注:パラレル文です。
-----------------------------------------------------------------------
「なぁ、直江。オレ海が見たい」
高耶が突然そんな事を言い出した。暑くなってきたからだろうと直江は頷いて「いいですね」と高耶を振り返ると、そこにはぼんやりと遠くの何処かを見つめた高耶が窓の前に立っていた。
「……相模の海がいいな……」
「相模ですか……」
直江は同じように窓の外を見るが、今は闇戦国終了後の残党狩りとも言える怨霊退治の為に各地を飛び回っている最中なのでここは相模でもなく、まして海さえも見えない土地だ。
しかし今、窓の外の景色を見ている高耶の目にはきっと懐かしい海が見えているだろう。
「たまには息抜きも必要ですしね。今度予定を調整して出かけましょう」
何故今になって三郎として生きた時代の海が見たいのか不思議に思った直江だが深くは追求しなかった。
「……この前ある怨霊を調伏しようとした際、あれは兄弟だったか、兄と思われる霊が必死に弟を庇ってただろ?」
「ああ、あなたがその後調伏を諦めて自発的に逝かせた霊……」
兄霊は怨霊となった弟の為に頭を地面にまで擦りつけ高耶たちに懇願したのだ。
どうか見逃してほしい、と。
しかし見逃してはまた怨霊として暴れる。だから放ってはおけない。そう言うと兄霊は弟を抱きしめて、ならばこのまま一緒に、と言い出したので弟はその腕の中で暴れたが兄は決して離さずに弟に口付けをした。弟は目を見開いて黙った。
そして兄は弟の耳元で何か囁いた途端、弟はいきなり泣きじゃくって今までの邪悪なオーラが消え、兄を抱きしめた。兄の囁いた言葉は高耶達に聞こえなかったが、それはなんとなく分かった。
そして二人は抱き合ったまま逝ってしまった。
その情景をただ見送ってしまった二人。なんとなく歯切れが悪い感じでその場を去ったのを覚えている。
「……兄弟、ですか。兄が恋しくなりましたか?」
直江が単刀直入に聴くと高耶は素直に頷いた。
「やっぱ、いいよなって。そんでそういや小さい頃に氏照兄に海に連れていってもらったことを思い出した。昔と今とは景色は全然違うが、香りは同じだろうなって」
あの海岸には嫌な記憶もあるが、何より幼い頃過ごした穏やかな海の時間が懐かしく蘇った。
「還りたい……ですか?」
直江が高耶の後ろに立ち、そっと高耶を抱きしめる。高耶は小さく首を振って、
「そんなんじゃねぇよ。ただ、懐かしいだけだ」
そうして直江にまわされた腕をキュ、と掴む。
「オレの居場所はこの腕の中。それでいい」
「……高耶さん」
直江は愛おしくなって高耶の頬にキスを落とす。
「この腕の中から離しません」
「それで、いい」
高耶は同じ言葉を繰り返して今度は自分から口付けた。
甘い時間が濃厚な時間へと切り替わる。
やがて疲れ果てて眠りに着いた高耶の夢は、今夜はきっと懐かしい相模の海と優しい兄の夢だろう。
END
------------------------------------------------------------------------
意外と長くなりました;
そろそろリハビリに慣れてきたようです。
やっぱり直高は大好きです!!!