昔々のお話弥と栞(弥視点)
原則として二十月家の人間が10歳になる前に対面すること、妖の三家が二十月家を訪問することは禁じられている。
そんな原則くそくらえだと思ってたし、どうでもいいと思ってた。
俺は天狗の半妖。そう言う血筋だと。10歳頃に父親から知らされた。
「ふーん………」
感想としてはそんなものだった。
父親は二十月家のお抱え運転手で一日いないことはざらだった。母親は物心つく前に死んだと聞いた。
そんな訳で俺は一人で過ごすことも多かった。友人はいたが、小学生だと家族優先だったからな。
そんな暇を持て余してた俺は父親から頼まれごとをされる。
「あるお嬢さんを見てて欲しい。名は告げるな。家にも行くな」
これは二十月家絡みだろうと察した。小遣いをくれると言うので引き受けることにした。
早速会いにいった。
「嬢ちゃん。今日は何してんの?」
「ありのかずかぞえてた」
なんだこいつ。ヤバイやつか?と恐る恐る顔を覗くと今にも泣き出しそうな顔をしてた。本当は寂しいんだと言いたいのに言えなくて泣きたくなくて数を数えてたのかと思うと、苦しくなった。
不器用ながらに周りに心配させまいと気丈に振舞っているのが付き合っていくうちに見えてきた。それでも寂しかったのか、遠回しに声をかけてきた。
「弥にい、おうちにあそびにきて」
これは困った。原則に反する。怒って見せてるが、瞳は泣いていた。
この時も苦しくなった。
そして、栞が10歳の誕生日前日。
「弥にい…あのね…えっと」
言いにくそうに栞が声をかけてきた。
家で誕生日祝って欲しいんだろうな…でも断られたら嫌だなって全身が言っていた。ついに堰を切ったように涙が溢れてきた。
「あのねっ…ひっ……やっぱり……いえなっ…ひっく……わぁぁん……」
「ほら、泣くなって」
俺はこんな小さい子を泣かして何やってるんだよ。原則なんて破っちまえ。…それでも破れない自分が恨めしい。
せめて泣き止んで欲しいと、抱きしめて声をかける。
「…大丈夫、ちゃんと言いたい事わかるから、だからもう泣かないで。」
俺は君の味方だから。
翌日の誕生日には全部話した。納得してくれたかはわからない。それでも笑ってくれてた。その笑顔に報いたい。
不器用で一生懸命な君が笑っていられるなら俺はなんだってやってみせるよ。
栞と弥(栞視点)
原則として二十月家の人間が10歳になる前に対面すること、妖の三家が二十月家を訪問することは禁じられている。
確かに私は10歳まで弥兄さんの事を狗巻の人間だとは知らなかったし、弥兄さんが私が10歳になるまで二十月の家に上がる事はなかったのは原則せいだった。
まだ10歳になる前の私は霊感が強く人との霊の区別が付いていなかった。霊に話しかけたりして独り言を言ってたみたいで、同級生からは「変なやつ」「キモイやつ」「一緒に居たくないやつ」とレッテルを貼られてた。
それでも幼稚園から小学低学年の時は仲間に入ろうと頑張ってた。でも、周りと異質な私は仲間に入れる訳がなかった。
そんな中、優しくしてくれたのが弥兄さんだった。家に帰ってもただ広い家でいつまでも帰ってこない両親を待ち続けるのは幼い子供には苦行だった。そんな私の居場所は公園と弥兄さんの隣だった。
「嬢ちゃん。今日は何してんの?」
「ありのかずかぞえてた」
そんなたわいもない話から、意地悪されて悔しかった事や、宿題の事なんでも聞いたし何でも話した。
勿論、家にも誘った事があった。
「弥にい、おうちにあそびにきて」
「んー……そのうち」
私は頬を膨らませ、不機嫌な顔をして見せた。
弥兄さんは困ったように笑った顔をしてた。
幼かった私は何故かその顔を忘れる事が出来なかった。
そして10歳の誕生日前日。私はどうしても弥兄さんに誕生日を祝ってもらいたかった。
「弥にい…あのね…えっと」
「ん、何?」
「……」
「……」
でも、以前断られた時の顔が過ってうまく言い出せなかった。それでも、いつまでも、いつまでも、私が言い出すのを弥兄さんは待ってくれていた。
言いたいのに言えなくて耐えきれなくなって泣き出してしまった。
「あのねっ…ひっ……やっぱり……いえなっ…ひっく……わぁぁん……」
「ほら、泣くなって」
弥兄さんは優しく私を抱きしめてくれた。どこまでも暖かく優しく。
「…大丈夫、ちゃんと言いたい事わかるから、だからもう泣かないで。」
頭まで撫でてくれた。親にもされたことなかったのに。嬉しかった。
なんで言いたいことが分かったのだろうという疑問はあった。それ以上にわかってくれてたことが嬉しくて私は目が真っ赤になるまで泣き叫んだ。
翌日の私は驚きと嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。弥兄さんが二十月の家にいたからだ。
弥兄さんは「ごめん」と一言言った。
栞を一人にするのは危ないから、家の運転手の息子である弥に栞を見てくれるように頼まれたんだと。決して嫌々引き受けたわけではないと。
仕事だったのかと、よくわからないけど悲しくなった。それでも嫌ではなかったという事を私は信じることにした。弥兄さんは、弥兄さんだ。
これからは家に帰っても一人じゃない。一人じゃないってないってこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。
縣
原則として二十月家の人間が10歳になる前に対面すること、妖の三家が二十月家を訪問することは禁じられている。
そんな事を知ったのは、両親か間合い話を持ってきた時だった。
…確か10歳だったように思う。
まだ、鼻垂れ小僧だった僕にそんな事わかるわけないよね。
見合いなんてサボるわ、
めちゃくちゃにするわ、
で、破談になった。
一度気まぐれでちょっと付き合ってやった。
「あがたくんてー。つよいね。わたしのこと ”いっしょう” まもってね」
なんて一丁前にしなをかけてきやがった。
面倒くさくなって会うのやめたらいつの間にか破談になってた。いつ見合いが上手くいったと思ったのか。しょせん気まぐれだよね。
「縣!女の子泣かせて何やってんのよ!」
どうやら、その名前も思い出せない女の子は泣いたようだ。
ふーん…?何で泣いたんだ?ぐらいにしか感じなかった。
そんなことより10歳のガキだった僕は同い年の「弥」といる方が楽しかった。 たまたま学校が一緒だったんだよね。 ヤツは余計な事言わない。 冗談にも乗ってくれるし。 最近乗ってくれなくなったのは悲しいかなー。
そんな弥も中学に上がると二十月のやつのお守りをするようになった。
「へぇ……どんなやつ?」
「ほっとけない」
あーあ。
弥らしい。
らしすぎるだろ。
いつか痛い目見るぞと思いつつ僕は何も言わない。言うわけないじゃん?こんな楽しい事。
数年後そのほっとけない奴に会わせてもらった。
「二十月栞です。こんにちは」
「東狐縣だよー。よろしくね。栞ちゃん」
愛想笑いの一つも出来ない不器用な女の子だった。
気丈に振る舞ってるけど弥が居ないと不安でたまらないって全身で言ってる。 それを知ってか知らず弥は隣に立ってる。
なんて危うい関係。
……まぁ、僕には関係ないけど。
僕は楽しく生きながらえればそれでいい。
それでいい。
「力が強くて体が持たないかもしれない。器が持たなければ壊れてしまうから気をつけろ」 縣に告げられたたのは10歳の時。
使えば使う程、器は脆くなる。
なのに許嫁を作って守らせようとした。
家の繁栄と醜聞が立つのを嫌って。
篝
原則として二十月家の人間が10歳になる前に対面すること、
妖の三家が二十月家を訪問することは禁じられている。
そんな大事なこととは知らずに両親からの話は聞き流していました。
高校に入学したての時、二十月家と三月の関係を思い出したぐらいでした。
妖の力が暴走したのです。
帰宅途中に一人で居る時に変化してしまい、抑制することが出来なくて困っていました。
『あぁ‥‥どうしよう。こんなこと今までなかったのに』
半べそをかいて慌てふためいていた時にあらわれたのが先輩方でした。
一人は大きな目つきの悪い先輩。
もう一人は口元に笑みを浮かべた先輩。
「大丈夫?」
優しく助けてくれたのは大きな方で弥先輩。
もう一人は後ろで笑ってた縣先輩という方でした。
その時私は一世一代の恋をしました。
弥先輩にー。
弥先輩も縣先輩も同じ学校の同じ委員会でした。
それから弥先輩に少しでも近づきたくて、帰り道のバイト先を選んだり
お菓子を差し入れしたり、休日もばったり会えるように休日の行動も観察したりしました。
一秒でも長く先輩と一緒に居たくて努力もしましたし、釣り合うように容姿にも気を付けました。
なのに。
それなのに。
こんなに努力しても先輩の視界に入ることは叶いませんでした。
側には二十月の小さな女の子がずっと一緒にいたのです。
先輩はずっと彼女ばっかり見続けて私のことは見てくれませんでした。
「篝ちゃんはいつまで弥の事見続けてんのかな?」
「あっ・・・縣先輩には、関係ありませんっ」
「へー?フラれたのに次いかないの?」
「それこそっ・・・関係ありません・・・っ」
縣先輩はニヤニヤしながら私の気持ちをからかってきました。
からかってきましたが、私はずっと弥先輩のことが好きですよ。
たとえ、この手に入らなくても。
愛してみせます。
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ちょっと弥を思うあまり違う方向にいっちゃった女の子。
ばっちり卒業日に告白してフラれてます。
なぜ弥かっていうのはピンチの時に助けてくれた王子様に見えたんでしょうね…(・_・)