教室の中がざわざわと騒がしいが、その一角はさらに騒がしい。時折爆破と悲鳴が聞こえるのは、その元凶が誰なのかを知らせている。
「っざっけんな! こんなもん誰が着るか!」
「潔くねぇぞ! くじ引きで決まったからしょうがねぇだろ!」
「俺らだって着たくねぇよ!」
「俺たちも着たんだ、お前だけ逃げられると思うな!」
いつにない強気な彼らの言動が彼らの必死さを伝えて来る。
俺たちだけ犠牲になってたまるか、と。
「まだやってる?」
「往生際が悪いね」
「あ、お帰り」
着替えた女子たちが戻ってきたらしい。
文化祭の出し物を決める際、コスプレ喫茶を提案され一応どんなものを着てみるかを提案した中の一つ。
セーラー服と学ラン。普通に女子がセーラーを、男子学ランを全員着たのでは面白くないと言い出した一部のせいで全員がくじ引きをして引いたカードに書かれた方を着るということになったのだが。
「まぁ、爆豪も運がなかったよな」
余裕の峰田がそろそろ騒ぎが収まった着替えスペースを見ながらざまぁというように視線をやった。
彼は学ランを引き当てる運があったようだ。
かくいう出久も学ランを引き当てほっと息をついている。
ちなみにセーラーを引き当ててしまった轟と飯田は早々に着替えて出久の隣で騒ぎを見守っていた。
轟はともかく体格のいい飯田は腹は鍛えた筋肉が丸見えだし、逞しい太もももばっちりスカートから惜しげもなくさらされている。
ということは……。
同じように体格のいい勝己も……。
そう思ってようやく騒ぎの収まった一角を見ていると、引きずられるようにセーラー服を着て諦めたような顔をした瀬呂、上鳴、切島に連れられた勝己が現れて。
学ランの出久を視界に捉え八つ当たりするように頭を掴んだ。
「いいご身分だなぁ? でぇく? 何か言えや」
やけくそのように脅してきた。
「え、と……その、に、にあう、ね?」
引きつったように苦笑いを浮かべお世辞を言えば。
「似合うかクソがぁぁぁ!!」
特大の爆破が出久を襲う。
「あっぶねぇ!」
「やめたまえ!」
出久に当たる寸前勝己は引き剥がされ、教室は大混乱になった。
結局、厳正な検討の末、コスプレ喫茶は却下となった。
「どうせ着るならテメェが着ろ、ぜってぇてめぇのが似合うだろ、地味ナード?」
よほど苦笑いで見られたのが気に入らなかったのか。
自分が着ていたセーラー服を持って夜出久の部屋に押しかけた勝己がいたようだったが。
真偽は出久にしかわからないのだった。