夜にひとり 人は毎夜眠って身体を休めるものだが、天司は眠らなくても大したことはない。というよりも、人のようには眠らないというべきか。そもそも身体の造りも、寿命も人のものとは違うのだから、同じように過ごさなくとも支障がないのは当然だ。
だから、次に目指す島まで船が飛ぶ、陸を離れて3日のうちの夜の見張りを、俺ひとりで任されることにした。一時的な共闘のためではあるが、船に身を置く以上、ある程度の役割を果たさなければ、団長たちに余計な借りを作ることになる。それに、元素の動きなどを感知できる俺であれば、見張りは一人でも充分だ。
蒼の少女などはそれでも、お人好しに俺の心配をしたが、むしろ夜は静かで気が休まると言えば、どうにか黙った。
実際、夜も一人も静かでいいと思っていたのは事実だ。しかしいざ夜が来ると、見張りを怠るほどではないが落ち着かない気分になってしまった。かつてのことやこれからのことが脳裏をちらちらと過ぎる。
ひとりで過ごすのには慣れている――いたはずだ。何千何万の昼と夜を、あの研究所で、パンデモニウムという檻で、あるいは繭の中の世界で過ごした。言語に絶するような地獄の日々も、あまりに安穏とした無為の日々も過ごしたのだ。それなのに、いまこうしてひとりでいる一晩が重い。
騒がしいと気が紛れるのだということを、俺は初めて知った。
おそらくは天司長の力が、まだ完全に馴染みきってはいないせいで、安定していないのだ。世界の破壊を望んだあのとき、四大天司の翼を奪ったときすら、あの方から直に奪おうとはつゆと思わなかった真白き六翼が、確かに背にあると感じても。これはそもそもあの方の力なのにと、継いでもなお自分自身が受け入れきれていないのかもしれない。
皮肉なものだ。かつてあれほど渇望した役割が、その力のために今はある。しかもそれは俺が造られた本来の目的の、あの方のスペアとして、だ。ただ、あの方が損なわれて蘇るまでの一時的なものではない。
あの方は死んでしまった。
本当は、力や天司としての役割がほしかったのではなく、俺はあの方の、彼の……ルシフェル様の役に立ちたかったのだ。研究所で過ごした当時ですらそうだった。自身が役に立たない、捨て駒と知ったときの絶望は、ルシフェル様が万が一にも損なわれることなどないと信じていたからこそだ。あの方の代わりになど誰もなれないと、不用品だと言われるまでもなく、スペアの俺こそが分かっていた。それは今でも、そう思っている。
しかし――それでも。俺には罪と約束がある。