彼に免罪符を与えてはいけない※※ご注意※※
・キャラ崩壊(特にロロ)
・暴力表現、倫理的に悪影響を与える発言(放送倫理に引っかかるような言葉等)
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
監督生が問題を起こして反省文を書いている。それだけで短期間だが、共同生活をしているロロには何があったのか、だいたいの察しはついていた。
彼は以前から風の噂で彼女に関する不穏な話を耳にしていたからだ。曰く、「監督生はバルガスに銃撃技術を習っている」というもの。初めはあんなか弱い彼女がそんなことをしているとは全く思えず、くだらない噂だと一蹴していたが、彼女と共同生活をしていく中で次第にロロの中にも疑惑は広がり、此度の騒動で確信に変わったという訳だ。でも、それがどうしたと彼は思う。男子校の中で唯一の女子である彼女が護身術の一つとして銃を選んだ、というだけの話だ。むしろ、自分の身は自分で守るという一種の貞淑さを感じられて、ロロは好感を持っていた。
学校側が最低限の援助しかしていないのだから、彼女の選んだ技術は間違いないとも思っている。校内に銃は無いのだから、彼女が本物を撃つ機会は無いだろうが、突出した技術を持っていれば、自信に繋がる。堂々としていれば、他者に隙を見せることも無い。流石は私が選んだ女だ。だからこそあの時、ロロはどうしても許せなかったのだった。
今頃、監督生は学園長室でひいひい言いながら反省文を書いているのだろうなと思うと、ロロは少し可笑しく思い、僅かに微笑む。今日の夕食は何にしようかと考えながら寮へ帰ろうと踵を返した時、誰かとぶつかってしまった。
「失礼」
断りを入れてしまってから、ロロは内心で舌を打った。ついノーブルベルカレッジにいた頃や街中にいる時と同じ対応をしてしまったが、ここはナイトレイブンカレッジ。彼にとっては悪党共の巣であり、『普通ではない場所』だ。
「いってぇな…………って、よく見たら噂の生徒会長サマじゃん。こんなとこで何してんの?」
「今日は監督生の後追っかけなくていいの~?」
相手は二人。その内の一人は先日、監督生の手によってモデルガン乱射という仕置に遭った生徒だ。あの時、自分が一緒に居たら、彼女に恐ろしい思いをさせることも無かっただろうにと思うと同時に「こいつか」と獲物を見つけた肉食獣のような感情がロロの中で湧き起こる。雑魚の相手をすると面倒だと思ったロロはそのまま無言で立ち去ろうとしたが、さっと前方に立ち塞がれ、邪魔される。
「何のつもりかね?」
「何のつもりって、それこっちのセリフなんですけど? ぶつかっといて何も無しってのは、流石に無くね?」
「それは悪かった。生憎と君達のような輩と利く口は持ち合わせていないのでね。気を悪くしたなら、謝ろう。それで君達の気が済むのならだが」
何一つ謝意が感じられないロロの態度に、相手はいきなり胸倉を掴んできたが、ロロは至って冷静に見えた。
「お前マジ、来た時から目障りでしょうがなかったわ。いつもいつもあの女の周り、うろちょろしやがって……!」
「嫉妬かね? ハッ、醜いものだな」
「は? うるせぇよ、このストーカー! 毎日毎日監督生の隣陣取りやがって、遂には彼氏面かよ。頭おかしいんじゃねぇのかっ!? あーあ、こんな奴侍らしてるあいつも相当おかしいってことだな!」
「――その下劣な口を慎め。それ以上、彼女を貶めたら、死ぬより辛い目に遭わせてやるが?」
目の前の一人に意識が向いていたからだろう。ロロは背後に迫る気配に気付くのが遅れ、羽交い締めにされてしまった。どうやら、もう一人の仕業のようで、「そんなにムカつくなら、ここでぶちのめしちまえ」と勝手なことを言う。それを良いことに目の前の生徒は敢えて魔法を使わず、ロロの腹を殴りつけることにしようと思ったらしい。作られた拳が当たる直前、ロロの中で当然のように生み出された結論が彼の行動を決めた。
彼にとってここナイトレイブンカレッジは、正に『異質な空間』だ。そこにいる誰もが彼にとっての敵であり、悪党であり、世間の枠から外れた存在なのだ。なので、そこにいる奴らに「頭がおかしい」と断定されても彼には何の効力も持たない。それどころか、ロロはそれを逆に免罪符として利用することにした。元々おかしい奴らに「おかしい」と言われても、世間から見ればおかしいのは貴様らだ。ならば、私がこいつらに行う行動は全て正しい、と。
瞬間、ロロの魔法によって呼び出された錫杖の先端が相手の鳩尾にめり込んだ。潰れた蛙のような呻き声を上げて目の前の生徒はその場に膝を付く。それを見て羽交い締めにしている生徒が動揺し、少し脱力したところを狙ってロロはそいつの顔面に肘鉄を食らわせる。拘束が解かれた彼は片手に持っている錫杖を両手で持ち直すと、それを振りかぶり、不敵な笑みを浮かべた。
「良かろう。そんなに私を気狂い扱いしたければ、相応の振る舞いをしてやろうではないか」
「私はおかしいのだろう?」その一言でこれから起こることを察した二人は、逃げようとしたが、ロロの手によってそれは叶わなかった。
「全く! フランム君! よりによってあなたまで監督生君と同じ素行不良を働くとは思いませんでしたよ!」
「しかし、クロウリー殿。私の場合は正当防衛では? 先に手出しをしたのは彼らの方です」
「だとしても、あの二人を存分に殴って半殺しにする理由にはなりません! よって反省文の提出を要求しますよ、私は!」
「…………何故、私がこんな……」
「何か言いましたかっ!?」
「いいえ、何も」
その後、すぐ様学園長室に呼び出されたロロは、「納得しかねる」というむくれ顔で黙々と反省文を書き出すのであった。