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    5月のログなまえをよんでボタンお題「嬉しい以外の感情が出てこない」指輪の話リモートでまいらす(失敗)キスの日の小話裸足手で歌う※ 5/6※ 5/6の日※ ゴムの日の独白
    なまえをよんで
    学園物ドラマシリーズのスピンオフ『はぐれ者の斉唱』の撮影中。シリーズ通して全員の役名は一部本人の名前がそのまま使われた完全当て書きだった。普段人の事をおかしなあだ名で呼ぶ嶺二がうっかりNGを出したのは2回ほど。かなり悔しがっていたけど、DVD化する時の特典映像に入るのは免れないと思う。

    「ランラン、休憩終わるよー」
    「おう」
    次は喫茶店内で、寿帝レイジと黒帝ランマル、おれら二人だけのシーン。
    「……噂、知ってるか?」
    「あんまり良くない噂なら少しは」
    掛け合うセリフの内容は物騒だが、落ち着いた喫茶店内にエプロン姿で嶺二と二人でいると、キッチンで夕飯の相談をしている時のような日常感が顔を出して穏やかな気持ちになってくる。

    パブリックな場で嶺二から「蘭丸」と言う名前で呼ばれたのはいつが最後だったろうか。いや多分無いんじゃねぇかな。すぐにニックネームを付けるタイプの男だったが為に、おれが事務所に入って初めての顔合わせの時、自己紹介をして早々に「くろさき、らんまるくん…らんまる…ランランだね!」と言われたのはなんとなく覚えてる。なんかムカついたのも。あの頃はまだおれも若かったし、嶺二との接し方が分からなくてかなりトゲトゲしい態度でいたような、そんな記憶がある。そのせいか、しばらくの間は黒崎くんと呼ばれていたような時期もあった気がするが「蘭丸」と呼ばれた事はない。

    少なくとも、外では。

    嶺二と恋愛感情ありの付き合いを始めて体の関係も持つようになった今。二人きりで、しかもかなり限定されたシチュエーション下であれば話は別だ。毎回ではないし、本人も覚えているか怪しいくらい意識がイってる時だけ、嶺二はおれの名前を口走る事がある。
    汗だくになって、泣きそうな顔でおれにしがみついて、荒い息に混じって切なげに「らんまる」と。


    頭の中の役者モードのスイッチが危うくオフになりかけた時、急に……いや、台本通りだから別に急に、というわけではないけれど
    嶺二から「ランマル」と名前を呼ばれ


    おれは最悪な事にセリフが飛んだ。
    ボタンお題「嬉しい以外の感情が出てこない」
    一年間だけ、と期限を切って黒崎蘭丸は海外へ行ってしまった。
    音楽の事で短期留学をしたいと言われた時もぼくは特に驚かなかった。仕事は長期で休む事になるけれど事務所を辞めたわけではないので、せっかくだからドキュメンタリーで特番組むのはどうかという話もあったみたいだけど、本人がどう答えたのかは聞いていない。きみに出会うまでの時間に比べれば、たったの365日なんて瞬きをする程度の時間だと思ってたし、実際そのくらいの体感であっという間に日々は過ぎていた。

    今日、黒崎蘭丸が日本を離れてから約束の一年がたつ。

    搭乗券の写真付きで送られてきていた到着時刻を知らせるメールを見ながら、ぼくは少し短く切りすぎた髪を整える。きみが気に入っていたジャケットとシャツを選び、きみがぼくに贈ってくれた指輪をつけて、ぼくは空港へ向かう。
    うっかり渋滞に巻き込まれてしまい、予定より数分遅れて空港のロビーに駆け込んだ。飛行機は到着しているようだったけど、荷物受け取って手続きもするから……と時間計算をしていたら、ぼくのスマホにきみからの短いメッセージが届いた。返事をしようとする間にもポンポンと実況中継のようにメッセージがくる。
    いつも素っ気ないきみから「早く会いたい」が溢れていて、ぼくはなんだかそわそわしてしまう。

    「おい、嶺二」
    待ち合わせは混雑してる所避けたほうがいいかなと返信をしたところで、聞き慣れた声に名前を呼ばれ顔を上げる。薄い色のサングラスをして少し伸びた髪を耳にかけたきみが、大きな荷物に寄りかかってぼくを見ているのに気が付いた。
    「ランラン!」
    ぼくが大げさな動作で飛びつき力一杯ハグをしたら、同じくらい強く抱き返され、きみの大きな手がぼくの頭を無遠慮にガシガシと撫で回す。
    「気付くの遅ぇよ」
    「えー、ごめん」
    せっかく一年振りに会うからと気合い入れてセットした髪はぐしゃぐしゃにされてしまったし、お気に入りの服も一年振りに触れたきみの愛のプレスでしわくちゃにされてるけど、そんな事はどうでもいい。もしこれが恋愛モノの映画だったら、たっぷり見つめ合った後に情熱的なキスをし始めてるところだ。
    「……ただいま」
    「おかえりランラン」
    きみが一際強い力でぼくを抱き締めてぼくの肩口に顔をうずめる。
    「その指輪、無くしてなかったんだな。そっちの小指につけてんのか」
    「無くすわけないでしょ失礼しちゃう」

    元々ぼくらの足元にあるのは一本道ではなかった。きっとこの先緩やかにきみとぼくの道は別れていくだろうと思うけれど、きみがちゃんと自分の道を歩きながらもぼくのところに帰ってきてくれるのが、やっぱりたまらなく嬉しくて幸せだ。

    ぼくはね、きみの背中を押してあげるのが昔からずっと好きだったんだよ。
    指輪の話
    嶺二とペアリングを買った。
    おれらの人生において重大な意味のある……という大げさなものではなく、買い物の最中たまたま目についた指輪に嶺二が珍しく興味を示したから。それだけ。

    「このくらいシンプルなのだったらコーデの邪魔にならなさそう」
    そう言って嶺二が見ていたのは、装飾が一切施されていない細身で艶消しのシルバーリングだった。
    「一緒に、買うか?」
    あまりアクセサリーをつけたがらない嶺二の新しい欲求を知れた気がして、おれは少し嬉しくなり、うっかり余計な一言もつけて口走っていた。
    「一緒って……ペアでってこと?ランランこういうの好きだっけ」
    「え、あぁ……いや、これなら別に邪魔じゃねぇかなって」
    つい歯切れも悪くオウム返しになる。
    こと身に着けるものに関してはお互い好みがはっきりしていて主張が激しい。家で使うものを色違いで揃える程度のことはあっても普段使うものをわざわざ合わせる、なんて今までにしたことがない。こういう甘ったるい事は圧倒的に嶺二の方が得意だろうに、結局おれの方がリアリストではなかったというわけだ。
    「おまえが指輪なんかに食い付くの珍しいから」
    「そう? 自分でつけないだけで嫌いなわけじゃないよ……あ、すいませんこの指輪なんですけど」
    嶺二は最初のおれの問いかけに答えることなく、店員を呼び指輪のサイズを聞いている。

    「ランラン、これピンキーリングだって」
    思っていたよりサイズ展開がされていなかったのはそのためで、女子でもない限り他の指にはめられそうもない。
    「どうしようかな……ランラン小指ってどう?」
    「どうって何が」
    「ピンキーリング、ランランが嫌じゃないならって思って」
    予想外の言葉に即答できないでいると、嶺二は少し眉を下げて
    「あと、ぼくとお揃いが嫌じゃないなら」
    そう小声で言った。

    刻印サービスがあると言われ、指輪の内側にそれぞれイニシャルを彫ってもらう事にした。嶺二はやけにご機嫌な様子で出来上がった指輪を覗いている。
    「これなら同じ指輪でも間違えないでしょ」
    「……おれらイニシャル同じじゃねぇか」
    「あはは、そうだった。そうだね、ぼくら全部お揃いだ」
    もしかしたら、別に形にしなくてもよかったのかもしれない。嶺二の物より一回り大きい指輪を小指に通しながら、ふとそんなことを思った。


    「ランランはいつも指輪を右手にしてるんだね」
    ベースの弦を張り替えているおれの手元を見て嶺二が言う。
    「ベース弾くから左につけらんねぇだけだよ」
    「あぁ、そっか。ネックに当たるもんね」
    「そういうおまえは何で普段アクセサリーつけねぇんだ」
    「衣装で用意されればつけるよ」
    「そうじゃねぇよ。服とか好きな割にって話だ」
    指が慣れず気持ちが悪いのか、指輪を右につけたり左につけたりしながら嶺二は「ぼくはアイドルだからね」と声をあげた。

    「ぼくにはアイドルしかないから、アイドル寿嶺二がそれ以外の意味を持っちゃダメなんだよ」
    「なんか難しい事言われてる気がすんな」
    「そんなに難しくないよ。アクセサリーって使ってる素材や付ける位置で意味が……指輪なんか特にそうだよね、色んな意味があるでしょ」
    嶺二は手を広げ、左手の小指にはめた指輪を見ながらとつとつと話す。
    「それがぼく自身の、寿嶺二個人として何かの意味を持ってしまうのはダメなんだ。ファンの子達が見てるアイドルの寿嶺二じゃなくなるから」
    おれは弦を巻く手を止めて嶺二の言葉を反芻した。求められているものをより完璧に近い形で返そうとして、嶺二は自分の在り方をこうだと決めたんだろうか。
    「だから普段はつけないようにしてるだけ。ランランがベースを弾くのに邪魔だからっていうのと大差ないよ」
    何でもない事のように嶺二が言うので、おれは少し胸の奥が苦しくなった。

    「だから逆に言うと、この指輪をつけてる時のぼくはただの寿嶺二ってこと」
    この意味分かる?と、嶺二が笑った。
    リモートでまいらす(失敗)
    「嶺二、やっぱおれ後で一回家帰るわ」
    「えー。ご飯は食べてく?」

    世間を騒がせている例の事情と制作側の事情とで、本日のまいどアイドルらすべがすは二人でネット生配信をするという事になっていた。だらだらとぼくんちで過ごしていたので、今日のまいらす配信どうする?とミーティング。一画面で二人並んで話すのはさすがにマズイし。
    「それぞれ繋いで2画面にしたほうがいいよね」
    「そりゃそうだろ。おれたち一緒にいますアピールしてどうすんだ」
    「リビングと寝室使えばいいかな」
    「映っちゃマズイもん片付けとけよ」
    「背景合成するからいいよ」

    これが、今日のお昼の話。
    夕方近くになってからランランは「自分のパソコン使いたいから一度家に帰る」と言い出した。確かに安全策ではある。
    「夕飯は食べていく?」
    「時間微妙なんだよな。終わってからでいいわ」
    「じゃあぼくを食べてく?」
    「……は?」
    「やだやだ、嘘でーす冗談でーす」
    思ってたより凄みのあるトーンで返されてしまったぼくは茶化すように即答。ここは家だけどこれから数時間後に仕事だと頭を切り替えた。
    ……切り替えたよちゃんと。ぼくは切り替えたんだけど。
    気付いたらランランに腕を掴まれていて。
    「ちょっとランラン」
    「なんだよ、食ってけって言ったのおまえだろ」
    「言ったけど」
    「言ったんじゃねぇか」
    そのままソファに沈められ、首すじにガブリと噛みつかれた。


    「……はっ! 今何時!?」
    自分で蒔いた種とはいえ、あれよあれよと流されてしまい、あー気持ち良かった……とウトウトしていたぼくの頭が危険を察知しアラートが鳴った。パッと開けた目に映った時間は配信開始予定の25分前。
    「ランラン! 起きて!! ねぇ、時間!!」
    泣きそうになりながら、後ろからぼくをがっちり抱き込みぐうすか寝てるランランを叩き起す。
    「……うわ、最悪」
    「ああー……なんで寝ちゃったんだろう……」
    「なんで寝たんだよテメェ」
    「ランランもだよ!?」
    寝過ごさなかっただけ奇跡だし、起こしてあげたのを褒めてほしいくらいだけど、それどころではない。
    「なんだ。飯食えばよかったな」
    ランランがのそのそ着替えだす。ぼくは部屋の片付けを諦めてぐしゃぐしゃの髪を何とかするのに専念することにした。
    「ランラン、ぼくのパソコン使っていいよ。あと、そっちの壁バックにしてね。反対側だと多分ぼくんちってバレるから」
    「おまえどうすんの」
    「ぼく寝室行く。あ、ヤバい。iPadの方、設定入れてないかも……」

    ミーティングツールを立ち上げて大急ぎで設定して、ライブ配信の接続をして

    「こんばんはー! まいどアイドルらすべがす特別編、今夜はぼくとランランが生配信でお届けしまーす。大丈夫かな、みんな聞こえる? ランランも音聞こえてる?」
    「はいよ、こんばんは。聞こえてるけどおまえ画角おかしいぞ。コメント見てみろ、あごしか見えないってよ」
    画面の向こうのランランと話すの、変な感じ。笑っちゃいそう。

    かくしてひとつ屋根の下、ドア一枚隔てたあっちとこっちで二人ぼっちのまいらすが始まったのであった。


    ―――ところが、事件は起こる。
    普段使ってないデバイスに慌てて設定をしたせいで、話し声以外の音が入らないようマイク制御の変更をしなければいけないのを、すっかり忘れていた。
    ランランが話している最中、家の向かいの大通りを消防車と救急車がけたたましくサイレンを鳴らしながら走っていく。
    「うるせ。火事か」
    「みたいだね」
    ランランのマイクがサイレンの音を拾い、ぼくのマイクもバッチリ同じ音を拾ってしまっていた、ようで。
    途端にコメント欄には滝のように言葉が流れる。
    『火事近そう、心配』『サイレンの音めっちゃ大きい』『同じ音ダブって聞こえたの私だけ?』『聞こえた』『聞こえた、スピーカー?』『嶺ちゃんか蘭丸スピーカーになってんじゃない?』『二人って家近いんだっけ』『今日って事務所から配信?』

    『寿さんと黒崎くん、まさか一緒にいたりして』


    「嶺二、スピーカーにすんじゃねぇよ。ハウってんぞ」
    ランランが凄まじい圧をかけて言う。
    「あ…、やば、ごめ……メンゴメンゴー! れいちゃんうっかり!」

    ねぇランラン、それってぼくのせいなの!?
    キスの日の小話
    「髪伸びたね」
    嶺二がおれの髪の分け目を変えて遊んでいる。
    「この長さで下ろしてるの、セクシーでいいんじゃない」
    そう言って流した前髪の分け目から額にキスをしてきた。
    「うっとおしいからゴメンだな」
    「うっとおしそうにしてるのが色っぽいんだよ」
    目元をかする毛先がくすぐったくて、髪をかき上げる。
    「ほらぁ、それ、もっかいやって」
    「やだね」
    「ケチ」
    額にキス 君に祝福を


    「髪伸びたな」
    ランランが僕の髪を結ってあそんでいる。
    「たまには髪上げるのも、セクシーでいいんじゃねぇか」
    そう言って流した後ろ髪の分け目からうなじにキスをしてきた。
    「生え際あんまり綺麗じゃないからヤダな」
    「生え際見えるのが色っぽいんだよ」
    首元をかする指先がくすぐったくて、ランランの指を絡める。
    「何? ランラン、もっかい言って」
    「やだね」
    「ケチ」
    うなじにキス おまえを離さない
    裸足
    「おまえ、足の指長いよな」
    ソファの上でごろ寝をしている嶺二が、足の指でクッションのふちを摑んでいるのを見てふと思った。
    「え?あー……そうかな。そうかも」
    あんまり気にしたことなかった、とクッションを離す。
    「物掴めて便利だなとは思ってたけど。ほら」
    今度はおれのシャツをつまんで捲り上げてきた。
    「おいこら。行儀悪ぃな」
    「足だけで脱がせられるかチャレンジ」
    「行儀が悪いっつってんだ」
    足を掴んで引っ張ったら、嶺二はケラケラ笑いながらソファからずり落ちた。
    手で歌う
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    複数の事務所、レーベル合同で曲を作ることになった。チャリティイベントの企画だそうだ。シャイニング事務所にも声がかかり、QUARTET NIGHTからは黒崎蘭丸が選ばれた。
    「いいな、楽しそう。ぼくちんもやりたかった」
    現時点で決定している参加者だけでもメジャーバンドのメンバーや有名シンガー、比較的音楽色が強い面子が集められていて、これなら我が事務所から出すメンバーはもう決まっていたも同然か。
    「主催があのでかい音楽レーベルだからな」
    「ぼくだって楽曲派アイドルだもん」
    「その楽曲派っていうのよせよ。おれ嫌いなんだよ」

    2
    「指文字でサイン考えるんだってよ」
    ランランがスマホの画面を見ながら難しい顔をしている。
    「指文字?」
    「っていうか、手話?なんか、歌詞に合わせてやろうっつって」
    「あぁ、見て分かるメッセージ的なものをってことね。ぼくひとつだけ知ってるよ」
    親指と人差し指と小指を立てた右手を見せた。
    「なんだそれ。メロイックサイン……じゃねぇな」
    「アイラブユー。ローマ字のILYなんだって」
    「へぇ……でも歌詞にI LOVE YOUは出てこねぇんだよ、悪ぃな」
    「なんだ残念。じゃあ外でぼくのこと見かけたらこのサイン送って」

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    「たまたまこんな雑談してたら採用されて……思ってたよりガチで手話やる事になった」
    イヤホンを片耳にだけ引っかけて手を忙しく動かしているランランに何をしているのか尋ねた所、こんな答えが返ってきた。
    「でも決まった分だけ覚えりゃいいし、新曲の振付覚えるよりは、楽だな」
    「でも声だけじゃない方法でも思いを届けられるっていいね。折角だから本格的にやってみたらいいのに」
    「そういうの、俺のキャラじゃねぇだろ」

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    「どう?今回の企画楽しい?」
    「おう。歌番組出る時とも違うしな。色んな話ができて面白いぜ」
    バンドサウンドのミドルバラード。こっそり内緒でデモを聴かせてもらった。歌録りの日は誰だかと一緒だった、とえらくはしゃいでいる。ランランは音楽畑の子だから、その方面でパイプ作りの機会を得たのも貴重だと思う。
    歌詞をなぞった手話をやることが知られると、その話を振られることも多くなる。ぼくも何度か巻き込まれた。そんな時、ランランはいつの間にか曲と全く関係ないフレーズを覚えていて「まだ歌詞出せないんですけど、こんな感じ」と、その大きな手と長い指をゆったり動かして見せていた。
    「今の何て言ったんですか?」
    「『腹減ったな、何食いたい?』すね」

    5
    「ランラン、プロフィールの得意な事にベースと手話って書けそう」
    「書けるか。まだ会話するの無理なのに得意って言えるわけねぇだろ」
    普通の会話のテンポでと言われてもやれないし、言ってる事も分からないと。それでも簡単な文章ならその手で器用に語れるようにはなっていた。
    生真面目で凝り性なのだ、この黒崎蘭丸という男は。
    「ランランは手が大きいから、手が歌ってるみたいだね」
    「そうか?……あぁでも、そう見えるんなら、いいなと思う」

    6
    この曲の事がきっかけで、ドラマのオファーが来た。正確には毎夏恒例のチャリティ番組のメインパーソナリティに抜擢された我々4名。番組内で放送するドラマにも出演させてもらえることになり、その主人公が手話を使うという事で先の件もあり黒崎蘭丸に白羽の矢が立った、という流れだ。
    「ありがてぇけど難しそうだな……声の演技できねぇって事だろ」
    「なかなかない役だからやってみた方がいいよ」
    「お前もおれの親友役で出るんだからマジで覚えろよ」

    7
    黒崎蘭丸の口数が減った。
    その代わり、いつも以上に表情が豊かになった。嬉しい時、楽しい時、疲れた時、眠たい時。コロコロ顔が変わる。ドラマに向けた役作りと言っているが、声が聞こえてこないのはやっぱり少し寂しい。ランランの肩を叩き覚えたての言葉を伝えてみる。
    親指を胸にあて、揃えて開いている残りの指をそっと閉じると、ランランは少し考えてから、笑った。伝わったのかな。
    すると、ランランの長い指が自分を指して、それからぼくを指す。
    親指と人差し指で作った輪を絡ませ、ぼくへ向けてゆっくり腕を伸ばし、丸めた右手の甲を反対の手で優しく撫でた。

    「え、なんて言ったの?台本に無いやつ分かんないよ」
    「こんな簡単なのてめぇで調べろ」
    ※ 5/6
    「ランラン、今日なんの日だか分かる?」
    「は?」
    ソファに寝転がっていたら視界に嶺二が入り込んできた。スマホの画面を点けカレンダーを見る。5月6日。おれらの業種には特に関係無い大型連休の最終日。
    でも、今日って何かの祝日だったか?トントンとスマホを何度か叩く。
    「あぁ……憲法記念日の振替休日」
    「うーん合ってるけどそうじゃないなー」
    嶺二がチチチと舌を鳴らし指を左右に振って勿体ぶった仕草を見せる。
    「合ってるならいいじゃねぇか。はい、正解正解」
    どうせろくでもない話だ。早々に切り上げようとしたら嶺二がのしかかってきて、思わず持っていたスマホを取り落とす。
    「ぐっ……嶺二てめぇ、全体重かけんじゃねぇよ」
    「正解は、ゴムの日です」
    「……ガム?」
    「ゴ・ム!!」
    なんだ、よくある語呂合わせの日かよ。そんで、その単語から大人が連想する物といったら恐らくアレだろう。やっぱりろくでもない話だった。

    「……ゴムの日ね」
    おれは嶺二の頭を抱え込むように手を伸ばし、後ろでひとくくりにされている髪を解いた。はらりと落ちる髪が嶺二の顔に影を落とす。
    「ゴムの日ってことはこういう事、なんだよな?」
    顔にかかっている髪をかき上げてやると嬉しそうに目を閉じたので、おれは指にかけていたヘアゴムを嶺二の額に当て――ゆっくりと引いた。
    「え、ちょ、ランラン」
    期待していた場所と違う所へ思ってもみなかった物が当たっている感触に嶺二が慌てて目を開ける。同時におれは引いていた指を離した。

    パチン

    「いったーい!!なんでぇ!?」
    「ぶはっ……だってコレもゴムだろ」
    「いや……うん……そうだけど……そうじゃない……」
    「おれは心が綺麗だから分かんねーよ」
    「ぼくの心が汚れてるみたいに言わないでよ」

    実のところ、あと何個あったけ……という事をずっと考えていたので、おれの心もだいぶ汚れてんな、と拗ねている嶺二の顔を見上げながら思った。
    ※ 5/6の日
    ソファでだらけてたおれの上に陣取り、口にゴムを咥えたままおれの腹をまさぐってくる嶺二を眺める。おまえそれはさすがにエロ漫画の読み過ぎだろ……と心の中でツッコミ入れつつ、でもこれはこれでなかなかやらしいからアリだなと思ってしまった。語呂合わせの記念日なんてバカみてぇだなんて考えてたけど、まぁ便乗してもバチは当たらないだろう。大人万歳。

    ところが。おれの上に乗っかっている嶺二をひっくり返そうとすると「ぼく、口でしたいから」と言い張り、頑としてその居場所を譲らなかった。そういう変に頑固なとこ出すのは仕事の時だけにしろよ…何を企んでるんだか知らねぇけど。
    「あーもう好きにしろ」
    ここで押し問答をするだけ時間の無駄だ。おれは一旦起こした上半身を再度ソファに沈めた。好きにしまーすと嶺二の声がして、下半身からじわりと快楽の波がやって来る。あっという間に反応するもんだから、嶺二は「大っきくなった」だの「また動いた」だの「ビクビクしてる」だの「ランラン可愛い」だの、いちいち実況してきてうるさい。嶺二が上手いのか、おれが嶺二に弱いのか。比べようがないからどっちでもいいけど、わざと煽るような事ばっか言いやがって。いつかちんこでビンタしてやるから覚えてろよ。かすかな復讐プランを頭の隅で練っているおれをよそに、嶺二は独り言を吐きながらも巧みに舌と指で追い詰めてくる。
    「……っ、れいじ、ちょっと、ストップ」
    おれは目を閉じ腹に力を入れて嶺二の顔を押し返した。嶺二の舌が離れていったスキに深呼吸をしていると、パリっとアルミ素材の袋が開く音が耳に届く。

    「ランラン、ゴムつけたげるね」

    嫌な予感がして目を開けると開封されたゴムの袋を咥えた嶺二が、着ている薄手のニットを脱ぎだしたところだった。
    「……は?」
    「ぼくが、ゴム着けてあげるって、言ったの」
    おれに言い聞かせるようゆっくりと囁き、取り出したコンドームを唇に挟んだ。
    「ちょっと待て、嶺二」
    「やだ待たない」
    潤滑剤でぬらぬらと光るクリアな蛍光色に透ける唇や舌がいやらしい。
    「え、口でやんの?」
    「やってみたかったんだよね、口だけで着けるの」
    口でコンドームを装着するなんてそうそう上手くいくもんじゃない。普通に考えれば手でやった方が早い。でも男のロマンがあるのは分かる。
    歯が当たれば穴開くかもしれないし、唇と舌で庇いながら伸ばして下ろすのなんて面倒だろ。絶対エロいけど。
    それに口だけじゃ根本まで届くわけがない。手も使ったら結局フェラされてるのと変わらないわけで、つまりすげぇ気持ちいいやつだ。想像に難くない。

    だめだ願望が入り混じる。
    ニヤついている嶺二と目があった。

    「おまえそれさすがに漫画の読み過ぎ……」
    だからやめろ、と言い切る前に嶺二は素早くおれの亀頭を咥えこみ、制止しようと伸ばしたおれの手は空を切る。
    あーあ、バチが当たってしまった。
    ※ ゴムの日の独白
    ゴムの日にかこつけて、ぼくは口でコンドームを着けてあげる計画を強行する。
    ランランがどうなのか分からないけど、少なくともぼくはそんなの漫画やAVでしか見た事がない。てことは、男の子なら一度はやられてみたいシチュエーションのはず。多分、そうのはず。
    性的探求心っていうの?男同士だと男女でするのと色々違うし、同性だからなんとなく分かるツボじゃなくて、ランランはどこが気持ちいいのかとか、どんなのが好きなのかとか、そういう個人的なところを全然教えてくれない。じゃあこっちからあれこれ仕掛けて試してみるしかない、とお兄さんは頑張っているというワケ。今のところ何しても嫌がられた事はないけど、一度ノリでちょっと自虐的な話をしたらすごく悲しい顔をされたので、それだけ気を付けるようにしてる。

    ぼくの頭を押し返そうとしてくるランランの手をすり抜けて、口に咥えたコンドームごと先っぽに喰らいつくのに成功した。行き場を失った手は彼の顔を覆っている。けど、指の隙間からぼくのことを見てるの分かってるんだからね。
    さて、ぼくもこういうのをされた事もした事もあるわけじゃないので、こっからは見よう見まね。多分このまま唇で押し下げればいいはず。ぼくは唇にぐっと力を入れてコンドームの縁をゆっくり下げる。手で着ける時にはさほど感じないけど、意外とゴムって抵抗力あってやりにくい。なんか油っぽくて変な味するけど、いいやもう舌使おう。少しずつ伸ばすように唇を上下に動かしていると、ランランの荒い息に合わせて腹筋が動いてるのが見える。
    よしあともう一息、という所まで来たので喉の深い所まで咥え込んでみる。やっぱ口だけで根元まで下げきるのは無理だよね。指を巻きつけて残りの部分をぐっと下ろすと、ランランが小さく呻き声をあげるのが聞こえた。
    いつも舌先で感じられる血管のデコボコとか、カリ首の隠れた弱点とか、裏筋の微妙なポイントとか、薄いゴム膜一枚隔てた感触の違いを口の中で探って楽しんでいたら、突然勢いよく頭を引きはがされた。
    「あ」ちゅぽ、と音を立ててぼくの口からランランのが飛び出す。見るとランランは顔を真っ赤にして、鼻息フーフーいわせてて、今にもぼくに飛びかかって来るんじゃないかと思ったらゾクゾクした。
    「ランラン、これどうだった?」
    「……うっせ」
    もーめちゃくちゃいいですって、そのキレイなお顔に書いてあるのにな。
    「てめぇ本当いい加減にしろよ」
    言葉こそ乱暴だけど照れ隠しの色が見え見えだ。素直に言えないところもかわいいんだから。とりあえず口でコンドーム着けてあげるのが有り無しで言ったら有りだったっぽいという事が分かったので、なかなか有意義な記念日だったと思う。
    満足したぼくは無抵抗を決め込み、今度こそ起き上がってきたランランの下敷きになってあげることにした。

    あぁ、そういえば。
    「ランラン、それラスイチだったから大事に使ってね」

    ylangylang_6902 Link Message Mute
    2020/08/02 4:13:54

    5月のログ

    Twitterでもそもそやってた蘭嶺のログ。

    5月分をまとめました。
    ※が付いてるのはえちです。ご注意下さい。

    #蘭嶺 #ツイッターログ

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    • 夏の熱金魚売りのお話のオマージュその4。
      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素ほんのり。

      ちょっとえちなのと、かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no

      2頁目は文章ベタ打ち。
      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 魔法の学び舎パロのことシャニライ撮影「 輝き紡ぐ魔法の学び舎」の外枠だけをお借りした捏造てんこ盛りパロ。

      魔法植物学科教師黒崎先生と新入生寮寮監嶺二くんと他の先生たちのお話。

      私の頭の中にある設定と前提をざくっとまとめたのがこちら。

      以下リンク、それぞれツイッターに投げた話をまとめてます。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • のりきれ!デスマーチBLサイコロ:のりきれ!デスマーチ のお題
      『「お仕事お疲れ様」とホットミルクを作ったら泣かれた』で書きました。
      黒崎さん側、嶺二くん側、その後 の3つ。
      3つ目がお口でややエロなのでパスかけます。y/n

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 4首締めてる話首絞めセ…してるだけの激短い文
      甘くないのでそういうの大丈夫な人
      y/n

      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 金魚売りの男大好きで大好きでずっと頭の中にある、遥か昔に読んだ金魚売りのお話しのオマージュ。蘭嶺でもそもそ書きました。
      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素あり。

      ちょっとえちなのと、かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no
      2頁目はベタ打ちです。

      #蘭嶺 ##金魚売りと雇い人
      ylangylang_6902
    • 金魚売りと出目金金魚売りのお話のオマージュその2。金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素はほんのり。

      かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no
      2頁目はベタ打ちです。

      #蘭嶺 ##金魚売りと雇い人
      ylangylang_6902
    • 雇い人と出目金金魚売りのお話のオマージュその3。
      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素ほんのり。

      かなりかけ離れた設定なので、ワンクッションでパスかけました→yes/no
      2頁目はベタ打ちです。

      #蘭嶺 ##金魚売りと雇い人
      ylangylang_6902
    • 七月二十一日の金魚売りと雇い人の話金魚売りのお話のオマージュ番外編。
      7/21、0721の日ということで、そういうネタのお二人。ギャグです。

      金魚と春を売る金魚売り嶺二くんと貸座敷の雇い人黒崎さんの恋のお話。
      平たく言えば男娼パロ。
      時代設定や用語はふんわり。
      モブ嶺要素ほんのり。

      ちょっとえちなのと、かなりアレな設定なので、ワンクッションでパスかけました。→y/n

      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 黒崎少年と嶺二先生と先生たちシャニライ撮影「 輝き紡ぐ魔法の学び舎」の外枠だけをお借りした個人的設定の、捏造てんこ盛りパロ。
      黒崎先生がまだ学生で寮監がまだ嶺二先生と呼ばれていた頃の、黒崎少年とその他の先生たちの話。

      ついったにぼちぼち流してるもののベタ打ちまとめです。ちょっと直してるのもあります。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 魔法植物学科教師 黒崎蘭丸と新入生寮寮監 寿嶺二の話シャニライ撮影「 輝き紡ぐ魔法の学び舎」の外枠だけをお借りした個人的設定の、捏造てんこ盛りパロ。
      黒崎先生と寮監嶺二くんのお話。話の流れは順番になっていますが、黒崎少年の方の4番目の話(干渉)とこちらの6番目の話(知りたい事)だけリンクしています

      ついったにぼちぼち流してるもののベタ打ちまとめです。
      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • バナナを食べるだけの話買い込んだバナナを一週間かけて消費する蘭嶺の話です。
      何か食べてるだけの蘭嶺シリーズ(?)なんですがやや匂わせなのでパス。y/n

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 9共依存根暗なAWパロ。弁当屋とバンドマンに、辛辣だなと思いつつ、こういう解釈してました。
      https://galleria.emotionflow.com/s/87336/541743.htmlと繋がってるぽい話。

      根暗で無糖でセッしてます。
      甘くないの大丈夫な方
      y/n

      #蘭嶺
      ylangylang_6902
    • 寮監の旅の終わり(forgive me)シャニライ魔法の学び舎パロのシリーズにある、寮監の旅の終わり(longing)とセットのお話。黒崎先生の初めてのゴニョゴニョなので、パスかけるために別置きにせざるを得ませんでした。
      詳しい話はこちらから
      https://galleria.emotionflow.com/s/87336/540536.html

      魔法学校シリーズの蘭嶺なので普通の蘭嶺じゃないけど大丈夫な方 y/n

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 4月のログTwitterでもそもそやってた蘭嶺のログ。

      4月分をまとめました。
      ※ が付いてるのはえちちです。ご注意下さい。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
    • 3月のログ今年の3月頃からTwitterでもそもそやってた蘭嶺のログ。

      3月の分をまとめました。短いのばっかです。
      ※ が付いてるのはちょっとえちなのでご注意下さい。

      #蘭嶺 #ツイッターログ
      ylangylang_6902
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