祭事を終えて夜も更けた頃、マウイは島に到着した。どこからともなく祭事の太鼓の音が聞こえてくる。鷹からトカゲになって太鼓の音の聞こえる方向へ木を伝って祭事の場所へ辿り着いた。他の女性たちと息を揃え、モアナが軽やかに踊っているところだった。その姿は、松明のように輝いている。
祭事を終え、モアナはマウイを探した。樹上を見て、彼女は彼に手を振る。彼は虫になって飛行し、彼女の掌へゆっくりと降りた。
「こんばんは、マウイ」
「久しぶりだな。踊り綺麗だったぞ」
「ありがとう、見てくれたのね」
ウインクした彼を見て、モアナは微笑む。
「村長!」
村人がモアナを呼んだ。慌てて彼女はマウイを手で包んで隠して村人のほうへ顔を振り向かせた。
彼は彼女の胸に押し付けられる。温かく弾力のある感触だが息苦しい。彼女から抜け出そうとマウイはもがいた。
「そろそろ集会を始めますので」
「わかったわ」
村人が去っていき、モアナは掌を開いた。だが彼の姿はない。
「ひゃっ!?」
モアナは目の前に鷹の姿のマウイがいたことで声が裏返った。
「隠す必要ないんじゃないか?黙ってれば他の虫と同じだしな」
言われてみるとそうだ。なぜ気づかなかったのだろう。
「あと……」
マウイは足の鉤爪で器用に顔を掻きながら、言いにくそうに続けた。
「胸に押し付けるのは流石に息が詰まる」
モアナは踊った時と同じような体の火照りに襲われた。
「悪い。余計だった。今度は4日後でいいか?」
モアナは目を見開いたまま何も言えず、頷くのが精一杯だった。マウイはそれを確認すると、そのまま飛び去っていった。
滑空しながら、彼女の胸に押し付けられた感触がぶわりと蘇った。さっさと忘れてしまおう。しかし、そう思えば思うほど体温や服の質感まで蘇ってくるから腹が立ってくる。
見た目だけでは変化のない鷹の姿でも下腹部が熱くなっている。半神の姿だとどうなることか。あまり考えたくなかった。
彼女には失礼なことを言ってしまった。だが、同じことを繰り返されたら、自分が彼女に何をするか予測ができなかった。そんなことを考えつくような自分を恐ろしく思えた。前に、捧げものの女を目の前にしたときと比べれば些細なことだ。だが、考えたところで彼女への罪悪感は拭えるはずがなかった。
急いで落ち着ける無人島を探さないと。自己嫌悪で気を取られているうちに、彼は休憩によく使っているはずの無人島を通り過ぎていた。