似た者同士【始春】出会ったのは十三歳の春。
中学二年生の頃。
そして、始が二十七歳となった。
出会ってから十四回目の誕生日。
とうとう、始と出会う前の年数を出会ってからの年数が追い越した。
アイドルとして活動し始めてから十年。
今年は、色んな意味で特別に感じる。
「はい。始にプレゼント。改めまして、お誕生日おめでとう、始」
「あぁ、ありがとう。春」
手渡した箱を始が目の前で開け始める。
「目覚まし時計か」
「うん。最近、目覚まし時計の調子が悪いって言ってただろ?」
「助かる。そろそろ新しいのを買わないと、と思ってたんだが、なかなか買いに行ってる暇がなくてな」
実を言うと、始が目覚めて最初に目にするものが俺のプレゼントだと良いな。なんて気持ちで贈っているのは始には内緒である。
「俺たちの王様は今年も大忙しだからね」
「王様って言うな」
そんないつものやり取りを終えて、始がヘッドボードの所に置かれた目覚まし時計を手に取った。
「これもお前からもらったやつだったな」
そうだ。アイドルになった年。寮生活とは言え、初めての一人暮らしだ。
その年の誕生日にプレゼントした目覚まし時計を十年も使い続けてくれたのだ。嬉しくないわけがない。
「初めての誕生日は、祝いの言葉をもらった」
「ん?」
突然、始が懐かしそうに目を細め語りだす。
「翌年は、学校の帰り道にこっそりお菓子をくれた。高校生になって、初めて手元に残るものをプレゼントしてくれた」
「もしかして、俺が渡したプレゼント全部覚えてるの?」
「当然だろう? お前は覚えてないのか?」
もちろん覚えている。始も同じだったことが嬉しくて、じわりと胸が熱くなる。
「来年も期待してるぞ、はぁる」
「もちろん、期待していてね。始」
「そして、お前の誕生日も期待していろ」
「それは楽しみだな」
新しい目覚まし時計が、古い目覚まし時計の隣に置かれる。
「古いのは捨てないの?」
「お前から貰ったものを捨てられるわけ無いだろう。一応、まだ使えるしな」
「それじゃあ新しいものあげた意味ないじゃない」
「たとえ壊れても、捨てはしない」
最近よく思うんだけれど、始の愛ってちょっとだけ重い。
「俺のこともそれくらい大事にしてくれる?」
なんて珍しく聞いてみたけれど、聞いてみてから少しだけ後悔した。
俺だって十分重い。
「当然のことを聞くな。いや、もっと言葉にするべきだな」
隣に座っていた肩を引き寄せられて、耳元に吐息がかかりドキリと心臓が跳ねる。
「死んでもお前を愛してやる。大切にするからずっと俺の隣にいろ、春」
始の言葉に、ドキドキが止まらずにいると、ところで。と始の言葉が続く。
「お前はプレゼントとして俺にくれないのか?」
「もうとっくに始のものだしなあ。どう思う?」
「それもそうだな」
ククっと上機嫌な猫のように喉を鳴らして始が笑う。
「じゃあ、毎年俺もあげるから。もっともっと大切にしてくださいな、始」
始を知らない年数が始と歩んできた時間を超えた。
出会ったころは、こんなにも長い付き合いになるなんて誰が思っただろう。
中学二年生の頃の俺に言いたい。
あの出会いが、この先もずっとずっと続く素敵な思いでの出会いになることを。