堂足わんどろ_200307_お題:ホワイト「あれ、これどうしたんです?」
仕事から帰り、リビングへと足を進めて出会ったのは、
綺麗な白いベールだった。
「おう、お帰り、足立。」
堂島さんは一足先に帰っていたらしく、珈琲を啜りながら夕刊を読んでいた。
堂島さんの話によると、菜々子ちゃんが作ったベールらしい。
友達のお姉さんが今度結婚するらしく、花嫁さんグッズを手作りしているんだとか。
「これは試作品らしいぞ。千里のときを思い出すな…。」
ゆっくりと触りながら優しい目でベールを見る堂島さん。
おそらく千里さんとの結婚式のことを思い出しているのだろう。
こういうものを見ると、
ふと、僕が触ったら汚れてしまうのではないかと考えてしまう。
元々、「白」は嫌いだ。
無垢で、綺麗なものの象徴の色。
僕とは無縁の「色」。
僕をかたちどる色と言えば、「どす黒い赤」がお似合いなわけで。
こんな綺麗な色になんて、近づくことすらできないのだ。
ベールを撫でる堂島さんを少し離れたところで見ながら、
僕の心が少しずつ、棘のようなものがひとつ、
またひとつと刺さっていく感覚を感じていた。
きゅっと肩から掛けていた鞄のベルトを掴み、玄関の方へと身体を向ける。
「おい、足立、お前、どこ行くんだ。」
「あ、いや、ちょっと買い物し忘れたものを思い出したんで、
急いで買いに行ってきます!」
堂島さんの顔を見ることなく、慌てて玄関をくぐり、
鮫川の河川敷の方向へと走っていった。
刑期中もある程度身体を動かしていたからか、
割と昔と変わらず走れるものだな…と頭の片隅で考えながら走り続ける。
そうして河川敷へたどり着き、足を止めて息を整えた。
(ったく…あんなもので動揺するなんて…僕もまだガキってか…。)
ふぅ、と大きく息を吐いて、夕日でキラキラと輝いている鮫川を見やる。
ただでさえ、幸せなんて望むこともできないと思っていた僕を迎えてくれた堂島さん。
毎日がこの河川敷のようにキラキラと輝いていて、幸せにあふれていて。
何より、大好きな堂島さんと一緒に過ごせているのだ。
こんなに幸せなことはない。
でも。
堂島さんは不器用なところもあるが、優しい心を持っているわけだ。
少し頑張れば、良いお嫁さんだってまたもらえたはずだし、
こんな足枷になるような僕を選ぶことなんて…
「僕なんかを選ばなくたって…。
あなたの人生はもっといい方向…幸せな方向へ進めたろうに。」
「いつだって、お前が隣にいる『今』が最高に幸せだって言ってるだろうが!」
「!!」
気が付くと、息を切らした堂島さんが後ろに立っていた。
手にはあの白いベール。
「どう、じま、さん。」
「ったく、お前はすぐ悪い方向へ考える癖があるな…。ちっとは強気になれ。」
「強気って…ただでさえ男同士でこんな足枷になる僕が隣じゃ…
強気になんてなれませんよ!」
「おうおう…俺の相棒は相変わらず元気だな。」
軽く笑い飛ばすような笑い声を上げながら、
堂島さんは少しずつ僕の方へと近づいていく。
ゆっくり抱き締められ、額にキスを落とされる。
トク、トクと堂島さんの鼓動を少し感じていたら、
顎を持ち上げられ、ゆっくり目線を交えたあと、
堂島さんは手にしていたベールを僕の頭に被せた。
「えっ、ちょ…!」
「『健やかなるときも、病めるときも、俺を愛し、ずっと隣にいると…
誓ってくれるか』。」
「…!」
身体はがっちり抱き締められ、顔も1mmも動かせない状態で、
堂島さんはじっと見つけながら尋ねてきた。
わかっている。
こんなものは子供のままごとのようなやりとりだ。
でも、そんなことでも堂島さんは本気だ。
堂島さんはいつだって僕を想う気持ちは本気だし、
伝える言葉は想いの全てだ。
いつだって僕を安心させて、僕を包み込む。
言葉で、行動で…全身で本気だって伝えて来てくれるから。
僕もそれに…甘えてばかりじゃいけないんだ。
「勿論、誓います。あなたが嫌がったって、ずっと隣で笑っていますよ。」
この人には本当に敵わないな…。
そんなことを思いながら、にっこりと微笑み、
堂島さんの唇に噛みつくようなキスを返した。
僕の相棒は、今日も世界一優しくて、温かくて……ずっと大好きです
俺の相棒は、臆病だけど、今日も世界一可愛くて……ずっと愛している