言ってはいけないことがある※※ご注意※※
・キャラ崩壊(主に監督生のキャラ。強キャラの風格な上にヤンデレ)
・ロロは名前だけ
・モブがキャラを侮辱する表現あり
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
エースはグリムと一緒にまた教室を爆発させた件でバツ掃除、デュースはクルーウェル先生に分からないところを訊きに行ってしまい、ロロは先に図書室で用事を済ませると言って行ってしまったので、今日の昼食は珍しく、一人の監督生だった。オーバーブロット事件に巻き込まれるようになってからというもの、いつもは誰かしらは彼女と一緒に行動しているのが常だったが、今日は一人の食事となりそうだ。とは言っても食堂に行けば、知っている顔は何人かいる筈なので、相席を頼もうと食堂の待機列に並び、彼女はトレーを持った。
自分の食事をトレーに載せた彼女は、キョロキョロと食堂全体を見回す。どこかに知っている顔があれば、お隣を確保できると思っていると、不意に背後から声を掛けられた。
「あれ? オンボロ寮の監督生じゃん」
振り返ると、そこには数人の知らない顔があった。獣人が二人と見た目は人間の生徒が二人。全員何か企んでいるようなにやにや笑いを浮かべている。嫌な予感を覚えた監督生は、さり気なく距離を取りつつ、隙あらば逃げ出す気でいた。この人数だともし取り囲まれたら確実に逃げられない。さて、どうするかと考えていると、不意に獣人の一人が気安く肩に手を乗せてきた。随分馴れ馴れしいなと思っていると、手の他に何か黒くて重い物が乗せられる。見ると、それは一瞬近すぎてよく分からなかったが、どうやら銃のようだった。あまりにも本格的な見た目に一瞬、ぎょっとした監督生だったが、それを見た数人の笑い声で、本物ではないと知る。
「なぁに、ビビってんの? もしかして、本物だとでも思った?」
「んな訳ないじゃん」と近くにいた人間の生徒が小馬鹿にしたように嗤う。肩に手を乗せている獣人の生徒は何のつもりか全く分からないが、先輩に貰ったモデルガンだと意気揚々と説明する。先輩から貰ったご自慢のモデルガンは持ち主の魔力を弾として発射する物で、命を奪う程では無いが、当たれば怪我はするくらいの物らしい。
頼んでもいないのにつらつらと説明してくるそいつの顔面を殴ってやりたくなった監督生だが、ここで事を荒立てるのは賢いとは言えない行動だと思い、「手、退かしてください」とだけ言っておいた。本当に邪魔なのは事実だし、とどこか開き直っていた。その態度が気に食わなかったのか、取り巻きの一人が「あ、生意気~」とふざけた口調でからかってくる。どうでもいいから早く退いてくれないかなと思っていると、モデルガン君が「そんな態度取っていいのかなぁ?」と怠い絡み方をしてきた。いや、本当に怠いと考えていると、徐に銃口を向けられる。
「普段、他の奴らに守って貰ってるだけの魔力なしの癖に、いつまで学園にいるつもりだよ。おまけに先輩に向かってそういう態度取っていいと思ってんのか? それに極めつけはあの『ノーブルベルの生徒会長さん』も味方に付けて、何人の男侍らす気だよ。ビッチじゃん。どうせあいつのこともヤって落としたんだろ?」
余りにも下品で他人を貶めるようなことを宣ったそいつの顔面に、監督生はトレーに乗っていたコップの水を躊躇いなくぶっ掛けた。有料だが、先輩の名誉を毀損したのだから仕方ないと瞬時に判断した為である。更に彼女はそこで止まらず、相手が怯んだ隙を狙ってトレーに乗っている物全てそいつにぶちまけた。まさかこんな派手に反撃されると思っていなかったのか、取り巻き共も咄嗟には動けず、だからこそ彼女の更なる追撃を許した。
「ぶへっ……! テメェ、何す――へ?」
食べ物塗れになった獣人の生徒はいつの間にか自分の手からモデルガンが消えていることに気付き、顔を上げた時にはその銃口が自分の顔に向けられていた。その先には無表情の監督生。考える間も無く、彼女の手によって最初の一発が放たれた。顔の横すれすれに撃たれた弾に反応できず、ただ撃たれたという事実が脳に届く頃には、次の弾が発射されていた。事前にふざけてありったけの魔力が込められていたモデルガンは監督生の手によって容赦なく撃たれていく。それこそ狂ったように出鱈目に。しかし、わざと外しているのか、否素人の彼女にそんな高等技術があるとは思えない。だが、次々と放たれる弾丸はどれもこれも獣人達の足元すれすれを抉っていく。
その数、計十六発。そのどれもが誰一人に怪我を負わせる事無く、全て床や壁に撃ち込まれた物だが、彼女の怒りを示すには十分すぎる程の恐怖と威力を思い知った。全て弾丸を撃ち終えた彼女は、特に変わることの無い表情で言った。
「ほんとですね。先輩が言った通り、面白いように弾が出る。ただ、それだけですが」
そして、深い失望の溜息を吐いた後、ぽつりと監督生は呟いた。
「これが本物だったら良かったのに」
「ひぃんっ……!」
瞬時に興味を無くした彼女は弾倉が空になったモデルガンをぽい、と元の持ち主に投げ付ける。後輩にぞんざいに扱われても、こんな目に遭わされた直後では戦意は喪失して当たり前だった。「ああ、やっちゃった。お昼どうしよう」と悩んでいた監督生だが、去り際に「あ、そうだ」と振り返る。
「次、ロロ先輩のこと侮辱したら、これじゃ済まされませんからね。先輩」
その道端のゴミを見るような目に絡んできた先輩達は、大変に後悔した。
彼女のその姿にハートの女王は頭を抱え、ライオンの第二王子は彼女を見直したし、ウツボの人魚は目をきらきらさせ、熱砂の従者はドン引き、毒林檎は労いの意味で彼女にお昼ご飯を奢り、狩人は如何に彼女が勇ましかったかを讃え、オタク寮長は「怖。近寄らんとこ」と固い決意をし、妖精達は「流石マレウスの親友だな」と訳知り顔だった。
このお昼休みの凶行により、監督生は学園長にこっぴどく叱られて反省文を書かされたし、暫くの間渾名が『姉御』になってしまった。尚、本人は大変遺憾らしく、特にロロ本人には必死に根回しをしてこの事件を隠していた。そのせいで、蛸の先輩に大きな借りを作ってしまうことになるとは予想もしていなかった。
これは本当に余談だが、エースは「お前もとうとうそっち側に行っちまったのか」と何かを悟り、デュースには尊敬の眼差しを向けられ、グリムには自分以上の問題児を見る目で見られた監督生だった。