煙草ポイと伊織の前に何かが放り投げられた。
「千代倉、何これ?」
「たばこー」
「いや見ればわかるし」
「貰った」
と言葉足らずに千代倉は定位置のソファーに腰を下ろす。
いつもの場所に満足したのか、ごそごそと煙草を一本口に咥えながたポケットを漁りライターを取り出す。
その様子を見た伊織はため息をつきながら千代倉の前に腰を下ろし、煙草をとる。しかし、肝心の火がない事に気が付く。
「火。頂戴」
「ないの?」
「普段吸わないって」
「あぁ。そうか」
ん。と自分が火をつけた煙草を咥え伊織の前に顔を寄せる。
「は?」
「はーやーくー」
「はいはい」
目をつむって待機してる千代倉に煙草を咥えた伊織は顔を寄せる。
火を移す瞬間、伊織は千代倉を盗み見るがいたっていつも通りにしか見えない。
「俺(・)こんな趣味ないんだけど」
「僕だってないしー。伊織君にしかしないしー」
「はいはい。で今回は何があった?」
二人は久々の紫煙をくゆらせる。
一瞬の静寂が訪れる。
「女が殺された。たぶん歳はかわらない」
静寂を破ったのは物騒な一言、ただしそれは非日常でありながら二人にとっては日常なこと。
「むかーし、むかーし、あんな女がいたなって」
「そう」
イライラをぶつけるように千代倉は煙草の火をもみけす。
らしくないことに、 一つ上の女の人に昔よくしてくれた従姉を重ねてしまった。そんな従姉の行方は知らない。もしかしたら?って気持ちもあったのかもしれない。それでも、
「ただそれだけ」
そう、ただそれだけだ。
「そう」
それだけ言って伊織は千代倉に煙草の箱を向ける。
「ほら。もう一本。旭(・)」
「はっ。性格悪いなお前」
「知ってるだろ」
「まぁな」
Kinoko
差し出された箱ごと奪い無造作にポケットへ押し込む。
こうして日常は淘汰されていく。