イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    3月のログ弁当屋と演劇部くろのゆめ動物園へ行く話パスタを食べるだけの話まもってねよるのそこよるのそこ2よるのそこ3無題しあわせなふたり 診断メーカーすきのいみからだめあてからだめあてそのにておくれあさのたまごよるのとばりとばりあげしたあそび※したあそびのその後
    弁当屋と演劇部
    こんにちは寿先輩。涼し気なよく通る声がした。
    「いらっしゃいひじりん、買い出し?」ぼくは手を止め彼に目を向ける。
    いえ、今日は演劇部の定期公演の日程が決まったのでまずお知らせをと思いまして…と1枚の紙を差し出してきた。
    「あ、もうそんな時期か。ありがとね。ポスター出来たら持っておいで、店に貼るから」
    彼は軽く頭を下げて何か言い澱むような素振りを見せる。ややあって、寿先輩、とぼくの名前を口にした。
    「ん?」
    俺が卒業するまでに1度だけで構いません、どうか一緒に舞台を
    「ごめんひじりん、前にも言ったけどそれだけは出来ないよ」
    遮るように口をついて出てしまった拒絶。彼の顔を見て、ぼくが今とても冷たい目をしているのに気付いた。
    くろのゆめ
    珍しい事があるもんだ。
    普段はおれより先に起きている嶺二が、まだ横で寝息を立てている。
    「おい嶺二」軽く肩を揺すってやると薄く目を開けモゴモゴと口を動かす。
    「そろそろ起きろ」
    「あ…3時…ゃがいも?」
    「え?」
    意味の分からない事を一言二言口にして嶺二はようやく起き上がり、頭を掻いたり鼻をすすったり、あーだの、うーだの呻いている。
    「何だ今の」
    「おはよ…ごめん…なんか夢見てて」
    「じゃがいもとか言ってたぞ」
    「うん…実家の2号店の店長してた…」
    「商売繁盛じゃねぇか。なによりだ」
    精一杯茶化してやったつもりだったが嶺二はまだぼんやりしている。
    「どうした?具合悪いのか」
    「最近よく同じ夢みるんだよね…」
    ぼく、寿弁当2号店をオープンさせてて、近くに大学があるみたいで学生さんに人気で…
    と、ここまで話すと嶺二は口の動きを止め
    「…夢見ると疲れるじゃない?」
    顔を両手で覆ってしまった。

    「いつも途中で怖くなって無理矢理起きるんだけど」
    泣いているのか笑っているのか、嶺二の声が微かに震える。
    「今日はランランが出てきたから起きるのちょっと勿体なくて」
    嶺二の手を掴んで顔から外してやると、目元が赤くなっていた。
    「んだよ…泣くほど怖い夢見てんのか」
    からかうように声をかければ、きっといつものおどけた調子で返してくるはず、と思ったのに

    「うん」

    嶺二の目からぱたぱたと大粒の涙が零れた。
    動物園へ行く話
    ―あ、ぼく動物園行きたい。
    という気まぐれな思い付きで、急遽動物園へ足を運ぶ事になった。
    平日の夕方、閉園が近いような時間に滑り込んだので人はまばらだ。こっそり手を繋いだり離したりしながら早足で園内を歩いていると
    「ハシビロコウだ!」
    嬉しそうに声を上げ、嶺二の足が柵の前で止まった。歩きだす気配がない事を察した蘭丸が、飲み物買ってくる、とその場を離れ戻って来ても嶺二は柵にかじりついて中を凝視したままだった。


    「なぁ、おい。いつまでここにいるんだよ」
    「んー…もうちょっと…」
    「つか、何だあの鳥。生きてんのか?」
    「ランラン、ハシビロコウ知らない?ハシビロコウはね、動かない鳥なんだよ」
    「は、なんだそれ」
    「本物見るの初めてなんだけど本当に動かないんだねぇ…」
    茂みの陰に佇んでいる大柄な灰色の鳥は、ここに来たと同じ姿勢のまま微動だにしていないようだった。
    「動かねえ動かねえ。ほらもう閉園アナウンス流れてんじゃねぇか。行くぞ」
    「うわーん」
    柵にしがみつく嶺二を蘭丸が引き剥がし引き摺るように歩き出したその時、遠くで鳥が大きな翼を広げる音がした。
    パスタを食べるだけの話
    「ランラン、どのくらい食べられる?」
    バラバラと袋から溢れてしまったパスタを揃えながら声をかける。まぁレシピ通りに作ってもいいかな、なんて思っていたら、ぼくの脇から伸びてきた手が返事の代わりにパスタを一掴み抜き取っていく。
    「え、それさすがに多くない?普通の1人前ってこの位だよ」
    親指と人差し指で小さめの輪を作ってみせるが何やら不服そうだ。
    「これスパゲティーニだから太いし、茹でると結構増えるよ?」
    「そんぐらい知ってんよ。知っててこれだけ食うっつってんだ」
    「わーお。男の子だね〜」
    「んだそれ」
    いっぱい食べる君が好き〜なんて歌いながら、たっぷりの熱湯が入った鍋にパスタを投入。タイマーは短めにセット。隣ではランランがフライパンでベーコンを炒めていて、とてもいい香り。そこにトマト缶を入れて、塩胡椒を少々。パスタの茹で汁を少し足してひと煮立ち。
    「うーん、トマト缶は万能だねぇ」
    「今度あれやろうぜ、鶏のかたまり肉のトマト煮」
    「いいねいいねー。あれテンションあがるんだよねー」

    ピピッとタイマーが鳴る。パスタを一本引き上げ少しかじってチェック。ランランにも半分。程よいアルデンテは狙い通りで完璧だったが。
    「っほらぁ!こんなだよランラン!」
    案の定、鍋をあけたら山のようなパスタ。スパゲティモンスターのご登場だ。
    「だからおれは食うって言ってんだろ」
    「うぅん…ソース足りるかなぁ」
    パスタが固まらないようオリーブオイルを手早く回しかけて、皿に移す。千切ったモッツァレラチーズを埋め込んでトマトソースを乗せ、バジルも散らして
    出来上がり!



    「太いパスタ好きだけど、茹で時間かかるのがちょっとね」
    「どうせ夏になったらあの素麺みたいなのばっかになるんだから、いいじゃねぇか今くらい」
    「あーなるほど、カッペリーニは夏のものって気がしちゃうのは素麺みたいだからかぁ」
    冷製パスタならあんなのやこんなのも…と思いを巡らせながら熱でとろけたモッツァレラチーズと格闘している間に、ランランは(一人分とされている量をゆうに超えた)パスタの山を宣言通りに平らげていた。

    *********

    「ねえランラン、デザートいる?」
    「デザート付きとはずいぶん豪勢じゃねぇか」
    「ちょっと。なんでニヤニヤしてるの」
    「だって。食わせてくれんだろ?デザート」
    そう言ってランランはぼくの指先を吸う。
    「おまえは?食わねぇの?」
    「………食べます」
    ぼくも彼の下唇に噛みついた。
    まもってね
    「あっランラン!ぼく明日早いから今日ランランち泊めて〜!」

    やけに大きな声を出しながら嶺二がおれに向かって近付いてくる。
    「は?おまえ明日」
    ふと、嶺二がしきりに目配せをしているのに気付き、危うく出かかった「休み」の一言を飲み込む。
    「あー…構わねぇけど寝る場所床だからな」
    「ありがと!ランランちの方が現場に近いから助かるよ」
    自然に見えるようぶっきらぼうな返事をしながら、目が笑っていない嶺二越しに先程まで話をしていたであろう人物を見やる。
    あぁなるほど。最近仕事外でしつこいフリーのライターがいて…という話を聞いていたが、こいつか。

    「もー愛しのぼくちんのピンチなんだから察してよ!」
    その後なぜか嶺二からめちゃくちゃ怒られた。理不尽にもほどがある。
    「無茶言うな。でも顔覚えたからな、次は無ぇ」
    指の関節を鳴らしわざと芝居がかった調子で言ったら、何が気に入ったのか途端に嶺二の機嫌が良くなった。
    よるのそこ
    寄り道をしながら、きみの部屋を目指して歩く。
    手にしたコンビニの袋が擦れる音、街灯に虫がぶつかる音、猫が喧嘩している声、二人の足音。深夜の住宅街は静まり返っていて、会話が途切れるとお互いの息づかいが聞こえるほど。
    「まだ夜は冷えるね」
    「そうだな」
    「今度夜桜見に行こうよ」
    「ああ」
    またすぐに会話は途切れた。けれど今、きっと相手も自分と同じことを考えている。ちらりと隣にいるきみを見る。思いがけず視線が絡んだ。
    ほらねやっぱり。
    少し嬉しくなって自然と早足になって、目指すきみの部屋が見えてきた。

    「ぼく脱ぎにくい靴履いてるから先に入っ、て」
    ドアを開けて待っていたのに、きみはぼくの肩を抱いて、そのまま二人でなだれ込むように部屋の中へ落ちた。いつの間にかきみは持っていた荷物を放り投げてしまっていて、空いた手でしきりにぼくの髪を触っている。袋から転がり出たビールの缶を目で追いながら、ぼくは後ろ手でドアの鍵を探った。きみの形をなぞる時と同じく慎重に。

    カチリ
    鍵が閉まる音が響く。
    それが合図。

    「ビールかわいそ…」
    「こっちは待ちくたびれてんだ。おまえがさっさと買い物済ませねぇから」
    強く抱きしめられ、きみの匂いに埋もれて溺れそう。せっかちは損だよ、と言おうとして開けた口は、きみにそのまま塞がれてしまった。

    そして途切れた会話が進むことはなく
    この夜はきみとぼくだけのものになる
    よるのそこ2
    徒歩でも大して遠くないはずの自宅に一向にたどり着かない。嶺二の寄り道が止まらないからだ。何がそんなに楽しいのか、スーパーへ寄ってみたり、ドラッグストアへ寄ってみたり、コンビニエンスストアはこれで何軒目だ。ローソンじゃなくてセブン行きたいって知るか。どっちでも同じだろ。
    久々に合せて取れた連休前夜。旅行もいいけどランランの家でだらだらしたいな、と甘ったれた声で言われて期待したわけじゃない。いや、若干期待した。悟られてたまるかと態度に出さないようにしているつもりだが、恐らく嶺二にはバレているだろう。分かっててこの態度だと思うと悔しくもなる。
    「ったく、ここ来ると遠回りなんだよ…ほら、ご所望のセブン」
    「おー、こっちの道にあるんだ。知らなかった。セブンのプリンが美味しいって教えてもらってさ、食べたかったんだよね」
    あ、ビールも買お。カゴにポンポンと物が増えていく。
    「んー満足した!よし帰ろー」
    ようやく寄り道は終了したようだ。

    手にしたコンビニの袋が擦れる音、街灯に虫がぶつかる音、猫が喧嘩している声、二人の足音。深夜の住宅街は静まり返っていて、会話が途切れるとお互いの息づかいが聞こえるほど。
    「まだ夜は冷えるね」
    「そうだな」
    「今度夜桜見に行こうよ」
    「ああ」
    またすぐに会話は途切れた。けれど今、きっと相手も自分と同じことを考えているはず。ちらりと隣にいる嶺二を見る。思いがけず視線が絡んだ。あぁ、ちくしょう。おれの負けだよ。何笑ってんだおまえはもう。
    突然嶺二が早足になるのを、黙っておれは大股で追いかけた。

    「ぼく脱ぎにくい靴履いてるから先に入って」
    嶺二がドアを開けて待っている。おれは嶺二の肩を抱き、そのままなだれ込むように部屋の中へ引っ張り込んだ。すぐにでも触れたくて、持っていた荷物を放り投げ空いた手で嶺二の髪をすく。ビールの缶が床を転がっていく音に合せて嶺二の視線が動き、そのまま後ろ手でドアの鍵を探りだした。おれに触れる時のようにゆっくりと滑らかに動く指先を見て、思わず喉がなった。

    カチリ
    鍵が閉まる音が響く。
    それが合図。

    「あーあ、ビールかわいそ…」
    「こっちは待ちくたびれてんだ。おまえがさっさと買い物済ませねぇから」
    嶺二の匂いに溺れそうになりながら、強く抱きしめ首筋に顔を埋める。ランラン、と名前を呼ばれ顔を見た。何か言おうとしているのか薄く口が開いたが、どうせ余計な事を言うのだろうと思いそのまま塞いでやった。



    よるのそこにはふたりしかいない
    よるのそこ3
    派手に床へ放り出された缶ビール。そのままの状態でしばらく放置されていたとはいえ無事かどうかは開けてみなければ分からない。嶺二は恐る恐るプルタブに指をかける。
    「やだなー…絶対泡でしょこれ…ランラン開けてよ…」
    「飲みたい奴が開けろよ。おれは今いらねぇから」
    恨めしそうに嶺二が投げてくる言葉を蘭丸はベッドで横になったまま受け流す。
    「ちぇ…」
    指に力を込めると、シュ、と大きめなガスの抜ける音と共に真っ白な泡がとめどなく溢れてきた。
    「あ~!ほら、もー!」
    手元から零れたビールがパタパタと音を立てて床に溜まっていく。
    「バカおまえ、そうなるの分かってんならシンクで開けりゃいいじゃねぇか」
    蘭丸が起き上がりタオルを手にして近寄ってきた。
    「ランランが袋ごと投げたのが悪いんだからね」
    「そんな話してねぇだろ、ここで開けんなっつってんだ。あーあ、もったいねぇ」
    濡れた床に持っていたタオルを落とし、缶を持つ嶺二の指の間に溜まっていたビールをベロリと舐めた。
    「ちょ、今飲まないんじゃなかったの」
    「さっきの"今"と今は違うからな。嶺二、一口よこせ」
    「なにそれ、ずるい」
    「人んちの床ビールまみれにしといて文句言うんじゃねぇ」
    「だからそれはランランが」
    蘭丸は嶺二の手から缶を取り上げ、溢れたビールで濡れている彼の指先から手の甲へと舌を這わせた。

    「ランランずるい」
    「ずるくねぇよ」
    無題
    うー寒い。寒の戻りだね。ランランもっかい冬のジャケット出す?めんどくさい?じゃあクリーニング出すつもりだったけどこのストール使って。本当に今日すっごく寒いよ。あ、ねぇ、東京で桜の開花が確認されました、だってさ!嘘じゃないもん今テレビで言ってたもん。観測史上最速らしいよ。昨日暖かかったもんね。じゃあ寒の戻りじゃなくて花冷えになるのかなぁ。花冷えって言葉なんか綺麗だから好きなんだよね…ねぇランラン支度できた? 雨降りそうだから早く行こー。
    しあわせなふたり 診断メーカー
    まいど!アイドルらすべがす
    皆様ご存知ぼくらの冠番組。
    多くの修羅場を乗り越え苦楽を共にしてきたスタッフのうちの二人が結婚する事になり、内々のパーティにお呼ばれをした。
    「いやー二人共幸せそうだったねぇ」
    普段から和気あいあいとしたチームだけれど、現場とはまた違う暖かな笑顔がいっぱいで、思い出してはつい顔が綻んでしまう。そんな帰り道。

    「あの二人、前からよく一緒にいるなぁとは思ってたけど。んふふ、そっかそっか」
    「嶺二…おまえ本当にそういうのよく見てんな」
    「えっ、でもあの子達は分かりやすかったよ。ランラン鈍いなー。にぶちんだなー」
    「うっせ。人様のこと勘ぐっても面白いことねぇだろ。よそはよそだ」
    彼が声を落として言った。
    「そだよねぇ」
    あはは、と笑い飛ばしてみたけれど
    「よそはよそ、うちはうち」
    皆から祝福される二人を、ちょっとでも羨ましいと思ってしまった。
    なんてとてもじゃないけど口にはできない。だってぼくらは今をときめくシャイニング事務所のトップアイドルで、それよりも何よりもぼくらは男同士で、ぼくは

    「嶺二」

    突然、名前を呼ばれた。


    反射的に振り返る。声の主と目が合った。
    しまった、考えてたことバレたかな。どうやって取り繕おう。困ったなこんなこと。
    ぼくが言い訳を考えているその間に、頬にほんの一瞬触れるだけの、とても微かなキスをされた。
    「え…え? なに?」
    「なあ、嶺二」
    突然の事に思わず後ずさったぼくをまっすぐに見据えて

    「ずっと、一緒にいよう」

    振り絞るような声でそう言った。
    ずっと一緒に、と。
    それって、それは、つまり

    「…ランラン…」
    「んだよ」
    「もう一度言って」
    嬉しくて嬉しくて声が上ずってしまいそうになるのを必死で抑える。
    「聞こえてたろ。もう言わねぇ」
    「ランラン耳が真っ赤だよ」
    「うるせぇ」
    「やだぁもう一度言って! ぼくと? ずっと?」
    「聞こえてんじゃねぇか!…あークソ! 二度と言わねぇからな!」

    きっとこの恋は誰にも知られない。ならば、それならば、他でもないぼくらがぼくらを祝福すればいい。


    「ね、ね、ランランお願い。もう一回だけ」
    「………ずっと」
    「うん」
    「一緒にいよう、嶺二」
    「………うん」
    「バカ、泣くなよ」
    「…泣いてない」
    すきのいみ

    別に同じ熱量を返してほしいわけではないよ、という一方的な牽制。
    純粋な好意という名の皮を被せて隠してある、ぼくの汚いエゴが顔を見せていないかちょっと不安になる時もあるけれど、うっとおしがられるくらいが丁度いい。つい忘れがちな距離感を思い出させてくれるし。やっぱ立場上、今の関係は壊したくないし。充分心地良いからこれ以上高望みはしていない。

    ぼくのこと何とも思ってないきみだから、安心してぼくはきみを好きでいられる。
    だから絶対に気付かないでね。ぼくの言う、好きの意味の不純さに。

    ··························································

    名前を呼んでみた。笑顔が返ってくる。名前を呼ばれた。悪態をついてみる。笑顔が返ってきた。うっとおしい素振りをすると面白がって余計に構ってくる。
    別に特別な事をされてるわけじゃない。でも向けられる好意が嬉しくてわざとそんな態度をとってたら、おれらの関係はそういうものになっていた。おれの中にはひどく不純なものがあるけれど、この丁度いい距離とその為の体のいい口実は手放したくない。

    おれのことを何とも思ってないおまえだから、安心して好きでいられる。
    今以上を望んでボロが出るのだけはゴメンだ。

    ··························································

    自分に向けられる笑顔、名前を呼ぶ声色、体に触れる手、傍から見れば何でもないその一つ一つに親しみだけではない熱がこもっているのに気付いてしまったのはいつだったか。
    素直に、嬉しかった。拒絶する理由なんてない。
    そして怖くなった。
    自分も気付かれてはいないだろうか。
    何とも思われていないからこそ、密かに自分の欲をぶつけてきた。自己満足でよかった。気付かれてはいけない。探るように言動を伺い続ける。感情を繋ぎ止めてる糸が張りつめていく。

    踏み止まろうとする自分と
    「ランラン」(そんな声で呼ぶな)
    それでも構わないと思う自分
    「嶺二」(ダメ、そんな声で呼ばないで)

    あぁ。まばたきをする一瞬の間に
    簡単に糸は切れてしまった。

    ··························································
    からだめあて
    ソファにもたれて床に座り資料を広げていたら、ランランが無理矢理ぼくとソファの間に割り込んできた。
    「え、ちょっとなんでそこなの」
    少し体をずらしてあげたけど、ランランはぼくの腰を抱き込み背中にぴったりくっついていて、結果ぼくは彼の足の間に収まる形で身動きが取れなくなった。
    まぁ好きにさせておこうと資料に伸ばした手も、彼にやんわり押さえ込まれてしまう。
    おや。
    首筋に柔らかく唇が当たる感触。
    「ランラン?」
    しばらく首筋をさまよってから、ちゅう、と音を立てて吸い付いてきた。
    「甘えてるの?」
    ぼくはよいしょと体をひねり、彼と向かい合うように膝立ちで跨がり直す。ランランはその大きな手でぼくの背中を撫で、服越しにぼくのお腹にキスをすると、小さな声で一言「別に」と反論をした。
    「じゃあぼくの体が目当てかな」
    なんだか可愛くってつい、ちょっと意地悪を言ってみる。
    「…体も目当てだな」
    ランランはぼくの履いているスウェットに指をかけて笑いながら言った。
    「やだエッチ」
    そんな可愛いお誘いじゃ、断れなくなるじゃない。
    からだめあてそのに
     あまりにも外がどしゃ降りなので、これはさすがにランニングに出るのは諦めた。
    「嶺二」
    「はいはぁい」
    「少し筋トレすっからおまえそっち座ってろ」
     床に座っていた嶺二に言って場所を空けさせる。何かしないと体が鈍りそうで気持ちが悪いし、かわりに軽く運動でもしようと思っただけで他意は無い。
     なのになんでこいつはこんなにむくれてんだ。
     
    「おい」
    「………」
    「おい、れいじ」
    「なに」
    「何だよその、っ、不機嫌な顔」
    「別に不機嫌じゃないですけど」
     テレビでも見てりゃいいものを、クランチの態勢になったおれの足の甲の上にどっかりと座り、おれの膝を両足で挟んで、明らかに不機嫌な顔でこちらを見下ろしている。
    「ウソつけ、さっきから、ふくれっ面、…はっ、してんじゃ、ねぇか」
    「ぼくはランランの腹筋の手伝いしてあげてるだけですけど」
    「おまえ、なぁ」
     会話しながら腹筋を潰すのは普通に呼吸するよりも効く気がする、なんて考えていたら、あーちくしょう、回数が分からなくなっちまった。
     
    「はい、三〇かーい」
     嶺二がおれの足に寄りかかるように前屈みになって言った。起き上がるタイミングで急に顔が近付いたもんだから、ぐっと息が止まってしまう。
    「ランラン、そのタンクトップ胸元緩いから、こっからエッチなお腹全部見えてるよ」
    「何だよ見てんじゃねぇよ」
    「見てないですぅ。見えてるよって言ったの」
    「あーもう…面倒くせぇやつだなおまえはよ」
     不機嫌の原因をなんとなく察したので、嶺二の耳を撫で、髪を掴んでやんわり引き寄せた。こちらに体重をかけてくるのを感じそのまま後ろへ倒れ込む。
     
    「…ふふん、押し倒しちゃった」
    「なんだよ即行機嫌直しやがって…おまえ、おれの体が目当てだったんだな」
     嶺二が笑って、つられておれも笑う。さっきまでの不機嫌な顔はどこへやらだ。
    「うーん…体も目当てだけどぉ」
    「んだそれ、やらしいな」
    「ランランはぼくと筋トレどっちが大事なのさ」
    「何言ってんだ…ばぁか」
     
     二人でくっくっと笑いながらキスをした。
    ておくれ
    「あ、粉チーズ無かった…」
     どうしようかな。なくても平気だけど、仕上げの粉チーズはあった方が絶対美味しいし。ランランはまだ寝てるし。いっか、ちょっと買いに行ってこよう。
    『粉チーズは最後にお好みで』という九九.九九%出来上がっている状態の料理にラップをかけて、着けていたエプロンを放り、携帯と財布だけ手にして徒歩数分のスーパーへ向かった。
     粉チーズと、ついでに…とついあれこれ買ってしまって、慌てて家に帰る。
    「あ、ランラン起きたの」
    「あー、お帰り、どこ行ってたんだおまえ」
    「うん、粉チーズ切れてたから…あれ?」出掛けにラップをかけておいた皿が見当たらない。
    「ランラン、ここにあったお皿って」
    「あ? もう食っちまったけど」
    「えぇ…あれにかける粉チーズ買いに行ってたのに! もー!」

    (診断メーカーより)
    あさのたまご
    「くぁ…」小さくあくびをして起き上がる。その拍子に捲れた布団を引き寄せてランランが寝返りをうった。
    ―あれ、起きちゃったかな?
    顔を見ようとしたら布団に潜り込んでしまった。多分この様子では暫く起きてこないだろう。
    軽く伸びをしてベッドから降り、カーテンは開けずにそっとキッチンへ向かう。どうしよう、目玉焼き食べたいな。冷蔵庫の中身の整理がてらスパニッシュオムレツしようと思って、昨日ちょっといい卵買ってあるんだよね。二個くらいなら使っても足りるはず。
    小さめのフライパンをコンロに。ハムはオムレツで使いたいし我慢しよう。フライパンを温めて、軽く油をひく。カコッと卵の殻が割れる軽やかな音と、卵がフライパンに着地したじゅっという音が静かなキッチンに響く。電気ケトルのお湯をフライパンの縁から少し流し、サイズが合っていない蓋で無理矢理閉じ込める。跳ねあがる水蒸気が静かになるのを待っていると、のっそりとランランがやって来た。
    「おはよランラン。ごめんうるさかった?」
    「んにゃ…何作ってんだ…?」
    ぼくの肩越しにフライパンを覗こうとしてくるランランの髪が、ふわふわと頬をくすぐる。
    「ただの目玉焼き」
    「れいじ、おれのも…」
    「はいはい」
    起き抜けの舌っ足らずで甘ったるい声にさらりとおねだりをされてしまった。綺麗に照って焼き上がった卵をお皿に避けて、ランランの手から二個目の卵を受け取る。
    カコッ

    「あ双子だ」
    「お、やったラッキー」
    鮮やかなオレンジ色の黄身が二つ、フライパンの上でふるふると揺れた。
    「えーいいなー。ランラン取り替えてよ」
    「やなこった」
    ランランはわざらしくチュッと大きな音をたてて、ぼくの後頭部にキスをする。仕方がないから誤魔化されてあげよう。

    今日もきっといい一日になる。
    よるのとばり
     一人寝には大きすぎるだろうか…と思いつつ、今の部屋に引っ越す際に思い切って買ってしまったダブルベッド。ぼくは寝相が悪いというわけではないし、快適な環境で良質な睡眠を求めているというわけでもない。引越し先で寝室に充てがうつもりの部屋が思いの外広く、元々使っていたベッドでは余白が落ち着かなかったというだけの、ただそれだけの理由。余計な物を置いておくのも無駄だし、ならばベッドで埋めてしまえばいいという安直な結論だ。
     ぼくにとって眠りというヤツはとても厄介で、むしろ進んで眠りたいと思うことはあまり無い。体力を使い果たしてスイッチが切れるように倒れ込むか、深酒をして頭と体が言う事を聞かず不可抗力で倒れ込むか、運良く睡魔が襲ってきたとしても瞼が重力に逆らえなくなって初めてベッドに飛び込む。
     一日が二四時間では足りない、眠るなんてもったいない。なんていう、もっともらしい話ではなくて、ぼくにとって眠る事はただ単純に――
     
    「痛っ」
     一人寝には大きすぎたダブルベッド。今ぼくの隣には、ぼくよりやや体格のいい男が眠っている。彼が盛大に寝返りをうち、反動で彼の腕がぼくのこめかみの辺りに当たった。
     大きすぎると思いながら夜を過ごしてきたけれど、不思議と隣に誰かがいるだけでこのベッドも広すぎた部屋も狭く感じる。ぼくは半身を起こし、隣で眠る彼の柔らかな銀髪を指で弄ぶ。
     
     ぼくにとって眠る事はただ単純に、恐怖でしかなかった。度々見る悪夢に疲弊して、目覚める度に絶望した。できるだけ夢を見ないように自分を追い詰めたし、眠らないで済むならばそうしていた。
     ただ、彼がぼくの隣で眠ることが多くなり、ぼくは彼の寝顔を眺めて夜が終わるのを待つことが殆どだったが、その時間が徐々に短くなっているのに気付いた。怖いと思う隙もなく彼につられるように眠ってしまうことが増えたのだ。
     
     
    「…れいじ…?」
     少し鼻にかかった低い甘い声でぼくの名前を呼びながら、彼が薄く目を開ける。
    「…起こしちゃったね、ごめん」
     彼の髪に通していた指を離すと、ごそごそと彼が身を寄せてくる。
    「また寝れねぇのか」
    「違うよ」
     彼の体温を感じながら、なぜ彼はぼくの隣にいてくれるのだろうか考える。まったく不思議でしかないけれど、少なくともぼくが眠りを拒むことは無くなり、眠りに落ちても悪夢を見ることはだいぶ少なくなった。
     大きすぎると思っていたベッドは存外狭くも感じて、ぼくは彼に縋り付くようにして目を閉じた。
    とばりあげ
     この男は極端に睡眠時間が短い。
     それでピンピンしている時もあれば、疲労感が拭えていない時もある。尋ねても、ぼくショートスリーパーってやつだから、と一蹴されて終わってしまう。
     
     ある飲み会でおれが酔い潰れてしまった時に世話になったのが切っ掛けだった。まともに自宅の住所も言えない始末だったおれを半ば引きずるようにタクシーから降ろして、ぼくんちの方が近かったから勝手に連れてきちゃってごめんね、と彼が笑って言っていたのを覚えている。別にそれは構わないしありがたかった。ただその時、寝かされていた寝室に強い違和感を覚えた。他人を招き入れた割に服が無頓着に放られていたり、ごちゃごちゃに本が積まれていたり、物がまったく無いわけではなかったし、それなりに生活感はあった。
     なのになぜか、ここで毎日誰かが眠っている、という気配だけがまったく感じられなかったのだ。
     
     これを機におれがこの男の家で過ごす時間は段々増えていった。好きに居座っても拒まれることは無く、咎められることも無かった。相変わらず寝室からは家主の眠りの気配が感じられない。時にはサンタクロースを待ち伏せしようと意気込む子供のような気持ちで夜を共に過ごす事もあったが、朝にはがっかりしているおれがいるだけで、彼の寝顔を見ることは一切なかった。こんな事におれが一方的にこだわるのは、実際彼にとってはうっとおしかったのかもしれない。
     
     ある夜、悲しげに漏れるうめき声のようなものに起こされた。相変わらず家主の気配がないベッドの上で目を開けると、床に座り込み背を丸めうずくまっている彼の姿が見えた。
    「…なぁ、泣いてんのか」
     思わず声が出てしまった。彼の肩がビクンと大きく跳ね上がり、恐ろしい怪物でも見たかのような大層怯えた様子で、俺の方へ顔を向けてくる。
     そうか、この男は恐れているんだ、眠ることを。
     ようやくおれは寝室の違和感の理由が、何となくでも分かった気がして、それだけでもう満足だった。
    「こっち来い」
     いつも外で野良猫を見かけた時にするのと同じように、できる限り静かに語りかける。彼は怯えた顔をしたままでおずおずとベッドサイドまでやって来た。伏し目でこちらを見ようとしない彼の目は赤く充血していて、その頬は濡れているように見えた。
    「らんらん」
    「ほら、布団入れ」
    「ごめん」
    「いいから」
     彼はおれに詳しく話すつもりなんて無いだろうし、おれもわざわざ正解を聞くつもりはない。おれを自分の側に置くのを良しとしているのは、多分そういうことなんだろうと思う。
    したあそび
    「ねーねーれいちゃん。さくらんぼ、口で結べる?」

    後輩達の楽屋の前を通ると、外まで声がもれてくる程大騒ぎをしている。楽しそうなので軽く挨拶だけ、と思っていたのにまんまと捕まってしまった。

    「さくらんぼ? …あぁ、柄をって事?」
    「そうそう」
    差し入れのフルーツタルトに乗っていた柄付きのさくらんぼを見てレンレンが言い出し、みんなで出来た出来ないの大騒ぎをしていたそうだ。
    なるほど、ひじりんがさっきからずっと真顔で口をモゴモゴさせてるのはそういう事か。なっつんは…飲んじゃったのかな? 翔たんとセッシーが慌ててる。
    「トキヤはね、全然出来なかったんだよ。俺は出来たけど」
    「うるさいです音也。出来なかったからどうというものでもないでしょう」
    あはは、トッキー悔しそう。

    「これさ、番組のチャレンジコーナー企画にしてみんなでやったら面白いんじゃないかなー」
    「何がだよ」
    ふいにぼくの背後からおっかない声が降ってきた。

    「てめーらドア開けっ放しで大騒ぎすんな。うるせぇぞ」
    「メンゴメンゴ、ぼくが立ち話しちゃったのが悪かったの。ランラン怒んないで」
    「嶺二、てめぇは先輩ならそんくらいちゃんとしろよ。ここ家じゃねぇだろ」
    「蘭丸先輩ごめんなさい! あ、蘭丸先輩はさくらんぼ結べる?」
    物怖じしないおとやんが唐突にランランに話を振った。
    「あ? さくらんぼ…? 口ん中でってやつか」
    「そう、今みんなでやってたんだけど…タルト余ってたよね。マサー! そこの箱取ってー!」
    おとやんはキラキラの笑顔で、さくらんぼがちょんと乗ったフルーツタルトをぼくらに差し出してきた。
    「はい、れいちゃん」
    「えー。いやこれは先輩としての威信に関わるなぁ…」
    「蘭丸先輩も、はい」
    「…やれってのか」
    「うん」

    まず、ぼくが来る前にレンレンがどんな話をしたのかによるじゃん。こんなのコツさえ掴めば簡単に出来ちゃうんだけど、一般的にさくらんぼを舌で結べる人は『キスが上手い』とか『キスがエロい』とか、そういうちょっとアレな話題に使われるものでしょ。どんな流れでこんな大騒ぎするような事になっちゃったのキミ達は。

    渡されたタルトを眺めていたら、ランランはさくらんぼをつまみ上げて
    「これはお前が食えよ」「はーい」
    タルトをおとやんに返していた。
    「おや、ランランやるんだ」
    「やるまでおれらを返すつもりねぇんだろ」
    コイツ、と顎をしゃくっておとやんを指す。
    「分かった分かりました、ぼくもやります」
    さくらんぼを茎ごと口に放り込み、口内で実を外す。邪魔だからとりあえず食べちゃおう。美味しい。
    ランランも難しい顔して格闘しているみたい。頬が形を変える度、彼の舌がどう動いているのか想像してしまう。
    「何見てんだよ」
    「別にぃ」
    ふと悪戯心が頭をもたげてきた。種を吐き出すふりをして手で口元を隠す。舌先に乗せた種を歯でおさえながらゆっくり転がしてみせると、一瞬ランランの眉間にしわが寄った。でもぼくにはそれが不快感によるものじゃない、というのが分かってる。

    「…おい、音也。出来たぞほら」
    ランランは口の中から大きめな結び目が一つできた柄を取り出して、おとやんを呼ぶ。
    「わ、蘭丸先輩早い! ねえレン、この結び方だとどうなの」
    おとやんはランランからさくらんぼの柄を奪い取り、レンレンの元へ持っていってしまった。
    「なんなんだ」
    「さぁ…でもさくらんぼは美味しかったよ」
    今度はふりではなく種を吐き出した。
    「つか、てめぇもふざけてねぇでさっさとやれ」
    「はぁい…」
    ランランは腕を組んでドアに寄りかかったまま、じっとぼくを見てる。ぼくは返事をした口の形のまま、楽屋の主達がこちらを見ていないのを確認し、口内に残ったさくらんぼの柄を舌をすぼめてこね回す。何かを想像させるように、わざとゆっくり、薄く開けた口から舌をはみ出させて、柄を噛む。ちゅる、と音を立ててさくらんぼの柄を吸ったと同時に、ランランの人差し指がぼくの唇の間に押し込まれた。ランランはじっとぼくを見てる。ついいつものクセで、その指先をねぶろうとねっとり舌を当ててしまい、その拍子に口の端からさくらんぼの柄がぽろりと落下した。
    「あーあ。失敗した」

    悲しいかな、ぼくは失敗を二つもおかしてしまっていた。
    一つは柄を結び損ねたこと。
    もう一つは落とした柄を拾おうと屈んだ瞬間、何か言いたげな苦い顔をしているトッキーと目が合ってしまったことだ。


    「落としちゃったんで、ぼくちんのさくらんぼチャレンジ失敗です! ごめんおとやん」
    「えー。れいちゃん出来なかったからわざとじゃないのー」
    おとやんがぶーぶー文句を言ってくる。
    「いいかいおとやん、さくらんぼの柄だけが全てじゃないんだ」
    どうやらレンレンが『結び目で性格診断ができる』って言った事で始まったみたいなんだけど、まぁウソだよね。ちなみにランランの結び目の作り方は『ワイルドだけど繊細で意外と頑固なところがあるね』だそうだ。うん、ぼくでも知ってる。


    「じゃあぼくら楽屋戻るけど…トッキー、ちょっと」
    渋い顔をしているトッキーにちょいちょいと手招きをして楽屋の入口まで連れ出す。
    「寿さん…あなたって人は」
    「何か見た?」
    「黒崎さんまで本当に一体何を考えてるんですか」
    「何か見たの?」
    「いえ、あの…お二人共いい大人ですし、TPOはわきまえて下さらないと」
    「見てないね。じゃあさくらんぼの結び方のヒント教えてあげる」
    トッキーがこめかみを押さえながら大きくため息をついた。
    「缶詰とかシロップ漬けのさくらんぼの方が柄が柔らかいからやりやすいよ。クリームソーダとかパフェに乗ってるようなやつね。じゃあねー。おつかれちゃん!」
    「おいトキヤ。うるせーから早くドア閉めとけ」
    楽屋からはまだ楽しげな声が響いていた。
    ※したあそびのその後
    さくらんぼの柄を口で結べるかというベタな遊びをしていた後輩達に巻き込まれ、ようやく開放されたぼく達は自分達の楽屋へ続く通路を並んで歩く。


    「はー…焦った…」
    「おまえな…あんな大人数いる所で何してくれてんだ」
    「え、ぼくが悪いの? どう考えても悪いのランランじゃん」
    「おれは指突っ込んだだけで舐めろなんて一言も言ってねぇ」
    ランランを舌先で煽ってみたのはただのおふざけのつもりだった。まさかのってくるなんて思わなかったし、急に口に指突っ込まれたら舐めるでしょ。しかもそれを一ノ瀬トキヤに見られるという事故を起こしてしまい、その後始末を済ませたのが今から数分ほど前。
    まぁ無理矢理口止めするのは簡単だったけど。
    「トッキーには悪いことしちゃったなぁ。凄んじゃったから、嫌われてないかれいちゃん心配」
    「アイツ、あの中じゃダントツで貧乏クジ引くタイプだからな」
    「それなんか分かる…あ」
    通り過ぎた通路の角に、背の高い観葉植物と自動販売機で隠れた小さなスペースがあるのを思い出した。
    「ランラン、ちょっと」
    ぼくはランランの上着の裾を摘んで彼を引き戻す。立ち止まってぼくの視線の先を見、呆れたと言わんばかりに息を吐いた。
    「おまえな…さっきトキヤにTPOわきまえろって説教されたの忘れたか」
    「きれいにさくらんぼ結べるランランの技、ぼく見てみたいなぁ」
    「…おまえが一番よく知ってんだろ、バカ」
    「ほんとはぼくちんも結び目10個作れちゃうくらいスゴイんだけどなぁ」
    「知ってるよ」
    チッ、と大きな舌打ちが聞こえるや否や、ぼくはあっという間に観葉植物の陰に連れ込まれ、壁に押し付けられながら、噛み付くみたいにキスをされていた。差し込まれた舌がヌメヌメと口の中を這いずり回る。

    「ん、はっ…ランラ、んぅ」
    息苦しさから逃れようとする本能的な体の反応にも、よく動く彼の舌は執拗に追いかけてきて、角度を変えながらぼくの舌を絡めとり、なぞって吸い上げる。下腹部の辺りにズクズクと熱が溜まりかけた時、ちぱ、と湿った音を立てて唇が離れた。
    「おらどうだ、分かったか」
    「…まだよく分かんないかな」
    お互い息を整えながら唾液で濡れた口元を拭う。
    「仕事終わるまで待てって言ってんだ。ここ家じゃねぇんだよ」
    ランランは少し背を反らし、通路側を覗きながら言う。人の行き来が激しいフロアではないけれど、ぼくだってさっきトッキーに言われた事を反省してないわけじゃない。

    「ランランは、今ので分かった?」
    「…分かるわけねぇだろ。収録終わるまで我慢する」

    それが聞けたことでぼくは勝利を確信した。
    大人げなくにんまりと笑ったぼくを見て、ランランは「なんか腹立つ」と頭を引っ叩いてきた。
    ylangylang_6902 Link Message Mute
    2020/08/02 4:03:00

    3月のログ

    今年の3月頃からTwitterでもそもそやってた蘭嶺のログ。

    3月の分をまとめました。短いのばっかです。
    ※ が付いてるのはちょっとえちなのでご注意下さい。

    #蘭嶺 #ツイッターログ

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
    • 夏の熱金魚売りのお話のオマージュその4。
      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素ほんのり。

      ちょっとえちなのと、かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no

      2頁目は文章ベタ打ち。
      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 魔法の学び舎パロのことシャニライ撮影「 輝き紡ぐ魔法の学び舎」の外枠だけをお借りした捏造てんこ盛りパロ。

      魔法植物学科教師黒崎先生と新入生寮寮監嶺二くんと他の先生たちのお話。

      私の頭の中にある設定と前提をざくっとまとめたのがこちら。

      以下リンク、それぞれツイッターに投げた話をまとめてます。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • のりきれ!デスマーチBLサイコロ:のりきれ!デスマーチ のお題
      『「お仕事お疲れ様」とホットミルクを作ったら泣かれた』で書きました。
      黒崎さん側、嶺二くん側、その後 の3つ。
      3つ目がお口でややエロなのでパスかけます。y/n

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 4首締めてる話首絞めセ…してるだけの激短い文
      甘くないのでそういうの大丈夫な人
      y/n

      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 金魚売りの男大好きで大好きでずっと頭の中にある、遥か昔に読んだ金魚売りのお話しのオマージュ。蘭嶺でもそもそ書きました。
      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素あり。

      ちょっとえちなのと、かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no
      2頁目はベタ打ちです。

      #蘭嶺 ##金魚売りと雇い人
      ylangylang_6902
    • 金魚売りと出目金金魚売りのお話のオマージュその2。金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素はほんのり。

      かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no
      2頁目はベタ打ちです。

      #蘭嶺 ##金魚売りと雇い人
      ylangylang_6902
    • 雇い人と出目金金魚売りのお話のオマージュその3。
      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素ほんのり。

      かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no
      2頁目はベタ打ちです。

      #蘭嶺 ##金魚売りと雇い人
      ylangylang_6902
    • 七月二十一日の金魚売りと雇い人の話金魚売りのお話のオマージュ番外編。
      7/21、0721の日ということで、そういうネタのお二人。ギャグです。

      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素ほんのり。

      ちょっとえちなのと、かなりアレな設定なので、ワンクッションでパスかけました。→y/n

      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 黒崎少年と嶺二先生と先生たちシャニライ撮影「 輝き紡ぐ魔法の学び舎」の外枠だけをお借りした個人的設定の、捏造てんこ盛りパロ。
      黒崎先生がまだ学生で寮監がまだ嶺二先生と呼ばれていた頃の、黒崎少年とその他の先生たちの話。

      ついったにぼちぼち流してるもののベタ打ちまとめです。ちょっと直してるのもあります。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 魔法植物学科教師 黒崎蘭丸と新入生寮寮監 寿嶺二の話シャニライ撮影「 輝き紡ぐ魔法の学び舎」の外枠だけをお借りした個人的設定の、捏造てんこ盛りパロ。
      黒崎先生と寮監嶺二くんのお話。話の流れは順番になっていますが、黒崎少年の方の4番目の話(干渉)とこちらの6番目の話(知りたい事)だけリンクしています

      ついったにぼちぼち流してるもののベタ打ちまとめです。
      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • バナナを食べるだけの話買い込んだバナナを一週間かけて消費する蘭嶺の話です。
      何か食べてるだけの蘭嶺シリーズ(?)なんですがやや匂わせなのでパス。y/n

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 9共依存根暗なAWパロ。弁当屋とバンドマンに、辛辣だなと思いつつ、こういう解釈してました。
      https://galleria.emotionflow.com/s/87336/541743.htmlと繋がってるぽい話。

      根暗で無糖でセッしてます。
      甘くないの大丈夫な方
      y/n

      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 寮監の旅の終わり(forgive me)シャニライ魔法の学び舎パロのシリーズにある、寮監の旅の終わり(longing)とセットのお話。黒崎先生の初めてのゴニョゴニョなので、パスかけるために別置きにせざるを得ませんでした。
      詳しい話はこちらから
      https://galleria.emotionflow.com/s/87336/540536.html

      魔法学校シリーズの蘭嶺なので普通の蘭嶺じゃないけど大丈夫な方 y/n

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 5月のログTwitterでもそもそやってた蘭嶺のログ。

      5月分をまとめました。
      ※が付いてるのはえちです。ご注意下さい。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 4月のログTwitterでもそもそやってた蘭嶺のログ。

      4月分をまとめました。
      ※ が付いてるのはえちちです。ご注意下さい。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    CONNECT この作品とコネクトしている作品