「デク? 帰ってんのか? デク?」
買い物から帰ってきたら玄関に見慣れた赤いスニーカーを見つけた。朝特に何も言っていなかったから今日はいつも通りの時間だと思って買い物に出かけたのに。
「デク?」
本来勝己は寮で暮らしているが長期休みになった今、両親不在の家に帰るのは不安だと幼馴染でプロヒーローデクの家に泊まり込んでいるのである。
勝己にとっては願ったり叶ったり。幼いころから憧れと恋心を抱いている相手と寝食を共にできるのだ。
「デク?」
ソファを覗き込めば呑気に眠りこける年上と思えない幼い寝顔。
そっと買い物して来た袋を床に置く。
ふと、見たことのない雑誌が床に置かれており、自分の記憶ならその雑誌はゴシップしか書かないあまりよくないもの。
開かれているページを見てデクがこの時間に家にいる理由を悟った。
「撮られてんじゃねぇよクソデク」
その見出しにはヒーローデク、深夜の密会! とデカデカと書かれたタイトル。
お相手は新人アイドルだと書かれてはいるが、その日時は勝己の作った飯を旨い上手いと食べた後、飯の褒美にと風呂に一緒に入れと詰め寄って死ぬ気で断られた日であった。
どうせ合成だろうが、滅多にないヒーローデクのスキャンダルだ。事務所が大事を取って休ませたのだろう。
「テメェは……」
緩やかな寝息を吐き出す口にそっと顔を寄せて。
「……俺んだろうが」
合わせるだけのキスをする。
「とりあえず、テメェの胃袋掴み殺す」
そっと買い物袋を持ち上げて台所に向かった勝己は知らない。
ソファでそっと目を開けて出久が顔を真っ赤に染めていたことを。