6「Tradition Dullahan」 登校道中。
俺とセリーナは急いでいた。
……いや周りから見たら急いでないな、本当に急いだらセリーナの首が外れて騒ぎになる……
しかし、俺たちは間違いなく急いでいる。
俺とセリーナの間に、会話がないからだ。昨日は会話しながら登校しても普通に間に合ってたから……
大通りを抜け、高校にたどり着く。
時刻は8時55分。ギリギリ間に合った……!
……と思ったのだが、思わぬ事態が起こってしまった。
「おーい……そこのもやしとかわい子ちゃん……」
突然の恐らく俺とセリーナを呼んでいるのであろう声。
こんな時間なのに俺のことを呼ぶような、そして明らかに先生ではなさそうな声に構っている暇はないと、俺とセリーナは無視して校舎に入ろうとする。
「待ちやがれ!! この黒虎愚連隊(ブラックタイガーフーリガンズ)隊長の俺様の声を無視とは……いい度胸だな!!」
突然1人が怒り出し、俺の前に飛び出してきた。
道を塞いだのは、明らかに不良の4人組。
右から2人目の赤髪に染めてる奴が多分リーダーだろう。
そして、4人とも何かしら武装している。
確かこの4人は1年生のころに乱痴気騒ぎを起こして退学処分にされたはずだ。
だが、退学にしたにも関わらず高校に乱入してくるので、教職員一同も手を焼いているそうだ……
って言うか……ずっと疑問に思ってたがブラックタイガーって虎じゃなくて海老じゃね?
……あっ! 一応言っておくがこの高校は不良がうろつくような高校じゃないからな! こいつらがイレギュラーなだけだ!
「もやし……とりあえずその女を置いてどっか行きな……死にたくないのならな!」
リーダーの男が言う。
「……」
俺はこんな奴と言葉を交わしたくないと、ひたすら無視を貫いてこいつらを突っ切る場所を探していた。
セリーナも無言だ。
「……何とか言ってみろよ!! オラッ!!」
リーダーがしびれを切らして怒り出し、4人がセリーナに飛びかかる! 危ない!!
俺は思わずセリーナの盾になるようにセリーナの前に立つ!
「――さん!!」
「もやし!! 邪魔だ!!」
手下の男が俺の顔面にパンチを入れる。見事にクリーンヒットし、俺は倒れてしまう。
「ぐはっ!」
俺は顔に走る激痛で立ち上がることができない。
っつ……本気で殴りやがって……!!
――さんが顔面を殴られ立ち上がれないでいます。
この汚らしい男4人組はどうせ私を性的な意味で襲おうとしているのでしょう。
ですが、私はそんな汚らしい男に負けるほど弱い女ではありません! デュラハンですよ!
迫ってくる男4人組をかわし、私は”戦闘態勢”に入ります。
首を外し、”亜空間”から剣を取り出す!
襲おうとして失敗した男4人組は、私を探しているようで。
「……私はこっちですよ!」
私は敢えて男4人組を挑発するように呼びかけます。
男4人はこちらを見るや否や、「ひっ!」と驚いたようで。
「あらあら……まさか私がこんな存在だったってこと、意外ですよね?」
今の私は、首のない胴体が自分の生首を小脇に抱えつつ剣を構える……恐らく伝承に語られるデュラハンと同じ姿をしています。
「……やばい……死神じゃねえか、俺はまだ死にたくねえよ……!」
「死神とは失礼な、でも……これ以上私と――さんに手を加えるようなら……私はあなた方を殺さないといけないかもしれませんね?」
「やだ……ひいいいいい!!」
手下3人が逃げ出します。リーダーの赤髪の男も。
「……ちっ! 今回は見逃してやる! もやしめ……運がよかったな! 覚えてろ!」
赤髪の男も手下3人に遅れて逃げ出しました。
私は剣を”亜空間”にしまうと、首を外したまま立てないままでいる――さんを起こしに行きます。
「――さん! ――さん!」
「……セリーナ? 何故自分の首を……」
「こうでもしないとあの4人、私を襲いそうだったんですよ……死神と思われてることがこんな形で役に立つとは思いませんでしたけど」
首を抱えるために片手がふさがっているので、もう片方の手で――さんを起こします。
「今この光景を見たら……セリーナは間違いなく奇異の目で見られる……首を乗せろ……」
「そうですか……わかりました、はい!」
私は首を元の位置に戻します。
「今何時だ……?」
「9時5分……嘘!」
非常事態があったとはいえ、3日目でまさかの遅刻……!
多分――さんが顔面を殴られたことで何があったか証明はできますけど、遅刻するなんて……!