離さない。離したくない。義勇視点
体育の授業。
今日はいつもより寒く、体育館の中でも寒さを感じる。
生徒たちもジャージを着ていて、寒そうに震えている。
……あ、善逸。
善逸だけはジャージを着ていない。
忘れたのだろうか?
他の生徒より震えている善逸に近寄り、自分のジャージを羽織らせる。
……雷の夜の時も、こうだった。
善逸「あ、せ、先生」
義勇「着とけ。風邪をひくぞ」
善逸「あ、ありがとうございます。」
義勇「昼休みに返してくれ」
善逸「え、でも」
義勇「洗濯などしなくていい。」
善逸「あ、え、は、はい…」
自分は別に寒いのには強い。
善逸の友達……だろうか?が、それ誰の?って聞くのが聞こえた。
……雷の夜、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた善逸が脳裏をよぎる。
少しも変わっていない善逸の性格に、なぜか安心感がある。
ーー
昼休み。
後ろから足音が近づいてきたのに気づき、振り向くとそこには善逸がいた。
しっかりと畳んである自分のジャージに目を向けた。
善逸「あ、あの、ジャージ、ありがとうございます。先生……」
義勇「先生、じゃないだろう」
善逸「っ……義勇さん。」
義勇「……良し」
善逸「うぅ、何か恥ずかしいですよぉ……」
下を向く善逸。
畳んであるジャージを手に取り、すぐに腕を通した。
ふわり、と善逸の匂いがする。
義勇「……ありがとな」
ポン、と善逸の頭に手を乗せる。
大量の綿を触ってるようだった。そして暖かい。
善逸「ありがとうございます。」
やっと上を向いて笑ってくれた。
頭を少し下げ、去っていこうとする善逸の後ろ姿を見て、何故か急に不安になった。
向こうに行ったら、もう会えない。そんなあり得るはずのない事が、この後本当に起こってしまうような予感がする。
義勇「待て」
善逸「?」
善逸の腕をしっかりと掴む。
安心する。
善逸のすぐそばに行き、距離が近くなる。
善逸「え、ぎ、義勇さん?」
義勇「……」
返答はしなかった。
俺はそのまま善逸を抱きしめた。
暖かい。
ずっとこうしていたい。
暖かい……
善逸「ちょっ、義勇さん、何してるんですか」
義勇「……」
善逸「何か言ってくださいよ」
義勇「……ない」
善逸「え?」
義勇「離したくない……」
善逸「……っ……」
善逸も力を入れて抱き返してくれた。
善逸「……俺も、離れたくない……」
明日も明後日も、善逸がいるとは限らない。
いついなくなるか分からない。
だから…今だけはこうしていたい……
この世でたった一人の善逸を、もう手放したくないから。
宇髄「……面白れぇ奴らだなぁ……」
胡蝶「……ふふっ、二人とも、仲良いですね。待ち受けにでもしましょうかね……この写真」