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    思春期は二度来る最初は感動していた、誰かとの口づけや抱擁や裸の体に触る感覚も、回数や相手が代わるにつれ、感動も薄れていく。

    「庵野くんとホノオくんのせっせは、今日はシないの?と誘われて、お風呂で致してしまいます。久しぶりの行為に、もっともっとと求めてしまいます。早くも愛撫で絶頂を迎えた身体は挿入に耐えきれずまたイってしまいます」


    10年前、炎尾燃が庵野と戯れで開いた、創作用のお題アプリケーション、診断メーカーで遊んだ内容だ。いまでも、ソラで覚えている。その当時の性急さを思い起こし、炎尾は苦笑いをした。炎尾燃は、昨晩、抱くまいと心の中で誓っていたはずのアシスタントの萌と寝てしまったのだった。根は純情で生真面目な炎尾は、責任を取るべく、萌に交際を持ちかけたが、萌は笑ってすり抜け、帰っていった。一人自室に取り残された炎尾の心には、甘辛い思いだけが残され、彼女の名残を消すために、風呂に入る。


    炎尾燃が、本名の焔燃だったころ、初めて誰かと関係を持った場所は、風呂場だった。




    「思春期は二度来る」




    十年前、だった。

    漫画家の炎尾燃は、当時、女性を知らない自身の体を、庵野に開発された。お互い、血気盛んな二十歳前だった。 

    きっかけは、炎尾燃が本名の焔燃であり、まだ何者でもない、ひとりの芸大生だった頃、先輩の彼女と称される、年上トンコに一冊の本を手渡されたことが始まりだった。

    「トンコさんが貸してくれた、シャアとガルマの恋愛の軌跡を追うために、お前の力を借りたいのだ、庵野」
    「本当に、二人は恋愛なのかな?ホノオくん?」
    「……恋愛……じゃないのか?」

    同じ芸術大学に通う庵野秀明と共に、焔燃ことホノオは、機動戦士ガンダムの同人誌を読み耽っていた。ホノオが密かに恋い慕うトンコが勧めるガンダムの同人誌は、いずれも、シャアとガルマの恋愛事情がメインであり、お互いがライバルであり、戦友、そして、シャアにとっては亡き父と母の仇の息子という因縁から、一大叙述詩ともいうべき愛憎劇がどの同人誌からも、繰り広げられていた。

    「確かに、これほどの因縁とそれぞれの背負うものに大きさを考えたら、恋愛などというポップなイメージは湧きづらい」

    表現者として、トンコさんは俺に一皮むけろと言うつもりで、これらの本を俺に託したのだろうか?ホノオは、なんとかシャアとガルマの情念を理解しようと、シャアとガルマの十八禁のシーンを見つめていると、庵野は飄々とした口調で、ホノオに問いかけた。

    「こいつら理由をつけたがるけど、どの道、やることやってるじゃん」
    「下品だな、庵野は!」
    「女の子も同じだよ。手っ取り早く発情したいくせに好きだ嫌いだで勿体つけるんだよ」
    「……サイッテーだ、お前っ」

    男は両極端だ。トンコと比べると、それはホノオも分かっていた。女子は生活も遊びも勉強も、ソツのない範囲で行動するが、男子は何もそこまでという部分に振り切れる。創作を学ぶ学生が集う芸大では特にそれが顕著だった。
    ホノオは、トンコさんも芸大生である以上、なんらかの創作者ではあるはずだと思っていたが、彼女の口からはその類の会話はなく、今付き合っている彼氏の話やバイト先の話、たまに将来への憂鬱や、友達との出来事がメインだった。ゆえに、彼女から、このような愛憎溢れる男同士の関係性を濃厚に描いた同人誌を手渡された時、驚きを隠しきれなかった。これはなにかの意味合いがあるのだろうかとホノオは悩み、自身が敵視しつつも認める庵野と、同人誌を広げたのだ。


    「もう少し、人生を楽しんだら?ホノオくん?」

    同人誌は、庵野と腰を並べて、ホノオの狭いベッドの上で見た。

    「本の中は本の中で、描き手のイマジネーションを借りているだけに過ぎないよ」

    思い返せば、あいつは俺の腰に手を回していたと、ホノオは振り返る。書き手のイマジネーションの反語はなにかと、ホノオは無理矢理逆転の発想を求めた。

    「庵野。俺と一緒に、シャアとガルマの追体験をしてくれないか?」
    「ホノオくん、正気かい?」

    庵野も以前に言っていた。男同士の体験はしたことがないと。ホノオは庵野とならば同じ創作者として、何かが掴めるはずだ。庵野はご丁寧にも、自身のiPadを取り出し、創作用のお題を探し当て、この通りにしてみようと提案したのだった。


    追体験は、形だけのつもりだった。

    「庵野くんとホノオくんのせっせは、今日はシないの?と誘われて、お風呂で致してしまいます。久しぶりの行為に、もっともっとと求めてしまいます。早くも愛撫で絶頂を迎えた身体は挿入に耐えきれずまたイってしまいます」

    結局、成り行きで風呂嫌いの庵野の体を洗う羽目になり、お返しにと、庵野がホノオの体を愛撫すると、あとはもう、めくるめく世界に踏み入れていく。

    「キス以外なら、まだなんだよね、ホノオくん」
    「……あんの……」

    振り解こうと思えば振り解けたはずだ。風呂場で、二人は裸で。お互いを隔ているのは、局部に巻いた頼りないタオル一枚のみで。

    「硬くなってるね……ホノオくん」
    「やめろ、庵野……」
    「やめたら君は、がっかりするんじゃないかなぁ」
    「………男だぞ、俺は」

    頼りないタオルを剥ぎ取らないまま、庵野はホノオに泡立てられたままの髪を、ホノオの腹部に擦り付け、大樹を抱くセミのように、ホノオの腰や太腿に、庵野自身の両腕を纏わり付かせる。ホノオの局部を責め立てない代わりに、ホノオの皮膚に、庵野の肌や髪の毛を擦り付けていて、それがホノオにとって、なんとも言えない、切なさとむず痒さを刻み込ませていた。

    「ああ、あ……」
    「女の子みたいだね、ホノオくん」

    ホノオは目を薄く閉じて、庵野がホノオに与えた、くすぐったさと気持ちよさが交互に湧いてくる感触に浸っていた。

    「お、俺が……」
    「なあに?ホノオくん。聞いてあげるよ??」
    「俺がいま、ガルマの方でいいのか?」

    ぶっ。

    庵野はたまらず吹き出した。

    「答えろ、庵野!なにを笑っている?」
    「……坊やだからさ、君が」

    シャアか、お前は。ホノオがそう言い返そうとした刹那に、庵野はホノオに口づけをした。

    「んん、ん、んんふ」

    愛読していた少年サンデーでボーイミーツガール的に交わす、乾いた柔らかい口づけではなく、もっと湿って硬質な庵野の舌の動きに、ホノオは吐息をもらす。

    「君が、ガルマだからなんだっての?ホノオくん」

    庵野も、自身の竜巻のような舌の動きに心も肌も紅潮していた。ホノオが髪を洗っている時に、ただならぬ関係を持つ女の子との仲を匂わせ、ホノオにキスくらいしたことあるよねとからかった、大人びた庵野が、いま、ホノオを見つめる瞳に余裕を見せていない。

    「トンコさんって人と、キスしたことあるって言ったよね。なら、表現者の君は。男だとか女だとかで、役割で気持ちを交わしていたの?」

    おっきくなってるじゃん。庵野はそう呟くと、ホノオの最後の砦の、局部を隠すタオルに手を伸ばし、ホノオの青年の証を、ゆっくりとしごいた。

    「これで、トンコさんって人を喜ばせようと思わなかった?」

    庵野の手のひらの強く弱くの動きに耐えきれず、ホノオの肉の塊が上下に揺れだす。

    「トンコさんは……、先輩の……彼女だし」
    「それだけじゃないんでしょ」

    庵野はホノオをゆっくりと包み込むように押し倒した。

    「君は、なにかになるのが怖いんだ」

    ホノオは、冷たいタイルの上に自身を横たわせると、そっとため息をついた。庵野が俺を見下ろす角度にいる。……あ、舐められた。ふぇらちおってやつかな、これ……。女の子にもされたことないのに。……トンコさんはしたことあるのかな?村上先輩に。

    「君が僕に、あの本の中のシャアになれって言うなら、君はね」

    庵野の唇は、ホノオの塊を責めるのをやめ、代わりに体を重ねて耳元でささやきかけてくる。

    「ずっと、僕が君の呪いになるよ」

    トンコさん、君を待っていたのかもしれないのにな。と意地悪く、庵野は呟き、ホノオの両足を広げた。

    「なんで?トンコさんには彼がいて、俺と庵野は男同士でそれで……」
    「わいが、人生楽しめばええて言うただねぇか?」

    庵野は、故郷の言葉で返した。お互い、故郷から離れて、大阪の地で育んだ友情に似て嫉妬にも似た感情。自由すぎる芸大の雰囲気に逸脱したままの人間もいたし、庵野のように高みに行った人間もいる。俺はどの位置だ。大阪の芸大で、まだ自分には何かあると、大阪弁に染まらなかった庵野とホノオだった。

    「下宿に来いって言われたんだろ?トンコさんに。男に決めさせるトンコさんもずるいけど、カマトトぶるホノオくんもずるいよね。君は自分に失望したくなくて、トンコさんの気持ちに気づかないフリしたかったんだ」

    庵野がホノオの塊の下の、柔らかな陰嚢に手を触れてそっと撫でると、庵野の中指は、ホノオの菊門をつつきだした。

    「あ、あんの、あんのっ!!」

    トンコさんも、村上先輩の下でこんなふうに喘いだのだろうか。トンコさんの口から村上先輩の惚気は聞いたことがない。聞いたことあるのは、二人の今後の展望と、時々投げやりになって、ほかにええ人が見つかるかどうかわからんし……という会話だ。……まさか。俺に賭けていたのだろうか?トンコさんは。

    「俺、トンコさんとなにもしてないのに……」
    「お尻まで責めてくる女の子ってなかなかいないよね」
    「すまん……、俺、本当はキスも……」

    トンコさんとキスすらしたことがない。根は正直者のホノオに対し、庵野は口をついて出た言葉をかき消すように、ホノオの菊門に中指をめり込ませて、腹の方角へと優しく上へ揺らした。

    「………あああ!」
    「聞きたかないね、ほんとのことなんか」

    感じたことのない、骨盤を揺らされるような快感に、ホノオの怒張した肉茎と背筋が、ピン!と震えだした。

    「だ、だめ、だ……。あんの……」


    君も表現者なら、とびきりの嘘で、僕を酔わせてくれよ。

    庵野がもう一つ、人差し指を添えて、ホノオの中に侵入して、ホノオの中をゆっくりと掻き回していくと、ホノオの肉茎は快楽の深さを表すようにびたんびたんと自身の下腹の上で踊った。



    あとのことは、前後不覚で覚えていない。ただ、快楽に耐えきれず、うわごとのように、庵野のことを好きだと言った記憶だけが残っていた。庵野には、本の中は本の中のイマジネーションの世界だとか、とびきりの嘘で酔わせてくれと言われたが、ホノオにとって残された記憶や感情は生々しい現実だった。

    シャアとガルマの本をトンコに返しにいった際、トンコはひとこと、漫画を描ける才能を持つ、ホノオくんが羨ましかったと言って、寂しげに笑った。
    トンコとは、それっきりだ。
    トンコは村上先輩と別れたと風の噂で聞いたホノオは、トンコさんも、何かしら自分の才能に賭けてみたくなったのだろうかと、彼女の幸せを願った。





    ふたたび、炎尾燃の話に戻る。

    アシスタントの萌にとっては、炎尾と寝たことは、一晩限りのことにしたかったようで、あれから炎尾と二人っきりになることを避けているようだった。

    「……まぁ、いいか」

    萌のことは好きだ。だがそれは、炎尾自身が年頃だからとか、萌が自身に好意を抱いてくれている、結婚を意識するには最適な女性である感は否めず、炎尾は結局、庵野とのインパクトを超える「恋」には至っていない。トンコさんは出会えたのだろうか。あれから、庵野も炎尾も大学を中退し、大阪は青春時代を過ごした夢の土地になってしまった。庵野との二十歳前の性交渉から、十年の月日が流れた。庵野は自身のアニメーション会社を設立し、ホノオは炎尾燃として漫画家として、大阪にいた頃には狂おしいほど思い描いた、花の東京に暮らしている。

    それぞれ、二人忙しく、顔を合わせることはないかと思えば、そうでもなかった。

    「ずいぶんと雰囲気が変わったね、炎尾センセ」
    「センセと言うのを、辞めてくれないか、庵野」


    炎尾の横で酒を酌み交わすのは、庵野秀明だ。

    画業で身を立てる二人は、なにかと審査員の役割やら企画やらで一緒に仕事をすることが多かった。今日の二人揃っての対談が長引き、対談が終わった後も当時の学内の話にも花が咲き、偶然にも二人揃って、翌日のスケジュールは余裕があるからと、二人で酒を延々と酌み交わしていた。

    気がつくと閉店時間になり、終電も間に合わず、タクシーも捕まらず、庵野と炎尾は夜の街をそぞろ歩く。


    「庵野」
    「んー」
    「俺、変わったか?」

    たびたび仕事で顔を合わせる。変化は気づきづらい。お互い仕事の話はすれど、プライベートの男女関係までは探り合わないし、ましてや、風呂場での行為は一度だけのことだった。

    「あの時より、肩幅広いし、胸板も厚くなったし、背も伸びたかな?センセ」
    「だから、センセはやめろって」
    「人も雇うようになったんだよね」
    「……あぁ」

    それは、庵野のほうもだ。お互いを庵野と炎尾は眩しげな眼差しで見つめあった。

    「炎尾くん」
    「あぁ……」
    「遠いところに来ちゃったね、僕たち」

    炎尾の肩を、庵野が組み出す。炎尾はその手をそっと握り返した。あれから、描きたい話を描けたこともあれば、不本意のまま閉じた話もある。庵野に組み敷かれながら聞いた、君も表現者なら飛び切りの嘘で俺を酔わせてくれよと言われたあの日を思い出した。
    嘘なもんか。全部、俺の感情の切って出しだ。
    表現を休んだトンコさん。目先の色恋よりも結局は自分の表現者としての道を選んだ萌。誰かに出会って誰かに恋をする。歳を重ねるほど、誰かに伝えたい表現が増えていくけれど、その分、感動の幅が小さくなっていく。

    「まだ、頑張れるよな、俺たち」

    炎尾が握った手を、庵野はさらに握り返す。そのまま庵野は炎尾に、いい男になっちゃってと囁くと、身体を離した。

    「庵野?」
    「いやあ。やっぱり、僕。まだ君のこと、好きだわ」
    「え??」

    庵野は、炎尾の顔を恥ずかしくて見れないとばかりに、うつむいた。

    「楽しめばいいとこを馬鹿みたいに考え込んで、ぶち当たったり。誰かのこと本気で悩んだり。僕は君の呪いになるって言ったけどね。逆だった。君が僕の呪いだったよ」

    庵野は普段のにやけ顔から、想像もつかないくらいの真剣な表情を向けると、炎尾に唇を重ねた。

    「恋、してたな。ホノオくんに。だから、もうこのキスで呪いはおわりだね」
    「庵野!」

    踵を返し、庵野は炎尾から遠ざかる。

    「なんだ、お前。あの時から、嘘で酔わせてくれだの、本当のことなんか聞きたくないだの!」
    「怖いんだよ!」

    庵野は振り向いて、炎尾に言い返した。

    「君はいつも剥き出しで真剣なんだから!同業者なもんか。これから先は、ずっとライバルだっての。人まで雇っちゃったし、後戻り出来ないぜ?だからもう、この気持ちに……」
    「庵野」
    「あぁ、もう。なんだよっ!」
    「俺はあの日、ガルマだったか!?」
    「へ?」

    突然の炎尾の言葉に、庵野は面食らう。驚きのあまり、硬直する庵野の腕を、炎尾は掴んだ。

    「……その、気持ち良過ぎて覚えていないのだ。俺は全身でお前を受け止めきれたのかと。あれから、女の子とも恋愛してきたし、お前もそうだろう?今なら、もっとお前のことを……」

    すうっと深呼吸をすると、炎尾はひときわ煌びやかなネオンの街の方角を指さした。

    「お前のことを愛してやれる!」
    「……そっち、ラブホテルだよ?」


    炎尾が強くうなづくと、庵野が歩み寄り、二人の影がひとつに重なった。

    「参ったなぁ。続きやるの?十年前の」
    「お手柔らかに頼む。あの時のように風呂場のタイルに、直で寝そべるのは辛いからな」
    「浴場で欲情……」
    「大喜利をしたいわけじゃないんだぞ、庵野」

    咳払いを炎尾がすると、庵野はニヤニヤと笑って続けた。

    「こっちは風呂に入るたびに、君のこと思い出してたよ。ホノオくん」



    二人は確かめ会うように、お互いを抱きしめた。

    こまつ Link Message Mute
    2020/10/17 13:51:54

    思春期は二度来る

    #アオイホノオ

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