堂足わんどろ_200404_お題:さくら菜々子ちゃんから、美味しそうだったからと、日本酒が送られてきた。
彼女もあんなに小さかったのに、もうお酒が飲める年齢になったのかと思うと、
自分の娘(と思っていいと堂島さんには言われているが)の成長に
感動する親のような気持ちを覚える。
そんな感情を抱くことさえ許された僕は、本当に運が良かった…
幸せだと感じる。
今日はたまたま堂島さんも早番で早く帰ってきており、
そのお酒をお供に適当にツマミを作って、二人で酒盛りをすることにした。
「たまには風情のある酒盛りにするか。」
「風情?」
堂島さんはそういうと、僕に上着を着せて、外へと連れだした。
三日月が白く輝き、空気の澄んだ綺麗な夜。
堂島さんと並んで日本酒の酒瓶とおちょこ2つ、そして簡単に作ったツマミをもって、
月下を歩く。
堂島さんの半歩後ろをついて歩き、到着した場所は小さな公園だった。
そこには毎年立派に咲く大きな桜の木が1本あり、ちょうど満開で見頃を迎えていた。
「あのベンチに座って、今夜は花見酒だ。」
「風情ってこういうことですか。いいですね。」
二人の間にツマミとおちょこを置く。
そうして月明かりで輝く日本酒をゆっくりと互いのおちょこに注ぎ、
手に取って小さく乾杯の音頭を取り、一口舐めるように飲む。
流石は菜々子ちゃんが選んだだけのもので、飲みやすい後味の引かないものだった。
「菜々子も酒の良さがわかるようになったんだな。」
「もうすぐ結婚!とか言ってくるんじゃないですか。」
「…まだそれは許さん。」
「あいた!」
流石に「結婚」のワードは許せなかったようで、軽く拳骨を受けたが、
互いに最近の出来事を語り合いながら酒を少しずつ進めていった。
ふと見上げて桜を見ると、僕らを受け入れてくれるように、そよそよと花を躍らせている。
「こうやって…お前とまた笑える時間が持てるってのは…本当に嬉しいな。」
「それは僕の台詞ですよ。」
そういうと、ざぁ…っと風が吹き、桜がひらひらと舞っていく。
少し目を瞑り、風を感じて再び目を開けると、二人のおちょこには桜の花びらが1枚ずつ入っていた。
「花見酒らしくなったじゃねぇか。」
「ふふ、そうですね。記念にちょっと写真撮っておこうかな。」
菜々子ちゃんに御礼の写真を送りがてらと、良いアングルを探して花びらの浮かんだおちょこを撮る。
「透、花びら。頭にもついている。」
「ん?取ってもらっても良いですか。」
「おう。」
ゆっくりと堂島さんが頭の方へ手を伸ばすと、いきなりグイっと頭を引き寄せられ、キスをされた。
「ちょ、遼太郎さん?酔っ払ってるの?」
「ちげぇよ。…その、なんだ、桜とお前が綺麗すぎて…消えそうで…口づけしたくなっただけだ。」
もごもごと耳も赤らめながら返答する様はアラフィフらしくない様子で、可愛すぎるのだが、
そうやって僕をいつだって愛でてくれるのが嬉しくて、心がポカポカしてきてしまう。
「それじゃ、僕もお返し。」
ゆっくりと触れるだけのキスを味わうように繰り返す。
少し離れて見つめると、きちんと堂島さんも目線を合わせて見つめ返してくれる。
こんなこと、付き合いたてのカップルみたいな仕草だと頭の片隅で笑いながらも、
幸せを噛み締める。
「僕、もうすでに少し酔ってしまったみたいです。」
「桜に?酒に?」
「もう…あなたに決まってるでしょ、遼太郎さん。」
「なんだ、俺はもうずっとお前に酔ってるよ、透。」
月と桜がより一層僕らを幸せの波に溺れさせ、酔わせていく。
でもそんな酔いならいつでも酔っていたい。
あなたと一緒に酔い続けられるのであれば、永遠にだって構わない。
「好きです、遼太郎さん。」
「今日はやけに素直じゃねぇか。」
「茶化さないでくださいよ。もう言いませんよ?」
「照れるなよ。俺だっていつも愛してるぞ、透。」
季節の始まり。
新しい節目の始まり。
こうしてまた僕たちの1年が始まり、時を刻み、
共に歩む年を重ねていく。
その証として、またこの桜を見に行こう。
毎年あなたとこうやって酔いしれていこう。
…永遠に、ずっと。