古いやつのまとめネロとダンテ / DMC4 (2009年)
一瞬、判断が遅れた。拙いと思ったそのときには、レッドクイーンとリベリオンの刃同士が擦れる軋んだ音が響き、火花が眼前で散る。このまま防ぎきれるのではとも思ったが、膂力の違いは歴然で、あえなく吹っ飛ばされて舌打ちをした。
悪魔の右腕でならまともに受け止めきれるその攻撃も、左手では受け流すのが精一杯か。――最初に会ったあのとき、この男がどれほど手を抜いていたかを、こういうときに痛感する。
空中で体勢を整えながらレッドクイーンを背に納め、右手を地面について、衝撃を逃がして減速する。人のものではない腕に、摩擦熱が僅かに伝わる。抉り取った指の跡が、巨大な獣の爪痕のように残った。
顔を上げて男を見ると、余裕の笑みすら浮かべている。
……憎たらしい。絶対にぶん殴ってやる。
衝撃のほとんどを地面に逃し切った瞬間に、体をバネにして、再び男のほうに走り出す。苛つくことに、男は剣も銃も構えもせず、フリスビーを取ってきた犬でも迎えるように手を叩いて、俺を挑発している。
「Hey! お前が遊んでくれって言ったんだろう? 俺を眠らせる気か?」
「No fxxkin' way!」
空気を切り裂くように右腕を唸らせ、頬を殴ろうとした。直前まで中腰だったその姿勢からでも、あっさりと跳んでかわされる――ことなど分かりきっている。こちらは囮だ。既に抜き始めていたレッドクイーン、着地させる間も無く大きく踏んで薙ぎ払えば避けようがないはずだった。
「坊やの考えてることなんて、すぐ分かる」
その笑いを含んだ声を残して、ふっと、ダンテの姿は消えた。畳み掛けようと空回った剣の機関部が虚しく吠え、勢い余って数度回ってしまう。
何処に行った?
ひゅ、と後ろで風を切る音がして、何かを思う間も空けずに反射的にそこから退いた。――宙返りしながら見えたのは、数瞬前までいたところに叩き込まれていたギルガメスの鋭い刃。それは先ほどの、俺が指で抉った跡など比ではない。獣どころか悪魔の鋭い爪痕だ。
「避けるの、上手くなったじゃないか」
悪びれもせず飄々と言った声に、少し冷静さを取り戻す。そうだ、このおっさんには熱くなっただけじゃ勝てない。
掌の汗を乾かすように数度振って、柄を握り直した。
ダンテ(ネロ・アンジェロ最終戦) / DMC (2009年) ※原作中の一戦妄想
ちり、と痺れが首筋を焼いた。
三度目の邂逅が齎したそれは直感だったが、もう確信に成り果てていた。実際、兜の下から晒されたのは見覚えのある顔だ。しかし、様々なものが、決定的に違っている。もはや「これ」は、あの男ではない、それをまざまざと思い知らされる。
こんな終わりがいつか来ることを俺はあのときから知っていた。だからこそ、勿体無いなどと、後悔を強がりに包んで言うしかない。
けれど、あのとき間に合わなかった、それはもう、どうしようもないのだ。ならば今、俺に出来ることをしてやるだけだ。
家族の尻拭いは、家族がしなければならないのだから。
こちらに向かって放たれたメテオを空中に足場を作って避けながら、それを撃ったことで出来た隙を狙って、剣を叩き込む。しかし3撃目を叩き込もうとしたところで、俺の目の前からそいつは消え、逆に背後からスティンガーで此方を急襲した。咄嗟に宙に跳び上がりながら後方へ回り、その背に剣を振り下ろす。が、それも振り向きざまに受け止められた。どうにも決定打が無い。
力勝負では、体格差でどうしてもあちらが勝る。そのうえ、あの頃と変わらぬスピードがあるのだから全く、たまったものではない。舌打ちしながら、斬撃を弾かれる前に自ら離れて剣を納めて、エボニーとアイボリーを抜きざまに連射する。魔力を込めたその攻撃は、派手な音を立てはするものの、大剣でのガードを崩すには至らなかった。
「くそ、よくこんだけでかく育ったもんだぜ……」
思わずそう独りごちる。あの無骨な剣――あの男ならば主義に合わないと言って嫌いそうなデカブツを振り回すその姿は、俺でも見上げなければいけないほどだった。しかしでかい分、懐に入れば、いける。とはいえ、それを簡単にさせてくれる相手じゃないのが問題だった。
腹立たしいほどゆったりとした足取りでこちらに向かってくる騎士は、魔界の瘴気渦巻く嵐を背にしている。あのときの、手を伸ばせば触れられそうなほどに近くに浮かんだ月とはあまりにも対照的だ。まるで気泡のように記憶は弾ける。対峙すれば、どうやってもあのときを思い出さざるを得なかった。
けれど、あのときと違うのは俺のほうも同じなのだということは、ちゃんと、分かっている。
得物を、復讐者から轟々と猛る焔の魔人に変える。復讐者は不満げに紫電を撒き散らしたが、構わなかった。今必要なのは復讐心じゃないとわかっている。知ってか知らずか、焔の魔人は急かすようにざわついた。
応えるように魔人化し、飛び上がってさっきのお返しのようにメテオを撃ち込んだ。それをガードしている隙を突いて、蹴打と殴打の連撃を叩き込む。最後の蹴りの勢いで跳び上がり、地面に拳を叩き付けた。そこから立ち上る火柱。――さあ、これならどうだ。この熱なら少しでも届いているはずだ。
"あんた"に。
双子共闘 / DMC3 (2009年)※原作終了後if
蠢く闇を切り裂いたのは、銃声と一閃だった。よくよく目を凝らせば、撃ち抜かれ、また斬られたその闇が、悪魔たちの群れであることが分かっただろう。もっとも、彼らを見咎めるものなど誰一人としていない。ただ二人、銃声と一閃を発した者たちを除いて。
砂を媒体とした悪魔たちは邪魔者が現れたと知るや、どこからか同胞を呼ぶ。何もなければ、闇と砂が尽きぬ限り、彼らは際限なく湧き続けるはずだった。一体一体は強大ではないが、数においては圧倒的に勝る。ヘル・シリーズと呼ばれる彼らは、そうして敵を屠る悪魔だった。
しかしこの場において数は無意味だった。たった二人、という言葉は、この狩人たちには到底当てはまらない。
先の銃撃で倒れ伏した悪魔を、ダンテは更に容赦なく踏みつけた。はしゃいだ声をあげて、スケートボードさながら乗りこなしてしまう。悪魔の群れを切り裂いて進むそれは、制御されているようにはまるで見えない。事実、狂ったような動きのまま、壁に向かって直進していく。
しかし、壁にぶつかると思われた瞬間、ダンテはその目の前の壁に足をつき、その勢いのまま壁を駆けのぼる。哀れにもダンテの足元にいた悪魔だけが壁にぶつかり、砂に還った。
壁と地面に違いはないとでもいうように駆け上がる、その人間離れした動き。手には、いつの間に抜いたのか、リベリオンが握られている。
綺麗な宙返りで壁を離れ、その高さからリベリオンが振り下ろされる。自らを追ってきた悪魔を、落ちる勢いのまま真っ二つに叩き割った。
もう一方、ところせましと動き回っているダンテとは異なり、バージルはゆったりと歩を進めている。ただ、閻魔刀を抜く腕だけが、時折僅かにぶれて見え、そのたびに彼よりも離れたところにいる敵が細切れになり、はらはらと崩れて消えてゆく。
オーケストラを指揮する指揮者のような厳しさで、彼はその場を支配していた。もっとも、ダンテだけは彼の支配の及ばぬところ、する気もないところだったが。
彼らが動くたび、あれほど凝っていた闇が、見る間に晴らされてゆく。
合間合間に二人がちらりと交わす視線は互いを挑発していた。彼らにとってこれはただの戯れでしかない。満月の夜に沸く彼らの血は、もっと歯応えのある獲物を求めている。そう、結局のところ、お互いのような。
そしてバージルを掠めるように、しかし傷つけることなくダンテの愛銃から弾が放たれ、そこにいた悪魔の最後の一匹を砂に還す。
それがこの夜の、本当の始まりだった。
バージル / DMC3(2009年)
振り上げられた大鎌は、閻魔刀でのただ一撃で、持ち主ごと一瞬で砂に還った。彼はすぐさま自身の背後にいた敵をフォースエッジで切り上げて空中に投げ出すやいなや、自身も空中へと瞬間移動して閻魔刀を鞘走らせ、高速の斬撃を幾度も叩き込んだ。ほとんど同時に、彼が纏った円陣の幻影剣が追い討ちをかけ、敵はほろほろと崩れ去る。
納刀してから着地した彼を、相変わらず悪魔たちが取り囲んでいる。しかし、自分たちが対峙している相手の実力が分かったのか、悲しげな呻き声をあげながらじりじりと後ずさり始めていた。それもそうだろう、人間ならば瞬きも出来ぬ間に、同族が屠られたのだから。
とはいえ、それを見逃すような彼ではない。ツ、と口の端が上がったか上がらないかのうちに、彼の姿は再び消えた。
そして、何かが光った。それが疾走ののちに再度抜かれた閻魔刀であったことを、攻撃を食らった悪魔は認識する間もなかっただろう。何故なら間髪置かずの、ベオウルフを纏った蹴りで、呆気なくその意識は途切れたからだ。
雑草を刈るよりも容易く、彼の攻撃は敵を滅していく。切り上げられて幻影剣に急襲されるもの、兜割りで叩き割られるもの、身体を貫かれるもの、彼を巻き込むことすらできずに爆発させられた仲間の巻き添えを食うもの――たとえ運良く防御が出来ても、それは消滅までの、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならなかった。連撃であっという間に得物を砕かれ、幻影剣に取り囲まれ、串刺しになる運命を辿るしかない。もはやこれまでと、悪魔たちは慄きながら次々に逃げ出そうとし始める。
だが、彼にとってそれはあまりにも遅い動きと判断だ。
魔人化をした彼が、三度、姿を消すと、その場に残っていた悪魔たちが、次々に球体の別次元に切り取られてゆく。――結果は言うまでもなかった。
「...scum」
つまらなさそうに呟いて、バージルは、静けさの中でゆっくりと閻魔刀を鞘に納めた。
ハンマー使いのうちのこ(女) / MHP3rd(2009年) ※同じ内容を三人称と一人称で書いてみている
(三人称視点)
鞭のように撓る尾が、彼女を武器ごと弾きとばした。
痛みを堪えながら受身をとった彼女は、すぐさま姿勢を整え、走り出す。
相対する迅竜は目を赤く光らせて怒りを顕わにしている。その片方は既に彼女によって潰されていた。短い間とはいえ昏倒するほど、散々に頭を殴られれば、いかな竜の頭蓋骨と云えども無傷ではいられなかったのだ。
縦横無尽に動く迅竜を再び昏倒させようと、彼女は執拗に頭を狙うが、怒り狂った迅竜は段違いに素早い。
迅竜が着地しながら彼女のほうへと身体を反転させる。その瞬間を狙って振り上げられたハンマーは鼻先を掠めたが、振り下ろしたときには、もはや迅竜はそこにいない。
地面にハンマーを叩きつけた衝撃で前のめりになった背を、お返しとばかりに竜の刃翼が急襲する。咄嗟に姿勢を低くして前に転がれば、彼女の上を、ビュ、と鋭く空を切る音がした。
(一人称視点)
鞭のように撓った尾が、私を武器ごと弾きとばした。
一瞬、呼吸が止まったが、痛みを堪えて受身をとる。姿勢と呼吸をどうにか整え、すぐに身体をバネにして走り出した。動かずにいれば的になるのは私のほうだ。
向かう先、相対しているのは迅竜。隻眼を赤く光らせて怒りを露わにしている。閉じられているほうの目は、先ほど昏倒するほどハンマーで殴りつけたときに潰れたらしい。
縦横無尽に動く迅竜は、怒り狂っていると更に素早く動くので厄介だ。弱らせるには再び意識を奪うしかないと判断して頭を狙っているが、それこそが難しい。
跳躍した迅竜が、着地しながら体を反転させる。私のほうを狙うその瞬間こそを狙ってハンマーを振り上げていたが、下ろしたときには既に迅竜はそこにいなかった。思わず舌打ちをする。まったく素早い。
ハンマーを地面にめり込ませた衝撃で、前のめった背はガラ空きになっている。これまでの行動パターンからの判断と勘で、咄嗟に前に転がれば、案の定、私の真上の空を鋭く切る音がした。刃翼だ。単純に攻撃力を殺ぐには頭よりこれを刃毀れさせるのが一番だけど、何しろ硬いので破壊するには骨が折れる部位だった。