4「Confession on the 2nd day」 翌日。
朝食を食べて着替えている途中、呼び鈴の音がした。
ドアを開けると、そこには、隣のセリーナ。
首は外しておらず、普通の人間と見分けがつかない。
「おはようございまーす……何か1人で通うのが怖かったので、――さんと一緒に通いたくて」
「そうか……すぐ着替える、待ってろ」
俺は急いで着替え、忘れ物をチェックし、セリーナの前に制服姿で現れる。
しかし、それにしても、セリーナって細いのに胸だけすごく大きいんだな……100cmを超えているんじゃないか?
そんな邪なことを考えていると。
「あの……私の胸に何かついてます?」
しまった! 胸を見つめてしまっていた! しかし胸を見つめられてツッコまないセリーナも純粋すぎるだろ!
「何でもない……行くぞ!」
俺はセリーナの手を引っ張る。この衝撃でセリーナの首が外れてしまい、俺の手で元に戻したのはまた別の話。
ほどなくして学校に到着する。先輩も後輩も皆俺のことを避けていく。絶世の美少女を連れていってるにもかかわらずだ。首が乗っていればだが。
教室で自分の席につく。隣にはセリーナ。
教室ではちらほらグループで会話をしているのが見えた。しかし、俺とセリーナは明らかに避けられている。
このクラスの人は全員セリーナがデュラハンであることを知っている。できれば関わりたくないのは当然だ。しかも、”死神”とする向きもあるのであれば……
そして授業を受け、昼休みになる。
体育の授業の時、セリーナは首が外れないよう慎重に動いていた……だが、首が外れたら大騒ぎになるのは当然だ。
俺とセリーナは昼食だけ持って、そそくさと人の少ない所へ向かう。
俺とセリーナがどこかへ行っても、誰も気にも留めなかった。
セリーナ、もしあの時首が外れなかったら男子は全員セリーナと昼食を食べようとしただろう。
しかし、いずれ首が外れてデュラハンである事実はバレるだろう。
2人だけの昼食。
セリーナは俺しかいないことをいいことに、首を外して昼食を食べていた。
「セリーナ……この状態で食べるとどうなるんだ?」
「わかりません……けど、多分最終的には身体の方に行くと思いますよ」
セリーナはいたずらに笑って見せる。
「首のない身体に食べさせてもらう感じで食べるの、結構お気に入りなんです。夕食もテーブルの上に首を乗せて首のない身体に食べさせてもらってますよ」
まるで身体にも意思があるかのような物言いだ。
「もしかして……セリーナは首では俺に好意を持ってるけど身体は俺のことが嫌いってことはないよな?」
「いや? 身体に意思はありませんけど? 例え北海道から沖縄まで、いや日本からアメリカまで離れていたって身体に私の意思は通じますよ?」
ほう。
「更に更に、身体で何が起こってるかも身体の心の眼……的なものでわかるんですよ!」
何か趣旨が変わってきたぞ。意外とセリーナってこんな身体になってしまったことに悲壮感がないのか?
「もし首か身体だけさらわれたらどうするんだ?」
「デュラハンは戦闘能力に優れるそうですから、その辺の暴漢なら倒せますよ! 武術の心得もありますし!」
暴漢がその辺にいてたまるか。
……とまあ、デュラハンとは何たるかをいろいろ聞いた。
ニュースを見ていないからわからないが、意外と人外ってその辺にいたりするのか?
俺はそんな疑問を抱えつつ、セリーナと2人きりで弁当を食べる。
そして昼休みが終わって午後の授業。午後の授業が終わって放課後。
俺はセリーナと共に下校する。同じアパートのお隣さん同士だし。
セリーナと下校中、2人して避けられている現状について聞いてみる。
「セリーナってさ……正直俺と共に避けられてる感じになってるの、どう思ってるんだ?」
「うーん……でも何か、――さんがいてくれるだけで十分ですから、それほど悲しくはないですよ」
「そうか……俺はセリーナみたいに首が外れるわけでもないのに、今までずっと1人だったんだ」
そうだ。俺は生まれてから今まで、友達という友達はできたことがない。
物心つく前に両親と遊んだ記憶しかない。幼稚園に通いはじめてからは、ずっと1人でいた気がする。
幼馴染みと言える女子どころか、男子もいない。
その状況が、高校2年生である現在まで続いているというのが、俺の現状。
「……そうなんですね、私、”デュラハンになった”とわかった途端に友達と呼べる存在を全て失いました。――さんと会うまでは」
友達がいたのに失う方が辛いんじゃ。
「でも、――さんは違う。デュラハンであっても、私を受け入れてくれている。私、――さんとなら、恋仲にまでなってもいいかもしれない……」
会って2日目で告白とかマジかこの娘!
「えっちょ……俺たちまだ会って2日だぞ? しかも俺でいいのかよ! 恋人どころか友達がいたことがないから人付き合いの知識なんて皆無に等しいんだぞ?」
「ですけど! 今後家族や親戚、協力者以外で私をデュラハンと知ってもなお接してくれる方は後にも先にもあなたしかいないと思います! 私はあなたを運命の人とも感じています!」
やばいスイッチ入ったぞこの娘! ちょっと待ってくれ!
「わかった! だが……恋人って言うのはちょっと待ってくれないか、さすがに会って2日目の子を恋人にするほど軽い男じゃない……」
確かにセリーナは、首さえ外れなければ今後絶対に会うことはないであろう美少女だ。
アンデッドだからと、血色が悪いわけではない……手足や腰は細いのに胸だけ大きい……優しそう……俺にとってはこれ以上ない最高の美少女だ。首外れるけど。
だが、会って2日目でいきなり付き合うなんて言うのはプライドが許さなかった。
今後どうなっていくかはわからないが、とりあえず、今は保留にしたい……
こう優柔不断だから、俺はぼっちだったんだろうけどな。