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    しおり
    おあずけ注意書き

    ・自分設定大盛りグラン使用
    ・筆者に知識が足りてない
    ・ラカム→グランの表現あり
    今はまだその時ではない。

    ヴェインは自分を我慢強い性分であると自負している。
    周囲の人間にそれを告げると大体首を傾げられてしまうが、それは彼の気性から受ける印象と食い違うからだろう。普段の竹を割ったような立ち振る舞いや能動的な言動は、我慢の二文字からは遠い人物であると先入観を抱かせる。そして一度浸透した先入観とは、余程のことが無い限り覆ることがないのだ。
    皆昼食を終え、午後の仕事を再開し出した城下町をヴェインは大股に歩いていた。歩くたび身に纏った甲冑が高らかに鳴る。その音を聞きつけた町人達から気安く声を掛けられ、それら一つ一つに屈託のない笑顔とよく通る声で挨拶を返した。
    何度か呼び止められもしたがヴェインが歩みを止めることはなく、街の一番太い大通りを突っ切って一際人のごった返す港へ向かった。多種多様な種族の人々が慌しく、縦横無尽に歩き回っており慣れない者が見ればそれだけで目を回してしまいそうな空間をヴェインは器用に歩き、一度も人と接触したり歩みを妨げたりすることなく今港へ着岸しようとしている船の前に到着した。
    港に数え切れない程停まった騎空艇の中でも群を抜いて大きなその船は鯨に似た巨躯をゆっくりと停泊地点へ降ろしている。錨が下ろされたその船から舷梯が伸び、一目散に下りてきたのは小柄な少年だ。
    「ヴェイン!」
    張りのある瑞々しい声音で名前を呼ばれ、ヴェインは我知らず表情を綻ばせてその少年の名前を呼び返す。
    駆け寄ってきた少年が握手をしようとしてか差し出してきた右手を掴んで引き寄せ、両腕の中に閉じ込めた。呆気なく引き寄せられた軽い体はヴェインの一回りも二回りも小さく華奢で、壊してしまっては不味いと抱き締める力を緩める。
    「く、苦しいよヴェイン」
    「ははっ悪い悪い!会えたのが嬉しくてな!」
    身を捩って拘束から逃れようとする少年の体を解放し、榛色の髪を優しく掻き混ぜた。こちらを見上げてくる彼の滑らかな丸い頬にはヴェインの甲冑の痕がついてしまっている。
    「ふ、痕付いてるぞ」
    頬を指先で摘んで引っ張ると健康的な朱色が更に鮮やかさを増した。まるで果実が熟れていく様を見ているようだ。
    「誰かさんが力一杯押し付けるからだろ!」
    少年はヴェインの手を払い除け、痕の付いている頬をごしごしと擦る。余計に赤くなって目立つのではないか、とは思ったが面白いので黙っておいた。
    「おーい団長!積荷の最終確認しねえのか!もう降ろしちまうぞ!」
    おざなりに謝りながら再度頭を撫でようと手を伸ばした時、二人の頭上から男の声が降ってくる。同時に見上げると船の甲板から半分身を乗り出した男が眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。
    「やっば、忘れてた……!ご、ごめんラカム!今行くから待って!」
    くるりと踵を返し身軽な動きで船に取って返す背中を見送っていると、ちくりと視線が刺さったように感じてまた船を見上げる。甲板から身を乗り出す事を止めた操舵士の男が険しい表情はそのままにヴェインを油断なく見据えていた。視線の鋭さは先程の比ではない。すぐに視線は逸れ男の姿は船の中に消えていったが、ヴェインは大袈裟に身震いした。
    「おお怖、睨まれちまった」
    どうやら男が睨んでいたのは己の仕事を忘れた少年ではなく自分の方だったようだ。成程、あの爛漫な少年には過保護な番犬が付いているらしい。
    「ヴェインー!」
    先程男が顔を出していた場所から少年が手を振っていた。
    「折角迎えに来てくれたのにごめん!もう少し待ってて!」
    「おう、気にすんな!『待て』は得意だ」
    眩しさに目を細めながらそう答えると少年は弾けるような笑い声を残して引っ込んだ。現在真上にある太陽は自分と同じ色を持つヴェインの髪を容赦なく熱してきて、堪らず船の影に入り積み上げられた木箱の上に腰掛ける。ヴェインの体重を受け止めぎしりと鳴った木箱もぼんやりと熱を持っていた。中に何が入っているかは知らないが、熱に弱い食材なんかではないと良いのだが。
    船を背にし左足を箱の上に引き上げて膝に顎を乗せ、目を閉じ喧騒に耳を傾ける。
    年老いた旅人の掠れた笑い声、母親に甘える幼い子供の泣き声、書入れ時だと声を張り上げる物売りの売り文句、遠くから聞こえるのは弦楽器の奏でる音楽だろう。たくさんの声と音が交ざり合い、一つの生き物の鳴き声のように聞こえる。
    時折心地好い風が頬を撫でて行き、仕事中でなければこのまま昼寝でもしたい気候だった。
    ふと瞼の向こうから透ける日差しが僅かに弱まった気がして目を開ける。瞼の向こうには旅装束を纏った両足があり、それを上に辿っていくと手をこちらに伸ばした中途半端な体勢で固まっている少年の姿があった。気まずそうな表情から察するにヴェインに悪戯をしようとしていたのだろう。
    「あーぁ、起きちゃった」
    「寝てねえよ、目を瞑ってただけだ」
    「そういう事にしといてあげる」
    実際のところどの位目を閉じていたのか判然としない。もう最終確認とやらは終わったのだろうか、やけに早く感じるのは自分が転寝してしまっていたからなのか。
    どちらにせよ勤務中に居眠りは厳禁なため、ヴェインは少しの間『目を閉じていた』だけだ。証人も今目の前でにやにやと笑っている。
    「待たせてごめんね、行こうか」
    「行こうって、お前一人か?」
    「うん、皆には別件の報告と報酬の受け取りをお願いしてるから。……僕一人じゃ不味いかな?」
    「そういう事情があるならいいんじゃねえかな。まあ最終的に俺達からの依頼を受けるか受けねえかって決めるのは団長であるお前だろ?問題ないって、たぶん!」
    「その『たぶん』が不安なんだけど……」
    そう言いながらも、ヴェインが歩き出すと少年は従順についてきた。小走りにヴェインの隣に並び、人とぶつからないよう神経を使って歩く様は少々危なっかしい。
    「ほら、こっちこい」
    そういう放って置けない人種につい手を出したくなるのがヴェインの性質だった。ふらつく少年の手首を掴んで引き寄せ、自分の陰に引っ張り込む。どうしても密着してしまうが、混雑している場所を抜けるまでは我慢してもらうしかない。フェードラッヘ内でも一二を争う程人の密度が濃い場所だ、ここで生まれ育った訳でもないのなら人とぶつからずに歩けというのは些か難題だろう。
    「大丈夫か?もう少し我慢してくれな」
    手を繋いだまま背後に視線をやると少年がこっくりと頷いて見せた。周囲の喧騒で返事をしても掻き消されると思ったのだろうか、その仕草が少年を外見以上に幼く見せる。
    「いい子だ」
    口を突いて出た言葉は幸運にも少年の耳には届かなかったようだ。首を傾げる少年に肩を竦めることで答え、ヴェインは前へ向き直る。暫く人と人の間隙を縫いながら歩き、漸く二人が並んで歩ける程度に人の波が引けてきた場所に出た。少し名残惜しく感じつつも手を離して横へ来るよう指先で呼ぶ。
    「いつ来ても賑わってるね、ここ」
    「そりゃあ、フェードラッヘの玄関口だからな!何でもあるし何処にでも行ける」
    「ヴェインが居なかったら押し潰されるところだったよ。ありがとう」
    「どういたしまして。そんじゃあ、行こうか」
    今回彼らがフェードラッヘの地へ降り立ったのは偶然でも寄り道でもない。白竜騎士団の団長であるランスロットが直々に、彼ら騎空団に依頼を出したのだ。本来ならば騎空団への依頼は一度商人ギルドを通して全ての騎空団へ知らされる筈だが、ランスロットはあえてそれをせず名指しで依頼を出した。
    彼でなければならないと、先の大きな動乱を経ていなければそんな言葉は出てこなかっただろう。ヴェインもまた、その意見に賛同した一人だった。
    他愛の無い雑談に興じるこの少年が、破竹の勢いで勢力を伸ばしつつある騎空団を率いる団長であると誰が気付くだろう。この場の誰よりも強く勇気ある若者だと、無邪気な笑みを見せるあどけなさからは想像もつくまい。その勇姿を間近で見たヴェインですら、時折自分の記憶を疑いたくなる時がある。抱き寄せた時の頼りなさも、それを後押ししていた。だが彼が類を見ない実力者である事は間違いがないのだ。故に今彼はここに居る。
    王城の前に到着し、門番に挨拶をしながら荘厳な門扉を潜った。隣を盗み見ると引き結んだ口の端から僅かに緊張している様子が伺える。
    「そーんな緊張すんなって」
    「無茶言わないでよ、お城なんて数えるくらいしか来たことないんだから」
    長年王城を仕事場にしてきたヴェインには最早ない感覚だが、無くせと言われてその通りに出来るものでもないらしい。
    一先ず応接間に少年を通し、依頼主であるランスロットを呼ぶために部屋を出る。今日は朝から宰相らと会議の予定が入っていた。長引いていなければ普段の執務室に居る筈だ。
    おざなりにノックをして返事を聞く前に扉を開ける。だが見慣れた室内に部屋の主の姿はなかった。最後に見た時から書類が動かされた形跡もない。
    「げ、会議長引いてんのかなー……」
    頭を掻きながら無人の執務室を出るといつも執務室周辺の掃除を担当している使用人が歩いてくる姿を見つけ呼び止める。ランスロットが戻ってきた際来客があることを知らせるよう指示し、ヴェインは踵を返してきた道を戻った。今日彼が来ることはランスロットも知っている。言伝はそれで十分だろう。
    応接間に戻ると少年は窓辺に寄り掛かり熱心に外の景色を眺めていた。
    「ヴェイン、……ランスロットは?」
    「朝から会議入ってて、それが延びてるみたいだ。悪いがもう少し待っててくれるか?」
    「それはいいけど」
    少年は気を悪くした風もなくまた窓の外へ視線を向ける。確かに城下町を一望出来る眺めの良い位置に応接間はあるが、何がそんなに彼の気を引くのか不思議に思い隣に並んで覗き込んだ。
    今日は天気が良い。雲一つない空の下にはミニチュアサイズになった街並みが広がっており、蟻に似た忙しさで人々が行き交っている。ぼんやり眺めていれば暇を潰せそうだが、彼が見ているのはそこではなかった。もっと視線を下にやると、王城内に併設されている訓練場で演習に励む騎士団員達の姿がある。彼が熱心に観察していたのはその訓練の様子らしい。
    「まだ暫く掛かるだろうし、下りて行ってみるか?」
    ヴェインの提案に少年はぱっと表情を変え、こちらを振り仰ぐ。
    「いいの?邪魔にならない?」
    「ならねえよ、きっと歓迎してくれる」
    二つ返事をする少年の肩を抱いてヴェインは応接間を出た。


    昼間訓練場に詰めているのは基本的に見習い、或いはその指導をする教官だけだ。たまに非番の団員が顔を出すこともあるが副団長が姿を見せるというのは珍しく、ヴェインが現れた訓練場は俄にざわついた。更にそこに彼を伴っていたお陰で、その場の団員達は全員手を止めて二人に見入っている。
    「悪いな邪魔して」
    「いや副団長が来るんなら皆の士気も高まるだろう」
    かつてはヴェインやランスロットの訓練も担当していた古参の教官兵の返答に世辞の気配はない。基本的にヴェインと同じく嘘や建前なんかが不得手な者達だ。本当に迷惑ならもっと態度に出るだろうし、口にも出す。
    「もしかして、そちらの方は」
    好奇心を抑え切れなかったらしい訓練兵の一人が教官の後ろから顔を出して少年を指して問い掛けてきた。不躾だと教官に頭をどつかれていたが気になっているのは教官も同じらしい。物怖じした様子を見せる少年の代わりに、ヴェインが彼の肩を叩いて口を開く。
    「我が国が窮地に陥った際、助勢に全力を尽くしてくれた騎空団の団長殿だ」
    紹介された内容に恐縮しながらも少年がおずおずと会釈すると、団員達が色めき立った。まだ実戦には出ていない彼らの間にも少年の勇姿は口伝で伝わっており、一部の訓練兵たちの偶像にもなっていると聞く。一時期騎士団長の右腕として仕えるのだと間違った噂が一人歩きした事もある程には団内で彼は有名人だった。
    「訓練の様子を見に来たんだが、これじゃ無理そうだな」
    ヴェインが苦笑を零すとその言葉を得て教官がにやりと口角を釣り上げ、ヴェインの胸中に嫌な予感が過ぎる。見習い時代からの経験上、教官がそんな表情をする時は大概ろくな事にならない。また突拍子もない思い付きに巻き込まれる前に逃亡してしまおうと少年の背中を押して引き返そうと促した。
    「もう行くの?」
    「俺らが居たら訓練にならないからな、仕方ない」
    しかし三歩も歩かない内に背中から教官の低く少し割れた声が追い縋ってきてがっしりと二人の肩を掴む。
    「いやいや、待て。折角来たんだ、ちょっとコイツらに手本見せてけ」
    いっそ無邪気な歓声が背後で上がり、ヴェインは気付かれないようにそっと溜め息を吐いた。自分だって昔のままではないというのに、副団長になっても教官には適う気がしない。あっという間に取り囲まれて訓練場の中心に連れてこられ、二人を中心に人垣で丸い輪が出来上がる。
    ここまで来てやらないと突っぱねるのも無粋な気がし始め、ヴェインは腕を伸ばして軽く準備運動を始めた。まだ事態を把握しきらない彼も自分が何かをせねばならないという空気は察したらしく、眼前のヴェインに縋るような視線を向けてくる。
    「えっと、手本って?」
    「いつも俺達がやってるやつ。武器はなし、防具もなし。素手だけでやりあって、先に両肩が地面に付いた方が負けだ」
    説明しながらヴェインは甲冑を外して輪の中央から少し外れたところへ放り投げた。がちゃがちゃと音を立てて山になっていく装備を眺め、彼もそれに倣って胸当てと篭手を外す。
    装備を外して布の服だけを纏った二人が改めて対峙すると体格差が歴然と現れ、ヴェインが口には出さなかった事を周囲の訓練兵が幅からずに零す。
    「さすがに体格負けしないか、これは」
    「団長殿はまだ子供だろう、余りに不利だ」
    「おいヴェイン、手加減してやれよ」
    教官の面白半分の野次に心の中で毒づく。
    「(なーにが手加減だ……戦うとこ直に見てねえから言えんだろそれ)」
    根本の基礎として、ヴェインら白竜騎士団は何より『守ること』に重点を置いた訓練を受ける。国王を、そして国民を守るために存在する機関であるため、例え素手であっても武器を所持した相手に対応出来るよう訓練兵時代から武術を叩き込まれるのだ。
    「お手柔らかにお願いするね」
    対して彼ら騎空団はその存在意義から大きく異なる軍勢である。特に目の前の少年は戦いの最中に身を置くことで成長を経てきたタイプの、言うなれば根っからの武人だ。なんて無茶苦茶な戦い方をするんだと、最初に肩を並べた時に驚いた事も懐かしい。型もなく効率もなく、ただ先天的な戦闘センスと本能に近い危機回避能力が彼を死なせずに済んでいたと言って過言ではないだろう。
    彼に戦闘に置ける明確な師は存在しない。今まで乗り越えてきた危機が、彼の師となり同時に糧となっている。非力な者を守るのではなく、立ち塞がる敵を倒すことを最優先とした戦闘スタイルはきっちりと型に嵌ったようなヴェインとは対照的だった。
    腰を低く落とし、獲物を定めた獣に似た体勢を取る少年に無意識に緊張している拳の力を適度に抜いて胸の位置まで持ってくる。襲い掛かってくる者の攻撃を躱し、その身を封じ込める術は骨の髄にまで染み込んでいる。何も考えずとも体が勝手に動く程に、ヴェインはこの場所で訓練に明け暮れた。
    二人の間には多少の腕力では覆せない体格差が横たわっている。一見すれば観衆が言うようにヴェインが圧勝出来ると思うかもしれないが、体が小さな者がより体の大きな者に打ち勝つ方法等いくらでもあるのだ。
    「始めっ!」
    教官の鋭い号令を皮切りに、彼は身を低く保ち正面からヴェインに突っ込んできた。先手を取らせず機敏な動きでヴェインの死角へ回り込もうとする。小柄な体で、しかも身を低くしているため死角に回り込まれると完全に視界から彼が消える時間が発生してしまう。完璧な隙を相手に与えることになるのだ。
    ヴェインは視線だけで彼の行く先を追い、膝裏を狙ってきた足払いをその場で飛んで避ける。
    背が高ければ当然地に付けるべき両肩も遠ざかる。彼が真っ先に体勢を崩すことを狙ったのは、視線の高さを自分と同じ位置に持ってくるためだ。
    ここまでは想定の範囲内。ヴェインにはここから先、年端も行かない少年が一体どんな攻め方をしてくるのか想像もつかなかった。
    避けられた足払いの勢いを殺さず体を半回転させヴェインの腕に掴みかかってくる。腕を捩ってまとわりついてくる手から逃れ逆に胸元を掴みに行った。こちらとしては正攻法で行けば一番楽に決着が付く。彼がそれを大人しくさせてくれればの話だが。
    彼は伸ばされる腕から逃れようと咄嗟に後ろへ下がったが、ヴェインの腕のリーチを見誤ったらしく指先に服の端が引っ掛かる。僅かに掠めたそれをヴェインは強引に手繰り寄せた。確かな手応えと共に小さな体が半ば宙に浮き、こちらに引き摺り寄せる。そのまま寝技に持ち込もうとした矢先、ヴェインは殆ど無意識に獲物から手を離し体を仰け反らせた。
    鼻先の空気を鋭く裂く音に背筋がぞっとする。注意深く距離を取り体勢を立て直す少年の思わぬ反撃にヴェインは乾いた唇を舌先で舐めた。
    常人なら自分の判断ミスで服を掴まれ無理矢理引っ張られれば、一瞬なりとも動揺で思考に空白が生まれるものだ。それがどれだけ短いものであっても戦闘においては生死の分かれ目になる程重要な間となる。
    しかし彼にはその空白の間が一切なかった。間合いを詰められた時既に彼は動揺から立ち直っており、己を掴むヴェインの腕を起点にして届く範囲にまで近付いた顔目掛けて蹴りを繰り出したのだ。強烈な反撃を真面目に食らっていれば今頃ヴェインの意識は闇に呑まれていただろう。
    「あっぶねー」
    決まった型がない故に次の手が全く読めない。どう仕掛けてくるのか、どう対処すべきかをその場で判断し切る必要があった。さながら実際の戦場のような緊張感がヴェインから言葉と笑みを奪う。彼は普段の穏やかな物腰からは結びつかない苛烈な積極性を持って距離を詰めてきた。先程の蹴りの容赦のなさから見ても、手加減をしようなどと甘いことを考えていたらこちらが痛い目を見るのは容易に想像がつく。
    「(最初っからするつもりなかったけど)」
    鳩尾を狙う貫手を辛くも回避し繰り出した拳は空を切る。軽業師のような彼の身軽さはまるで宙で風に嬲られる木の葉を相手にしている気分にさせた。
    互いの拳や蹴りを避けながらじりじりと円の中をゆっくりと半周し、ヴェインは意識して大振りなパンチを少年の顔目掛けて打ち出した。これまでの動きを見て、彼には攻撃を避ける際咄嗟に右を選ぶ癖がある事に気付いた。位置を少しずつ移動し続けた今、少年の右側にはヴェインが脱ぎ捨てた甲冑の山が転がっている。そこに行き着くように、ヴェインは意図を悟られずに彼を誘導したのだ。
    「……ッ!」
    甲冑を蹴り上げる前に障害の存在に気付き、足を突っ込んで転倒する失態は犯さなかったものの、無理に左方へ体を逃がしたことで決定的な隙が生まれる。ヴェインはその一瞬を見逃さなかった。
    囮で放った拳を脇まで引き寄せ、まだ体勢を立て直し切れていない彼に向かって放つ。救護室へ行く羽目になるかもしれないな、とは思ったが悠長に手加減をしている余裕はなかった。
    捉えたと思った。タイミングも場所も完璧だった、その筈だ。だが伸ばし切った拳は何にもぶつかる事なく未だ握り締められている。
    「な、」
    一瞬少年の姿がいきなり消えたように見え、今度はヴェインが動揺を見せた。それは錯覚ですぐに少年が仰け反って拳を避けたのだと気付いた。地面に手を付いた少年は後ろへ倒れ込んだ勢いをそのまま利用して逆立ちし、ぐっと自分の胸まで引き寄せた足を全身をばねのようにして突き出してきた。
    息を止めて首を左へどうにか逸らし、靴底の直撃を避ける。少年の反射神経とすぐさま反撃へと取って返す切り替えの早さに舌を巻いた。
    彼の追撃はまだ終わっていなかった。首のすぐ横を通り過ぎた足が曲げられ肩に掛かる。しまったと思った時にはもう片方の足が反対側の肩へ掛けられていた。ふっと短く息を吐き出した彼が腹筋を使って体を持ち上げ、両肩に少年が完全に乗り上げる。
    「(うわ、軽)」
    思った瞬間側頭部を膝と大腿で挟んだまま肩の上で彼が勢いを付けてぐるんと横に回転した。そのままぼんやり立っていたら首があらぬ方向に捻じ切れる。首に強烈な負荷が掛かるのを感じ、ヴェインは咄嗟に回転させられる方向に体を捩った。
    視界を大きく遮られた状態で一回転したことでバランス感覚を失い、気付けば爪先に地面の感覚がない。肩に乗った彼が体重を後ろへ掛けてきて抵抗する暇もなく背中から地面に叩きつけられた。
    「勝負あり!」
    いつの間にか静まり返っていた空間に教官の号令が再び響き渡り、それを皮切りに歓声が訓練場を満たす。
    ヴェインが衝撃に備え咄嗟に瞑っていた目をゆっくり開けると、心配そうな表情の彼の姿が間近にあった。
    「ご、ごめん。大丈夫だった?」
    勝負に勝ったというのに喜ぶでもなくヴェインの心配をする彼の手が自分の頭の後ろに回ってることに気付く。どうやらヴェインが倒れる直前、石畳に頭をぶつけて怪我をしないように手で覆って守ったらしい。
    そう思い至るとヴェインは負けたことへの悔しさも霧散して、ただただ清々しさだけが胸を満たした。
    「こんくらい平気平気!いやあ、見事にやられちまったなあ」
    萎縮しながらも彼が上から退いたため体を半分起こし、豪快に笑いながら髪を掻き混ぜる。戦闘中感情が抜け落ちたのかと疑いたくなる程無表情だった少年は今はへらりと気の抜けた笑みを見せていた。


    興奮冷めやらぬ見習い兵たちの憧憬の視線から逃れて訓練場の壁際に二人して寄りかかって座り込む。
    まだ体が芯から熱を放っており、甲冑を着直す気分にはなれなかった。彼も同じ気持ちなようで首元を摘んでぱたぱたと揺らし、服の中に空気を送り込んでいる。
    「……ごめんね」
    ヴェインが上機嫌に鼻歌を歌っていると、隣から小さな謝罪が聞こえてきて首を傾げた。
    「え、何が」
    「いや、なんていうか。あの場は副団長が勝った方が良かったんじゃないかなって、今更思って」
    空色のフードの端を摘みながらいつもの溌剌とした姿からは程遠い語気でぼそぼそと告げられた内容に、ヴェインは肩透かしを食らった気分で半分乗り出していた体を壁に預け直す。
    「なんだ、そんなことか」
    「あぁ、すごく失礼だったよね、ごめん……」
    「違う違う、いいんだよあれで。手ぇ抜いた相手に勝ったって楽しかないだろ。お前も、もし俺が手加減したら嫌だろ?」
    素直に頷く彼を見て、ヴェインはまた汗で濡れた髪を撫でた。
    「俺は楽しかったし、あいつらも満足してんだ。それでいいだろ」
    身長差がある以上、どうしても彼がヴェインを見上げる形になってしまうのだがそうすると彼は小動物のような雰囲気を纏う。そんな彼を見ると子ども扱いは良くないと思いつつもつい頭を撫でたくなってしまうのだ。
    彼は撫でられると少し驚いた顔をするが嫌がることはなく、少々力加減を知らないヴェインに基本的にされるがままになっている。彼の年頃を考えると子ども扱いを毛嫌いするものではないかと思うものの、彼を子ども扱いする相手等団員には居ないのだろう。
    「……ヴェイン?そんなところでなにやってるんだ」
    その時頭上から怪訝な声が降ってきてヴェインと彼は顔を見合わせ同時に頤を持ち上げる。
    先程彼が訓練場を見つめていた応接室の窓が開き、そこから濡羽色の髪が覗いていた。
    「ランちゃん!会議終わったんだな!」
    「あぁ、待たせてすまない」
    「ちょっと待っててな、すぐそっち戻るからさ!」
    「ヴェイン甲冑忘れてる!」
    身軽なまま走り出そうとしたヴェインを彼が慌てて呼び止める。呆れたような笑い声が頭上から降ってきた。
    甲冑を再び身に付け漸くランスロットと合流した二人は応接間から更に違う部屋へ移動した。大きな円卓と沢山の椅子が並ぶ部屋は厚手の絨毯が音を吸い込むのかしんと静まっており、静謐な空気を壊さないためにか囁く声で彼が問う。
    「ここは?」
    「第一級会議室だ。これから話す事は余り外に出したい情報でもないからな。使用人も滅多に近付かないし、それ以外の人間も余程の事がない限り許可なく前を通る事も出来ない。そもそも突き当たりの部屋だから偶然通りすがることもないわけだが」
    採光のための窓も応接間に比べて半分程の大きさしかなく、嵌め殺しの格子が掛かっており厳重なことは一目瞭然だった。
    「団長、ここまで足を運んでくれたという事は依頼を受ける気で来たものだと受け取って構わないか」
    前置きのないランスロットの率直な切り込み方に、彼は躊躇いなく首肯した。
    「そのつもり。うちで対処出来るものなら手を貸すよ」
    「恩に着る。いつも助けてもらってすまないな」
    言いながらランスロットは円卓にいくつかの報告書を滑らせた。紙束は多くはなく、彼は身を乗り出して几帳面な文面に目を走らせる。
    「依頼は討伐、対象は最近城下町で出没している連続殺人鬼だ。夜に人目がない路地を一人で歩いている女子供を狙って切り殺している」
    短く相槌を打った彼は程なくして報告書の内容を粗方把握し、訝しげな顔をしてランスロットの方を振り仰いだ。
    「町に自警団は居ないの?これランスロット達の管轄じゃないよね」
    「俺らの管轄だよ、ある意味な。自警団だけじゃ手に負えないからってこっちにお鉢が回ってきただけだ」
    一人でさっさと椅子に腰掛けて足をぶらつかせていたヴェインの言葉に彼は成程と頷いた。
    「その鉢が更に僕らに回ってきたわけか」
    他意はなかったのだろうがランスロットは居心地が悪そうに顔を逸らす。
    「恥ずかしい限りだ。本来なら自分達でケリを付けるべきなのだろうが、何分時間が無い。町人達の間にも不安が募っているんだ、早く種を取り除いてやりたい」
    ランスロットの痛切な願いを聞き彼は深く頷いて見せた。
    「犠牲者は今までに何人?」
    「六人。一番最近のは三日前だ。親に無断で外出した子供が被害に遭った。六人全員首を刃物で切られて、それが原因で絶命している」
    淡々とした報告を聞き沈痛な面持ちで眉を顰める彼の前に城下町の地図を差し出した。細かな路地まで綿密に書き込まれた地図には赤い印が全部で六つ付けられている。
    「印が今まで遺体が発見された場所だ。規則性はないように見えるが、すべて自警団や騎士団の警備が届かない裏路地や死角で起こっている」
    「近隣住民に聞き込みもしたが、目撃情報はなしだ。犯行時刻は恐らく深夜帯。首を切りゃ悲鳴も出せないだろうしな」
    指を立てて首に横に線を引く動作をして見せると彼が僅かに眉を顰めた。彼の反応を伺うために少し口を閉じて黙っていると、無言で続きを促される。
    「あんたらには囮を頼みたい。我々は多方面に顔が割れているし、そもそも囮になれるような女子供が殆ど居ないんだ。全く戦えない者を危険に晒すわけにもいかない。その点あんたらは大丈夫だろう」
    「なるほどね。じゃあ、囮役は僕がするよ」
    余りに呆気なくさらりと口にされた言葉に二人は一瞬反応が遅れた。
    「あ、子供でも男じゃ駄目なのかな。夜目だし、顔隠してたらバレないよね?」
    「そんなあっさり、いいのか?独断で決めて」
    自分が口を出すことでもないと分かっていながらも、ヴェインはそう問わずには居られなかった。甘く見繕っても命を狙われる危険がある役柄だ、あの過保護な古参組が異を唱えない筈がない。だが彼はヴェインの問いが瑣末な事だとでも言いたげに肩を竦めて見せた。
    「あんまり良くはないかな、後で怒られるかも。でも他の仲間が囮役になるよりずっといいよ」
    「団長であるあんたがそう言うのなら、俺達は指図する立場にはないが……」
    流石にランスロットも即決は出来ないようだった。やはり少し待ってでも他の仲間を同伴させるべきだったのだろう。普段は押し殺している無鉄砲さが浮き彫りになってしまっている。
    「まあ、囮作戦の決行は夜中だ。それまでじっくり考えて決めようぜ」
    ヴェインの場を濁す言葉に反論はしなかったものの、彼の中で全ての事は既に決まっているように見えた。存外頑固に出来ているのだ、この子供の意志は。

    別口の依頼の始末を終えた団員の代表数名と王城内で合流した。その中には先程ヴェインを隙なく睨み付けたあの男も居り、ヴェインは内心のみでひっそりと笑った。
    通り魔の討伐についての計画を説明すると、やはり難色を示された。他に適任が居るだろう、必ずしも囮を使わなくてはならない訳ではないのではないか、と意見は出たが、結局ランスロットらではなく彼が折れず、遠距離からの後方支援だけを仲間に頼んで囮役は頑として譲らなかった。
    「あんたらの団長もなかなか頑固だな」
    額を押さえて諦念の溜め息を吐くカタリナにヴェインが話し掛けると困り果てた笑みが返ってきた。
    「普段はもう少し聞き分けの良い子なんだが……一旦こうなってしまうとどうにも出来なくてね。手を焼いている」
    「まるで団長が子供みたいに言うんだな」
    「? あの子は子供だろう。まあ、同年代の子に比べて大人びてはいるが」
    さも当然のことだと言う顔で首を傾げられる。あの少年を単に子供という一括りの中に放り込んでいいのか甚だ疑問だったが、彼らの途方もない旅の当初から共に行動してた仲間達から見れば彼も無邪気な子供同然なのだろう。カタリナ達がやたらと過保護なのは根幹に彼に対する子ども扱いがあるからか。
    「(まあ、それだけじゃない奴もいるみたいだけど)」
    団長に完遂した依頼の報告をしている男の横顔を盗み見る。自分と似た視線を彼に送る男はこちらには目もくれず頭一つ程低い位置にある少年の顔を見つめていた。ふと組まれていた男の腕が解かれ、無防備に男を見上げる彼の頭にその手が伸ばされる。
    「なあ、ちょっといいか!」
    それを見たヴェインは反射的に少年を呼んでいた。後少しで毛先に触れそうだった手が強張り、その隙にヴェインに名を呼ばれた少年はその手の下を潜り抜けてしまう。行き場の無くなった手がぐっと握り込まれてそのまま脇に下ろされるのを、近寄ってきた少年に計画の詳細を話しながらヴェインは視界の端で見て大人気ない自己満足に浸った。
    単純に子供扱いが故のスキンシップなら気にも留めないだろうが、あの男は別だ。ひと目で分かる、あの男は自分と瓜二つの感情を少年に対して持っているのだ。
    夜を待ち、作戦が決行される。
    彼は大き目のローブをまとって単身で王城を出た。傍から見て分かるような大きな武器は携行せず、今彼を守るのは懐に忍ばせた短剣だけだ。ヴェインら騎士団と彼の率いる騎空団の団員達は小さく頼りない姿を屋根の上から音を立てずに追尾している。大所帯で動くわけにも行かず、屋根の上という状況に変化が起こった場合にも彼の元へすぐには駆け付けられない位置取り上、遠距離からの支援攻撃が可能な面子が厳選された。
    支援部隊は大きく二つに分けられ、一つをランスロットが、もう一つはヴェインが指揮を執っている。城下町には似たような高さの建物が多い為、屋根伝いに移動することに然程苦労は無かった。
    あえて暗く狭い人気の無い道を選んで無防備に歩く彼の背中を注意深く監視する。ローブの端を揺らして歩く子供は時折立ち止まっては左右を見渡し、こほんと一度咳をした。囮の視点から異常が感じられない場合の合図だ。異常が無ければ一度、何らかの異変を感じたら二度。囮が囮と悟られないように、支援部隊との唯一の意思疎通方法である。基本的に支援部隊の方から彼に接触することはない。
    今夜は月も雲に阻まれてその姿を殆ど見せず、野犬も鳴かない酷く静かな夜だった。連日被害が出ているせいで夜歩きをしようという者も居ないのだろう。王城を出て暫く経つが、すれ違う人間も居なかった。
    またこほんと彼の控えめな咳が夜の静寂を僅かに揺らす。変化が訪れたのは、夜も随分と更け今夜は出ないかと誰しもが思い始めてきた時だった。決められた城下町を大きく一周するルートの半分程まで来た時、ローブを纏った背中がぴたりと立ち止まる。時間にして数秒、彼はそのまま動かずに居たがやがてゆっくりと口元に手を当てて二度咳をした。
    その合図に息を呑んだのは自分だったか、背後に控えている部下だったかは分からない。ヴェインは思わず屋根の上から身を乗り出して薄暗い路地に立ち尽くす彼の周囲に油断なく目を走らせた。
    彼は立ち止まったまま動かない。異変を察知し警戒しているのは明らかだった。視線は外さないまま片手を挙げ、部下達を屋根の上で散開させる。より体を低く伏せ、瞬きする間も惜しんで異変の根源を探した。
    「!」
    こつん、とヴェインの耳にも靴底が石畳を噛む音が届き、音のした方向へ視線を投げる。現地の者も殆ど使わない寂れた路地から、闇に溶け入る色をしたローブを頭から被った人影が夜の闇から分離して彼に近付いていく様を発見した。接近する人影に気付き、彼が懐に手を差し入れて臨戦態勢を取る。壁を背にじりじりと距離を測り、彼の踵が小さな小石を蹴って音を出したことを皮切りに人影が彼に襲い掛かった。
    「……!」
    咄嗟に名前を呼ぼうとして、口を押さえて飲み込んだ。今下手に此方の気配を悟られるのは得策ではない。殺人鬼が獲物に夢中になっている今が絶好のチャンスなのだ。
    「撃ち方用意」
    屋根の縁ぎりぎりの場所に隊列を組んだ兵士達が弓を引く音がやけに大きく感じた。
    薄暗さも手伝って、ヴェインの位置からでは人影が何を用いて彼に害成そうとしているのか判然としない。これまでの手口から推測するなら刃物の類なのだろうが、彼の避け方から察するに今彼が持っている短剣と同じ位か、それ以下の長さのものなのだろう。
    彼は非力な獲物を演じて殺人鬼から逃げ惑い、殺人鬼はそれを嬉々として追う。ローブの端を掴んで石畳の地面に引き倒し、その上に馬乗りになった。
    「まだだ」
    弓を限界まで引き絞った団員が反応するより先に言葉で制した。今狙えば仕留められるだろうが彼にも危険が及ぶ。路地を挟んで向かい側の屋根に身を潜めているランスロットの部隊に目をやると、夜に馴染む黒髪から覗く白貌が僅かに頷いて見せた。
    「囮から離れた瞬間を狙え」
    揉み合っていた人影が彼に蹴飛ばされて数歩後ろへよろける。持ち上げた手を鋭く標的へ振り下ろした。
    ッ!」
    弦から離れた矢が空気を裂き、寸分違わず人影へと雨のように降り注ぐ。獣に似た呻き声を上げた殺人鬼はその場で苦痛から身を屈め、横倒しにどさりと倒れた。
    彼が用心深く人影に近寄り、動かないことを確認するとローブから顔を出して屋根の上の面子に向かって手を振って見せる。
    「大丈夫だよ!」
    張りのある声がその場に居た者達の緊張を一気に解いた。安堵の溜め息を吐く者や仲間と声を掛け合う者達が居る中、ヴェインは屋根の上から躊躇い無く身を投げた。
    「うわぁっ!」
    声を上げたのはヴェインではなくその様子を見ていた彼の方だった。難なく地面に着地したヴェインの姿を見てほっと胸を撫で下ろす。
    「びっくりした、落ちちゃったのかと思ったよ」
    「わはは!悪い悪い!」
    ヴェインは彼に駆け寄ると、頭に手を乗せ、次いで肩、腕、腹、と軽く触れていく。
    「わ、何、なに」
    「怪我はないか?さっき押し倒されてたろ」
    「平気だよ、ちゃんと気をつけてたし……、っ」
    屈んで足に触れた時、彼が僅かに息を呑んだことをヴェインは見逃さなかった。ヴェインの怪訝な表情を見て不味いと思ったのか慌ててくすぐったかったのだと取り繕おうとする彼の膝より上の辺りを今度は強めに掴む。
    今度は隠しようもなく体が強張り、痛かったのか言葉もなく身を捩ってヴェインの腕から逃れる力に抗わず手を離した。
    「悪い、痛かったか」
    怪我の有無の確認をしていたのに乱雑に触れるのは軽率だった。後悔と罪悪感から問うと彼は弱々しく笑みを浮かべて首を振った。
    「ううん、すぐ近くを触られたからびっくりしただけ……」
    「じゃあ、怪我があるにはあるんだな」
    「う」
    「しかも足か」
    「い、いや大丈夫だよ!一人で歩けるし、ちょっと掠っただけだから!」
    深刻さを帯びるヴェインの声音から厄介事の雰囲気を察したのか、彼は早口でそう捲くし立ててまだ僅かに息のある犯人を捕縛する手伝いをしていた仲間の元へ逃げようとする。その腕を捕まえて、ヴェインは背後から小さな体に両腕を回して行く先を阻んだ。
    「うわっ!?」
    勢い余ってくの字に曲がる腹を引き寄せ、肩に荷物を担ぐ時と同じ要領でヴェインは彼を軽々と抱き上げる。
    彼の短い悲鳴を聞いて丁度振り向いたランスロットに片手を挙げて声を掛けた。
    「こいつ怪我してるみたいだから、先に救護室連れて行くわ!」
    「ああ、分かった。こっちは大丈夫だから、頼んだぞ」
    「ランスロット!」
    担がれた彼は助けを求めてランスロットの名を呼ぶが、ランスロットは片腕を上げて応えるだけで彼の意を汲み取ってはくれなかった。
    ヴェインはランスロットに礼を告げると少年の体を担ぎ上げたまま大股に王城にある騎士団員の救護室へ向かう。何度か抗議の声が聞こえたが無視をし続けている内諦めに変わってただ運ばれるがままになった。落ちないようにと首に回された腕が時折力を込めて縋ってくる。
    救護室の扉を肩で押し開け足を踏み入れた薬品の匂いの漂う室内には誰も居らず、月明かりの中手探りでベッドまで近寄るとそっと彼をその縁に下ろす。
    「今明かり点けるから待ってな」
    机上のランプを探し当て火を灯すと、心許無い光が室内を照らした。医薬品の保管庫になっている戸棚から手当てのために使う包帯や消毒液等を漁る。
    「傷どんな感じだ?」
    「ちょっと切れてるだけだよ。殆ど痛くないし」
    全く構えず振り返った先に躊躇いなくズボンを腰から落とした姿があって思わず言葉を飲み込んだ。頼りない光の中照らされる脚は細く、日に殆ど晒されない為か生白い。緩やかな曲線を描く脚はまだ男性として完成されておらず華奢な印象を受けた。
    「ほら、ここ」
    大腿の内側の付け根に近い場所を指さされ、やっと我に返ったヴェインは無意識に足音を殺して彼に近付く。腰を屈めて覗き込むと横に赤い線を引くように裂傷が口を開けていた。
    彼の言う通り大した怪我では無かったがヴェインは彼の肩を押してベッドの隅に座らせる。
    「足上げたら痛いか?」
    「平気」
    ヴェインは彼の足首を掴んでベッドの上に乗せると足を開かせ傷口に顔を寄せた。間近まで寄ると微かに血の匂いが鼻先を掠める。戦場を想起させるその匂いがどうしてか心地好く感じ、ヴェインは傷口に舌を這わせた。
    「ひ、」
    流石に予想出来なかった事態だったのだろう、しゃっくりに似た声を上げた彼が体を強ばらせる。傷口自体は大きなものでもないのに未だに出血が止まりきっておらず、じわじわと裂けた皮膚の隙間から赤い液体が滲んでいる。血が止まらなくなるような、或いは痛覚を鈍磨させる類の毒が凶器の刃先に塗布されていたのかもしれない。そしてその毒が時間経過と共に血流に乗って全身へ行き渡ることで命を脅かす危険性がある以上、止血をして傷口を塞ぐだけの単純な治療だけでは不十分だった。
    ずる、と患部に直接口をつけて血を吸い出す。口の中に流れ込んできた分を綿紗に吐き出して、出血が止まるまで同じ手順を繰り返した。
    最後の血液を吐き出したが口の中には鉄でも噛んだような後味が残っており、ヴェインは僅かに顔を顰める。薄暗闇の中で膝を床に付けたまま僅かに上にある彼の顔を見上げると、羞恥と気まずさの中間の表情で此方を見下ろしていた。
    「ヴェイン、口紅つけてるみたいだ」
    言いながら彼が親指の腹を唇に押し付けて強めに擦ってくる。言葉通り唇に触れた指先は自身の血で斑に赤く染まり、満足して引きかけたその手首を掴んで引き寄せた。口元まで近付いた指先を咥えて血の貼り付いている表皮を舐める。掴んだ手首は一度だけびくりと戦いたが、それ以上の抵抗はなかった。
    僅かに広がる血液の名残りがすっかり無くなった頃、漸く満足してヴェインは指から口を離す。細い無色の糸が口と指先を繋いでいたが、ふつりと音もなく途絶えた。
    「……そこは怪我してないよ」
    突拍子のないヴェインの行動に驚きよりも諦念が勝ったのか彼は言いながらゆっくりとヴェインの手から自分の手首を取り戻す。ヴェインが棚から持ち出してきた綿紗に消毒液を含ませ、患部付近に残っていた血を拭き取った。血の気配が失せた傷口は赤く鬱血しており、原因は怪我そのものでなく目の前で治療の様子をじっと眺めている人物の処置のせいだろう。
    それについての言及はせず、慣れた様子で治療に取り掛かろうとする彼を制してその手から包帯を奪い取った。
    「俺がやるよ」
    これまでのやり取りでヴェインに包帯を渡す気がない事は察したのだろう。早々に諦めた彼はヴェインに向かって足を投げ出した。
    自分の肩に力の抜かれた膝を乗せ、消毒の終わった患部に綿紗を押し当て包帯をぐるりと太腿に何周かさせて固定する。
    「きつくないか」
    「平気だよ」
    包帯の端を結び余りの部分に歯を立てて噛み千切り、最後に膝を軽く叩いて彼を解放した。
    足に巻かれた包帯の表面をざらりと撫で、彼は律儀に礼を告げる。
    「ありがとう、ヴェイン」
    「礼を言うのはこちらの方だ。あんたのお陰で殺人鬼を捕まえることが出来た」
    「僕はただ逃げ回ってただけだよ。大したことはしてない」
    ベッドの端に座り直して彼は緩く首を振った。その姿にヴェインは僅かな違和感を覚える。
    彼はこんなに大人びていただろうか。否、大人びている、というよりも老いていると表現した方が近いかも知れない。静かに影の中に身を沈める彼はランプの灯火だけが頼りの室内で、今にも幻のように掻き消えてしまいそうに感じた。
    咄嗟に腕を掴んで彼を現実に引き留める。触れればそこには年相応の体付きをした少年が座っているだけで、ヴェインの唐突な行動に少し驚いた表情をしてこちらを見上げている。目尻から滲む幼さが、頼りなさが何故かヴェインを安堵させた。
    「……? あ、いつまでもここに居たら駄目だよね。手当てもしてもらったし、皆のところに戻ろうか」
    ヴェインの行動について違う方向へ解釈した彼がベッドから立ち上がる。その拍子に掴んでいた手を離してしまったが自分が何故そんな事をしてしまったのか理由すら曖昧で、小さく首を傾げながらヴェインは己の手を見つめた。
    床に脱ぎ捨てたズボンを拾い上げて身につけようとしている姿を見て我に返り、ヴェインは何の警戒心もないその背中に近寄った。
    「履かせてやろうか」
    「さ、さすがに一人で履けるよ。わ、待って、押さないで、うわっ!」
    片足をズボンに突っ込んだ状態の彼の背中を押すと呆気なくバランスを崩してベッドへ倒れ込んだ。自分も半分ベッドへ乗り上げてズボンの裾を摘む。
    「遠慮すんなってー」
    「してない!わあぁもう、それ逆!逆だから!」
    「……何やってるんだ二人して」
    ふざけてベッドの上で揉み合っていると後ろから呆れたような声が聞こえて二人は同時に振り向いた。
    「ランちゃん!お疲れ」
    「もう処理は終わったの?」
    手早く服装を整えベッドから飛び降りた彼が入口の扉に寄り掛かっているランスロットへ駆け寄る。ヴェインも散らかした医薬品を掻き集めて歩み寄った。
    「犯人は無事捕まえた。怪我を負ってはいるが元気なものだ。最後まで暴れられて大人しくさせるのに骨が折れた」
    「じゃあ、生きてはいるんだね」
    彼がほっと肩の力を抜いたのを見て、ランスロットが頷いてみせる。
    「そう簡単に手は下さないさ。彼女にはきっちりと裁きの場で罰を受けてもらわなければ」
    「彼女?犯人は女か」
    闇色のローブを纏っていた犯人は遠目からでは性別が分からなかったが、先入観から男だと勝手に思い込んでいた。女子供ばかりを狙ったのも、男を相手にすると純粋な腕力で敵わないからだろう。
    「夜道で商売している娼婦の一人だ。詳しく調べないと分からんがどうも麻薬を常用していた様子だ。動機も含め、聞き出さなきゃならん事が山程ある」
    無意識にか溜め息混じりの言葉遣いが仕事用のそれから普段の少し荒いものになっていることは指摘せずにおいた。夜も更けつつある時間だ、誰だって疲弊する。
    「二人共今日はもう休んでくれ。疲れただろう」
    「ランスロットは?」
    「後始末が終わったら夜番に任せて俺も休むよ」
    騎空団員達には街で一等級の宿の部屋が各自あてがわれており、作戦に参加しなかった者達は既に上質なベッドの中に潜り込みぐっすりと寝入っている。彼はまだ眠気を感じていないようだったがあの大立ち回りの後だ、自覚はなくとも体は疲れているだろう。
    「宿屋まで部下に送らせよう。ヴェイン、すまないが後少し付き合えるか」
    「勿論」
    言われずともランスロットが自室の扉を閉めるまで見届けるつもりだったヴェインは二つ返事で頷いた。
    夜番の一人に彼の道中の護衛を任せ、門を潜って遠ざかる背中が闇の中に消え入ってしまうまで見送った。
    「見た目は本当ただの子供なんだがなあ」
    踵を返して城内へ戻る道すがら、ヴェインがぽつりと零した呟きを肩を並べて歩いていたランスロットが聞き拾いこちらの顔を伺う。
    「ただの子供なら、自分から囮役を買って出たりしないさ」
    「確かにな」
    頷きを返しながら、ヴェインは救護室で見た彼の穏やかに凪いだ目を思い出した。何が彼にあんな表情をさせるのだろうか。あの輝きを他にも知っている者が居るのだろうか。寝食を同じ艇内で共にしている団員達なら、偶然目にしていても不思議ではない。
    それが酷く口惜しく思えた。
    残っていたのは事務的な処理だけで、それもすぐに終わった。本格的な後始末に追われるのは明日以降だろう。今晩はそれに備えて少しでも休養が必要だった。
    放っておくともうすぐ夜が明けてしまうから寝ても意味がないと言い出しそうなランスロットをヴェインは有無を言わせず兵舎にある自室の前まで送り届けた。ヴェインに促される形でドアノブに手を掛けたランスロットが振り向き、苦い表情を見せる。
    「そこまでしなくても、流石に今から執務に戻る気力は残ってないぞ。俺はそんなに信用が無いのか」
    部屋の扉が閉まるまでは梃子でも動かない姿勢を取っていたヴェインはその問いに肩を竦めて見せる。
    「何せ前科持ちだからな。うちの騎士団長は」
    日中片付かなかった作業途中の書類をランスロットが自室に持ち帰った結果、散らかり放題の室内で紛失して大変なことになった事件はまだ記憶に新しい。あんな事態に陥るのはもう御免だと言外に仄めかすと一応忘れてはいないらしく反論はなかった。
    これで大人しく寝てくれるかと胸の前で組んでいた腕を解きかけた時、ランスロットが半分程開いた扉の向こうに一歩踏み出した体勢のまま再度問い掛けてくる。
    「ヴェイン」
    「何?」
    「……まさかとは思うが、お前、団長に手は出してないよな?」
    そんな質問が飛んでくるとは思っていなかったヴェインが丸い目を更に丸くして瞬かせると、ランスロットは気まずそうに顔を逸らした。
    「俺が?まさか、してねえよそんなこと」
    「そうか、ならいいんだ」
    「もしかして救護室でのことか?あれはただふざけてただけで」
    「いやいいんだ、俺が邪推し過ぎていただけだ。変なことを聞いて悪かった」
    ヴェインの反応に、ランスロットは少し安堵しているように見えた。その安堵が何処から来るものなのか見透かそうとヴェインは気付かれない程度に目を細める。
    兄弟同然に育った幼馴染も自分と同じものを腹に抱えているのかと、整った横顔の向こうの思惑を探った。
    「いや気にしてないよ、誤解されたままなのも嫌だしな。聞いてくれて良かった」
    短い就寝の挨拶を交わし、今度こそ扉の向こう側に消えるランスロットの背中を見送り、ヴェインは一人小窓から月光の差す廊下を歩く。皆寝静まっている時間帯故に、足音も極力消した。
    一連の事件の犯人を捕らえた事で、国王の懸念の種が一つ消えたことは喜ぶべきことだろう。これで国民も夜を安心して過ごせるようになる。
    「……もう寝たかな」
    事件解決に向けて献身してくれた彼は無事に宿に着いただろうか。もう既にベッドで寝息を立てているかもしれない。
    あの少年について思うことは色々とある。単純に好意的な感情から憧れに似たものから嫉妬のようなものまで。多様性を含んだその感情の名前が恋だと自覚したのは王国が二度目の危機から脱した後のことだ。恋愛沙汰に疎い自分でも、これが恋なのだとすとんと納得が行く程に深く大きな衝動だった。
    自分が存外我慢強い性格であるという自覚も、同時期に生まれたものだ。
    あちこちの島から島へ飛び回る騎空士の彼と、国に唯一の忠誠を誓って根を張る自分とが時間を共有出来る機会は少なく貴重だ。下手をすれば年単位で会えないこともあるだろう。それに焦れたり苛立っても仕方の無い事だ。自分が国を捨てるか、彼が空を捨てでもしない限りその距離は埋まらない。そしてそのどちらもが実現し得ないものである事をヴェインは重々承知していた。
    だからヴェインは待つのだ。眈々と付け入る隙を伺い、僅かな逢瀬を使って距離を縮め、彼が背中を押せばすぐにでもこの手の中に落ちてくるタイミングを。
    ヴェインは自分を我慢強い性分だと自負している。彼を得る為の『おあずけ』ならばいくらでも待とう。待った時間が長ければそれだけ手に入れた時自分の心はきっと満ち足りる。


    「もう少しゆっくりしてけばいいのに」
    翌日、ヴェインは見送りをする為に騎空艇の発着場へ赴いていた。慌ただしい事だがまた違う島での依頼を受けたらしい。
    「そうしたいのは山々だけど、依頼主を待たせるわけにもいかないから」
    今日一日使って空を渡り明日には依頼主の待つ目的地に着いていなければならないと語る彼の表情に疲れは伺えない。昨日深夜まで街を歩き回っていたとはとても思えない様子に舌を巻くが、このタフさが無ければ騎空団の団長等とてもやってはいけないのだろう。
    彼の背後では既に出発の準備が整った船が低く唸りを上げている。聳え立つ船体を一度見上げ、ヴェインは彼の手を取った。体格と同じく一回りも二回りも小さな掌を強く握って真っ直ぐに目を覗き込む。
    「あんま無理はすんなよ、お前意外と無鉄砲だから」
    「あはは、気を付けるね」
    苦笑を浮かべた彼に繋いだ手を軽く握り返されるが、返答は芳しくない。懲りずにまた率先して無茶をするのだろう。ヴェインは半ば諦念の溜息を吐き、彼の腕を予告無く引き寄せた。
    「わっ?!」
    突然のことで予期出来なかった彼の体が昨日船から降り立った時と同じようにヴェインの腕の中に収まる。榛色の前髪を片手で掻き上げ、露になった額に唇を押し付けた。
    幼い子供に母親がするように軽く音を立てて唇を離すときょとんとした丸い目と視線が合う。
    「おまじないだ。お前の空の旅路に幸多からんことを」
    ヴェインの祈願の言葉を受けくしゃりと破顔した彼の顔を見ているとこのまま攫ってしまえればという欲望が頭を擡げたりもするが、無邪気な笑みの向こう側に押し殺して彼を解放した。
    「ありがとう、ヴェイン。ヴェインの下にもたくさんの幸運が運ばれてきますように」
    小さな体を翻して彼は自分を待つ船に乗り込んだ。甲板から顔を出し、船を見上げているヴェインに向かって大きく手を振る。それに片腕を高く持ち上げる事で応え、ヴェインは陸を離れ空へ滑り出した船が空の向こうに消え入るまで熱心に見つめていた。
    「おまじないだ」
    言葉の意味を噛み締めるように誰にも聞こえない声量で再度呟く。彼の旅路が安全なものであるように、またこの場所で彼を腕に抱くことが出来るように。そして少しずつ少しずつ、彼の内側に自分の居場所を増やしていくための『まじない』だ。
    ヴェインはその場で一度大きく伸びをしてくるりと踵を返す。無限に広がる果てのない空に背を向けて、街の中央に聳える王城に向かって歩き出した。
    亮佑 Link Message Mute
    2022/08/14 17:08:50

    おあずけ

    pixivからの移設です。
    #グラブル #ヴェグラ

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