やわらかな心臓 互いの呼吸音が同じリズムで聞こえていた。いつの間にか変えられていたベッドは、大の大人が二人並んでいても広く眠れる。毛布にくるまれたまま、少し身体を傾ける。淡い闇の中で目が合う。横に寝転んでいた狗飼が後ろ頭に手を差し入れ、柔らかく撫でる。温かさに気を良くして、自分も頬に手を添える。狗飼はなんだよ、といくらかくすぐったそうにしたが、それだけだった。ふり払われないあたり、別に嫌がっているわけではないのだろう。顎に向かって指をすべらせる。髭の感触がざらざらする。頬骨が固いな、と手のひらに包んでみて思った。そっと唇に口付けを落とすと、相手がたじろいた気配がした。それが少し面白くて、何度か繰り返す。鼻先に、目元に、こめかみから走る傷の上に。眼鏡を外しているからよく見えないけれど、感触は克明に傷のありかを伝えてくる。ひきつれまでわかるほど近くにいる。
指先で感触を確かめて辿りながら、指を這わせる。首にまでケロイドは到達していた。喉仏にそっと触れてみる。指の腹に感じる凹凸が上下する。薄暗い部屋では元よりあまり顔など見えない。太く、しっかりしている。自分の力ではきっとうまく絞められないだろうな、とよぎる。するはずもないけれど。
肩、腕。火の這ったあとを服の上からひとつひとつたどる。軌跡。自分の知らない時間。ごわついた毛に覆われた腕を触って、指先で火傷痕との境界を探る。身体を寄せる。男の体臭が強くなる。それも別に不愉快ではない。脇腹に指を這わせ、軽くつついてみる。ここに銃弾が撃ち込まれていたら。あの時弾は当たらなかった。当たっていたら自分はここにはいられなかった。いくら被害者が望んでも、殺人未遂に違いはない。あの上司もそれは許さないだろう。
腹から胸へ。筋肉はしなやかで柔らかく、力を入れると沈み込む。手で触れていても服越しの心臓が熱い。なるほど、と思って、それから何がなるほどなんだろうと自分でも思った。胸に頬を寄せる。あたたかい。汗の匂い。不思議な納得が頭の中に満ちていく。
触れていた身体が布団の中で身じろぎをする。先程より体温が上がっている気がして、ふと顔を上げる。いくらか気まずげな、困惑したような気配。ああ、触りすぎたか………。
笑って背中に腕をまわし、頬を寄せて口付ける。別に、悪い気持ちではない。
背に腕が絡むのを感じながら、目を閉じた。