弐段が三人「弐段三人って、多すぎないか?」
「そんだけ早く終わらせろいう事やろ」
移動中の車内には運転手とは別に三人の刀遣い。年の頃は三人とも三十前後、ではあるがそれぞれに違った雰囲気の青年だった。
最初に口火を切った青年……葵台路太は、西の方の訛りがある和装の青年、柳見安仁を眠たげな眼差しで見た。ううん、と曖昧な相槌を打つ。
「民間人を避難させるのに失敗したらしいですよ」
長い手足を窮屈そうに折り畳んだ三人目の青年、九角富嶽がそう告げると、路太はぐっと眉を寄せ、
「おまけにあの辺はガス管が浅いんや」
安仁の言葉にとどめでも刺されたように呻いた。
「……露骨にめんどい顔すなや。わかる」
緊張感のまるでないやり取りではあるが、彼らはいずれも──傾向の違いこそあれ──任務に対してはきちんと向き合う気質であったので、現場に車が到着すると真面目な顔になりそれぞれ車を降りた。
「葵台路太以下三名、現場到着」
『了解、天泉薫配置につきました。よろしくお願いします』
「よろしく。……さて」
インカムの具合を確かめてから、路太は二人を見た。
「基本的に各自の判断で。散開、索敵、見付け次第報告、いけそうなら撃破」
「了解。わかりやすうてええわ」
「誰が当たりを引きますかね」
それぞれに別の方向へと向かう三人。確認された妖魔は一体だが、目撃情報によると大型のオチムシャである。一般的な刀遣い一人では少々手に余る。なるべく早く見付けるために三人、見付けた際に一人でも対応できるように弐段。過剰な戦力には一応理由がある。
さて、路太である。街灯が多いのは幸いで、夜のわりに周囲の見通しはよかった。人気はなく、ひとびとは家の中で息を潜めているものと思われた。ごく自然な仕草で歩く路太は、その腰に刀がなければ散歩でもしているかのようである。
不意に、振り返る。街頭が照らしきれていない闇を眺め、それから、頭を掻く。
「俺が『当たり』かあ……」
そっと刀に手を触れさせる路太。その所作に硬さはない。
「葵台、目標を発見。二人に座標頼む」
『了解』
オペレーターによって他の二人に路太の現在地が伝えられる。少しの間。
「柳見、三分」
「……九角、五分です」
それぞれが短く返答する。そして告げられた時間、路太は一人で対応しなければならない。すぅ、と息を吸い、吐く。
街頭が照らす一角へ、ぬうっと大きな影が現れる。頑健そうな鎧武者の姿をした妖魔は路太よりもかなり大きい。通報通りである、通報者の誇張の可能性を期待していた路太は内心嘆息した。
妖魔がゆっくりとその大太刀を担ぎ上げる。路太はじりじりと攻撃のタイミングを窺っている。
……なるべく周囲にダメージが出ないように戦わねばならない。天照には、妖魔からひとびとの命及び財産を守る義務がある。命が最優先ではあるが、物理的な被害も少ないに越したことはない。
「……」
じっ、と妖魔を見ている路太。他の二人が来るまで無茶をするつもりはない。妖魔の禍々しく燃える目が揺れた次の瞬間、その巨体に似合わぬ速度で大太刀による一撃が繰り出された。