堂足わんどろ_191102_お題:影これは、僕が出所して堂島さんと共に歩むと決めて間もない頃の、とある夜の話。
月明かりが澄んだ空気のせいか、いっそう輝かしい夜。
僕と堂島さんは夜道を歩いていた。
「へぇ…夜でもこんなに影ってくっきり映ったりするんですね。」
「今日は月が明るいからな。」
とぼとぼと歩きながら、下に伸びる影をじっと見つめる。
10年前。
事件を起こし、世間を騒がせた犯人がこの僕だったわけだが、
そんな僕を堂島さんは「好き」だと言って、傍においてくれた。
でも。
それでも。
やっぱり世間体ってのは優しいものではない。
きっと、僕の知らないところで、
堂島さんや菜々子ちゃんが傷ついたりしているのではないだろうか。
そんなことをよく考える。
堂島さんと傍に居たい。
僕の一番の理解者である堂島さんともっといたい。
それを願っていいと、ほかでもない堂島さんが許可してくれたんだ。
『だから、俺の前では素直に求めろよ?』
優しく笑いながら堂島さんはそう言った。
でも。
堂島さんの影の中にいて、そっと傍にいる…そういうことができたら、
きっと堂島さんたちに迷惑もかけず、傍に居られるんじゃないかな。
「足立?どうした。」
僕がじっと影を見つめて立ち止まっていたので、
堂島さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「あ、いや…堂島さんの影の中に居られたら、色々迷惑も減るんじゃないかなって思って。」
「…お前はそれを望むのか。」
「え…?」
思った以上に低い声で堂島さんが返答してきたので、
顔を上げて堂島さんの方を見ると、堂島さんは悲しそうな顔をしていた。
「えっ、ちょ、堂島さん、どうしたんです?」
「お前…何か嫌なことでも言われたのか?」
「嫌なこと…?いえ、別にそんなことはないですけど。」
「じゃあ何で隠れたい…みたいなこと言うんだ。」
じっと堂島さんは僕を見つめ、答えを促す。
「僕なんかといて、本当に何も言われたり、悪いことあったりしてませんか。
あなたは優しいから、『そんなこと気にするな』とか言うと思いますけど。
でも、僕だってあなたたちに守られてばかりなんて…嫌なんですよ。
だから、堂島さんの影の中で生活できたら、そういうこともなくなるのかな…
…って思っただけ…って…うわっ!!」
僕が考えていたことを良い切る前に、堂島さんは僕を力強くぎゅっと抱き締めた。
「そんなこと考えなくていい!…確かに色々言われたりもするさ。
でもそれがどうした。お前と俺は『家族』で。愛し合っている。
それだけが真実で。何も後ろめたいことなんてない!」
「どう、じま、さん…!」
「お前が俺たちを大切に思ってくれるのは嬉しい。
でもな、俺たちのためにお前を犠牲にすることなんて考えるな。
俺とお前は…対等だろう。」
「…!」
堂島さんと僕が『対等』。
その言葉を聞いてすごく嬉しくなり、気が付くと涙を一筋流していた。
「ありがとう、ございます。」
「ん。わかったんならいい。さぁ、俺たちの家に帰ろう。……透。」
優しく差し伸べられた手をとり、
僕と堂島さんは月明かりの向こう側へと歩き出した。
月明かりで浮かび上がった僕と堂島さんの影は、幸せそうに寄り添っていた。