが、笑わないでくれたまえ」
    「え?」

    「犯人は人間ではない。所謂『怪物』と称されるやつだ」

    ロンは目を丸くした。
    「は、……え?」
    「信じられないとは思うが、現実だ。相手は狼で、だが二足歩行をする化け物だ。全長は2mぐらいだろう。俗に言う狼男と言ったところだな」
    「ちょ、ちょっとまってください。え、怪物って…」
    「多分そいつが地球上で初めて『偶然生まれた』怪物だろう。私も始めて会うため緊張している。とりあえずそいつは夜に出没して、夜な夜な人間を襲う。物理的な力はもちろん、埋めて証拠隠滅をするという知的さもある。深夜に君は墓で見張る、私は町を巡回する。なので今日はもう寝よう」
    ロンは強く人に物を言えない人間だった。
    なので、探偵が意味不明なことをつらつら言っても『ふざけないでください!』とも言えず、ただその熱量に押されてしまった。
    「は、はぁ……」
    「それに、きっと今回犠牲になる人間ももうわかっている」
    「…!!!だ、誰ですか!?」
    「あの老婆だ」
    「じゃ、じゃあ今から僕、その人の所にいって忠告しておきます!!」
    「ふふ。安心したまえ。私が既に忠告しておいた。ああいうご老体には素直に言っても伝わらないのでね。しっかり鍵を閉めてくれるように忠告を工夫しておいた」
    「おぉ…なんて言ったんですか?」

    「『今日の夜あなたの財産を全て盗みに行くので、しっかり鍵を空けておいてください』ってね」

    「……」
    「カンカンに怒ってまだ夕方だと言うのに閉めていたよ。窓も扉も」
    「…と、とりあえずそこは大丈夫なようですね。じゃあもう寝ましょうか」
    「そうだな」
    果たしてこの人で大丈夫だったのだろうか。と今更不安になるロンだったが、二手に分かれ墓場を見張り、町を巡回できるのは確かに何かしらの成果がありそうだと思った。
    だがロンは夜間のパトロールもしっかり行っている。事件が起きた時からは2回に分けて町を回っている。それでも犯人は1回も見た事ないし、被害者は出てしまっている。
    (本当に大丈夫なんだろうか…また死んでしまったら…どうしよう)
    不安に思いながらも、溜まっていた疲れによってすぐにロンは寝てしまった。



    目が覚めると、そこは外だった。
    「…え?」
    ロンは急いで起き上がる。すると目の前には墓があった。どうやら墓場の木の影にいるようだ。
    (見張っている間に僕は寝ていたのか?)
    にしても、起きて探偵と墓場まで行った記憶が無い。それに探偵がいない。
    「探偵さん?探偵さーん…」
    呼んでも声は帰ってこない。
    「そっか、町を巡回してるって言ってたっけ…」
    寝ぼけ眼でロンは目の前の墓を何気なく数えた。
    12個
    そこでロンは遅ながらも気づいた。死人は出ていないのだ。だからまだ犯人はここに来ていない。
    ロンはほっと胸をなでおろし、安堵の溜息を零した。
    「よかった。じゃあ今日見張っていれば…」
    力が抜けて腰を着いた途端、

    びちゃ

    と、水の音がした。
    「えっ」
    雨なんか降っていたのか?そう手を見ると

    ロンの手は黒く染まっていた

    「っ!!!」
    ちがう。水じゃない。これは、血だ。
    どうしてこんなところに血が流れているんだ。ロンは星の光だけを頼りに周りに目をこらす。
    左、右、誰もいない。
    じゃあ、後ろに?ロンは恐る恐る振り返った。

    誰かが倒れている

    「っ、あ、あの!!大丈夫、です……か」
    倒れていたのは、探偵が次の被害者になると言っていたあの老婆だった。今日パトロールついでに一緒に散歩をした、あの……
    胸には、大きな引っかき傷。
    「う、うわああああっ!!!!」
    みっともなく大声で叫んでしまい、大きく後退りをするロン。木の影から抜け出し、墓場に出てくる。
    月は雲に隠れており、やはりあたりは薄暗い。
    また僕は犠牲者をだしてしまった。
    僕がしっかりしていなかったせいで。
    ちゃんと見張っておけばこんなこと…
    「どうした」
    「!!」
    気づけば探偵が目の前に立っており、ロンは思わず探偵にすがりついた。
    「た、探偵さん!!ひ、被害者が出てしまいました!!!お婆さんが、死んじゃって……」
    「ロン。落ち着きたまえ」
    「僕、またダメでした…また1人、僕の家族が死んでしまって……」
    「ロン」
    「犯人はどこですか、どうして、こんなこと、」
    「ロン。落ち着くんだ。大丈夫だ」


    「だって君が犯人だから」





    え?



    「え」

    「やはり気づいてなかったんだな」
    探偵はしゃがみ、ロンの顔を両手で包子に強制的に目を合わせる。その目はどこまでも暗く、ロンは目が離せなかった。
    「その老婆は撒き餌だ。そして私はずっと君がどう動くか見ていた」
    「え…」
    「どうしてどんなにパトロールしても犯人は出てこなかったんだと思う?君みたいな優秀な警察官がどんなに探しても、どうして見つけられなかったんだと思う?」
    「そ、れは、僕が、だめ、で、」
    「違う。君が犯人だからだ。これは君にしか出来ないんだよ。深夜に家を訪問しても、君だったら誰もが信用する。信用してついて行って、そして殺された。君だからできる犯行だ」
    「…ち、違う、僕はやってなんかない!!」
    ロンは探偵の両手を掴んで自分と引き剥がす。キッと睨んで反論する。
    「ぼくは!みんなを家族と思っているんだ!!親が早く死んだ僕に、みんな優しくしてくれたから!!だから!お返しとして僕はみんなを守るって誓ったんだ!!なのに、僕が犯人って、おかしいだろ!!」
    息を荒らげ、吠えるようにして言葉を吐くロン。それと真逆に探偵は冷静だった。
    「そもそも!!僕が犯人って証拠はあるんですか!それに傷だって、あんな傷どうやってつけるんですか!!」
    「正直、私だってまだ君が犯人とは思っていない」
    「はぁ?」
    「だから、これから見つけるんだ。君が犯人だって証拠を」

    「詳しくいえば、君の深層心理をこじ開ける行為をしないといけない」

    「…なに、を言って…」
    「ロン。君は両親を5歳の時に失っていると言っていたな。5歳はもうしっかりとその当時の記憶があるはずだ。君の両親はどんな両親だった」
    「どんな、って」
    「優しかったか?よく君と遊ぶ人達だったか?賢かったか?君に勉強を教えてくれたか?それとも、」

    「愛されていなかったか?」

    ズキ、と急に鋭い痛みがロンの頭を襲う。
    「どういう…」
    「君の両親の顔をこっそりみた。君の両親と君は全く似ていなかった。もしかして、というかまぁ確定しているんだが、君は両親と血が繋がっていなかったんだろう。詳しくは知らないが、君の本当の両親は君が生まれる直後に死んだか失踪したかで、それで親戚をたらい回しにされて例の2人のところに来たんじゃないのか?」
    「しら、ない…そんなの、僕は」
    「まぁ詳しいところはいらない。大事なところは『愛されていなかった』ところだ。君の家の鉄格子。最近取りつけたにしてはやけに古い。それにある住民がこういっていた」
    『初めてロンとあったのは5歳くらいの時だった』
    「普通に考えて、こんな小さな町で赤ん坊から育てていたとしたら『5歳で初めて見た』という証言はおかしいだろう。だから君は長らくの間、家に監禁されていたんだろう。親が学校に行かせるのが面倒で、そういった手段に出た」
    ロンの頭痛は収まることを知らず、ズキズキとどんどん痛みが増していく。
    「やめてください…」
    「家から1歩も外に出れない。親には愛してもらえない。君がパトロールを続けているのは、あの家が嫌なんだろう。親の部屋の掃除をしないのは、思い出してしまうから」
    「やめろ、」
    「そして幼少期にその仕打ちは重すぎた。負の感情を溜め込むにはその器には小さすぎた」
    「やめろぉ!!!!」

    「だから君は暴走した。怪物となったんだ」



    「なんで知らない親戚の子を、私たちが育てないといけないわけ?」
    「しょうがないだろ。親には強く言えないんだ。幸い乳離れはしてるらしい」
    「めんどくさいわ…ちょっと!触んないでよ!!服が汚れたらどうすんの!!」

    ぼくはいちゃいけないの

    「泣くな!!うるせぇんだよ!!」
    「今度泣いたらタバコ押し付けちゃえば?しつけ、ってことで」
    「ははは。いいなそれ。ストレス発散にもなりそうだ」

    ぼくってわるいこなの

    「保育園ってこんなにかかるの?」
    「行かせなきゃいいんだよ。家にずっと置いておけ」
    「逃げないように格子でもつけないと」
    「バレたらめんどくさいしな。はぁ、こんなやついなかったらな…。おい見てんじゃねぇよ!」

    ごめんなさい
    ごめんなさい
    もうしませんから、ゆるしてください
    なんでぼくはわるいこなの
    ごめんなさい、ごめんなさい…

    つらい
    だれか

    たすケ、

    「ぁ、」
    先程まで耳を塞いで、泣きじゃくり、探偵に怒鳴っていたが、突然塞ぐのをやめ、手をだらんと垂れ、ロンは呆然とした顔で探偵を見上げた。
    だが探偵は推理を続ける。
    「両親の胸の傷はほかの被害者の傷より一回り小さかった。君が幼いのもあったんだろう。それから君はようやく発見され、町の人全員に手厚く愛された。それに精神的ショックによる記憶喪失。そこで君の怪物は心の奥底に閉じ込められた。町の人全員はおそらく君の両親のひどい仕打ちを知っている。だから、愛せざるをえなかった。あまりにも可愛そうだったから。そして君は何不自由なく育ち、みんなを守ろうと警察官になった。だが、また君の中の化け物が目を覚ましたのだ」
    「……」

    「原因は、悪口だ」



    「あの先生さー、いい人だってわかってるけど、ちょっとうざくね?」
    「わかる。熱血すぎるのってやだよね」
    「こら。ダメだろ先生をそんな風に言っちゃあ」
    「あっロ、ロンさん!」
    「でも本当のことなんだもん」
    「これ絶対言わないでよね!」
    「わかったわかった。まっすぐ帰るんだよ」
    「はーい!」

    悪口を言われるって、その人が悪いってことだよね。

    「あの奥さん。完璧すぎてちょっと近寄り難いわぁ」
    「自分が出来ることをひけらかしてんのよ。まったくいやだわ」
    「ああやってご老体にも優しくできなますって。アピールも見苦しいわ」

    悪い人は、いなくならないと

    「あの婆さん何時くたばるんだよ」
    「いっつもいちゃもんつけてさ、優しくしてやってんのに…」

    悪いやつは必要ないんだ
    悪いやつがいなくなれば

    みんながしあわせになる


    「皮肉にも、親から『教えられた』ものが心の奥底を縛り付けていた。そして、悪口を言われた人たちを君は殺した。それがみんなのためになると思って無意識的に、つい、うっかり、ってやつだ。これが今回の事件の真相だ」
    ひとしきり聞いたロンは、ただ一言だけ、小さな声で言った。
    「僕は、」
    「ん?」
    「存在しては、いけなかった、んでしょうか」
    「どうしてそう思う」
    「僕が…みんなを殺した……きっと、そうなんでしょう。僕の声が、きこえた。僕は、みんなを幸せに、したくて…」
    「『家族』だから?」
    「…はい。だけど、それで、誰も幸せに、なってない。僕は、大犯罪をおかした」
    「…」
    「僕は、誰にも、認められてないんですか?」
    探偵は縋るようなロンの視線を痛々しいほど浴びた。浴びて、探偵は優しく笑った。

    だがそれは悪魔の笑みだったのだが。



    「そうとも。誰も君をいらない。どうでもいい。君なんてこの世にいなくていいんだ」



    「っ」
    その言葉を聞いた瞬間、ロンの中にある『何か』が溢れだしそうになる。
    目を見開いて、頭を抑えて、呻き声をあげる。
    「ぅ、うぅ、ぼ、くは、」
    ヨダレを垂らし、曲線を描く背中はバキバキと音を立てる。
    それを見た探偵はにんまりと口を三日月状に歪める。
    「さぁ、ロン。君は何を思う。親に虐待され、町の人のために馬鹿みたいに手を汚した。頑張ったのに、誰にも存在を認められていないと知って、何を思う?さぁ言いたまえ。心の奥底の言葉を!」
    ロンの体を黒いモヤが囲う。ロンの顔がミシミシと違う『種族』に変わる。手が、足が、人間のものじゃなくなる。
    「ぼク、ハ、ボくハ!!」
    綺麗だった声も今はまるで地底の奥底から吠える化け物のような低い声に変わる。
    そしてロン、いや、化け物は泣きながら叫ぶ。


    「誰カ、に、アイさレ、たい」


    探偵の目の前にいるのは、ロンではなくなった。
    全身は夜の空より暗く深い黒。輪郭がぼんやりとしていて、本当に存在しているのかも不安になるが、確かにそこにいた。
    手足は人間の何倍も大きく、鋭く凶暴な4本の爪。
    牙も全て鋭く尖っており、噛まれたら骨ごと砕いてしまいそうだ。
    全身黒い中、唯一のつり上がった目だけは赤く染まり、
    そして泣いていた。
    化け物は泣きながら声を絞り出す。
    「あ"、ぁいし"て、ク"レ"なイ、な、ら、!!!」
    手を大きく振りかざし、探偵をハエみたいに押し潰そうとする。探偵は軽々とその重い一撃をかわし、宙に高く浮く。
    怪物は探偵を見上げたと思えば、次の瞬間には同じく宙に浮いていた。
    「ほぉ。脚力がすごいな」
    「ガぁ!!!!」
    探偵は素直に感心していると、怪物は先ほどと同じように腕を素早く振りかざす。間一髪で交わして探偵は地面に着地する。
    怪物もそれをおうように、そして探偵の頭目掛けて重力も含んだ重く早い蹴りを入れようとする。
    「…はは」
    探偵はそれをもヒラリと交わしながら、ついに攻防を仕掛ける。
    土を操り、怪物の腕を紐のように地面に縛り付ける。それから膝まで埋まるほどの穴を開け、埋めさせ身動きを取れないようにする。
    「グ、ガぁ!!!っ!!!!」
    化け物は振り払おうと暴れまくる。土と言っても岩のように固まっており、並大抵の力では壊れるはずがないのだが、それでもヒビがはいり長くは持たなそうだ。
    「…ふふ、ははは…ははははははは!!!!」
    その姿を見て探偵は突然狂ったように笑いだした。
    「素晴らしい!!それが君の力か!!556年生きたこの私でも初めて見た!!!」
    珍しく、興奮した顔で怪物に近づく。
    「最初は君を人間に化ける怪物だと思っていたが…君の素性を知るにつれ、君は化け物ではなく、負の感情で目覚めた『能力者』だったのか!色々な条件が重なり『偶然』で生まれた力か!!なんとも面白い!負の感情が募れば募るほど、君は凶悪になり、ますます人間から遠ざかっていく!それにまだうっすらとだが人格も残っている。素晴らしい。素晴らしい力だ!!!」
    探偵は興奮気味に、新しいおもちゃを見つけたような顔で話を続ける。
    「私はお前が欲しい。能力者はきっと未来、あぶれるほど出てくる。だがお前のような…条件が重なって重なって生まれた偶発的能力者はほとんど生まれないだろう。なぁ、私のものになれ」

    「そしたら、お前が欲しいものを全てあげよう」

    「だ、まれぇ!!!!!!」
    化け物は探偵の言葉に聞く耳を持たず、右腕の土を壊し、重い拳が探偵にめり込んだ。探偵は体がひしゃげ、吹っ飛ばされた勢いで木に思い切りぶつかった。
    だが探偵は幽霊のようにフラフラと起き上がり、壊れた体が徐々に治っていく。怪物は一瞬目を見開いたが、すぐに戦闘態勢に変わる。
    「やれやれ、躾がなっていない悪い犬だ」
    探偵はその化け物と同じように、体を『変形』させる。


    「主人を傷つけるとはな、お仕置きが必要だな」






    嵐のような夜がすぎて、太陽が顔を覗かせようとしていた。
    だが墓場は相変わらず暗く、2人の『人間まがい』がいるのがやっと見える程度だ。
    だが1人は瀕死だったのだが
    「ひゅー……、ひゅ、げほっ、げほっ……」
    ロンは探偵の膝を枕にし、残りわずかの命を絶やさまいと必死に息をしていた。
    ロンの目は生気がなく、四肢は切断されていた。普通ならここまで自分の体がボロボロならば、生きることを諦めそうだが、ロンはまだ諦めていなかった。
    「い、やだ…ぼく、は、死にたく、ない……」
    探偵はロンの頭を撫でる。
    「死にたくないか?」
    「死に、たくない、僕は、誰かに…」
    「愛されたいか?」
    「……愛され、たい…誰かを、ひとりじめしたい……みんな、誰かいるんだ。僕のほかに、だれかが…僕には?だれが、いるの?」
    ロンは涙を目いっぱいためて、子供のような口調になりながらも、ずっと心に隠していたものを吐き出した。
    探偵はロンの目をじっと見すえ、優しく微笑んだ。

    「私がいる。私がお前を愛してやろう」

    ロンの目がかすかに大きくなり、揺れる。
    「私の物になれ。私の傍に永遠に居ることを誓え。私の手足になれ。私に依存しろ。さぁ、誓え」
    それは、愛の告白と言うよりは、悪魔の恐ろしい契約の並びだった。

    それでもロンは欲しかった。

    「私の物になれ」
    「あなたのものになる」
    「私のそばに永遠に居ることを誓え」
    「貴方の傍に、永遠に居ることを誓う」
    「私の手足になれ」
    「あなたの手足になる」
    「私に依存しろ」
    「貴方に依存する」

    「あなたが、ほしい」

    「ふふ、よろしい。じゃあ誓いの証だ」
    探偵はロンの顔を深く覗き込むと、その唇にキスをひとつ落とす。
    するとロンの体が探偵の黒い影に覆われ、ベキベキと音を立てたと思ったら、

    四肢が蘇り、首輪をつけて、執事服に身を包んだロンがいた。

    呆然と、驚いた顔をしているロンの体にはかすり傷の一つも綺麗さっぱりなくなっていた。それに、死人のように白いはずの顔は心做しか赤い。
    「君は一回死んだ身だ。私が生き返らえらせ、君に命を吹き込んだ。これで君は私が死なない限り死なない。私は死ない。つまり君は不死となった!」
    「え、あ……」
    「生まれ変わった気分はどうだ?」

    「え、っと…あの、さ、さっきの、キスは…」

    「ん?もう一度してほしいか?」
    「えっ!い、いや!!そういう訳では!!」
    「よし。ではいい加減立つか。さすがに膝が痛い」
    「あ、す、すいません!!!」
    ロンは秒で立ち上がり、背筋をピンと伸ばした。なかなか面白い男だな、探偵は静かにそう思った。
    「さてと、もうこの事件は終わりだ。私の家に帰るとするか」
    「あ、はい」
    「ほら。行くぞ」
    「え?…あ、ぼ、僕もいいんですか」
    「あのなぁ、君は私の側にいると誓っただろう。何故離れて住まないといけない」
    ロンを目を丸くした。そして間抜けな質問をする。
    「…僕と探偵さんは、家族なんでしょうか」
    「家族じゃない」


    「お前は私のモノだ。いいな。私のモノが私のそばから離れるな」


    その言葉はロンの心の底まで強く響いた。
    自分だけを必要としてくれている。
    「…っは、はい!!」
    ロンは心底嬉しそうに笑いながら探偵の傍にピタリとくっついた。
    「あっ長くて綺麗な髪に土が着いてます。払いますね」
    「あぁありがとう。あと歩くのが面倒だ。持ち上げてくれ」
    「はい!」
    「あとこの町はもう来ないだろうし、お前と私の記憶を住民の頭の中から消すが…いいか?」
    「はい、大丈夫です」



    「僕には探偵さんがいますから」



    「…狼と言うより、お前はただの犬だっな」




    長年の捨て犬はようやく飼い主を見つけた
    愛のカタチをしらず、これが愛と信じながら、ただ飼い主を愛し続ける
    飼い主にはその感情はちっともない事にに気づかぬまま愛し続ける

    飼い主はその愛情が案外悪くないものだと気づかぬまま
    鈍感で何かが欠如している2人は気ままに探偵業を続ける


    この2人は点々と町や国を変えながら様々な事件を解決するが、それはまた別のお話
    白椿 Link Message Mute
    2019/07/27 20:22:13

    ?-3

    次の話は新キャラ
    最近ようやくこのサイトの仕組みを理解し、見てくださる人がいるのを知りました。ありがとうございます。いつか飽きる時まで書かせてください #創作 #オリジナル

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