出航サタイサ日本画家パロです。サとイとdidrが明治時代の日本画家をしてるという設定の作品です。
注意!
明治時代パロ、日本画家パロです。
捏造didr中隊が出ます。
何から何まで捏造です。
【おおまかな設定】
佐竹隆二:30歳。日本画の画派の宗家の家系に生まれる。兄・隆一が家督を継いだ後、数人弟妹弟子たちを連れて独立した。
碧勇:16歳。隆二の弟弟子で、隆二を慕っている。隆二について独立した。
ヒビキ、梅原、緑川、胡桃澤:隆二の弟妹弟子で、隆二の独立についてきた。
佐竹派:江戸中期に起こった一大画派。優美で静的な画風。現当主は隆二の兄。拠点は江戸〜東京。サタの父が当主だったが、死後兄が継いだ。
次ページから本編です。
桜の花びらがゆったりと舞う、穏やかな晴れの日であった。帝都の外れの清潔な家屋の前で、弟子の勇を引き連れた佐竹隆二がどこか心細げな表情で立っていた。隣家の家畜もうたた寝をしそうになる程呑気な風景と天気であったが、隆二の顔色は優れなかった。
隆二は画家である。江戸中期に起こり、その後明治維新後の今日まで続いてきた佐竹派の先代当主を父に持ち、幼少期から箸で食事をとるのと同じく筆で絵を描くことを父から学んできた。ゆくゆくは長兄で同じく絵師である隆一とともに佐竹派を盛り立てることを期待されていたが、父の死後、隆一が当主の座を継いだ時期と前後して、佐竹派から独立した。この年三十歳、円熟した腕とそれで得た人脈はあったが、独立したことで、その人脈がどれだけ頼れるかという悩みがが隆二をらしくなく不安の沼に捕らえていた。
「ここが俺たちの画室ですか」
隆二についてきた男の絵師で一番年若い勇が、着替えと画材が入った風呂敷の結び目を握り締めながら感嘆した。あまり動かない三白眼が珍しく丸くなっていた。
「そうだ。あと、俺とお前の住まいでもあるな」
そうっすね、と神妙な面持ちで勇は頷いた。人物、山水、花鳥、どれも描けるようになったとはいえ、十六歳の弟弟子の未来も背負っているのだと、隆二は胸元で拳を握った。そんな隆二を見て、勇はほんの少し口元に力を入れた。隣の兄弟子は、どこか不安そうで、なにかそれを払拭することを言いたかった。だが、気の利いたことも有益な情報も頭の中になかったし、隆二が自分の不安を隠したがっているようなのがわかったので、結局何も言えなかった。
二人は石を立てただけの門をくぐり、形の崩れかけた松が植わった庭を横切り、家屋へ向かった。
二人の住まいは元は農家であった茅葺き屋根の平家である。南側に十二畳と八畳の間があるのを画室にできると気に入り借りたのだ。
「隆二さん、お疲れ様です。貴方と勇の荷物は玄関に全部運んであります。勝手に掃除始めちゃってますけどよろしかったですか?」
玄関から顔を出した襷掛けの大柄な坊主頭の男が明るく二人に声をかけた。この男は梅原といって、隆二の弟弟子である。層の厚い佐竹派よりも隆二について行った方が絵師として活躍できると、妻子を持つ身でありながら、隆二に賭けてついて来た男であった。
「助かるよ梅原。俺も支度したら行く」
梅原に答える隆二は勇に手を差し出した。勇は荷物の中から襷を探し出してその手の上に乗せた。
「勇は胡桃澤とヒビキを手伝って雑巾掛けをしてくれ。家中埃だらけだ」
「はい」
兄弟子である梅原の指示に襷をかけている勇は顔を引き締めた。その傍で隆二はゲンナリとしている。
「そんなに汚いのか」
「ずっと閉め切っていたらしいですからね。埃とススだらけです」
「それは大仕事だ。途中で饅頭を買ってきたから、もうひと頑張り頼む」
「お気遣い痛み入ります。おいお前ら! 隆二さんから饅頭の差し入れだ! 気張ってやれよ!」
梅原の掛け声に、はいッ! と二種類の男の声と、女の声が飛んできた。
勇は土間に置いてある隆二と勇の家財道具から、取り出しやすい位置にしまっておいた雑巾を取り出し、屋内に入った。廊下に出ると、雑巾を持った断髪の女が飛び出してきた。活発そうな顔にはススをつけており、屋敷の汚れの酷さがうかがえた。
「ヒビキ、俺も雑巾掛けだ。やってないのどこだ」
「着いたばかりなのに悪いね勇。北側の六畳間、頼んでいい?」
「わかった」
ヒビキは勇の一つ下の十五歳であるが、どこかやりとりは姉弟のものに見える。ヒビキが隆二に着いてきたのも、自分の得意な美人画を描けそうだからというのもあったが、勇が心配だったからというのも一割理由の内に入っていた。
勇は廊下に置いてあるバケツの水に雑巾をひたし、硬く絞った。桜が咲いたとはいえ、水が冷たく感じる。
雑巾で床の間の違い棚を拭くと、雑巾で拭いた跡が明るく浮かび上がった、どんだけ埃だらけなんだよという呆れと、これは気合を入れてかからねばという決意が勇の内に生まれた。
「頑張ってるな、勇」
「胡桃澤さん」
廊下に勇より少し年上の青年が立っていた。午前中から隆二と勇の引っ越しの手伝いをしていて疲れていたはずなのに、悪戯小僧のような笑みはそれを微塵も感じさせない。
「ここ、隆二さんの部屋にするんだっけ? そりゃ気合い入るわな」
「ウス」
「床の間の畳と床半分やっといてやるよ」
「ありがとうございます。他のところは終わったんですか?」
「午前中からやってるからな。目処はついた」
二階は全部拭いたぞ、板の間だから楽だった。と胡桃澤は白い歯を見せて笑った。
「ありがとうございます。一間俺の私室にもらったんで」
「いいじゃねえか! 俺なんかお前くらいの時は相部屋だったぞ!」
胡桃澤は勇の背中を勢いよく叩きながら廊下へ向かった。連れ立った二人は汚れた雑巾をバケツの中で洗った。
よし、競争だと畳の両端から二人は雑巾をかけた。勇の額に汗が浮かんだ。昼を挟んだとはいえ、半日歩き続けた足は疲れが溜まっていて、一蹴りが重い。だが、辛くも勝利を掴むことができた。そんな勇に、胡桃澤は、饅頭かけてなくてよかった〜と笑った。
お〜い。休憩だ! 早く来ねえと饅頭食っちまうぞ〜! と、南側の縁側から梅原の伸びやかな声が響き渡った。
「饅頭の話をしたら饅頭を食うことになるとは」
「神がかったちょうどよさですね」
胡桃澤と勇は笑いながら縁側へ向かう。縁側では、隆二をはじめとした四人が饅頭を囲んでいた。
「お疲れ様です、皆さん」
「勇お疲れ!」
お茶を運んできたヒビキに、着ていた着物について学者のように熱心に尋ねていた男が手を上げて快活に笑った。今日初めて勇が顔を合わせたこの男は、緑川といい、美人画を得手としていた。花鳥画を主とする佐竹派にいるより、隆二に着いてきた方が美人画の絵師として売り込みやすくなるだろうという理由でこの場にいるのだった。
「お疲れ様です、緑川さん」
「いやあ本当に。久しぶりの力仕事だったからな。だが年頃のお嬢さんの実際の仕事着を見れて参考になった!」
「相変わらずっすね」
ヒビキを指して嬉しそうにしている緑川に、勇をはじめとした面々は諦めが混じった顔を向けた。緑川が特に得意としている画題は、少女と大人の間の年頃の女性だ。画題に熱心なのはいいが、ときおり度を越してしまうのが玉に瑕である。
緑川がいかに画題の取材をすることが重要かを滔々と説くのを肴にしながら、六人は饅頭と茶に舌鼓を打った。ふわふわの皮の感触に癒され、甘いつぶ餡が疲れた体に染み入る。
「今日は仕事があった者もいる中、手伝ってくれて助かった。俺と勇だけでは今日寝る場も作れるか怪しかった」
隆二は自分についてきてくれた兄弟弟子たち一人一人と目を合わせながら言った。
「希望に溢れている中、こんな話をして申し訳ないが、俺の力が及ばないことも多いかもしれない。俺についてきて後悔することもあるかもしれない。だが、俺の手の届く範囲でお前たちの作品がなるべく多くの人の目に触れ、描きたい絵を描いて暮らしていけるよう力をつくそう」
凛とした、だが張り詰めていて、どこか綻びが出るのではないかと思わせる声だった。そんな隆二に、梅原はおおらかに笑いかけた。
「隆二さん、俺たちがあんたについてきたのは、あんたのツテのおこぼれにあずかりたいからじゃない。あんたと一緒なら、自分の思う絵をもっと自由に描けるんじゃないかと思ったからなんです。その中にはあんたも入ってるんですよ。あんたが自由に描いた絵を見たい。それがどこまで行けるかこの目で見たい。そのためなら俺たちも力を貸します」
隆二は豆鉄砲を喰らった鳩のような顔で梅原を見、その他の弟妹弟子の顔を見た。弟妹弟子たちは、皆、今から世界を変えに行くような、真剣な表情だった。隆二はその頼もしさに、自分の中に巣食っていた拭がたい不安が消えていくのを感じた。だが、完全に払拭されることはなかった。弟妹弟子たちの面持ちに、若さ特有のそこはかとない危うさも感じ取れたからだ。
「まあ、みんなで協力し合って、自由に楽しく絵を描いていきましょうってことっすね」
胡桃澤はあっけらかんと言った。厳かな門出がどこか気の抜けたものになり、みんな思わず口元をゆるめてしまった。
「……そうだな。楽しく、自由に描いていこう……金が許す限りな」
「あ〜もう台無し!」
ヒビキが思わず叫んだ。
「だが大事だろ」
勇がそんな年下の姉気分を諌めた。
「まあ、こればっかりは太陽が東から登るのと一緒だわな」
梅原が腕を組んで考え込んだ。
「金策といえばどっかの出版社が図鑑の絵を描ける人探してるとかいってたような」
本の挿絵を描いて生活をしている緑川がぼんやりとした口調でこぼした。
「虫だったら胡桃澤とかいいんじゃねえの? 他のは勇とかヒビキも描けるだろ」
「それ詳しく知りたいです」
次々に前向きな話が出てきた。隆二は肩の力が抜け、なんとかやっていけそうな気になった。
「隆二さん、馬とか好きですよね。仕事来たら受けます?」
隆二の隣で熱心に図鑑の仕事の話を聞いていた勇が尋ねた。幼さの残る顔は、どこか安らかになっていた。隆二の肩の荷が下りたようなのが嬉しいのだ。
「いいなそれ」
「馬の項目だけ飛び抜けて上手くなっちまうでしょ」
胡桃澤がそう言って笑った。隆二は大抵のものは上手く描くが、突出しているのが馬であった。隆二が描くと、墨と絵の具で描かれているのに、その馬の筋肉の躍動や、息遣いが感じられるのだ。
「図鑑なんだから、上手いに越したことはないでしょ」
勇は小首を傾げて疑問をこぼした。あれほどの実体感は図鑑にこそ必要だろうと勇は思ったのだ。
「どうもそういうことじゃないらしいんだよな。顔とか体の比率を正確に描いたりとか……」
話を持ち込んだ緑川の解説に添えるように、遠くから、ホーホケキョと美しいウグイスの囀りが聞こえてきた。その声に誘われて、隆二はあたりを見回した。庭に植っている桜の蕾は遠目から見ても膨らんでいる。
ああ、春だなあと隆二は今までの人生で一番感慨深く思ったのだった。
終
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