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    奇面組の一堂零と教師の事代作吾が大晦日の夜道を歩く話除夜の鐘だ。
    月明かりを頼りに人気のない道を、彼と歩く。普段は誰一人通らないところでも、不意打ちのように、誰かが誰かと連れだって歩く大晦日の夜だから、油断がならない。寒くないか?とか言いながら、彼は自身のコートのポケットに手を突っ込まず、いつでも私に手を繋がせていいように、寒さに耐えている。けれど、手を繋ごうとは、彼は言ってこないし、私も言わない。私たちは教師と生徒で、男と男だからだ。
    「鐘をつく音だけが響くなんて静かなもんですね」
    ほんの数時間前、テレビから流れる紅白歌合戦を聞きながら、手を繋ぐよりも深くて重い行為を、我々はしていた。あの時の甘辛いような気持ちが胸の中に刻まれている。彼の横顔を見るたび想いが募るのだ、それなのに。
    「こっちは一足早く、お前を目一杯ついたけどな」
    とんでもない下ネタを、平気で彼が言うのはどうしてだろうか。
    「道端ですよ?」
    「さっきから、手が寒いんだが」
    「繋ぎません。人に見られたらどうするんです」
    大晦日から元旦の年跨ぎの夜。空気はしんと冷えて皮膚を引き裂くように鋭い。除夜の鐘をつきにいく家族連れか恋人か仲間が、身を寄せ合って暖をとる夜だ。道端で、誰に見つかってもいいように、彼との距離は理性を保っている。
    「一堂、お前、奇面組の連中と、鐘をつきにいかないのか」
    「事代先生こそ、ご両親と年越ししなくていいんですか?」
    誰に聞かれてもいいように、下の名前を呼ぶのを避ける。コロッケ買ってきたよ、作吾さん。紅白見るぞ、零!そばの出汁濃くない?作吾さんなどと、部屋の中では呼び合っていたくせに、部屋の外に出てしまったら、この通りだ。二人の仲を匂わせることを避けてしまっている。世間にバレては色々まずいことを、我々はあえて口に出して確かめあわない。言ってしまえば、部屋の中の楽しい思い出が半減してしまう。信頼かな?それともこれは思いやり?世間体じゃないのと自嘲しだした心を一掃するかのように、ごーんと煩悩を払う、除夜の鐘がなる。
    「ありがとな。俺と楽しく過ごすほうを選んでくれて」
    「急にまた、なんですか」
    さらに、愛しくなって彼を見る。身長は変わらないけど、肩幅も胸板も私よりも分厚いし、子供っぽく笑った表情なのに、うんと大人を感じてしまう。
    「お前には、奇面組とか家族とか大事なものがいっぱいあるだろ?」
    奇面組とか家族とかは、大晦日の夜に、素っ裸になって布団の上で寝技をかけあったりしない。素肌を合わせたまま、抱き合って来年の話をしたりしない。
    「少しは自惚れてくださいよ。私があなたを選んでる理由なんて、とっくにわかっているでしょうが」
    絶頂とか快感とかどうでも良くて、彼が私を大事に思ってくれるだけで良かったのに、行為が心の垣根を取っ払い、喜びも恐れも未来も過去も飛び越えて、私は何があっても、作吾さん、あなたの味方になるんだという気持ちになっていた。
    「私はもう、家族も世間もどうでも良くなってます」
    これほどまでに、自分が性に溺れる人間とは思わなかった。今だって、手を繋ぎたいし、彼の体温を確かめたいのだ。
    二人の間に沈黙が流れる。それを縫うように、除夜の鐘が鳴る。あなたの部屋で食欲を満たして、なんとなく、寄り添って、あなたが私を、私があなたを認め合って、お互いのものだと確かめ合って。他人には絶対に見せないところを見せあって。この欲求が、世間や除夜の鐘が認めないというなら、一体、私たちはなんだというのだ。
    「……一堂」
    下の名前で呼んでくれたっていいじゃないか。
    「やっぱり帰りませんか。先生は独りぼっちで除夜の鐘聞きたくないでしょ」
    胃袋を満たして、性を満たして、そのあとは、一緒にお互いの心音や息遣いを感じながら眠りにつきたいと思っていた。けれど、朝帰りだけは、決して彼は許してくれなかった。
    「馬鹿を言え。俺のうちだぞ、あそこは」
    ここでようやく、彼は私の手を繋ぎ、私の家の方向に引っ張って行った。
    「行くぞ。ご家族も待ってるだろ」
    素っ裸で抱き合った時に交わした来年の話。車を借りて何処かへ行きたいとか蛍が飛んでいる場所を知っているとか。それなのに行こうという約束すらしなかった。ふわふわした楽しさだけを感じていて終わりにしておきたかったのだ、二人とも。
    除夜の鐘が鳴っているのは幾つ目だろう。欲求がどんどん募っていく。彼が、お前にとって大事なものだと言ってくれた、私の仲間も家族も、欲求を遮るしがらみにしか思えなくなってきた。
    「私たち、今度はいつ会えるんですか?」
    私の問いに、彼は繋いだ私の手をぎゅっと握りしめ、歩みを止めてから、私を見つめた。
    「……いつでも、会いに来ればいいだろ?俺たち、付き合っているんだし」
    「え?」
    「え??」
    行為が愛の言葉だと思っていた。それ以上は聞いてはいけないと思って、私は彼に気持ちを確かめたことなど無かった。
    「付き合ってるなんて、きいてませんよ?」
    私の声がかすれている。冬の鋭く冷たい風が肌や喉に沁みただけではない。
    「なんだ、やっぱり俺はお前の遊び相手か」
    寂しそうに彼は呟くと、私の手を再び引っ張り、さ、帰るぞと、私の家の方角へ歩き出した。
    除夜の鐘が響く。一緒につきに行きましょうといえば、彼ならきっと、笑って付き合ってくれたに違いない。一緒にいたい、わがままを言いたい、食も性も睡眠も一緒くたにして、そばにいたい。それが煩悩というなら、私はもう、悪い子のままでいい。
    「遊び相手でも、恋人でも、どっちでもいいです。大晦日くらい朝までいたってどうってことないでしょ?」
    「駄目だよ。待ってくれる親御さんの為に帰れ」
    「先生の方が、私のこと遊び相手だと思ってませんかね?だから、私のこと帰したがるんだっ」
    瞬間、私は彼に、胸ぐらを掴まれた。胸ぐらを掴まれるときの電光石火の速さと力強さに、やはり彼は、自分よりも大人なんだと感じた。胸ぐらを掴まれた戸惑いを感じる私に、彼は瞳に後悔の色を見せたが、私と行為をするときと同じ、強い瞳で見つめ返した。
    「悪かった、零。……でもな、これだけはわかってくれ」
    先生を困らせているのは私だ。行為だけでなく、わがままを言っては、私は彼に色々なものを刻みたがっている。
    「愛してるからな、お前のことを」
    「なんで、このタイミングでそれを言いますかね?」
    本当にあなたは間が悪い。私はそう呟くと、彼の胸ぐらを掴み返し、彼の唇に自分の唇を重ねた。随分と柄の悪い口づけの仕方だ。
    「人に見られたらアウトですよ」
    私は素っ気なく彼を突き放した。愛の言葉を私は自分から求めたこともない。愛など態度から滲み出るものだと、駄々をこねて欲しがるものではないと父子家庭で育った約束だからだ。だけど、私は馬鹿だ。証が欲しかったんだ。
    「かまわん、お返しだ」
    布団の中と変わらないくらいの激しさで、彼は私の唇を求めた。
    「作吾さん……」
    彼も、なにもかも置いて、私と一緒に居たいのかもしれない。二人ともがそれを選んだその時は。
    「あなた、馬鹿だ」
    祝福の鐘は鳴りひびかない。あなたは底抜けにお人好しだから、私が少しでも不利にならないように、わがままの芽を摘んでいるのだろう。家に居場所を残して置くように。友達のことは忘れないように。……いつでも会いにくればいいと、私に言い残して。
    未練を振り払うのは、除夜の鐘だ。

    「うちに上がって行きません?なんならお茶くらい出しますよ?」

    家に着いた。繋がれた手は放し、二人の表情は学校にいるときと大差ない、理性の色だ。
    「馬鹿、お前。親御さんに怪しまれるだろうが」
    「生徒と会ってて、怪しまれる教師ってなんなんですかね?」
    ニヤニヤ笑いが止まらない私に、彼は軽く小突き出した。
    「いたっ。先生は軽く小突いたつもりでも、あんた結構な馬鹿力だってば」
    私は彼にチョップをお返しすると、小さな声で、唇を吸う力も弱めてくれると助かりますと、彼の耳元で返す。真っ赤になる彼を見遣って、おやすみと呟き家に入ろうとしたところで、私は彼に呼び止められた。
    「零!」
    「もー。次はなんです?」
    家の前で、下の名前で呼ばれた戸惑いを感じながら返事をした私に、彼はいつものような子供っぽい笑顔で言った。
    「今年は、車借りていっぱい遊びに行くからな!」
    約束は、守る為のものだと、彼は以前から言っていた。
    こまつ Link Message Mute
    2019/02/06 2:28:31

    奇面組の一堂零と教師の事代作吾が大晦日の夜道を歩く話

    ほぼ痴話喧嘩です。
    #奇面組 #腐向け #小説

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