堂足わんどろ_190907_お題:赤色「ったく、ネクタイくらいきちんとしたものを身に着けろよ。」
そう言って、堂島さんは僕に赤いネクタイ(首輪)をつけてくれた。
それ以来、僕は堂島さんに捕らわれ、心奪われている。
だがしかし。
僕は大切な堂島さんを裏切るような事件を起こした。
その結果、
今やその首輪は常に傍にはなく、僕と堂島さんを繋ぐものは何もない。
何もないはずなのに。
「おう。なんだお前、前より太ったんじゃないのか。」
拘置所に送られる前に会いに来た堂島さんは、
世間話をするように、いつもの感じで変わらず僕に接してくれた。
繋がるものは何もないはずなのに。
どうして?
…「絆」ってのが、僕と堂島さんの間にもある…そう思ってもいいのかな。
もう少し強い「繋がり」を求めても…いいのかな。
「ねぇ、堂島さん。実はね、僕、堂島さんのことずーっと前から好きなんですよ。」
何度目かの面会のとき。
何気なくぽつりと呟いた。
か細い声で呟いたので、気付いてはいないだろう。
そう思っていたのだが、ふっと顔を上げると、とても優しく微笑む堂島さんの顔が目の前にあった。
「俺も、お前のこと、ずっと前から好きだよ、足立。
…その、愛している方のな。」
照れ臭そうに、でも僕の目はしっかりと見つめながら、
答えが返るはずのないと思っていた呟きに返答された。
「う、そ…。」
「なんだよ、こんなこと、嘘で済ますわけないだろう。大事なことだ。」
「ううっ…そんな、ありえない…。僕なんか、堂島さんが好くわけないじゃないですか…。」
「そこまで言われると少しイラつくな…。俺の気持ち、否定する気か。」
「そ、そんな!いや、でも…信じられなくて。」
堂島さんの突然の告白に頭がついていけず、いつもの飄々とした態度をとることも出来ず焦る一方、
堂島さんは相変わらずの話しようだ。
「…たく。おい、足立、ネクタイ、手に取れ。」
「ネクタイ…?」
「そう。俺がやったその赤いネクタイだ。今から俺がすることと同じことをしろ。」
そうして、堂島さんは自分の赤いネクタイを手に取ると、ネクタイの端に口づけを落とした。
「ほら、足立。」
「うえっ…?!は、はい…。」
堂島さんにせかされ、僕もまたネクタイを手に取る。
そして、同じように口づけようと思ったのだが、
ふと、このネクタイは堂島さんからもらった首輪だということが脳裏によぎる。
(なんかこれに口づけるって…堂島さんのものですって言うようなものだな…!)
そう思うとだんだんと恥ずかしくなってきた。
これに口づけたら、僕は堂島さんのモノになれる。
でもこんな獄中で…して良いのだろうか。
僕にはもったいないこの人を、僕のモノにしていいの…?
ぐるぐると悩んでいると、つかさず堂島さんからせかす言葉をもらうことになる。
「なぁ、足立。俺の気持ちに応えてくれるなら、口づけてくれないか。」
「…!」
「俺はお前のものになる決意を込めて、ネクタイに口づけた。…お前と同じこの赤いネクタイに。
だからな、足立。俺をもらいたいと思ってくれるなら、口づけてくれないか。」
追い打ちをかけるような甘い言葉に、僕はとうとう観念した。
「わかりました。僕だってあなたを僕のモノにしていいのなら、喜んで口づけします。」
そうして、堂島さんが口づけた位置と同じ辺りに、キスをした。
なんだか誓いのキスをしたような気分。
いや、そうか。
今はそれができないけど。
お互いを繋ぐこの赤いネクタイだからこそ、誓いを立てる代替になるんだ。
「ねぇ、堂島さん。もしここから出られたら。迎えに来てもらえませんか。」
「勿論。大事なお前を迎えに行くさ。待ってろよ。」
「…!はい。ありがとうございます。」
こうして僕は、常に傍にない状態の赤いネクタイの代わりに、
堂島さんから「誓い」をもらったのだった。