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    同級生 これまでで後悔していることがあるか?ああ、うん、後悔か………ちょっと思い出すことはあるけど。いや、あんまり笑うなよ、いくら酒の席だからってさ。話せよって、いいけど……だから、笑わないで聞いてくれって。これはちょっと本気で後悔してるんだよ。………笑うなって。
     うまく言えないけど、でもきっとあの時しかなかったんだろうな、ってちょっと思うんだよ。いや、恋とかじゃないんだよ。でも――うん、でも、悪いことしたと思ってるんだよ、本当に。彼、どうしてんのかな。
     ………中学の時の同級生でさ。ちょっと話しただけなんだけど。というか、ちょっと話しただけになっちゃったんだよな、多分俺のせいで。傷つけたんだと思う。……ちょっと、後悔してる。お前とは高校からの付き合いだし、知らないだろ?多分そんなに遠くないとこに住んでたろうから、お前もすれ違ってはいたのかもな。いや、でもすれ違ったりしてたら覚えてるか。見た目でも目立つ人だし。珍しい名字だったからよく覚えてるよ。郁李くんって言うんだけど。
     彼、背が高い方だったから。背中をまるめて、小さくなってるからあんまり大きいイメージ無かったんだけどね。ときどき後ろ手に髪を撫でててさ。細長い感じの。
    うん、いや。………髪の毛がすごい長かったんだよ。高校生だよ。腰ぐらいまであったんじゃないかな。不良とかじゃないんだよ、黒髪だったし。チャラチャラした感じでもないし。
     正直、それまでもいささか目立つ人だったな。いや、騒がしいって意味じゃない。むしろ本人は静かな方だった。クールっていうか、一歩引いたところで見つめてるようなとこがあるっていうか。大人しいとか控えめとか、そういうのとも少し違うかもしれないな。悪い人じゃないんだけど、気安い感じじゃない。クラスでも浮いてたし。
     話したきっかけ?……ただ単に、俺が彼の後ろの席だったんだよ。郁李と植田だから。
     ………一回、放課後に学級日誌書いてる時に一緒になって。勉強教えてくれてさ。俺みんなから掃除押し付けられて、居残りしてたんだよね。
     クラスどころか校内でもトップだったんだよ、彼。すごい頭がよくてさ。不愛想だけど、けっこうちゃんと教えてくれたな。同じとこで間違えても別に怒ったりもしないし。
     長い髪をみつあみにして、いつも垂らしていた。いや、だから。何度も言うけど男の子なんだって。ひょろっとしてたけど。
     彼が歩くたび背中のそれがふらふらとあとをついていってさ。………やっぱり、どうとりつくろったって異質だったと思うよ。からかわれてるのも、好奇の目にさらされてるのも……在学中、そんなに親しくなかった僕でさえ数え切れないくらい、絡まれてるとこ見たし。
    何度教師に絞られても、彼は頑として譲らなかった。なんていうか、ずいぶん頑固な奴なんだと思ったな。成績が悪いわけでもないし、先生たちも強くは出られなかったんだろう。勉強の邪魔にならなければいいでしょう、って。結局いつも小言どまりにさせられてたんだよ。生徒指導の五里先生だけは不満そうだったけど。
     ともかく、俺の知る郁李くんは、ずっとそういう人だった。
     放課後だったよ。校舎裏が騒がしいなと思って、三階からちらっと覗いたら誰か絡まれてて。ああ、ひどいことするやついるんだなって思った。でもなんか声に聞き覚えがあるから、ちょっとよく見てたらさ。数人で囲まれてて……真ん中で捕まえられてるのが彼だったんだよね。
     多分、あの髪の毛のことでいちゃもんつけられてたんだと思う。今思えばそんなの人の勝手なんだけどさ。中学生のときって、ああいう目立つ奴だってだけで目の敵にするやつら、いるんだよな。見た感じだけど、相手の方がでかいし、先輩もいるみたいだったし。
     俺もそりゃ、助けようとか思ったけど。でも親しいわけじゃなかったし。………困っちゃって。声なんかかけられなかった。髪の毛、切られてさ。俺、思わずあっ、って言っちゃって。彼が上を向いて、それで……三階にいた俺と目があった。先輩たちはまだ気が付いてなかった。すぐに肩を押されて突き飛ばされて、転んで。
     情けない話だけどさ、それで俺、結局彼にも、先輩たちにもビビッて何も言わずに逃げちゃったんだ。
     なんで助けなかったんだとか言われると思ったんだけどな。彼、本当に何にも言わなかったよ。次の日、いつも通り黙って前の席に座って。いつもみたいに髪の毛をさぐろうとして、短いから空振りしてた。
     ……………それで俺、本当に後悔してるんだけどさ。その時って中学生で、俺本当にクソガキで。だから弱ってるの見て、ちょっと嬉しかったんだよな。俺もその頃、あんまりクラスでいい立場じゃなかったし。
     だから慰めるつもりで、 「短いのも似合うよ」って言ったんだ。
     本当に大事にしてたんだろうな。今思うとさ、あんなに賢いやつがあんだけのことしてるんだから、そうだって気づくべきだったのかも。
    ……何とも言えないよ。ほんと。ああいう顔、初めて見た。絶望っていうのかな、悲しいとか、苦しいとか、怒りとかそういうのを通り越して、『見限った』って感じの。何にも言えなくなったし、向こうも何も言わなかった。
     ああもう俺、彼と二度と話せないんだと思ったよ。
     ……実際、それから先すぐに席が変わって。それからあとは、別のクラスだったし。会う事も無かったし。
     向こうは、多分もう覚えてないんじゃないかな。
     何て言ってあげたらよかったんだろうなあ。今もたまに思い出すんだよ、あの背中。どこでどうしてるかは知らないけど。
     もしかしたら、今もあの髪形なのかもな。
    umiushi_hanken Link Message Mute
    2021/03/20 13:05:03

    同級生

    同級生の植田君の話

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